4. 異世界ほのぼの日記2 116~120


-116 屋台が繋いだ友情-


 熱感知センサーを搭載した新型小型カメラのサンプルを見たダンラルタ国王は、カメラをじっくりと見た後に質問した。


デカルト「これって、住民の方々にも感知してしまいますよね?」

光明「王宮や冒険者ギルド、そして商人兼商業者ギルドに顔写真付きでの住民票データの登録がある方々は熱感知しても非常アラートが鳴らない仕様になっています。また国王様にもご協力をお願いすると思われますが、登録ができていない方々でも安心して新しくご登録して頂けるシステムを当社で作成しています。登録がされていない方々が熱感知されると王宮にある監視室でアラームが鳴るようになりますが、特に犯人からの警戒を避ける為にカメラは何も反応していない様に見える形を取っています。また、そこら中にカメラがあると住民の方々に安心してお過ごし頂けませんので可能な限り本体等を小さくして現在の物みたいに隠す様にする予定です。」

デカルト「それは頼もしい、すぐに作業に取り掛かって下さい!!予算は全額王宮から出させて頂きます、この国をお救い下さい!!」


 国王は涙ながらに結愛と光明に握手を求めた、2人は確信を持ってデカルトに応えた。

 それと同刻、国王の自室から数部屋離れた大臣室に1本の電話が入った。


ロラーシュ「もしもし、大臣室ですが?」

男性(電話)「おお、繋がった繋がった!!ロラちゃん、わいやわい!!ブロキントや!!」

ロラーシュ「ブロちゃん、そんな慌ててどうした?」


 ロラーシュ大臣とミスリル鉱石の採掘場のリーダーであるゴブリン・キングのブロキントは、大臣の「つまみ食い事件」をきっかけに一緒に呑み程の仲になっていた。

 突然の事だが時は数年ほど前に遡る、ロラーシュが「つまみ食い事件」を起こしデカルトと共に採掘場のゴブリン達に謝罪してからしばらく経った暑い日の夕方の事だった。

 半年の減俸と長い有給休暇を終えたロラーシュは個人的に謝罪へと向かった、本人曰く多大な迷惑を掛けた自分が本当に許せなかったという。現在はナルリス特製の「あのハンバーグ」とごくたまに貰っている端材を食べているので何とか我慢出来ている様だ。

 さて話を戻そう、謝罪を終えその場を後にしようとした大臣をブロキントが引き止めて言った言葉がロラーシュにはとても嬉しく、心に響いたという。


ブロキント(回想)「大臣はん、わいはずっとこの採掘場で働くゴブリンやから王政の事は正直分かりまへん。ただ誰だって腹は減ります、食いたい時食うて呑みたい時呑んだら自然と皆笑顔なって案外うまい事行くんですわ。わい実は今がそのタイミングなんです、よかったら今から一緒に呑みまへんか?今日多分そろそろかな・・・、美味い店が来ると思いますんで。」

ロラーシュ(回想)「店が来る・・・?まぁ、良いか。リーダーさんが宜しければ、私ご馳走します!!」

ブロキント(回想)「流石大臣はん、分かってはるわ。」


 大臣から期待通りの言葉を聞いたゴブリン・キングはロラーシュを駐車場へと案内した、端っこに数卓のテーブルや椅子を並べた軽バンが止まっている。バンの上にある看板やボディには「「拉麵と酒 暴徒」」と書かれていた、ブロキントが暖簾をくぐりながら互いに人化して大臣を中のカウンター席へと案内する。


