4. 異世界ほのぼの日記2 96~100番外編
-96 放置された酔っ払い-
パートのエルフ達やケデール、そして守の賄いを作る小さな厨房で今夜の夕飯を兼ねたハヤシライスの準備を始めた御厨。その隣で元アーク・ジェネラルの一言ひとことを必死にメモするエプロン姿の古龍がいる。その光景を見た光は少しほっこりとした気分になっていた、「一柱の神」であるトゥーチも一人の少女なんだと何となく微笑ましくなっていた。
一方その頃、好美は何か忘れているように思えた。そう言えば1人いない様な・・・。そう思っていた好美と光の所に肉屋の店主が近づいて来た、右手には電話の子機が。光が未だに家電を使う人がいるんだと感心していたその時。
ケデール「光さんすみません・・・、私の兄から電話なのですが。」
光「私にですか?もしもし?」
ヤンチ(電話)「もしもし、光さん良かった!!渚さんをうちの店に忘れていませんか?」
そう、3人は焼き肉屋に渚を置きっぱなしにして肉屋に来ていたのだ。ほったらかしにされた本人はやけくそになりランチタイムなのにも関わらず高級焼肉を肴に1人昼呑みしていた、ヤンチが言うにはかなり出来上がっているらしい。
ヤンチ(電話)「私自身は儲かるので良いのですが、お代は光さんから受け取る様にとの一点張りでして。それに本人帰る方法あるんですかね、かなり赤くなってますよ。」
「暴徒の鱗」の屋台は今日は1号車のみの営業なので別に問題ないのだが、本人自身かなり酔っていて『瞬間移動』も使えない位にへろへろになっており下手すれば焼き肉屋に迷惑を掛けかねない。
光「因みに今母の食事代っておいくらになっているんですか?」
ヤンチ(電話)「少々お待ちくださいね。今ですね、えっと・・・。」
光は恐る恐る聞いてみた、電話の向こうでヤンチが途轍もなく長い伝票を見ているのが音だけで伺えた。
ヤンチ(電話)「恐れ入ります、お1人で37万6200円ですね・・・。」
光「え?嘘でしょ?」
ヤンチが言うには店で一番高額な「黒毛和牛ロースの焼きしゃぶ」を1頭分食べ、水の様に生ビールをがぶがぶと呑んだ結果だそうだ。光やガルナスが大食いなのは渚譲りだったのだろうか。
光が1人ドン引きしていると、電話の向こうで遠くからとても嫌な言葉が。
渚(電話)「ヤンチさぁ~ん、焼きしゃぶ追加~。後ビールね。」
光「げっ!!」
これは早く迎えに行かなければとんでもない大騒動になってしまう、『瞬間移動』で迎えに行っても良いが好美は免許を持っていないので軽バンはどうしよう。
一先ず電話を切ってケデールに駐車場で車を預かって貰う様に一言。
光「すみません、すぐに戻りますので。」
ケデール「大変ですね、私の方は全然大丈夫ですよ。」
『瞬間移動』でヤンチの店に向かった光は、中央のテーブルで1人お楽しみの渚を発見した。積まれたジョッキと大皿の量が色々と物語っている。
光「お母さん、どんだけ呑んでんの!!」
ヤンチ「ははは・・・、どうやら私達が別の部屋で話していた頃からお楽しみだった様で。」
渚「光ぃ~、あんたも加わりなさ~い。」
光「馬鹿な事言ってないで帰るよ、それに何で私が代金払わなきゃいけないの。」
渚「良いじゃないか、あんた金持ちなんだからさ。」
光「何言ってんの、後で返しなさいよね。ヤンチさんおいくらですか?」
ヤンチは改めて伝票を取りに行った、数秒後・・・。
ヤンチ「えっとですね・・・、48万9800円ですね・・・。」
光「お母さん、あれから数秒の間に何食べたらそんなに高くなるの!!」
どうやら焼きしゃぶの間に牛タンやカルビ等も注文していて代金が跳ね上がったそうだ、酒もビールだけではなく焼酎やワインにまさかの古酒(クースー)まで呑んでいる。
ワインに至っては「ロートシルト」をグラスで何杯も呑んでいるのでこの代金になっているのも納得がいった、光は渋々代金を立て替えた。
ヤンチ「ありがとうございます、何かお手伝いしましょうか。」
光「いや大丈夫です、家ですぐベッドに放り込みますので。失礼します。」
-97 涙と共に-
