第6話

「さて!今年も文学部恒例ゴールデンウィーク合宿です!」

「よっ!待ってました!」

エイラが合いの手をいれる。

「今年は蓮の強化が最重要項目、蓮はアモンの麓から合宿所まで辿り着くことを目標にするよ」

場の雰囲気が一気に氷点下まで下がる。

「本気か?お嬢」

「イかれてるです」

「僕等でも下手したら死にますよ」

「蓮は英雄、『主人公候補』だよ。この程度の苦難、解花性存在の力が発動すれば余裕だよ」

「蓮が特別なのは認めるけどよ……」

「神話武器と基礎魔術、神話武器もこれまでで制御は学んでいるし……いや、それでも……」

「私の英雄だよ?それ以上の根拠なんてない」

十火は陶酔したような目で空を見上げる。

どうやら文芸部の皆はそんな十火を見て諦めたようだった。

「死ぬなよ、蓮」

和葉が憐れみの眼差しで僕の肩に手を置いた。

アモンの麓とやらがどんなに危険かは知らないが、これはいわゆる「ダンジョン攻略」だ。英雄的だ。僕としては望むところだった。

「さすがに蓮独りじゃ可哀想だから、和葉もついていってあげて」

「……ドSっすね……十火さん」

「?」

僕としては、戦闘経験豊富な和葉が居てくれる方が心強いんだけど。

「あたしらはいつも通りか?」

「ううん。アモンの麓の各ポイントでみんなは蓮達を迎え撃ってもらうよ。撃破条件は防御魔法で頭に光輪をつけてそれを破壊した方が勝ち」

「解花性存在と戦れんのか。楽しみだぜ」

「あの……流石に食料とポーション、魔力ポーションは……」

葉賀さんがおずおずと手を上げる 

「もちろん用意してあるよ」

 そう言って虚空から携帯食料、水の入ったペットボトル、そして緑の錠剤と赤の錠剤のシートの束が出てきた。

「はい、蓮。緑が身体再生のポーション。赤が魔力補充のポーションね。魔力ポーションをオーバードーズしてパワーアップ!とかしちゃ駄目だよ?発狂して脳の血管が切れるかもしれないからね」

「……こういうのって、おしゃれな瓶とかに入ってる液体じゃないんだ」

「昔はそうだったんだけどね〜技術の進歩って奴だよ。便利でしょ?」

 僕は最初に習った収納魔法で虚空に荷物を詰めた。

「それじゃあ出発は明日の9時、部室で!」

 十火がそう宣言すると、部はお開きとなった。


 翌日、私服で現れた僕達は部室に集まった。

 ワンピース姿の十火は正しくお嬢様といった感じだ。

 魔法陣が輝いている。

「それじゃ一人ずつ入って入って〜」

 アイラを先頭に一人ずつ魔法陣に入っていく。

 僕と和葉は二人一緒に魔法陣に入る。

視界が眩むと、僕等は森の中に居た。

「ここがアモンの麓?」

「そうだ。一応人が通る用の広い道があるだろ?そこを辿るとアモンの城に着く。さ、行くぞ」

散歩をするような気軽さで和葉は道を歩き出した。

 僕もついていく。

 しばらくはただのなだらかな坂道で、木々の枝が揺れる音と風が心地よかった。

 ピョコッピョコッ

「?」

 振り向くと水色の粘液状の球体が着いてきていた。

「これってもしかして……」

「お察しの通り、スライムだ。集まって一つにまとまらなければ害はないから無視していい」

 しかししばらく歩くと――

 ピョコッピョコッピョコッピョコピョコッ

「あの〜めっちゃ着いてくるんだけど」

「大分集まったな……」

「仲間を呼んでるとか?」

「いや、違う。これがお嬢様が俺を蓮に同行させた理由さ。俺は惹魔体質つってな。魔物を惹きつけやすい体質なんだよ。子供の頃から裏から湧き出た魔物によく襲われてよ〜お陰で5回も覚醒アウェイクしちまった」

「5回?!じゃあ君は5本も霊装ギアを使えるの?」

「まあな」

和葉は右手を付き出すと、花弁の様に5本の剣が現れた。

 時計並びに赤い剣、青い剣、大きな剣、黄色い剣、黒い剣。

「緋剣、藍剣、剛剣、雷剣、影剣だ」

「どうやって浮かせてるの?」

「気力を使うんだ。練習すりゃ手を使わずに霊装ギアを扱える――っとお喋りしてる場合じゃねえな。蓮、このスライムの大群、狩りつくしてみろ。アモンの炎が効率いいと思うぜ」

「わかった」

 僕の訓練なので異論は無い。

 片手を突き出し、後ろに着いてきているスライムの大群に炎を噴射する。

 甲高い音を立ててスライム達は溶けていった。

「疲れはないか?」

「? ないよ?」

「魔力量たけぇな……さ、行くぞ」

 振り向くと、野犬が居た。

「次から次へと……」

「こいつは?」

「フレイムハウンド。火を――」

 そう言いかけたとき、そいつは火球を口から吐き出してきた。

 黒い影が僕の視界を遮る。

 和葉は黒い剣をこちらに突き出していた。

 どうやら守ってくれたらしい。

 僕は俱利伽羅を召喚し、斬りかかる。

 牙で受け止められた。白い炎を刀身から出す。

「それあんま使わねえ方がいいぞ。気力を消費する。気力を回復する薬は無いからな」

 白い炎を止めた。

 フレイムハウンドは口から火を出すだけあって、炎には耐性があるようだった。

 口が少し焦げただけだ。

 ボンッという音がして口から爆発がした。

 僕は驚いて転んでしまい、のしかかられる体勢になる。

 冷静になって少し考え――

「ダアトより全セフィラへ。ウィンドブラスト」

 僕の詠唱により下腹に潜りこませた左手から突風が巻き起こる。

 フレイムハウンドは空高く撃ちあがり、グチャという音と共に落下して潰れた。

「グッジョブ」

 和葉が親指を立てた。

 それからも、和葉の惹魔体質のせいか、さまざまな魔物に襲われた。

 まずは、ファンタジー小説の定番といってもいいゴブリン。魔術本で存在は知っていたが、想像通りの見た目だった。

 緑色の皮膚に、子供くらいの体格。粗末な武器。これらは倶利伽羅で一人残らず斬り伏せた。

 その他にもオーク、トカゲ型の魔物リザード、人形のような球体関節を持ち、長い爪と集団で攻撃してくるウォーリア、支配下から捨てられ生殖し、野生化したゾンビ、僕が襲われたのよりずっと大きい熊型の野獣、ガナベア、人間の半分ほどの大きさもあり群れを作るキラービーやゴーレムなど、多種多様な魔物と昼夜問わず戦った。

 学んだのは、集団戦で僕の魔法技術では無詠唱、魔法陣無しで使えるアモンの炎の方が効率が良いということだった。

 僕も和葉も何回も負傷し、魔力が尽き、ポーションがなければとっくに死んでいただろう。

 命からがら歩いた先に人影が見えた。

 小柄な体躯に、白い髪。

「ようやく来やがったです」

 小さな人狼。小鳥遊小春だった。

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