第9話 拉致
目が覚め時計を見ると朝の10時になっていた。
普段なら5時に起きてサプリを飲み、トレーニングをしているが、東山にしてやられた悔しさから寝付けず、生活のリズムまで崩されてしまった。
朝のコーヒーがいつもより少し苦く感じる。
関のリスナーはわかってくれていたものの、東山リスナーは関の事を馬鹿にした書き込みを連投していた。
ネット掲示板に反論を記載しようとするも、恰好の的になってしまうと思いとどまりスマホをソファーに投げ置く。
重要なのには、どう捲っていくかだ。
それにしても、本人にしかわからない真実を突きつけても挫けず、嘘に嘘を重ね、なんという精神力なんだ。
仮に賃貸借契約書を入手したとしても、父親の名義なので、捏造と言われるだろう。
家から出てくるところを撮影することも可能だが、無職の引き籠りなので、出てくるタイミングがわかりにくい。
下手をすれば数日張り込みをしなくてはいけないかも知れない。
さすがに現実的ではない。
いつも泥酔しているので、絶対に粗があるはずだと思い東山のライブアーカイブを倍速で確認することにする。
そうすると何本か非公開にしている動画があったのだ。
そこに何か攻略の鍵があるはずだ。
Youtubeの動画の設定には、限定公開と非公開がある。
限定公開ならURLさえ知っていれば確認することができるが、非公開なら本人しか見ることができない。
東山はライブ前にTwitterで視聴を促している。
もし限定公開なら、そこから辿っていけば見ることができる。
試しにやってみたら、運良く見ることができた。
詰めが甘いな。
初心者が勿体ない根性からやってしまう初歩的なミスだ。
見て行くと一瞬だけ部屋の壁が写っているシーンがあった。
完全に砂壁だ。
どう考えても億ションの壁が昭和初期を思わせる砂壁のはずがない。
仮に砂壁だとしても、寺院の庭園の様にお洒落なデザインの砂壁だ。
この動画をダウンロードし準備を進める。
夜になり、東山がライブを始めたので、ヤードにあがる。
切り抜いた砂壁の部屋を見せると、東山の表情が一瞬固まる。
注意深く見なければわからない一瞬だったが、見逃さなかった。
東山は先日に合成した砂壁部屋の事例をあげ印象操作だと痛烈に批判をしてくる。
東山の枠なので関に対する痛烈な批判であふれていた。
想定の範囲内だ。
普段は短絡的な思考をしているくせに、こういう時ばかりは回転が速く言い逃れをしてくる。
使い方を間違えなければ、それなりの人生を歩めていたのかも知れないが、根っからのパラサイトシングルだ。
証拠を出せと罵声を浴びせ続けれ来る。
Youtubeもこんな配信を良く許すものだと思いながら用意していたメールの文面を開く。
「警察が第三者機関として鑑定時に使っている会社に依頼をだしました。
この映像が合成なのかどうかの報告です。それでは添付資料を皆様にお見せします。」
添付資料には、合成の痕跡はないと記載されていた。
そう、砂壁部屋に東山が住んで居るという証拠なのだ。
すかさず東山が住んで居るとされているマンションの壁の映像を映し出す。
「あれれ。これは実際にマンションに行って撮影したものです。背景が全然違いませんか?東山君が今この瞬間に背景を写せば証明できますよ。次は君のターンですよ。」
チャット欄は完全に荒れていた。
砂壁だって良いじゃないかという意見も多くあった。
完全に東山リスナーだ。
どんだけ妄信しているんだと呆れながら口を開く。
「別に砂壁が悪いとは言っておりません。嘘をつくのが良くないだけです。」
これで終わった。と思ったら、画面の先にいる東山が笑い出したのだ。
「お前、専門機関の名前を出して偽造までして終わってんな。」
高笑いをし、次の瞬間、ヤードから落とされた。
関はこのことも想定していたのだ。
Youtubeにセットしておいた動画を公開する。
この動画は実際に専門機関に行って、社内で鑑定結果を聞いた際の動画だ。
恐らく、この動画を見た視聴者がチャット欄で騒ぎ出すだろう。
東山はチャット欄に溢れる疑念の声に恐怖していた。
今までは適当に言っていれば皆が讃えてくれていた。