焼肉屋の代金を立て替えた光は渚の肩を持って母の部屋に『瞬間移動』し、ベッドに渚を宣言通りに放り込み再び『瞬間移動』して肉屋に戻った。
賄い用の厨房では御厨によるハヤシライス作りが佳境に差し掛かっていた、甘く良い香りが漂ってくる。
傍らでは白飯を炊いているらしく、炊飯器からも良い香りがしていた。たっぷり用意しているみたいだが、もしも光が食べるとなると御厨の夕飯どころか肉屋で働く従業員達の賄い分も無くなってしまう。
そこを通過し、奥の豚舎へと戻ろうとする光を店主のケデールが引き止めた。
光「な、何ですか?」
ケデール「実は先程なんですがね、豚舎ですごく居づらい雰囲気になっちゃいましてね。どうやらあの元恋人同士、2人きりで話し合いたかったみたいですよ。」
お互いにまだ未練があるのだろうか、奥の豚舎で好美と守は良い雰囲気になっている模様だった。ゆっくりと語り合ってもらおうと気を利かせたケデールはこっそりその場を離れて光の帰りを待っていたらしい。
2人が足音がしない様にこっそりと豚舎に近付くと、好美と守は互いに涙を流しながら抱き合っていた。
店先で待っていようと思った光はケデールに小声で話しかけた。
光「ケデールさん、今夜豚の生姜焼きと焼きビーフンにしようと思っているのですが頂いても宜しいですか?」
ケデール「かしこまりました、おまけさせて頂きますね。では、こちらへどうぞ。」
店主の案内で店先に移動しようとする光、その時2人の耳に元恋人同士の会話が。
好美「寂しかった・・・、こっちの世界に来た瞬間一生守に会えないかと思った。大学を卒業した時に別れた後からも頭から守の事が一切離れなくて・・・。」
大粒の涙を流す好美、その涙を持っていたハンカチで拭いながら守が返事をした。
守「好美もだったんだな、寂しかったのが俺だけじゃなくて本当に良かった。」
好美「ねぇ、守。私達、どうしたらいい?どうするべきだと思う?このまま寂しいままこの世界で生きるべきだと思う?」
守「分かるかよ、でも答えは1つかも知れねぇな・・・。」
守は元彼女の腰に優しく手を回し唇を近づけた、好美も元彼に応える様に唇を重ねた。数十秒の間ずっと唇を重ねていた2人は互いにゆっくりと離れ結論を出した。
守「俺から言わせて欲しい、やり直させて下さい。」
好美はまた大粒の涙を流し始め、ぐずりながらも守の言葉に答えた。
好美「勿論・・・、喜んで。」
陰で会話をずっと聞いてしまっていた2人はもらい泣きし、静かに店先に歩いて行った。
ケデール「何となく良い話を聞きましたね、こんなに泣いたのは久方ぶりですよ。」
光「そうですね、これを肴に日本酒が呑めそうです。」
ケデール「光さんは相変わらずだなぁ。でも今日は車でしょう、ダメですよ。」
店主は手を少し震わせながら自ら光の注文した商品を用意した、宣言通り少しおまけして。ただ感動が冷めていないせいか、おまけの量が少しどころではなくなっている。焼きビーフンに至っては山盛りだ。
その間に光は軽バンを『瞬間移動』で自宅に戻し、再び店に戻った。これで安心して酒が呑めると思った。
ケデール「光さん、ここで呑むおつもりで?うちは飲食店ではないんですよ。」
光「いや、面倒くさくなったんで車を戻しただけですよ。」
ただ店に戻った光の顔は少し赤くなっていた、どうやら家で先程の出来事を肴に本当に軽く1杯引っ掛けて来たらしい。
そんな中、奥の豚舎でよりを戻した2人が店先に出て来た。どうやらまだ仕事が残っている守が好美を送って来たようだ、好美は光に気付くと嬉し涙を流しながら抱き着いた。
好美「光さん・・・。」
光「良かったじゃない、ほら今日はうちで呑みましょう。守君も一緒に来るよね。」
守「いや実はまだ・・・。」
ケデール「え?お前今日早番だからもう上がりだろ?早く帰れ、お疲れ様。」
-98 大きく宣言-
この日元々遅番勤務だったが、店主である狼男(ライカンスロープ)が空気を読んで気を利かせた事により早上がりする事になった守を連れて自宅へと『瞬間移動』しようとした光は、寸前である重大な事を思い出した。
