第4話「雨の中の踏切」

 雨の中で着る制服は、いつも以上に重たく湿気と共にまとわりついてきた。

 足に飛び散る五月上旬の雨粒が冷たくて、鬱陶うっとうしい。

 そんな中、目の前の少女は楽しそうにあゆみを進めていた。


「はるはるは、雨嫌いなの?」


 歩くスピードを遅めてあおはそう尋ねてきた。


「嫌いに決まってるよ」


「なんで?」


 あおとぼけたように首を傾げた。そんなの、当たり前じゃないか。


「だって、べとべとするし、空気重いし、靴下濡れるし気分 へこむし。そもそもやる気が出ない。晴れてると、頑張ろーって思えても、曇ってると頑張る気になれない。…空が曇ると心も曇るみたいで」


「へー」


 熱弁する私に返ってきたのは、なんとも素朴そぼくな返事だった。


「そういうあおちゃんは、雨が好きなの?」


 嫌気が差して少し強い口調でくと、あおは満面の笑みで頷いた。


「だからいいじゃん」


「え?」


「急かさないから、いいんだよ。ゆっくりでいいよって言われてるみたいじゃない?」


「そう、かな…」


 そんなの、考えたことも無かった。

 確かに私の考察があるのなら、逆の感じ方だって存在するのだ。


「雨はね、時空をゆがませる。時の流れをゆっくりにするんだよ」


「それって__」


「それにさ、見て!」


 詳しく聞こうとしたら、水溜まりの前でしゃがむあおさえぎられた。


「私、水が跳ねるのを見るのが好きなの」


 スカートを片手で押さえながら、私もあおの隣にしゃがみ込んだ。

 水溜まりには、一瞬で消えてしまう小さな波紋はもんが絶えずつくられていた。


「よいしょ」


 スカートをふわりと広げながら立ち上がるあおを見上げ、大事なことを思い出した。


「ねえあおちゃん、そういえば目的地って」


「ここだよ」


 あおが真っ直ぐ指さしたのは、


「踏切…?」


 踏切だった。

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