第18話「女子力」

「きゃぁあ!」


 悲鳴と共に、誰かが崩れ落ちる音がした。


「大丈夫?!」


 部活中、同学年の子が足をもつらせ地面に横たわった。

 すかさず駆け寄ると、膝のけた皮から血を流していた。他の子が水場まで連れて行く間に、私はカバンからバンドエイドを取り出した。


「これ、使う?」


「えっ!ありがとう〜 遥香はるかちゃんって女子力高ーい」


 と言って、前髪を直しながら受け取った。

 そんな彼女の方が、よっぽど女子力を意識しているように見えた。


 念の為と、その子を保健室に連れていくことになった。付き添いで行った私は、保健室の先生に状況を伝えた。すると、


「それは、女子力じゃなくて『人間力』だよ」


 と言った。私はまだ、そこにある違いをよく理解することができないけれど、ただ、嬉しかった。私のした行動が、もし私ではなく男だったのならば、それはどのように言い換えられるのか。そんな性別で決めつけるような言い方は、褒め言葉でも嬉しく感じなかった。


 片付けの時間を知らせるミュージックが鳴る。


「もう戻らなきゃね」


美里みさと』と書かれた名札が揺れる。

 この人になら、話してもいいかもしれない。全学年を見ている先生だ。きっと、知っているかもしれない。私が、ここ最近ずっと不可解に思っていたことを。


「あの、先生」


「ん?」


「『あお』って生徒、知っていますか……?」


 真っ直ぐに、先生の目を見つめる。


 先生は、首を傾げてこう言った。


「誰のこと、かな?」

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