好美を含めた3人を見送り店に戻ろうとした店主を光が引き止めた。
光「ケデールさん、すみません。」
ケデール「な・・・、何か他にありましたか?」
光「ヤンチさんに伝言をお願いしたいんです。」
ケデール「兄に・・・、ですか・・・別に構いませんが。」
光の伝言とは先程ヤンチが板長を務める焼き肉屋で渚が高級焼肉を馬鹿食いし、高い酒を水の様にガバガバと吞み干して光が代金を立て替えた時の領収書の宛名を「上様」ではなくはっきりと濃く「赤江 渚 様」と記入しておいて欲しいと伝えて欲しいという物だった。
ケデール「光さんも大変ですね。分かりました、お伝えいたしましょう。」
光「すみません、お手を煩わせて。」
ケデール「いえいえ、光さんにはいつも御贔屓にして頂いてますので。その代わり2人についての面白そうな話、お願いしますね。」
光「もう、人が悪いんだから。」
ケデール「お互い様でしょ、では道中お気をつけて。」
『瞬間移動』で飛んでいくので心配される程でもない、光は好美と守を連れて自宅へと向かった。冷蔵庫には既に肴や酒がパンパンに詰め込まれている、魔学校から帰宅したガルナスに「ご飯のお供」してそのまま出せば夕飯の準備も必要なさそうだ。
ただ、本人が不服を申し立て出したら困るので白飯は多めに炊いておくことにした。
白飯の準備を終えた光は冷蔵庫から缶ビールを取り出して2人に配ると、乾杯を促したのだが守はまだ勤務中だと断りだした。
一応の連絡用として光がケデールにこっそり『付与』しておいた『念話』で確認を取ると、有休扱いにしたから気にしない様にと笑っていた。
正直言うと、元々魔法使い以外使えないはずの『念話』をあらゆる種族が使える様になったような気がしてならない、この世界でかなり強力な魔力を持つ光達転生者の影響はかなり大きいらしい。
一先ず慣れない様子でケデールに改めて今日のシフトを確認する為に守が『念話』を飛ばした、どんだけ真面目なんだ。
守(念話)「店長・・・、俺今日遅番ですよね。今シフト表見ながら言ってますもん。」
ケデール(念話)「え?お前今日有休だろ、ゆっくりしてこいって。」
2人の『念話』を横から盗み聞きした光は、「遅(遅番)」と書かれた該当部分を「有(有給休暇)」のマークにこっそり『変化』させた。
守(念話)「あ・・・、あれ?」
ケデール(念話)「ほらね、だからゆっくりしてこいって。(守に聞こえない様に)光さん、恐れ入ります。」
光(念話)「(守に聞こえない様に)今度またまけて下さいね。」
ケデール(念話)「仕方ないですね・・・。」
『念話』が切れると光達は改めて乾杯する事にした、先程からずっと我慢していた好美は待ってましたと言わんばかりに酒を流し込んでいった。
光「まさか守君とこうやって呑む時が来るとはね、嬉しいよ。さて聞こうじゃない、貴方達豚舎で何をやっていたのかな(まぁ、知ってるけどね)。」
先程よりを戻したカップルはかなり照れている、あまり酒が進んでいないはずなのに顔が2人共赤い。
好美(小声)「あの・・・、えっと・・・。」
守(小声)「キス・・・、してた・・・。」
守は手に持っていた缶ビールを一気に煽り大声で叫んだ。
守(大声)「好美と・・・、キスしてたんだよ!!俺らよりを戻したの!!」
すると玄関の方向からドスドスと激しい足音が近づいて来た、どうやら魔学校から帰って来た娘のガルナスが大声に反応したらしい。ハーフ・ヴァンパイアは興奮した様子でいる、どうやら種族は違えど女子高生は恋愛話に目が無いらしい。
ガルナス「何なに、今「キス」って聞こえたけど!!」
-99 回想-
光が娘であるハーフ・ヴァンパイアにその場から離れる様に促したが、目の前の恋愛話にすっかり食らいついてしまっているガルナスはその場にへばり付く様に立っていた。
光「仕方ないね、まぁ、良いかな。さてと守君、酒の肴にご両人の馴れ初め話をお聞かせ願おうかね。」
守「光姉ちゃん・・・、そんな事別に良いだろ。」
