第5話

視界が戻った時僕たちがいたのは草や花が生い茂る綺麗な庭園だった。雲ひとつ無い高い青空で、白い椅子と机や木の東屋があり、見上げると巨大な西洋式の城があった。

「ねえねえ、天使の力マルアコアと魔力の互換性についてなんだけど、やっぱり天使の力マルアコアの方が一者ト・ヘンに近いみたいで個人のセフィロトに干渉出来ないんだよね。やっぱり契約して直接和葉が天使の力マルアコアを持った方がいいんじゃ……」

「魔力と気力だけでも精一杯なのにこれ以上力を操れるか」

「なーなー、仙術って結局魔術な訳?」

「まあ、魔力は使いませんので厳密には魔術とは言えません。広義の意味では魔術ですが。覚醒者アウェイクンじゃなくても気力を一気に生み出す事で身体能力を向上させたり気力を使い切った覚醒者アウェイクンに気力ぶちこんだり出来るです」

 文芸部達は椅子に座ったり草に寝転んだりしながら魔術本を読み、談笑している。

僕は手近な椅子に座り、「ゴブリンでもわかる現代魔術の基礎」を読み始めた。

 

魔術技術の向上の為に、とにかく沢山の魔法陣や呪文を覚えればいいという方法をとっている魔術師は沢山いるが、このような人々は魔術というものを単なる戦闘技術、あるいは生活を便利にするものとしか考えておらず、本来の魔術の在り方とはかけ離れた修練方法である。

 これはいわばプログラマーがパソコンを使うときプログラム、コンピューターの仕組みをわからず使っているようなものである。

 魔術とは最古の学問であり、あらゆる学問の祖である。魔術から宗教が産まれ、宗教から哲学が産まれ、哲学から科学が産まれたというのがこの世の学問の歴史である。

 魔術にはさまざまな流派が存在するが、これは「魔術」というものが法則ではなく法であることに由来している。法であるから様々な解釈が存在し、また現在その全ての流派の解釈は正しくないのである。解釈が「間違っている」場合その魔術系統は魔術を扱えず、「正しくない」場合その魔術系統は成立する。魔術という法に対する完全な理解、「永遠の相」に辿り着くため魔術師は己の魔術を研究し続けてお──

「十火先生、なにもわかりません」

 なんなんだこの電波文章の羅列は、あと遅いけど天使の力マルアコアだの一者ト・ヘンだのもなんだ?違う世界の言語か?違う世界の言語か。

「あーそこ読み飛ばしていいから。後できになったら読んどいて。大事なのはここから」

 十火はペラペラと本をめくり指を指しながら説明を始める。

「昔、『表』の人間が作った金の暁という魔術結社があってね。彼等はセフィロトというキリスト教の図形を使って元素霊との接触、一者ト・ヘン──言っちゃえば神様みたいな物かな──からの光の霊感という微弱な契約にそって少しずつ自身の実存を書き換えていった。これは『裏』から見れば非効率極まりない方法なんだけど金の暁は様々な神話、宗教、哲学、心理学をミックスさせてどの地域のどんな人間にも扱える超絶便利な魔術体系を作ったの。だから『裏』の人間にもそれは普及した」

 十火はページをめくる。

「でも『裏』の人間はもっとてっとり速く強力な魔術を使える。金の暁の魔術体系をある方法でハックすることでね。セフィロトの図形には10個のセフィラと呼ばれる丸で表される金の暁の魔術を扱うための象徴と、そこに接続するための22個の小径パスがあるんだけど、『表』の人間は図形の一番下のマルクトと呼ばれるセフィラに接続して、修行を通して少しずつ小径パスを繋げていくことで扱える魔術を増やしていった。それでも『至高の三角』と呼ばれる上段にあるセフィラに辿り着ける者は極わずかだったの。でもね、実はセフィラには隠された11番目のセフィラ、ダアトがあるんだ。このセフィラに到達すれば、全てのセフィラに接続出来るんだよ。」

十火はニヤリと笑う

「蓮はもうダアトに接続しているんだよ?」

「え?いつ?」

「ダアトへの接続方法。それは魔力を持つ異常存在との契約。だから私達は修行を積まずに詠唱や魔法陣を描くだけで強大な魔術を使えるの。もちろん、魔力量が許すだけね」

 そうして僕は本格的に魔術の鍛錬を初めた。詠唱を覚え、魔法陣を脳に刻み込むため何度も魔法陣を紙に模写し続けた。

 毎日、毎日、「文学部」の活動はそれだった。

「表」の部室で軽く駄弁り、「裏」の部室で魔術の勉強。そうしてゴールデンウィークの時期が訪れた。

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