第8話

「おらおら逃げろ逃げろあひゃひゃひゃひゃひゃ!」

 西条アイラは蔓が絡まりあって数十メートルの高さにある玉座に腰掛け、煙草を片手に次々と生えてくる実を千切ってはなげていた。その実は地面に落ちると同時に爆発するという寸法だ。

 おまけに凶悪な角を生やしたイノシシの様な魔物、弱いが初級の魔法を使うゴブリン、ミノタウロスを僕達は斬って斬って斬りまくっていた。

「ハァ、ハァ、なにあれ?生き物を操るとかそういう能力?」

「いや、もっと根源的にやばい」

「あたしは命を操れるのさ。ハイエルフだけの魔術。自分の心象世界に自由自在に生き物を創り出し、召喚する事が出来る。動物だろうが植物だろうがね。こいつもそう」

 そう言って煙草に口をつける。

「それは、煙草ですよね? いや、高校生が煙草というのもまずいんですが、煙草じゃない、青臭い煙草だったりしないですよね?」

「……この成分はまだ合法だから」

「やめなさい!!!」

「うるせえ!!!」

植物からマシンガンの様に実が撃ち出され僕等は頭の光輪は当然のことながら、全身の骨をボコボコに砕かれた。


「なんとなく流れで和葉をこの合宿に参加させちゃったけど二人は5日間二人きりで様々な苦難を乗り越えてきたんだよねそんな状況では男同士で友情を越えた感情が生まれることもあるんだよ私そういう小説読んだことあるから詳しいんだもんこれ以上先には進ませない」

葉賀裕子は目が虚ろだった。

彼女が手を上げると白い光の槍が数本現れ、振り下ろすと同時に槍は和葉を無視して僕だけに向かってきた。

 防御魔法を展開するが、光の槍は防御魔法を破るのではなくすり抜け、勢いはまるで落ちなかった。

 反射で身をひねり交わすが、一本が顔にかすり、鮮血が吹き出す。

「あいつは堕天使。天使の力マルアコアを使う。天使の力マルアコアは魔力を食らう。防御魔法で防ぐにはもっと高密度の魔力が必要だ。」

「つまり、避けるしかない?」

「そゆこと」

「ねえ!どっちが攻めなの!?クールで強い和葉?!それともちょっと幼い顔してるけど性格はエグい蓮?!」

 二重の意味で酷いことを言われながら第二射がやはり僕だけに向かって飛んできた。

 天使の力マルアコアが食らうのは魔力だけなので、倶利伽羅で弾くことでなんとか耐えられそうだが、こうも連射されると反撃のタイミングが無い。

「ポーションが残り少なくなって、お互いに譲り合うのをずっと続けて、最終的に錠剤を口移しで飲ませたり、寝袋の中で思春期の欲望と口移しの記憶が混じり合って――」

 パリン

 第三射がくる前に、葉賀さんの頭の光輪は割れていた。

「俺の事好きなら、背後に回り込んだことくらい気づけ」


「どーん!!!」

巨大で赤い光の奔流が銃を模した十火の右手の人差し指から放たれ、僕と和葉は身を焼かれ吹っ飛ばされ地面に叩きつけられた。少し顔を動かすと最早森は一部抉れていて、地形が変わっていた。

頭の光輪がどうなったのかなんて、言うまでもない。

後から聞いた話では、あれは魔法陣や詠唱で超常現象を引き起こす魔術ではなく、純粋に魔力をそのまま叩きつけるただの物理現象らしかった。無論、それだけであそこまでの破壊が出来るのは、十火がアモン一族始まって以来の天才。最も始祖に近いと称される悪魔だからであり、通常の魔術師では攻撃手段として輪ゴム鉄砲くらいの威力しか出せないらしい。…………修行は?


アモンの城に辿り着く直前に居た十火に一瞬で屠られた後。

 「みんなお疲れ様〜。特に蓮と和葉。よく頑張ったね。まだゴールデンウィークは2日残ってるから、お城でゆっくりしようね。最後まで楽しもうね!」

 十火が笑って城の方向に踵を返すと、皆がそれについていった。僕も歩き出そうと一歩踏み出した刹那。

 足元が奈落だと踏み出した後に気づいたような悪寒。

 暗闇のみの視界。

 音の消えた世界。

 気づいた時には、僕は開けた草原の真ん中で、数百人の殺意の視線に晒されていた。

 

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