第4話
変化に動じないよう気をしっかり持つ間すら与えられなかった。
頭の中に心臓が出来たかと思った。
火のような、水のような、肉のような心臓。
頭から血液とは違うなにかが全身に満ちていく。
「感じるでしょう?気持ちいいでしょう?」
そう。それは確かに気持ちよかった。血液とは違うなにかが身体の中を通るたび、そこはむず痒いような、それでいて不快ではなく気持ちよくリラックスする感覚が全身を駆け巡る。
「今身体中に流れている液体でも気体でもないなにかがあるでしょ?それが魔力。手に集めてみて。操る事が出来るよ」
右手に魔力を集めようとすると、魔力が確かに右手に集まっていく。手を閉じたり開いたりするのが当たり前に出来る様に、僕は魔力を操れていた。それは手の甲に紋様が現れた時、倶利伽羅の召喚の仕方がわかったあの感覚と同じだった。
「本当は魔術を使うには詠唱か魔力で魔法陣を描く必要があるんだけど……私はアモンという悪魔の末裔なの。その眷属の蓮はイメージだけで火の魔術を使えるんだ。魔力を右手から出して炎とか『燃えろ』とかをイメージしてみて」
ボウッ、と僕の右手の上から火が燃え上がった。
「うん。契約はバッチリだね」
ぱん、と手を叩くと十火は立ち上がる。
「それじゃあ、今日の部活動を始めようか」
「うーい」
「はいです」
そういうと皆立ち上がりリビングの隣の書庫に向かった。
「えっと、部活動ってなにやるの?」
まさか本当に夏目漱石やドストエフスキーの感想文や自作小説を書いたりする訳はないだろう。
「そりゃあ、文学部なんだから本を読むんだよ。と、言っても読むのは魔術本だけどね」
「魔導書みたいな?」
「魔導書と魔術本は違うよ。魔導書は生きてて、契約者に魔力と本の中身の知識を与えるけど、魔術本は魔術の……なんだろ。教科書とか論文みたいなものだね。蓮もついてきて」
そういって書庫に入ると、十火は厚めの教科書くらいのサイズの本を取り出した。
表紙には「ゴブリンにもわかる!現代魔術の基礎」と書かれている。
いるのか、ゴブリン。
「蓮はこの本から始めるよ。私が蓮の個人教師ね」
他の四人もそれぞれ数冊の本を抱えている。
「この部室で魔術を研究するの?なんていうか……危ないし隣に音が響かない?」
「そう、だからまた『これ』」
指パッチン。
床には昨日と同じ魔法陣が現れた。
「僕、昨日あそこぶっ壊しちゃったんだけど」
「地下室なんていくらでもあるよ。これでも私、「裏」ではお嬢様だから。これから行くのは文芸部の「裏」の部室だよ」
そう言って十火は一番に魔法陣の中に入った。
他の皆も数冊の本や呪術的な道具を持って魔法陣に入る。
「ほらほら、入るぜ」
アイラが僕の背中をせっついて魔法陣に押し込んだ。
魔法陣が一際大きく輝き、次の瞬間には景色が変わっていた。
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