けれども、今回は常連のファンすらも背景を出せと連投してくる。
更に酒が進む。
ちょっとトイレと言い、隣の部屋で寝ている父親を蹴り飛ばしストレス発散をする。
傍目に見ればパラサイトシングルが親を虐待していると思うだろう。
普段は軽く小突くこと程度だったが、今日は虫の居所が悪かった。
父親はクグモッた声を上げるも歯向かってこなかった。
普段から小突いてきたこともあるが、何よりもYouTubeで収益を得ていることが嬉しく、声を出して邪魔をしてはいけないと思っていたからだ。
東山はストレスを発散し、更に酒をあおり、次の話題へと進めることにする。
ここでライブを打ち切っては逃げだ、認めたのレッテルが貼られてしまう。
それだけは避けたいのだ。
狭山のタイソンへ連絡を取りヤードに上がってもらうことにした。
早速、タイソンに連絡をするも電話に出なかった。
イラつきながらライブに戻る。
正直にタイソンに連絡がつかないことを述べると、視聴者から意外な反応が返ってくる。
ここ数日、タイソンが動画を公開していないらしい。
ライブもしていないようだ。
タイソンの話題でどうにか話をそらすことに成功し、ボロが出る前に配信を終える。
気が付くと寝ていたようで、カーテンを捲る。
珍しく太陽があった。
時計を見ると午後の4時だった。
関との一件もあったのでエゴサーチが必要だとスマホの画面を見ると、動画の通知が来ていた。
スライドして誰の動画なのかを確認すると、狭山のタイソンの動画だった。
サムネイルはモザイクばかりだけど、明らかに暴行された痕跡があった。
タイトルを見ると、何者かにやられた。情報を求む。だったのだ。
気になって動画を開くと、数日前に夜道で何十名もの武器をもった手段に囲まれ、金属バットでたこ殴りにされた、とのことだった。
そのまま車に乗せられ、どこかに監禁されていたらしい。
命からがら逃げのび、現在に至るとのことだった。
モザイクばかりで本当に怪我をしているのか判断はつなかないが、苦しそうにゆっくりと話している。
最後に、組織について調べたい情報を求む。
だが、どんな組織なのか明らかになっていないから、直接の連絡は控えたい。
概要欄にあるメールまで情報を送ってくれ。と述べ、動画は終わった。
マジかよ、フェイクか?と思いながら、タイソンで検索をすると、似たようなパロディを投稿している人が何人もいた。
その後に、関との一件をエゴサーチするも、タイソンの話題でかき消されていて安心する。
丁度、その時、DMが届いた。
見てみると先日の女子高生だった。
大田区の雑色で会いたいです。と記載されていた。
本当はすぐにでも会いたかったが、伸びきった髪の毛、洋服も父親が近所の潰れかかった洋品店で昔に購入したお古を着ている。
さすがにこれでは会えない。
明日にどうですか?と返信をすると、早速返事が返ってきたので約束を取り付ける。
髪の毛は美容室で整えたまま行きたいので、明日の午前中に予約をし、今日は洋服を買いにいくことにした。
普段、外に出ていなかったので洋服を買いにいっただけでも疲れがある。
軽く酒を飲み、明日に備えることにした。
美容室へ行き、食事とホテル代金を降ろし、約束の場所へ向かう。
結局、事前に写真はくれなかったので、どこに女子高生がいるのかわからない。
約束の時間前にDMが届く。
雑色駅近くの15号線沿いに居ますので来てください。という内容だった。
普通なら怪しむ内容であるが、東山の脳内はホテルで楽しむことでいっぱいだったので好都合だった。
雑色駅周辺にはホテルはないので、タクシーで移動するしかない。
15号線沿いならタクシーも見つけやすいだろう。
手間が省けたと思って、早く会いたい一心で早歩きで通りに向かう。
この角を曲がれば15号線だ。
でも、このペースだとがっついていると思われるかも知れないと、ゆっくりペースに戻した瞬間。
耳の後ろに激痛を感じ、頭にガンっという音が響き、ブラックアウトした。
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