第8話 激闘
東山は目が覚め、カーテンを捲る。
いつもの様にオレンジ色の風景だった。
酒が頭の芯に残っている感覚があるが、通常運転だ。
ライブを始めるには早すぎるので、布団の中でスマホをいじるとDMが届いていた。
文面を読むと驚くことに、女性だった。
しかも、高校生。
心の中でガッツポーズをする。
その女性はどうも、城南地区に住んで居るらしい。
そもそも城南地区ってどこなのかと疑問に思うが、あとで検索をすればいい。
元々不良に憧れていることと、彼氏と何か問題があるとのことだった。
取り敢えず、俺に興味があるということかと解釈しつつ、女性の顔が気になる。
どんな顔をしているのか?
美人系なのか?可愛い系なのか?
多少平凡でもマシュマロだとしても、逆にリアリティがあるからそれも美味しい。
高い理想から徐々に下げて考えていく。
結局は女性日照りが続いていて、誰でも良いわけだが、脳内ではそれが都合よく変換され、気が付けば、据え膳食わぬは男の恥と、女性を気遣ってやっているんだと、上から目線となっていた。
むしろ、それが女性を守ることなんだと。
脳内変換が進み過ぎて、DMを女性から誘っているとなっていた。
少し妄想で犯した後に、顔を見せられねー奴は信用しない、と返信した。
これで顔を見ることができる。
既に体の一部は滾っていた。
狭山のタイソンのことで、暴走族連合時代の事を思い出したことで、心が全盛期に舞い戻っていた。
いつもの如く、焼酎の水割りを腹に流し込み、その勢いで狭山のタイソンにDMを送る。
水割りのペースはいつもの倍だ。
誰を殴ったって?俺と会って直接説明してみろよ。会えんのか。
しばらくすると、狭山のタイソンが動画を公開した。
タイトルは「勘違いしてんじゃね~よ」だった。
東山の名前を出し、DMが届いたことを述べつつ、ディスっていた。
最後はまさかの雑魚は相手にしないだった。
怒り狂いながら、ライブ配信を始める。
怒りから焼酎を飲むペースがいつもの倍を超えていたので、既に呂律がおかしくなっていた。
開口一番、叫ぶ様に「タイソンあがって来いよ」
視聴者は歓喜し、ポンプを入れまくってくる。
視聴者が連絡を取ってくれたことで、狭山のタイソンがヤードに上がってきた。
「誰をやったって?俺とやれるのか?」
当然、相手がメッキであることを見抜いているからこそ言える発言ではあったが、女子高生も見ているかも知れないと力が入っていたのだ。
タイソンは喧嘩は卒業したの一点張りだったこともあり、話は平行線となる。
本来は、誰と喧嘩をしたのかを聞く趣旨だったが、東山が暴走し「俺とやれるのか?」と言ったことから話は脱線し「喧嘩する?しない」になっていたのだ。
チャット欄を見てみると、悪を卒業し、真面目に生きているタイソンを擁護する声が増え始めていた。
このままではあの子も、タイソンに流れてしまう。
伝家の宝刀、元本職設定を繰り出す。
「まあ、俺も組を抜けて、今は真面目に生きているからな。ただ、元総長をしていた俺が知らないことだったから気になったんだ」
東山はたった二人の小さな支部の長をしいたのだ。
それは抗争から逃げられなくする為、強引に総長にさせられていただけでもある。
喧嘩の話題が終わったことにより、東山もタイソンも互いに武勇伝を気持ちよく語り出していた。
語学力の乏しい二人なので、会話のキャッチボールではなく、互いに自慢をし、悦に入り、視聴者が沸いていた。
正常な人が見ればカオスな世界ではあるが、アウトローの伝説を生で聞けるという状況に全員が世界に浸っていた。
関はこのライブを見ていた。
カオスな世界だと身震いした。
2人の会話は金を持っているだの過去にどういった喧嘩をしてきたの話になっていた。
正直、狭山のタイソンの調査はそこまで進んではいないが、今日は東山を捲るかと考え、グリーンバックの部屋に移動してからパソコンでヤードにあがる。
軽く挨拶をしてから、今回こそは背景を見せてくれないかと申し出る。
東山が貯金3千万円あると豪語していたこともあり、チャット欄には、見たいの言葉が溢れていた。
東山は、お前も背景を見せろとオラつきながら言ってくる。
関は顔出しをせずアイコン状態でヤードにあがっていたのだ。
実はこれこそが作戦だった。
泥酔し短絡的な思考の東山は子供みたいな返しをしてくることが予想された。
想像していた通りに物事が進む。
