第11話「零れる本音」

あお


「ちょっと、寄り道して行かない?」


 私たちは、何も言葉を発することなく隣り合わせで歩いた。


「浮かない顔して、何かあったの?」


 そんなに顔に出ていたのか。私は自分の顔を手のひらで隠したくなった。


「ううん。なんでもっ…」


 俯いていた顔を上げた先には、どうしてか辛そうでそれでいて優しさのある表情をしたあおがいた。その姿に、言おうとしていた言葉が詰まった。


「なんでも、なくない。」


 目を見つめていたら泣いてしまう気がして、視線を逸らす。


「実は私、クラスでいじめられててさ。無視されたり、悪口言われたりしてて」


「それは、誰かに相談した?」


 首を左右に振る。


「言いたいのに、いじめられてる自分が情けなくて、苦しくて、何よりすごく悔しい」


 自分の心の奥で積もっていた本音が、零れ落ちていく。


「何も言い返すことができない自分が嫌で、学校に行くのがすごく憂鬱。……でも、学校を休んだら、そいつらが喜ぶって思うと悔しくて、学校に行った。だから昨日は、ただ単に体調が悪かっただけなのっ…」


 胸からお腹まで届く温もりが、背中にまわる細い腕で包まれた。


「辛かったよね。」


 強く、抱きしめられる。


「よく頑張ったね、偉いよ」


 こらえていた涙が、どっと溢れてきた。

 そうか、私は褒めてもらいたかったんだ。ギュッと優しく抱きしめて、「頑張ったね」って言ってもらいたかったんだ。


「うんっ、うん……ありがとうっ」


 不思議とそこには誰もいなくて、私は涙を流し続けた。

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