誰も知らない昔の話

 とある国にお姫様がいた。

 そのお姫様には侍女がいた。


 同い年で、同じ教育係のもと育ち、同じものを食べてきた二人は、双子のように仲が良かった。仲が良すぎるほどだった。


 ある時、隣国と戦争があった。

 その国は敗けた。王族は皆隣国に連れて行かれた。お姫様も連れ去られた。お姫様について侍女もついて行った。

 しばらくして、侍女だけが帰ってきた。王族は皆首を斬られた。お姫様も処刑された。侍女はお姫様の死で気が狂ってしまったようで、喚き声以外に言葉を発せず、もはや他の者とまともな会話も出来なかった。


 それから何十年も後、革命が起きて、隣国の王政は潰れた。隣国に支配されていた国々も解放された。

 自由の到来に民衆がわきあがる都のはずれでは、すっかり老人になった侍女が、たったひとりの縁者の若者に看取られて、静かに息を引き取った。


 その若者の証言によると、老女は最期にこう言い残した。


「私はこの国の王女でした。そして首を斬られるはずでした。

 しかし私の侍女が、姉妹のように育ってきた私の侍女が、私に変装して処刑台に登ったのです。

 彼女に逃がされて、私ひとりが生き延びました。馬鹿な人。貴女がいなくて、私が正気で生きていけるわけがないではないですか。

 馬鹿な人。結局最後まで私の想いに気付いてくれなかった。私も今すぐ、そちらへ」


 ことの真相を知る者は、もう誰もいない。

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