ロラーシュ(回想)「店って・・・、屋台ですか?」

ブロキント(回想)「初めてでっか、美味いんでっせ。おっちゃん、この人この国の大臣はんや!!美味い酒と料理頼むで!!」


 すると中から少しムッとした声色で店員が応えた。


店員(回想)「あんたね、うちはいつでも美味い物しか出していないだろ。それに私みたいな美女を捕まえて「おっちゃん」とは失礼しちゃうね!!」

ブロキント(回想)「渚さん、冗談ですやんか。堪忍堪忍!!」

渚(回想)「もう・・・、次言ったら本気で殴るからね。ほら大臣さんも、そんなとこに突っ立って無いで入って来な。」


 レンカルドが中に入ると渚がジョッキに生ビールを注ぎ、肴を数品出していた。


レンカルド(回想)「何て綺麗な方だ、こんな方の料理は絶対美味いだろうな・・・。」

渚(回想)「あら、分かっているじゃないか。こりゃ腕によりをかけて作らなきゃね、嬉しいから1杯サービスしちゃうよ。安心して、この馬鹿なゴブリンにつけとくから。」


 暫くして、酒が入った2人は大笑いしながら呑んでいた。もう立派な呑み友達だ。


レンカルド(回想)「お姉さん、この焼きそば美味いね!!」

ブロキント(回想)「やろ?材料にええもん使うてんねん。」

渚(回想)「馬鹿ゴブリン、私はど下手ってかい!!」


-117 採掘場の現状-


 大臣が昔懐かしき頃を回想していた事を電話越しに察したのか、電話の相手であるゴブリン・キングは慌てて何とか現実に引き戻そうとした。


ブロキント(電話)「ロラちゃん、ロラちゃん!!船漕いどんとちゃうか?いややわ、しっかりしてや、あんた仕事中やで?」

ロラーシュ「悪い・・・、何の話だったかな。」


 少なくとも昔を懐かしもうとして電話した訳ではない採掘場のリーダーは慌てた様子で改めて要件を説明した。


ブロキント(電話)「いややわ、堪忍してや。だからな、最近採掘量と在庫が全く合わんねん。この国で採掘と出荷の許可もろとるんは、ウチのグループくらいやろ?」

ロラーシュ「そうだな、確かに公式に許可しているのはブロちゃんの所位だな。」


 ここ数年間でミスリル鉱山採掘における法律が厳しくなり、必ず許可証を持ったリーダーが管理した上で作業をしなければ違反となってしまう。近年、自分勝手にミスリル鉱石を採掘している連中が横行していたために王宮含めた政府公認の採掘量が過激に減少していたので規制が掛かる様になったのだという。


ブロキント(電話)「それでな、採掘場の辺りを皆で見回ったら身に覚えのない洞穴が開いとってな、こっそり覗いてみたら数人の人間がわいらが前日掘った不足分を夕方過ぎに独り占めしとるらしくてな。ほんで隠しカメラを仕掛けてみたら頭っぽい連中が夜中に車で持ち出しとるみたいでな、よくみてみたら同じ車に麻袋が何個も積まれてんねん。あいつら他にやっとんちゃうか?ミスリルに至っては普段は翌朝に在庫を確認するんやけど、今回は掘った直後に在庫を確認したから間違いないわ!!」

ロラーシュ「確かに最近、お前の所からの出荷量が不自然に減っているのは確かだ。早速国王に報告しよう、調査の必要がありそうだ。良かったら、ブロちゃんも証人として同行してくれるか?」

ブロキント(電話)「勿論や、採掘場の皆で協力するわ!!」


 電話を切ってすぐ、大臣は採掘場の1件をデカルトへと報告した。


デカルト「そうですか・・・、そんな事が。深夜の行動に麻袋・・・、何か関連性がありそうですね。明日早速採掘場に参りましょう、王として困っている方々を見過ごす訳には参りません。」


