第8話「伝えたかった思い」

 放課の時間。

 月晴つきは七夏ななかが少し離れた所で話をしている。今、一番居て欲しくないコンビだ。

 七夏ななかの視線がちらちらと、わざとらしく私に向く。

 何も見えないように目を閉じてしまえばよかった、何も聞こえないように耳を塞いでしまえばよかった。なのに私には、それができなかった。


「だって、嫌なんだもん」


 私と月晴つきはの目が合う。

 途端とたん、彼女はそう言って私とよく似た髪をゆっくりとほどいた。


「仲良いんじゃないの?」


 七夏ななかの問いかけに、軽く首をかたむけて


「一応、仲良くしてるけど…別にそんなに」


 と彼女は言った。

 その言葉がずっとこだまして、脳内をぐるぐると回る。

 私は椅子の背を引き、ゆっくりと腰を下ろした。

 赤くなる目尻に力を込めて、唇を噛んだ。

 ここで泣いてしまったら、そこで負けてしまう気がしたから。



 帰り道。

 そこには昨日会ったばかりの少女がいた。


「どうかしたの?」


 眉を寄せ、心配したように聞いてくるのは、何故だろう。


「…ううん、なんでもない。」


 一度開きかけた口を、閉じてしまったのは何故だろう。


「ごめん、私今日は帰るね」


 赤らむ双眸そうぼうを見られないように、私はあおに背を向けた。


 本当は、わかっていた。段々と変わっていく彼女の目が、態度が、私から距離を取ろうとすることを。

 でも、認めたくなかった。

 私のすきな所を話してくれた彼女に、今度は私が「そうやって、人のいい所を見つけて伝えてくれるとこがすごいと思う」って、伝えるつもりだった。

「ありがとう」

 って、心の底からの感謝を言いたかった。


「ふぅ、うっ……」


 溢れ出る涙は、止めどなく私の頬を濡らした。

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