ポーカーフェイス
いつも知的でポーカーフェイスなあの子は、動物が大の苦手らしい。
街中で近くに寄ってくるハトにも真顔でビクッと跳ねているから、だいぶ重症だ。動物園の柵越しでもぎりぎり。飼うだなんてもってのほか。
とある昼下がり、腹を空かせた野良猫が、ベンチに座ってランチを食べているあの子の膝に飛び乗った。能面みたいなあの子の顔が、瞬間冷凍されて固まった。
自分の手からはむはむとツナサンドを食す猫を前にしたあの子は、ついに限界を迎えた。
「ぁぁぁぁあかわいぃ〜〜〜〜〜…………」
震える声と震える手に、猫はきょとんとしてあの子を覗き込んだ。茶金色の猫の丸い目に映るのは、表情筋がふにゃふにゃになったあの子のどうしようもない姿。
「駄目、本当に、動物は駄目なの……可愛すぎて頭が破壊されちゃう、もうなんにも考えられなくなる……ひゃぁ〜、かわいぃ……」
幸せが溢れて飽和したためか、ぼんやりとした表情で一心不乱に猫の背を撫でるあの子は、猫がゴロゴロと気持ちよさそうに喉を鳴らすと、「あぁ……」と喜びの色を理知的な瞳に輝かせた。
……この三分二十一秒の動画を、私は何回も、何十回も、何百回も、何千回も再生している。
あの子と会えない時間はずっと。
ぐるんと丸い矢印の「もう一度再生する」を真顔で押している私は、たぶんもうとっくに脳みそが破壊されているのだろう。
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