 翌日、早速国王達一行はブロキントの案内で採掘場に不自然にぽっかりと開いた洞穴へと向かった。


ブロキント「ここですわ、えんらい大きいでっしゃろ?」

デカルト「そうですね・・・、この洞穴があるのはいつからですか?」

ブロキント「わいらが見つけたんは大体5日前です、最初の方は音沙汰が無かったから放っとったんですけど。」

デカルト「そうですか・・・、仕掛けてある隠しカメラを見せて頂けますか?」


 ブロキントは洞穴の向かいに仕掛けてあった隠しカメラへと案内した、植木鉢等で上手く隠している。


デカルト「これですか、ちょっと失礼・・・。」


 デカルトはある所に電話をし始めた。


デカルト「うん、そうですか。助かります、早速お願いします。」


 電話を切った瞬間、スーツを着た光明が『瞬間移動』してきた。どうやら新型のカメラに付け替えようとしているらしい。


デカルト「このカメラの映像だけで構いませんので、この採掘場の事務所から映像を見える様にできますか?」

光明「やってみましょう。」

ブロキント「国王はん、この方は?」

デカルト「こちらの方は・・・。」


 光明はデカルトの言葉を遮ってかました。


光明「国王の友人であるただの機械オタクですよ。」

ブロキント「ほな機械に強い人なんやね。」


 何となく光明は社名を出して目立ちたくなかったらしい。


-118 作戦への布石-


 監視カメラを取り換えてから、国王達は犯人グループを泳がせてみる事にした、そうでないとどうして今回の犯罪に至ったか等を含めて目的を知る事が出来ないからだ。

 通常通りの夕方5:00、リーダーの号令で採掘場の1日が終わる。


ブロキント「そろそろ終わろか、皆お疲れさん!!」


 犯人グループに怪しまれない様に速やかにその場を去るゴブリン達、因みに全員被害者が故に事情を把握していて国王達に協力的だ。

 しっかりと「報告・連絡・相談」が出来る様にデカルトとブロキントに光明が『念話』と『瞬間移動』を『付与』していた、これで何があってもすぐに対応できる。

 ただ光明には過去に嫌な思い出があった、「暴徒の鱗」で酒に酔った妻の結愛に土下座させられた記憶がある。


結愛(回想)「光明、まだネクロマンサーでもないお前が偉そうに『付与』を使ってんじゃねえよ。」

光明「あの時の結愛は酔ってたんだ、きっと本人も忘れているだろう。俺も忘れよう。」


 そう思いながら光明は作戦に最善の協力をした、実は今日のゴブリン達の行動も作戦の1つでもある。


ブロキント(念話)「国王はん、光明はん。これでいけまっか?」

光明(念話)「もう「採掘場」の中に所属のゴブリンさんは誰も?」

ブロキント(念話)「わいが知ってる限りは全員いてまへん、タイムカード打刻の後にちゃんと「〇(サイン)」してもらいましたんで。」


 採掘場で普段は、朝一と退勤時にタイムカードを打刻した後で決められている用紙の名簿に書かれている「出勤・退勤」の後に直筆でサインをして貰う様にしているのだが、「もしも偽者が紛れていたら」と考えた光明の提案でその場にて働く本物のゴブリン達に協力を仰いで暫くの間は退勤時には別紙に「〇」を書いてもらう様にしていたのだ、因みにブロキントが気を利かせてこの伝言は本物のゴブリンにしか分からない言語で伝えたという。


光明(念話)「助かります、これで様子を見てみましょう。」

デカルト(念話)「これで犯人が捕まりますね。」

光明(念話)「いや、そうとは限りませんよ。我々はカメラで顔を確認した訳ではありません、もしかしたら覆面をしている可能性があります。」

デカルト(念話)「確かに、そうかも知れませんね。」


 暫くすると、例の洞穴から覆面をした数人の人影が現れてまっすぐにこの日採掘されたミスリル鉱石の集積場に向かっていた。因みに今日のミスリル鉱石はデカルトが囮として使うために全て買い取ったという。


ブロキント(念話)「国王はん、ホンマにええんでっか?わいらは助かりますけど結構な高額でっせ。」

デカルト(念話)「なぁに、国民を守るためなら安い物ですよ。」

ブロキント(念話)「ホンマ、おおきにです!!」

デカルト(念話)「いえいえ、捜査にご協力頂いてますので感謝しないといけないのは私です。」


 そんな会話を交わしている内に、覆面の集団が大量のミスリル鉱石を台車に乗せて洞穴へと運んで行った。それから数十分後、以前見た麻袋を積んだ車が現れて洞穴の中で覆面をした集団がミスリル鉱石を積み込んで去って行った。

 本人達にとっては一定量らしいが、相当な量の鉱石を積み込んだ後に車は何処かへと去って行った。何処からどう見ても彼らが犯人に違いない、国王はすぐそばにいたプニ警部に合図を出して作戦を実行に移した。


