第7話 狭山のタイソンと迫る危険

ライブを早々に切り上げる。

東山は狭山のタイソンのことが気になって仕方がなかったのだ。

暴走族連合の中にも、プロの格闘家に肩を並べる強さの人間は何人かいた。

脳裏には、頂点の三田君を筆頭に数名が浮かんでいる。

もしかしたら、その人物と並ぶかそれ以上なのか。

そして、暴走族連合の誰を締めたのか。


武勇伝も気になるが、まずは顔をみたい。

暗く、酒でむせ返る室内でスマホの画面が顔を照らしている。

緊張からなのか、汗ばむ指で「タイソン」と入力し検索をかける。

本当は狭山のタイソンと入力したかったが、狭山の漢字がわからなかった。


早速、狭山のタイソンチャンネルがヒットしたのだ。

ゆっくりとスクロールしていく。

一番わかりやすいサムネイルの所で指を止める。

典型的な強面アイパーヘアーで、こんがりと日焼けしている。

脳裏に暴走族連合時代の後輩の佐藤リーンが浮かんだ。

後輩だったから良かったものの、狂犬佐藤は目上の人間には礼儀正しいものの、敵対組織や同い年には狂犬ぶりを発揮していた。

間違いなく佐藤なら、狭山のタイソン伝説に近い逸話を持っているはずだ。

ただ、狭山のタイソンの顔をよく見ると、ハーフなどではなく、純粋な日本人の顔をしている。

なぜ、タイソンなんだという疑問が頭をよぎる。

動画の中に、自身を紹介する動画があったので見てみる。

タイソンと呼ばれているのは、路上で喧嘩した時に、アメリカ国籍の黒人をワンパンで10m吹っ飛ばしたことから、まるでタイソンじゃないかと言った事に由来しているそうだ。

タイソンという異名ではあるが、純粋な日本人だった。


ただ、どうしても胡散臭い。

人は本当に10mも吹っ飛ぶのか?

暴走族連合の話も出て来たが、タイソンの名前は聞いたことがない。

大人になり、ビジネスに走った皆について行けずフェイドアウトはしていたものの、20代前半までは連絡を取り合っていた。

20代後半、30代でそんな喧嘩となれば暴走族連合のネームもあるので、ニュースになるはずだ。

抗争や仕返しとなれば、兵隊集めで電話が来る場合もある。

それはフェイドアウトした東山も例外ではなかった。

要はしっぽ切りだ。

視聴者のコメント欄を見ると、賞賛するコメントも多かったが、フカシという言葉も同数あった。


なるほどね。

こいつはメッキだな、と確信した。

緊張が解け、大量のアルコールを摂取していたこともあり、気絶するように眠りについた。


関は朝のトレーニングを終え、プロテインを飲みながら予定表を眺めていた。

ヴィーガンなのでソイプロテインを飲んでいる。

自分と向き合うなかで、環境問題を学んだ時からヴィーガンとなったのだ。

現状、捲るターゲットとして東山と狭山のタイソンの名前が書かれている。

狭山のタイソンとYouTubeでコラボ経験のある、同じくアウトロー界隈に属している、通称、鶴見のトキの名前も記載されていた。

関の調べでは、鶴見のトキは、幼少期に空手を学び、真面目で優しい性格からトキと呼ばれているようだった。

逸話としては、幼馴染が横浜のギャングに加入し、バイカーチームと激突した際に助けに行き、国道第一京浜を封鎖してのタイマンへと発展し、幹部10人を倒し、抗争を収めたそうだ。

