第7話
「さあ、さっさと始めるです。ポーション飲む時間くらいはくれてやってもいいですよ」
「必要無いよ。小春ちゃん。さあ、やろうか」
正直疲労が溜まっているのだが、これはポーションでどうにか出来るものでは無い。
「……疲れでハイになってるです。簡単な瞑想のやり方を教えるので一緒にやるですよ」
そう言って小春ちゃんは草の上で結跏趺坐の体勢になり、目を瞑った。
僕等もそれに習い、瞑想講座が始まる。
「――とまあ色々いいましたが、とにかく呼吸の事だけを意識するですよ。深呼吸のハイエンドみたいなもんなんです。単なる精神安定だけでなく、精神攻撃からの回復や
僕は「裏」の部室で小春ちゃんが気力について語っていたのを思い出した。
「小春ちゃんは
「小春は人間じゃないので、覚醒は出来ないですよ」
「じゃあ、気力について誰から教わったのさ」
「小鳥遊一族は人狼の一族です。人狼は人間より気力が強いので、それを扱う技術体系が進歩してるですよ」
僕は初めて会った時の自己紹介で、「祖母が現人神をやっている」と言っていた事を思い出した。小春ちゃんも将来神様として祀られるのだろうか。それは決まっていて、覆しようのない事なのか。
「私が将来神様になるのを、同情してるなら大きなお世話です」
小春ちゃんは無表情で言った。
「小春は小さな頃から羽賀月学園に入学するまで、大神村で育ったですよ。小春は大神村が大好きです。大神村の景色や、優しい人達が大好きです。そんな村を怪異や人間から守るおばあちゃんも尊敬してますし、そんな風になりたいです」
小春ちゃんはすっくと立ち上がった。
魔力とは違う、「圧」としか表現出来ない物が彼女の全身から放たれたと思ったら、次の瞬間頭に犬の様な耳、お尻にはフサフサの白い尻尾がついていた。
「……オッケー、やろうか。」
僕と和葉も立ち上がる。
「あ、ちょっと待て。これ、俺も戦っていいの」
和葉が手を上げて質問する
「あくまで如月先輩の修行って事を忘れない限り、共闘はOKらしいです。ていうかそうじゃなきゃ修行にもならないですよ」
「了解。んじゃまあ――」
和葉の頭上に防御魔法を使った光輪が浮かぶ。
僕達の頭上にも同じく光の輪が浮かんだ瞬間――
「グッ……!」
物凄い風圧で思わず目を閉じた。
恐る恐る目を開けると小春ちゃんの指から伸びた獣の様な爪を和葉の赤い剣が抑えていた。
「そんなにはやく終わらせちゃあ、つまんねえだろ」
「ならちょっと遊ぶです」
小春ちゃんの身体が消えた――と、おもったら次の瞬間背中に衝撃が走り吹っ飛ばされた。
「人狼は高い気力とそれを操る技術によってどの種族よりも体術に優れてるです。目覚めたばかりのひよっこ
小春ちゃんの身体が消える。周りの岩や木から反射音が響くとほぼ同時にその方向から衝撃がやってくる。
間隔がどんどん早くなっていき、吹っ飛ばされ続けているぼくの身体はずっと宙に浮いている有様だった。
骨が数本、完全に折れた頃。
「じゃ、降参でいいです?」
僕は答えなかった。
「倶利伽羅」
右手の紋章から召喚した剣を杖にして立ち上がる。
「蓮」
木にもたれかかり成り行きを見ていた和葉が言った。
「
「……」
倶利伽羅を召喚しようとすると、まず右手に不思議な、魔力とは違う力が漲り、そのままその力を剣の形にしようとすると紋章が浮かび倶利伽羅が出る。この紋章が浮かび上がる前の手に集まる不思議な力が気力なのだろう。左手でゆっくり倶利伽羅を召喚しようとし、紋章が浮かぶ前で止めると、左手には気力がみなぎったままになった。右足、左足、目、耳など、全身に同じように気力をみなぎらせていく。
「――戦闘センスは抜群ですね……《主人公候補》抜きにしても……」
小春ちゃんは呆れ半分、驚き半分で僕を見ている。
「でも、『その状態の身体』の扱い方なら私の方が上です!」
小春ちゃんの身体が消える。
パアンと岩の削れる音がして、バフのかかった反射神経でそちらの方に無我夢中で剣を振る。
倶利伽羅と爪で鍔迫り合いの状態になる。
僕は内心笑う。
倶利伽羅から黒い炎を吹き出させる。全方位でなく、後方に。丁度ジェットエンジンの役割を果たすように。
パリンという音がして、どこからかゴングの音が鳴り、僕等は身体が一瞬硬直した。
小春ちゃんの頭の光輪は割れていた。
「そこまで!!勝者、如月蓮チームゥ!」
十火の声が脳内に直接響く。なるほど。どこかで見ていたのか。
「……人間の身体を持ってるのが勿体ないです。100年に一人の反射神経と戦闘センスですよ。時代が時代なら「表」でも英雄になれます」
小春ちゃんはそう言い残して転送魔法でどこかへ消えた。
「かわいい後輩に褒められちゃったぜ」
「……なんつーか、珍しいんだけどな。あいつがあんな風に自分の事喋ったり、相手を素直に評価するの」
そう言って和葉は先に進みだした。
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