殺人

頭が冷えていく。

全身を貫いた痺れにも似ている快感は既に薄れ、遠い過去の出来事のようだった。

辺りを見渡すと、まだ微かに温かい血が僕と少女を中心に海を作っていた。

世界に音が戻り、遠く聞こえる車のエンジン音が恐ろしくなる。

僕の下敷きになっている彼女も、ナイフから流れる血も、なんだか全て現実感が無い。

こんな快楽に意味なんて無い。改めてそう思う。

僕はなんの為にこんなことを続けているんだろう。散々な目に何度も会ってきたのに。

いつでも彼女は月の下で笑っていて、僕は彼女の望むままに敵を殺してきた。

飼い主の命令をこなした犬のような誇りと、いたたまれないような気まずさ。

月は相変わらず綺麗だった。

 今僕が馬乗りになっている彼女の死体は、右腕が奇妙な方向に捻じれ、首はほとんど切断され取れかかっていた。胴体は幼稚な嫌がらせのように何度か刺された跡があり、首の下、左鎖骨の隣辺りから下腹部まで一直線に切り裂かれ、血は未だ静かに零れ続けていた。

 膝と脛に伝わる路地裏のコンクリートの感触が痛い。それが嫌になり、立ち上がって血で汚れたズボンと上着を見下ろす。

倒れた少女と全く同じ顔をした少女が背中越しから心底興味深そうに声をかける。

「それ、どんな気持ち?」

「行こうか」

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