第6話「あの子」

「うっわ、前髪伸びたなー」


 私は、洗面台の鏡を覗きながら目にかかる髪を指先でいじった。切りたいけれど、そんな時間の余裕は無いし、かと言ってそのままでも邪魔で仕方がない。

 悩んだ末、私は前髪をくくり頭頂部でピンを留めることにした。

 滅多にしない髪型に、少し気分が上がるような気もした。けれど、鏡に映る私はに似ていた。


 ___「私、遥香はるかと気が合うんだよね!」


 嬉しそうにそう言う月晴つきはの顔が浮かんだ。

 月晴つきはとは、今の席になる前、同じ班になり意気投合した。授業中や休み時間も一緒に行動するようになり、一緒に遊びに行ったし、月晴つきはの家にもお邪魔させてもらった。


遥香はるかって、皆の前で堂々としゃべれて、そういうとこ本当に凄いと思う」


 向かい合いながら座って、私の目を真っ直ぐに見つめながら言われたことが恥ずかしくて


「あ、ありがとう」


 なんて、つまらない返事しか出来なかった。___


「うわっ、臭」


 田んぼ道の嫌なところは、雨上がりだと異臭がただようことだ。

 しかしそんな雨も、今は嫌いじゃないと思えるのは、昨日の出来事があったからだろう。


「……あれ」


 ふと頭にかすめたことで足が止まった。

(席が離れて、私が七夏ななかから敵視されるようになって……あれ、そういえば最近一緒に話すことってあったっけ…?)

 そんな、じわじわとふくれる疑問は、雨上がりの土と草の臭いのようにベタついて心の内に付着していた。

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