第13話「夏大」

 席が遠いというだけで、授業の集中力が上がり、積極的に交流活動にも取り組めるようになった。

 けれど、七夏の名前を聞くだけで、声を耳にするだけで包丁を突きつけられているような緊張感が私を襲った。背筋が凍ったように寒くて、身動きが取れなかった。



 そんな中、先輩たちの夏の大会が開かれた。

 それは、先輩の引退前最後の試合だ。


 雨の予報だった空には、晴れ間がさしていた。

 結果は惨敗ざんぱいだった。

 かたわらではせみがなき、向こうからは歓声が聞こえてくる。勝利に喜ぶ人がいる相反そうはん、敗北に悲しむ人がいる。その境目に、私たちは立たされていた。

 私は、強い人というのは悔しくても泣かない人だと思っていた。しかし違った。強い思いがあるからこそ、涙が出るのだ。

 先輩たちは声をあげて泣いていた。


「皆が見に来てくれたのに、いい結果を残せなくてごめんなさい」


 そう言う先輩たちの姿に胸が痛んだ。

 私たちは、この後悔の涙を流さないために、今練習を頑張っているのだと思い知った。


 そうして、先輩の最後の大会が幕を下ろした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る