デカルト「警部さん、やりますか・・・。(念話)光明さん、よろしくお願いします。」


 そう言うと国王は光明と同時に採掘場に『瞬間移動』した、例の洞穴の出入口付近でブロキントの指示で帰った「フリをした」ゴブリン達がバリケードを張っている。

 プニは同時進行で犯人グループの車を追った、翼を持つレイブンなので誰よりも適任だとデカルトが任命したのだ。

 犯人達に悟られぬ様、ブロキント達には数日前から仕事中はゴブリン言語で話す様に国王が指示をしていた。ただ光明は『自動翻訳』があるので理解できるので会話が可能だ。


ゴブリン(ゴブリン語)「光明はん、大丈夫そうでっか?」

光明「(ゴブリン語)ありがとうございます、助かりました。(共通語)王様、参りましょうか。」

デカルト「はい、やつらを一網打尽にしてやりましょう。」

ゴブリン(共通語)「2人共、頼んます!!」


-119 2名の協力者-


 先程まで辺りを照らしていた夕日が完全に沈み、国中を夜の暗闇が包んでいる午後7:00の事だった。鳥獣人族であるレイブンのプニ警部は空から車のテールランプを追いかけていた、真っ黒の制服により本人の姿は夜に完全に溶け込んでいる。

 犯人グループに気付かれぬ様に可能な限り翼の音を殺して飛ぶようにしていた、車が向かう先にいるかと思われる犯人グループの親玉を逮捕する為だ。


プニ「チッ・・・、意外と速いぜ・・・。」


 本人にとっての最高速度とも言える速さで必死に追いかけているが、車はレースコースの1部となっている山道のコーナーをドリフトで攻めながら進んでいるので思った以上に速い。

 車は王宮や警察署、そして採掘場からどんどん離れていく。車の向かう方向を察した警部は電話をこっそり取り出し、電話を掛けた。


プニ「もしもし・・・、今大丈夫か?」


 電話の相手はプニの言葉に快く了承し、プニは少しほくそ笑んだ。

 ほぼ同刻、山道の途中の広場で「暴徒の鱗」の屋台を展開していた渚は次の場所へと移るために片づけを始めていた。


渚「よっこいしょっと、これで荷物は全部だね。」


 渚が軽バンに乗り込もうとした瞬間、覆面をした数人の怪しい者たちと大きな麻袋を乗せた車が猛スピードで通り過ぎた。


渚「あんな車で攻めるなんて危ないね、私ぐらいじゃないと追いつかないんじゃないかい?」


密かに顔をにやけつかせる渚のほぼ真上の上空では常連客であるプニ警部が必死に、そして気付かれない様にその車を追いかけている。

 渚は咄嗟にプニに『念話』を『付与』して話しかけた。


渚(念話)「警部さんじゃないか、険しい顔してどうしたい?」

プニ(念話)「何だこれは、これが噂の『念話』ってやつか?こんな時に誰だよ・・・、渚さんか!!あいつら重罪人で今追っかけてんだよ、また今度店行くわな!!」

渚(念話)「待ちな、そんな事ならあたしに任せんかい。」

プニ(念話)「そんな軽バンでどうすんだよ・・・。」


 渚は『アイテムボックス』からかなりいじってすっかり見た目が変わり果ててしまったエボⅢを取り出し、エンジンをふかし始めた。そう、「赤鬼」の復活だ。


プニ(念話)「嘘だろ、かっけぇ・・・。」

渚(念話)「ちょっとここに屋台置いとくよ。あたいがこれで追いかけてやるから、あんたは別方向からこっそり追いな!!」


 そう言うと勢いよくギアをセカンドに入れ飛び出した、流れる様なテールランプを見てレイブンは唖然としていた。

 犯人グループの車までの差は約300メートル、渚は久々のドッグファイトにワクワクしている様だ。

 数分もしない間に犯人グループの車に追いついた、渚に気付いた前の車は少し焦っている様だ。


渚「うん・・・、確かに腕は悪くないけどコーナーからの立ち上がりは光の方が格段に上だね。」


 渚は余裕らしく、ずっと一定の距離を保ちながら追いかけた。それを見てプニは先程と同じ番号に再び電話した。


プニ「そっちのいる方向に向かった、今屋台の渚さんが後ろに。挟み撃ちにするぞ。」


 どうやら電話の相手は警察の関係者らしい。


相手(電話)「待て、やはり奴らが止まった所で捕まえるのが一番だ。心当たりがあるからこっちに向かってくれ。」


 渚に追いかけられつつ、犯人グループの車は目的地に近付いたのかどんどんと減速していった。山の入り口近くの川のほとりに大きな洞窟があり、その中へと入って行った。

 少し離れた所にいた渚は洞窟の出入口を塞ぐようにエボⅢを止めた、犯人グループの車は奥へと走って行ったのでエンジン音も聞こえなくなっている様だ。プニも静かに着陸する、そしてもう1人の鳥獣人族らしき者も同様に着陸した。


