20xx年07月21日(月)
学年掲示板の前に群がる無数の生徒達。
その視線の先には先週行われた学期末のテストの順位表が貼り出させており、その結果に一喜一憂する姿が多く見受けられている。
要もまた、一学期を終える自分がどの程度の位置にいるのかくらいは把握しておくべきかと思い、掲示板へ足を運んでいた。
(どっちから見ていった方が早いだろうか)
今回の期末テストの出来としては一言で言えば普通、可もなく不可もなくという手応えだった。全く勉強していないかと言えば嘘にはなるし、かと言ってやり切ったかと問われると言葉に詰まる。つまりは平均的な順位という自己評価なわけだが、さすがに上から見ていくほどの自信はなかったので下から名前を追いかけていくことに決めた。
(どれどれ)
下位にはなにかと悪目立ちしている生徒達の名前が固まっていたり、中間層には目立たない地味な学生の名前が多く見られる。
そんな中に、要は自分の名前を発見した。
(・・・・・・四十七位か。まあ、妥当だな)
とりあえず半分以上の順位を獲得してほっと胸を撫で下ろした要。
本来であれば自分の名前が出た時点でさっさと退散するところなのだが、今回はもう一人気になる人物がいたので、引き続き順位表に目を向けていくことにした。
(あいつは・・・・・・)
前回一位のそいつは、やはり今回も一番上に名前を連ねていた。
気付けば、辺りでもそのことに触れている人物もちらほら。
「杠葉さん、中間に続いて期末も一位だなんてすごすぎ!」
「うちの学年は名実共に杠葉一強だな」
「黒猫姫、頭も良いとか天才かよ」
(・・・・・・天才ねえ)
この一ヶ月、ひよりとプライベートでなにかと絡みがあった要だからこそ分かる。彼女は何事も妥協を許さない。天才という単語を当てはめるのであれば、きっと彼女は努力の天才だ。
しかもそれは並大抵の努力では説明がつかない。
県内でも指折りの偏差値を誇るこの学校では、成績上位者は軒並み最難関大学への進学を目標としており、高校入学と同時に猛勉強を開始している者が多い。そうした連中を出し抜き、最上位をキープしているということは、彼らに負けず劣らず勉強時間を確保しているということに他ならない。加えて、ひよりは一人暮らしだ。家事も全て自分でこなす必要があり、勉強だけしていれば良い環境下にはない。一体全体、どういう一日の使い方をすればそんなことが可能なのか。要には考えても見当もつかなかった。
(ま、俺はほどほどにやるさ)
彼女は彼女。自分は自分。
そう結論付けて、背伸びをして教室へ戻ろうとする要であったが、突如後ろから制服をぐいっと引っ張られ、首が締まりそうになる。
「・・・・・・お前、俺を殺す気か」
「かなめ〜、助けてくれ〜」
この世の終わりのような顔をしている流星。
その理由は聞くまでもなかった。
「補習お疲れ。まあ、がんばれよ」
この学校では期末考査で赤点を取った生徒は、めでたく補習対象となる。七月いっぱいは終業式後も登校する必要が発生し、その分夏休みも削られる。流星のように夏を満喫する予定の者にとっては死の宣告と言えよう。
ただ、同情するには値しない。そもそも入学時のオリエンテーションで散々忠告を受けていたわけで、嫌なら死に物狂いで対策もできたはずなのだ。それをしなかったというのは、これはもはや自業自得でしかない。
「頼む、見捨てないでくれ〜」
「見捨てないでくれもなにも、俺にはどうすることもできないだろ」
「そんなことはない! 補習三日目のテストで八割取ることができたら、その後の補習は免除されるって話だ!」
「・・・・・・そんな説明あったか?」
「これは二年の先輩に聞いた話だ。生徒にはあえて公表はしていないが、毎年そういった措置が取られてるらしい」
「なるほど。教師側としても、補習人数は極力減らした方が楽だもんな。理にかなってるっちゃかなってる。・・・・・・それで、まさかお前、俺に勉強を教えてくれなんて言わないよな?」
「そのまさかだ。頼む、俺の友達の中でお前が一番順位高いんだ!」
流星は頭の上で手を合わせ懇願する。
そもそも四十七位に縋るしかない交友関係は一度見直すべきでは・・・・・・と、自分で言うのも虚しいのだが、要は心の中でそんなことを呟いていた。ただ、唯一の友達は大切にしなければとも思っている。
「まあ、暇だからいいけど。それでおまえ、何の教科赤点取ったわけ?」
「・・・・・・理系科目全般」
「・・・・・・やっぱパスで」
「おい、薄情者!」
つまらないすったもんだがありつつも、結局押し切られる形で要は流星の勉強を見ることになった。
しかも開催場所が要の家ということになり、いろんな面で気苦労が発生しそうな匂いがプンプンしていた。
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