仲間を助けにいったこと、タイマン相手に致命傷を与えなかったことなどから、トキと呼ばれるようになった。

このあと、その鶴見のトキにインタビューを行う予定なのだ。

狭山のタイソンの印象を聞くだけだが、実際にタイソンを会った人物は少ないので情報収集をするうえで重要だ。

きっと、深い関係ではないだろうから、捲れる材料は得られないだろう。


早速、スーツに身を包み、電気自動車であるテスラにのる。

ヴィーガンなので電気自動車にしているのだ。


約束の駅前の喫茶店に着くと、既にトキはいた。

目が合うと立ち上がって律儀にお辞儀をする。

トキの異名は伊達ではない。

レジでコーヒーを購入し席に座る。

互いに挨拶をし、早速本題に入る。

トキは丁寧な言葉で印象を語ってくれた。

第一印象としては、背は低いものの固太り体型と強面ファッションから、小さくは感じなかったそうだ。

言葉数も少なく、寡黙な傾向にある。

本当に喧嘩が強いのかどうかに関しては、分からないとのことだったが、階段などでは息を切らしていたそうだ。

ただし、スタミナと一撃の破壊力は相関関係にないと、狭山のタイソンへの配慮を見せていた。

やはりトキだ。


寡黙な人間となると、裏で台本を書いている人物が存在するか、画面では強気になれるタイプの内弁慶的の可能性がある。


その真偽を確認する為に質問をする。

コラボの際に演出をサポートする人物がいたのかどうかを聞いたら、1人で来ており、画面を向けると急に饒舌になり、流れるような口調となったそうだ。


恐らく、普段は裡に抱え込むタイプなのかも知れない。

それが得られたのは良い収穫だった。


更には、意外な情報も得られたのだ。

喫茶店のテーブルに財布を置いたままトイレに行き、財布を忘れたことを思いだし、取りにいったら財布を手にしていたとのことだった。

タイソンはデザインやブランドが気になったから失礼、と言ったが、財布の中身をのぞこうとしていたように見えたとのことだった。

何気ない日常会話の中で出てきた一言だが、大きな収穫となった。

もしかしたら、手癖の悪い人物なのかも知れない。

そうなってくると、裡に隠している性格は相当悪い可能性もある。


ここで鶴見のトキは仕事があるとのことで店を出る。

昼食でもと誘ったが、仕事が立て込んでいるので申し訳ないと。


午後はコンサル先の企業へ顔を見せに行く予定はあったが、まだまだ時間がある。

鶴見に来る機会もあまりないので街中を散策することにする。

西口の方に行くと、總持寺があると書いてあったので行ってみることにする。

わりと近いようだ。

少し歩き路地に入ると緑豊かな形式が見えてくる。

森林浴も良いものだと穏やかな気持ちで歩いていると、黒いパーカーと黒いダボダボのシャツを着た二人組の若者が、あれって関じゃね?と言いながら近づいてくる。

意外と小さいじゃん、ってかコイツ弱そうじゃね?金持ってるらしーじゃん。

などと会話しながら近づいてくる。


正直、面倒だ。

顔出し配信をしており、捲り倒していれば、当然街中で話しかけられることもある。

けれども、明らかに素行が悪そうな若者に絡まれることはあっても、汚い言葉を発しながら絡まれた経験はなかった。

少し危険な匂いがする。

總持寺への道でマイナスイオンをもう少し感じたかったが、仕方ない。

180度向きを変え、駅へ戻ることにした。

100mも歩けば人の多い通りにでる。

そうなれば安心だ。

若者を刺激しないように、徐々に歩く速度をあげていく。

背後から奇声をあげなから走ってくる気配を感じ、振り向くと若者は襲い掛かってきた。

勢いよく大振りに殴ろうとしていたので、前蹴りで鳩尾を突く。

もう1人が飛び蹴りをしてきたので、ステップで起動からずれ、着地した瞬間を後ろ回し蹴りで、若者の肩を蹴る。

側頭部を狙うと大怪我をさせる恐れもあったので、肩にした。

肩だとしても、まともに入れば打撃に影響がでるだろう。

若者たちは怒り狂う猛犬の様な目をしながら殴ろうとしてきたのをスウェーで避ける。

若者の手の甲に、川崎国のタトゥーが入っていた。

関は大通りに向けて全力で走る。

振り向いては追い付かれる。

逃げるが勝ちだ。

大通りまで出たとしても猛犬の目になっている若者たちは襲ってくるかも知れないので、信号に掴まらなければ、そのまま駅の交番前まで走った方が安全だ。

運よく信号に掴まることなく、交番前にたどり着き後ろをみると、若者の姿はなかった。

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