東山の住んで居る木造アパートが住民を募集していたので、内覧にいっていたのだ。
その際に部屋を薄暗くし室内の静止画と動画の両方を撮影していたのだ。
グリーンバックなら綺麗に緑色だけを切り抜けるので、その静止画を背景にして顔をだすつもりだった。
まともな思考を持つ者ならすぐに気が付くだろうし、東山の反応も楽しみだった。
けれども、すぐに背景を見せるわけにはいかない。
タイミングが重要だ。
東山が酒を飲むとき、氷がカランと音を立て2秒後に喉がなる。
カランと音が鳴って2秒では、飲んでから画面を見ることとなるので、音がすぐだと酒を飲まないだろう。
音がして1秒だ。
そのタイミングで奴に背景を見せる。
泥酔していても人生の大半を過ごした自分の家の壁くらい瞬時に把握できるはずだ。
その間も東山は捲し立ててくる。
好都合だった。
会話が途切れて見せるとなれば不自然すぎるが、この状況ならどこにも不自然さはない。
カランと音が鳴った。
1秒後にクリックする。
画面からブホッと盛大な音がする。
幾度も咳き込んでいた。
画面の向こうでは、咽て涙目になっているはずだ。
もしかしたら、酒が鼻から出ているかも知れない。
そうだとしたら、かなり痛いだろう。
笑いを堪え、冷静に対処する。
チャット欄は一瞬にしてボロ屋で埋め尽くされていく。
このコメントは東山も見ているだろう。
少し沈黙してから、ルームツアーをするように動画に切り替え見せつける。
今も東山は咽返っている。
それにしても視聴者のコメントは残酷だ。
私に対してのコメントは、すべて東山に刺さっているはずだ。
今も東山は無言のままだったので、狭山のタイソンに礼儀として挨拶をする。
数分間会話をしていると、東山が口をひらく。
「酒が気管に入ったから水を買いに外に出たんだ。俺も背景をだすよ」
街頭の明かりに照らされた東山の顔が映し出される。
泥酔しているようで目がおかしい。
しばらくすると、ここが俺んちと言いながら高級マンションの外観を映し出した。
その地域は高さ制限があることから、低層階マンションしかないが、その分高級マンションは広い作りとなっている傾向がある。
その中でもひと際大きく、綺麗なマンションを映し出していた。
マンションの入り口は大きく、外壁となっているガラスは二重構造となっていて、中に水が常に流れている。
その水を綺麗にライトアップし、一定周期ごとに水の流れを変え、見ている者を魅了させるようになっている。
確実に億ションだ。
東山は入口まで行き、部屋番号がわかるとまずいからと再び画面をアイコン状態にし無言となる。
正直この切り返しは予想していなかった。
普通なら家を知っているとわかった時点で動揺し大きな嘘をつかなくなる。
東山は更なる嘘で身を固め出したのだ。
しかも自然な感じだった。
チャット欄は東山を褒めたたえていた。
少し放心状態となっていると、部屋についた東山が語り出す。
「部屋には仕事関連のものが多くあるから写せない。わかってくれ。
ってか、俺が関を捲ってやるよ‼友達いないだろ。それにブラックカードで買い物している動画あったけど、本当は持ってないだろ」
完全に印象操作だ。
チャンネルを立ち上げた当初は、上場企業の社長だった。
株を売却し実質的に退社していたが、がむしゃらに働き、上場準備で大忙しだったことから有給が残っていたのだ。
その会社に社長というバックボーンがあってブラックカードを持っていたが、完全に個人となってからは年間費ももったいないので手放していた。
別に高額な買い物をするわけでもないし、飛行機に乗る回数もあまりない。
そのことも、過去の動画で説明しているが、その説明している部分をすっ飛ばして言っている。
友達がいないって小学生の戯言かと思う。
視聴者も関を小バカにしてくる。
東山が億ションに住んで居る設定を皆が信じた直後だということもあり皆が信じている。
今まで捲り続けてきたが、逆に攻撃をされ動揺する。
ブラックカードの流れを説明するも、誰も耳を貸さず攻撃をつづけてくる。
なんなんだ、会話が成立しない。
関のリスナーがチャットで擁護するも、東山の枠なので東山リスナーのコメントで意見が上書きされていく。
今更、あの家が東山のアパートの2階だと言っても空気感として信じてもらえそうもない。
息が荒くなり額に一筋の汗が流れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます