第7話「本物のクズ」

 教室にはすで月晴つきはと、七夏ななかといつも一緒にいる人が席に座っていた。

 月晴つきはと目が合った。その時、月晴つきはは少し怪訝けげんな顔をしたように見えた。

 気づいていないフリをして、私は自分の席で荷物を下ろした。


 準備が終わって一段落着くと、七夏ななかの取り巻きみたいなやつが駆け足でドアに近づいて行った。嫌な予感がして、ゆっくりそちらに顔を向ける…


「はっ」


 七夏ななかの目が私を捕らえた。素早く顔を背けたが、もう遅かった。教室の後ろでは、七夏ななかが手を叩いて笑っていた。


「うわーきっしょ!朝から身震いさせんなって」


 その言葉がすべて自分に向けられていることを、私は痛いほど感じた。私の方が身震いをして、今すぐ逃げ出してしまいたい。

 血の流れが止まったみたいに手が冷たくなって、それをまぎらわすために私は本を開いた。けれどそんなものは逆効果で、内容は全く頭に入ってこない。ずっと同じ文を繰り返し読んで、それを持つ手は小刻みに震えていた。


 小学校のときも、悪口陰口はよくあった。そんなことでしか話す方法を見つけられないなんて、本当につまらない人たちだなと多々思う。けれど私の学校は、それを相手にバレないようにしていた。嫌いな子にも周りの子と変わらず作り笑いを浮かべ、本人がいないところでコソコソと小声で悪口を叩く。それが日常茶飯事にちじょうさはんじだった。…だから、知らなかった。本人の前でこんなに堂々と悪口が披露されるだなんて。名前など口にしない。なのにそれが誰かをわからせるような言い方で、わざと聞こえるように言うのだ。

 それが、本物のクズがやることなのだ。

 そんなの、知らなかった。知りたくもなかった……。

 どうしようもない寒気が、私の鼓動を速めて止めなかった。

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