第9話「明日は」

 朝目覚めると、体がやけにだるい。開いたまぶたが重たくて、体を起こすと気持ちの悪さを感じた。


「お母さん。ちょっと今日、体調悪い。」


「えっ、風邪?」


「どうだろ。わからない」


「ちゃんと野菜 らないから、免疫力下がってるんだわ」


 母は朝食を作りながら、そう言って引き出しを指差した。


「体温計そこにあるから、計ってみて」


 熱がなかったところで、体調の悪さに変わりはないのにと思いながらも、渋々それを脇に挟む。

 けたたましい電子音を合図に、[36.5]という数字が表示された。


「熱はなかった」


「でも学校行けそう?」


「…ううん。気持ち悪い」


「じゃあ学校休む?」


「うん」


 滅多めったに学校を休むことがない私だからか、母は私の調子が悪いとすぐに学校に行かなくてもいいと言ってくれる。それが、何よりも救いだった。


 朝ご飯は半分残してしまった。

 学校に欠席の電話をいれる声が聞こえ、心が軽くなった。


「寝てくる?」


 軽く頷いて、ゆっくりとベッドに向かう。いつもなら眠気に倒れそうになるのに、こういう時に限って眠たくない。

 そう言いつつ、ベッドにダイブして頭を枕にうずめると、瞼が重たくなった。

 暗闇の中目を閉じるが、頭だけはえていた。


 ___「一応、仲良くしてるけど…別にそんなに」___


 月晴つきはの言葉と一緒に、髪をほどく姿が脳裏に浮かぶ。

 今日偶然にも、具合が悪くなってよかった。学校に行っても、教室に入った途端に吐き気が込み上げてくるかもしれない。呼吸を忘れてしまうくらいに、緊張感で押し潰されるかもしれない。そんな嫌な未来が想像できてしまって、学校に行くことがとても怖い。


 学校を休んで、よかった。


 いや。もしかしたら、今この瞬間、七夏ななか月晴つきはたちは私が学校に行かないことを喜んでいるのではないか?ウザイ奴がいなくてラッキーなどと思っているかもしれない。

 ……そんなの。そんなの、絶対に嫌だ。私は学校を休んで勉強に遅れがでるのに、あいつらは普通に授業を受けて私が学校を休んでいることに喜ぶのだ。

 学校を休んでよかった?違う、そんなの全くよくない。


「明日は、学校に行こう」


 私はゆっくりと目を閉じた。

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