第15話「清掃時間の雷」

 ひとたび、雷が鳴ると学校中が騒がしくなる。窓の外で稲妻いなずまが走るだけで肩をビクつかせ、落雷の爆音に悲鳴をあげる。何をたかが雷 ごときでそこまで騒げるのか、私には分からないが心底迷惑である。

 普段は日光で活躍できない蛍光灯が、外の暗さで下手に目立ち、怪しげな雰囲気をかもし出していた。


「1,2,3……」


 大きな光に顔を照らされたので、試しに数えてみる。3秒目で爆音が響き、


「…近いな」


 と、呟いた。

 廊下のゴミをほうきで履きながら、教室で廊下側の壁に腰を掛ける七夏ななかを見つけた。クラスメイトと雷のことを話題に談笑している。こんなものはただの口実にしか過ぎなくて、何も無くとも彼女たちは掃除をサボって雑談をする。皆が面倒臭いと思うことを、自分も面倒臭いからと手を止める。それを放棄したら、教室の汚れに嫌気がさすのは自分なのに。


 つくづく、馬鹿だなと思う。


 そんな奴らを尻目に、今日も私は手を動かす。皆が面倒臭いと思うことを、自分も面倒臭いと思いながら、それでもそれをすることに意味があると信じて。

 しかしそれも、自分を正当化するための単純な考えに過ぎないのだ。


「はあ」


 そう思うと、溜息が出た。溜息をつくと、幸せが逃げると聞いたことがある。けれど私は、溜息をつく一瞬、少し心が軽くなる。胸につっかえた嫌なものを外に出せる気がするから。でもそんなものは本当に一瞬で、その後にはまた、つっかえた感覚だけが残るのだった。

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