第5話「私たちのBGM」

「踏切…?」


「そう、踏切」


 首を傾げる私に、あおは元気よく答えた。


「何故に踏切?」


 頭に浮かぶのは謎ばかりで、眉間にしわが寄る。


「雨の中の踏切って、なんかエモくない?」


 いや、こういうのは空がスパーンと晴れている方が電車が映えていいのでは…という言葉はあおの笑顔で呑み込んだ。


 後方を振り返ると、人一人しか通れないような道を、生い茂る緑たちが囲んでいた。近隣の人ならばきっと目もくれないような場所だけれど、そこがまた秘密基地の様なおもむきを感じる。


「あっ、あおちゃん!」


 勢いよく駆け出したあおは、線路の上に仁王立ちになった。


「はるはるもおいで!」


 躊躇ためらっている私の腕を強引に引き、私たちは線路の上に立った。どこまでも続くレールが、目の届かない所まで伸びている。


「おっ、やば」


 警笛が鳴り響き、急いで線路の外に出る。

 胸の奥に響く重たい音をだして、電車が通り過ぎて行った。


「このまま電車に乗ってどっか行っちゃう?」


 あお悪戯いたずらに目を細める。


「私、一応学校抜け出してるんですけど」


「あっ、そうだった」


 電車が起こす風で大きく揺れた髪に、水しぶきが舞う。警笛の音と雨が傘を跳ねるが重なり、私たちをまとうBGMのようだった。


 学校を抜け出して来てしまったことへの罪悪感なんかより、ずっとこの時間が続けばいいのになんて思ってしまった。

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