ラリった咲夜

家に帰ると扉の奥から少女の笑い声がする。咲夜だとすぐにわかった。リビングに入ると咲夜が床に倒れてケラケラと笑っていた。机の上を見るとコーヒーの入ったコップと空になったマイスリーのシートが置いてあった。

「透明な世界は文学の限界なの」

咲夜は呂律の回らない舌でそう言った。

「机は『机』という言葉があって始めて机になるし、犬は『犬』という言葉があって初めて犬になるでしょ?物から言葉が剝ぎ取られたらそれはもう何物でもない、ただの「存在」なの。この世界から言葉を全て無くしたら、全ての物が透き通るの。透明な世界になるの。だから透明な世界は文学の限界なんだよ」

「はいはい、わかったわかった」

 僕は咲夜の軽い体をお姫様だっこして寝室に運ぶ。ベッドに寝かせると咲夜は僕の体に抱きついて引き倒してきた。

 そして僕の首筋に歯を立てる。

 鋭い痛みとともに、モルヒネと覚醒剤を混ぜて少しだけ舐めたような、甘く痺れる快感が体中に広がってく。僕は血を吸われるがままにされていた。気紛れを起こして、僕も咲夜の首に歯を立てる。咲夜は少しだけ喘ぎ、体から力を抜いた。でも口は僕の首から絶対に離さない。

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