光「おっと・・・、私に逆らうんだ。」
守「げっ!!」
椅子から守を無理矢理引きずりおろした光は、昔遊んだ頃の様にまた「プロレスごっこ」を始めた。守は相変わらずまんざらでもない様子だ。目の前でよりを戻したばかりの恋人が嫉妬している。
好美「何それ、守どういう事?!」
光「好美ちゃんもどうだい、私が許す。」
すると好美も加わってより強力なプロレス技が掛かりだした、流石の守でもニヤついている場合では無いらしい。
守「ギブギブギブ!!分かったよ!!」
光「「分かったよ」?何それ、「分かりました」でしょ!!」
守「分かりました、分かりました。言います、話します!!」
光「もう・・・、最初からそう言いなさいよ。」
守は新しく開けた缶ビールを煽るとそれを片手にゆっくりと語りだした。
時代は守と好美がまだ学生だった頃に遡る、2人は同じ大学だったが学科どころか学部が違っていた。ただ週に1度、金曜日に学部学科関係なく授業を受ける「共通教養」の授業があったので様々な学生が1つの教室に相まみえる事があった。
当時全くもって面識の無く、異なる都道府県出身だった2人。各々女の子同士と野郎だらけの友人グループに所属しのほほんとした毎日を受けていたのだが偶然ながら同じゼミを受けていた、教室の通路は階段状になっており守は好美の数段下に座っていた。各々の友人グループ同士で集まっていた2人は両人共に端の席に座っていた。
大学に入学する以前からつなぎ姿の好美はドジっ子であった、この日もドジを踏んだ好美は手を滑らせボールペンをデニム姿の守の座る席の真横に落としてしまった。
それだけだったら別に良かった、ただその時守も偶然手を滑らせボールペンを落としてしまっていた。
別にこの事にも問題はなかった、ただ2人が落としたボールペンが同じ種類で知らぬ間に互いの筆記用具を誤って持って帰ってしまった事にあった。
2人がいつもと違うボールペンを持って帰ってしまった事が発覚したのは先ず守の自宅であった、双方のボールペンは見た目は全く同じだったが触り心地に妙な違和感があった上に守の物はインクが切れかけていた。
自宅でゼミのレポートを書こうとしていた守が先に違和感に気付いた。
守(当時)「このボールペン、新しく買った覚え無いんだけど妙にスラスラ書けるな。」
ラッキーと思った守は思った以上に効率よくレポートを書き上げた。
ほぼ同刻、当時居酒屋でアルバイトをしていた好美は客からの注文を取ろうとした時に全く書けないボールペンに苦戦していた。
好美(当時)「あれ?壊れちゃったかな・・・。」
その日は店長にペンを借りて何とかやり過ごしたが、家に帰って今日の出来事を思い出した。これは後で分かった事なのだが守もほぼ同時に思い出したという。
面識のない2人は勿論互いの連絡先を知らなかった。
2人(当時)「来週の金曜日に返すか・・・。」
金曜日になり、ゼミの時間がやって来た。2人は誤って持ち帰ったボールペンを手に教室に入った、ちゃんと気付いて貰える様にと先週と同じデニム姿をした守とつなぎ姿の好美。
守(当時)「すみません、これやっぱり貴女のボールペンだったんですか?」
好美(当時)「やっぱりですか、私もごめんなさい。」
その瞬間から何故か互いを意識する様になった2人は次の金曜日に電話番号を交換し、ドキドキしながら連絡を取り合っていた。
連絡を取り合う内に2人はプライベートで会う事が増え、いつの間にか大学でも一緒に昼食を摂る中になっていた。暫くしてまた2人で遊んでいた日、2人は同時に。
2人(当時)「あなたが大好きです、僕(私)と付き合って下さい・・・。」
-100 番外編・学生時代と離別のきっかけ-
守と好美が互いに気付かぬ内に両想いになっていた事が発覚した「あの日」から2人の学生生活は充実した物へとなっていった、2人を中心とした交友関係も広がり呑み会やゼミなどの現場で互いの友人を紹介する事も多くなり人間関係もより良い物へとなっていった。