-120 潜入開始-


 犯人グループの車が入って行った洞窟の入り口で渚にはどうしても気になる事が1点、ただ目の前にいる2人の鳥獣人族は何食わぬ表情を見せている。


渚「何でここに王宮の軍人さんがいるんだい?」

プニ「王宮と警察が連携しているから当然の事だろ、どっちかと言えば渚さんがここにいる事の方が不自然だぜ。」


 確かに渚はこの世界では「ただの拉麵屋台の店主」、しかし今日を境に「(走り屋)」と言う言葉が追加された様だが。


渚「もしかしてさっきからあんたが電話していたのはこの人だったのかい?確かこの人もうちの常連さんだったね。」


 王国軍、それも軍隊長の制服を着た鳥獣人族は汗を拭いながら丁寧に話した。


軍人「いつもお世話になってます、昔から性格の悪い妹といつも呑み明かしてすみません。」

プニ「一言余計だぞ、ムカリト兄。」

渚「あんたら兄妹だったのかい、驚くほど全く似てないねぇ・・・。」

ムカリト「何処にいても相変わらずですね、女将さん。」

渚「「お姉さん」だろ、どうやらあんたには教育が必要らしいね。」


 プニとは種族が違うが同じ上級の鳥獣人族であるバルタンの兄、ムカリトは妹からの強めの肘鉄と渚からのビンタを喰らい痛がっていた。

 一先ず3人は暗い洞窟に潜入を試みる、足音等がしない様に静かに行動した。先程入って行った犯人グループの車のテールランプやヘッドライトらしき光は全くもって見えない。

 奥へと歩を進めていくと洞窟の道は二手に分かれていた、王国軍の軍隊長は1人で、そして渚と警部は2人で奥へと進んでいく。

 さり気なく渚がムカリトに『念話』を『付与』する、これで何があっても安心なのだがバルタンは気付いていないようだ。


ムカリト「あの・・・、どうされました?」

渚「いや、気にしないでおくれ。早く車を探しに行こう。」


 歩を進めていくが未だに先程の怪しい車は見えない、「車」という言葉を聞いたプニは不意にとある事を考えた。今思えば洞窟の出入口を渚のエボⅢが塞いでいる、犯人グループを逃がさない様にとの配慮らしいが。


プニ「渚さん・・・、車壊されねぇかな・・・。」

渚「大丈夫大丈夫、あいつ『加護』付きだから。」


 実は少し前に「一柱の神」セリー・ラルーに「辛辛焼きそば」の作り方を教えた事があったのだが、そのお礼にと渚自身とエボⅢに各々『加護』を付けてくれていたのだ。多分「交通安全祈願として」だと思われるが渚は気にしていなかった、というより以前『加護』を付けて貰っていたような気がするが普段ステータス画面を見ないのでその事も既に忘れている。


プニ「車に『加護』って付くんだ・・・。」


 初めて聞いた真実に驚きを隠せないプニ、一先ず奥までの歩を進めていくと先程別れた兄と合流した。どうやら二手に分かれていたのは1部分だけだったらしい。

 そんな中、3人は洞窟の奥にある開けた広場らしき場所へと辿り着いた。犯人グループの車やプレハブの建物がライトで照らされている。

 3人は息を潜めて岩陰に隠れた。


ムカリト「あそこらしいですね・・・。」

プニ「どうするよ、ムカリト兄。」


 犯人グループは全員プレハブの中にいるらしく、3人に気付いていない。


渚「逮捕するにしろ、まず証拠を掴まないとじゃないかい?そう言えばあいつらは何をしたんだい?」

ムカリト「えっ、何も知らずについて来たんですか?」


 偶然とはいえ、ついつい勢いで愛車を取り出して事件の捜査に協力し始めた渚と違い、鳥獣人族の兄妹は先程の電話も含めて普段から情報交換をしているので、軍隊長は犯人達が下級魔獣やミスリル鉱石の入った麻袋を運んでいる事を知っていた。


渚「まぁ、あんたらが知っているんだろ?なら大丈夫だ。」

プニ「相も変わらず気楽だなぁ・・・。」

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