第17話「鼻歌の帰り道」

「〜♪〜♪」


「なんの歌?」


「うわぁ!!」


 誰もいない帰り道。それをいいことに歌を口ずさんでいたのに


あおちゃん……」


 こやつは神出鬼没しんしゅつきぼつだ。


「夏休みが明けたら、合唱コンクールがあって」


「へえ〜 コンクールってことは、順位とか競うんだ!」


「そうだね。その選曲をしたの」


 6時間目の総合の授業で、プリントが配られた。クラス数に合わせた曲の数を、約1分ずつ代わる代わるに聞いて3つに候補を絞る。


「なんか、その中で耳に残る曲があって、それ歌ってた」


「どんな歌?」


「えっ……」


 誰もいない所で歌うのはいいものの、誰かに歌ってと言われると羞恥心しゅうちしんを抱いてしまう。


「…恥ずかしいから嫌」


「えぇ〜 さっき歌ってたのにー」


「それは!誰もいなかったから」


 あおは楽しそうに笑った後、


「そっかー、もう夏休みなんだね」


 と言った。


「今年の夏も、暑くなるのかな」


 あおと一緒に空を見上げる。


「異常気象も毎日続けば異常じゃないよね」


「ほんと、そうだね」


 あおは笑っているのに、何処どこかなしげな顔をした。


「はるはるは、夏休み何して過ごすの?」


「夏休み明けすぐにテストがあるから、勉強かな」


 私は溜息と共に苦笑する。


あおちゃんは?」


「……何も」


「え?テストは?」


「あっ、そっか私も勉強しなきゃだ」


 そう言って首に手を回した彼女の顔は、無理に作られた笑顔のようだった。

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