第10話「ちょっとした勝利の気持ち」

 朝は昨日の気だるさが無く、体の重さの違いに昨日の体調の悪さを実感した。


「大丈夫?今日も学校休む?」


 顔を合わせて早々に、母はそう言った。


「大丈夫。今日は学校行く」


 私は被りを振った。母がこうして、いつでも休める環境をつくってくれているだけで心が救われる。


 鏡の前で、今日も前髪をくくった。

 また何か言われるのではないかと、ビクビクしていた。けれど、ここで前に戻ったら負けを認めたようで悔しかったのだ。


 学校には一番乗りで着いた。担任の先生に体調を尋ねられたが、「大丈夫です」と一言伝えて教室に入った。

 次々と入ってくるクラスメイトたちの視線が変に気になってしまって、落ち着きを持てない。

 七夏ななかが登校して来た。気持ちの悪い緊迫感にまとわれた私に一瞥いちべつをくれた後、何も言わずに席に着いた。

 よかった。

[何も言われなかった]と言うだけで、とても安堵あんどした。けれど、相も変わらず視線は冷たく、私は妙な寒気に襲われるばかりだ。

 そんな中私の脳に強く残ったのは、月晴つきはが前髪を下ろしていたことだった。


 不気味な感覚と、ちょっとした勝利の気持ちを抱きながら通学路を歩いていた。

 果たして私は、いつまでこの髪型でいればいいのだろうか。この潮時は一体いつくるのだろうか。この気持ちは、いつになったら消えてくれるのだろうか。

 頭の中はそんな疑問ばかりで、私はその場でしゃがみ込みたくなった。でも、1度足を止めてしまえば、その後進んで行けなくなってしまう気がして、できない。


「はるはる」


 そんな私の足は、独特なあだ名の呼び方で簡単に止まってしまった。


「体調、大丈夫?」


 この子は本当に、どこからともなく現れるな。


「…あお

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