互いに違う都道府県からの入学者と言っても県外から来たのは好美だけで、守にとったら地元の大学であった。それが故に好美は1人暮らしで守は実家暮らしだったので互いの家へちょこちょこ出向く事もあったから守の母親である真希子も2人の事を認めていた、ただ真希子と好美が会ったのは1~2回あったか無かったかだったが。
どうしてかと言うと色々と気まずくならない様、家で会う時は大体好美の自宅で過ごす事にしていたからだ。流石に恋人同士だと色々とあるだろう、その「色々」を好美の自宅で行う事で守の家では「賢者」として比較的平和に過ごす様にしていた。
恋人同士になってからも学内外で一緒に昼食を摂るという習慣は変わらず行われていた、2人きりで摂る事も多かったが友人をも交えて摂る事も少なからずあったので自他共に認めるカップルとなっていた。
2人が出逢ったのは双方が大学1年生の頃だったがそれから3年生になるまでは順風満帆な学生生活を過ごしていた、周りから見ても本当に楽しそうな様子であった。
そんなある日、好美の自宅でぼそっと呟いた。
守(当時)「本当に幸せだ、好美ありがとな。」
好美(当時)「何言ってんの、改まって。」
近所のコンビニで買ったペペロンチーノと明太子マヨネーズパスタを食べながら微笑ましく会話する、2人は大蒜の匂いなど全くもって気にならない程の関係になっていた。
その証拠としてと言えばおかしいかも知れないが、ペペロンチーノを食べていたのは守ではなく好美であった。
大蒜の匂いが部屋中に充満する超大盛りのパスタ、具材はシンプルに大きなソーセージが2本のみ。かなりオイリーなこのペペロンチーノは1皿で半日分のカロリーを有していた。
守(当時)「よく食うよな、俺でも抵抗するのに。」
好美(当時)「大好きなんだもん、守程じゃないけどね。」
守(当時)「馬鹿、比べるものがおかしいだろ。」
さり気なくお惚気なセリフを吐く好美に顔を赤らめる守、2人は本当に仲が良いらしい。
好美はパスタをフォークに多めに巻きながら目の前で箸を使い明太子マヨネーズパスタを楽しむ彼氏を眺めていた。
好美(当時)「守も人の事言えないじゃん。」
守(当時)「好きな物は何度食っても美味いの、好美程じゃないけど。」
好美(当時)「馬鹿!!」
守の意味深げな台詞に顔を赤らめた彼女は恥ずかしさの余りビンタしてしまった、ただこうなる事が分かっていたのか予め備えていたため2人のパスタはこぼれる事無くしっかりとその場所にあった。
そんな平和の日々は2人が4年生になったとほぼ同時に激変する。
2人はあらゆる企業が集まる就職イベントや新卒採用試験で単独行動する事が多かったので予定が合わず、互いにすれ違う事が多かった。大学でも1人で、若しくは各々の友人達との集まりで昼食を摂る事が増えていた。
友人「今日も彼氏いないんだ。」
好美(当時)「うん、何か教育実習で使う「指導案」ってやつを作るのに苦戦してるみたい。私も次の試験で持って行く履歴書書かなきゃね、手伝ってくんない?」
特に守は夏に受ける教育実習に向けて本格的に準備をしていたので中々2人の時間をとる事が出来なくなっていた、ただ好美のアルバイトが無く2人の就職関連での予定が無い日は必ず会う様にしていたので関係は崩れていなかった。
ただ正直に言うと、好美が昼に友人の前でヤケ食いをする事が多くなっていたが。
ある日、好美はバイトが急に休みになったのでお菓子を焼いて守の家に行く事にした。因みに驚かせようと彼氏には内緒にしていた。
好美(当時)「守、喜んでくれるかな。チョコ味多めにしたから大丈夫だと思うけど。」
好美がルンルンしながら守の家に到着しかけたその時、彼氏の声が・・・。
守(当時)「っ・・・。」
光達が当時住んでいたアパートから守の家を挟んで反対側の実家に県外から帰って来ていた幼馴染の圭(けい)が守とキスしていたのだ、好美は思わず体を震わせた。
好美「嫌な事思い出しちゃった、ビール呑も。あ、空だ。光さん、もう1本良いですか?」
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