4. 異世界ほのぼの日記2 81~85


-81 代替え-


 ニコフが調理を行っている寸胴鍋を良い匂いに誘われた好美がこっそりと覗くと、食欲を湧かせる匂いの正体はバターや小麦粉で炒めていた牛肉や玉ねぎ、そして薄めに刻んだマッシュルームであった。

 暫く炒めていく内に玉ねぎがしんなりしていき、牛肉に火が通る。寸胴鍋に新鮮なトマトから手作りした特製のトマトピューレ等を入れて煮込んでいった。

 好美と同様に良い匂いに誘われた王女が将軍長にやたら丁寧な口調で尋ねた。


ペプリ「何をされていますの?」

ニコフ「王女様、突然の勝手な行動お許しください。空腹でどうしても食べたくなっちゃいまして。」

ペプリ「それは構いませんが、何を作っておられるのかしら?」

エリュー「随分と優しい匂いですね。」

ニコフ「早くに両親を亡くした私の為に、親父替わりだったかつての将軍長が作って下さった思い出の料理です。」


 太陽の光をたっぷり浴びて綺麗な赤色に育った新鮮なトマトが沢山採れたとダルラン光から聞き、妻である鳥獣人(ホークマン)のキェルダと家庭菜園に向かった際に「是非に」とお裾分けを沢山貰っていた事を思い出したのだ。

 本当は湯むきサラダや冷やしトマトにする予定だったのだが、「王様や王女様の為なら是非」と城に持って来ていた。


ペプリ「かつての将軍長ってもしかして御厨さんの事ですか?」

ニコフ「そうです、白飯を沢山食べたいとリクエストした際に初めて教えてくれた料理です。先程とは違って甘い物になるので、少し違和感がございますが宜しければ王女様もいかがでしょうか。」


 厨房内に甘い匂いが一気に広がり、三つ巴の三姉妹や好美の腹の虫が鳴る音が響き渡った。匂いの正体は有名な洋食が日本で訛った事や、牛肉や野菜のごった煮を作った大手書店の創業者の名前など由来が数説あるあの有名な料理。


好美「もしかしてハヤシライスですか?」

ニコフ「好美さんはご存知でしたか、先程とは違って全くスパイシーではないのですが良かったら味見をお願いできませんでしょうか。」

ペプリ「あの・・・、私はほったらかしですか?」


 ペプリだけではなく、先程までお供え物のカレーを腹いっぱい食べていたはずの古龍達までもが涎を垂らしながら寸胴鍋に釘付けになっていた。


クォーツ「おい・・・、俺達も食って良いか?」

セリー「何を仰っていますの?お姉様は毎週こちらでカレーを食べているのでしょう?少しは自重して下さいませ。」

トゥーチ「そう言うセリー姉ちゃんこそ、さり気に今日一番カレー食ってたから自重しやがれ!!」


 流石は古龍と言うべきなのだろうか、古龍(エンシェントドラゴン)達の胃袋は底知れない。それどころか甘い匂いにより再び空腹になってしまった様だ。

 ただ、唯一上級古龍使い(エンシェント・ドラゴンマスター)の視線を感じていた長女がびくびくしながらペプリの方を向いた。


クォーツ「ペプリ・・・、将軍長さんの後にお前も一緒に食うか?」

トゥーチ「お・・・、おい姉御!!」


 長女は三女をきつめに睨みつけた、先程ペプリからの重圧を喰らった事を思い出したトゥーチは1歩下がる様に王女を誘った。


トゥーチ「分かったよ・・・、ペプリだったか?良かったら俺達と一緒に食わねぇか?やっぱりどんな物も大人数で食う方が美味いだろ?」


 古龍は恐る恐るといった様子で深い様で普通の事を言った、ただペプリはその言葉が本当に嬉しかったらしくただの「妹」に戻っている。


ペプリ「うん、お姉ちゃんとこの美味しそうな「ハヤシライス」ってやつ食べる!!ニコフさん、ご飯たっくさんよそって!!」

ニコフ「よ、この様な時間に宜しいのですか?」

ペプリ「良いんです、お父様に見つかる前に鍋を空にしとかなくちゃ!!」

クォーツ「お、おい・・・。独り占めはしないでおくれよ?」

セリー「早くよそって欲しいですわ、でないと無くなっちゃう。」


 そんな中、深夜の食事会を覗き込む女性達の姿が・・・。


-82 あの人-


 ニコフが作ったハヤシライスの香りがそこら中に広がる厨房の出入口からやんわりとだが誰かの視線を感じた好美、少し怖くなりながらも目線を刺さる視線の方向にやるとそこにいたのは見覚えのある女性に少し似ていた。

 好美はただ人違いだと失礼だからと一先ず軽く会釈を交わし食事へと戻った、すると出入口の方向から声が。


女性「ペプちゃん、先程から良い香りがすると思ったら何を食べているのかね。どれ、私も1杯もらおうか。」

ペプリ「お母・・・、様!!」

ニコフ「王妃様、これはこれは・・・。こちらはあくまで家庭料理ですので王妃様のお口には合わないかと思われますが。」

王妃「何を言っているの、私の舌には豪華な料理より家庭的な物の方が合う事を言ってなかったかい?」


 聞き覚えのある声や口調なのだが、見た目が全くもって違うので好美は話を聞き流した。未だに出入口から覗き込む王妃は好美の方を向いて話しかけた。


王妃「それに好美ちゃんだって冷たいじゃないか、せめて一言あっても良いと思うんだけど。」

好美「王妃様恐れ入りますが、どこかでお会いしましたでしょうか?」

王妃「今更何言ってんだい、毎日会っているでしょう。」

好美「あの私・・・、王妃様の御顔を拝見させて頂いたのは初めてなのですが。」

王妃「あ・・・、そうか。ごめんね、この顔じゃ好美ちゃんでも分からないか。」


 すると王妃は魔力で軽くメイクを施し、部屋着であるバスローブから着替えた。まさかのその姿に驚きを隠せない好美。


好美「嘘でしょ・・・、レーゼじゃない!!」


 そう、カフェのウェイトレスで「コノミーマート」に納品を行うリッチのレーゼその人だったのだ。自ら軽トラを運転しておにぎりやサンドイッチを毎日納品しているあのレーゼがまさかのこの国の王妃。

 好美は今までの自分が失礼な事をしでかしていないか必死に思い出そうとしていた、その様子から心境を察した王妃は優しく語り掛けた。


レーゼ「騙すような事して悪かったね、街にいる人たちの様子を同じ目線で伺いたかったからカフェのオーナーに無理言って働かせて貰ってたのさ。」

好美「本当にごめんなさい、申し訳ありません、いや申し訳ございません!!」

レーゼ「気にしないでよ、あたしも堅苦しいのは苦手だしこれからも一緒に仕事したいから今まで通りさせて頂戴な。」

好美「う・・・、うん。」


 流石に抵抗を隠せなくなっているが数分したら気にならなくなってしまっていた、レーゼがバスローブ姿に戻っていた事も手伝っていた気がした。

 ただ気になる事が1つ、ごくごく一般的な疑問。


好美「ところでレーゼ、ハヤシライス食べるのは良いけどバスローブ汚れない?」

レーゼ「そうだね・・・、どうしようか・・・。美味しそうだから是非食べたいしな・・・。ペプちゃん、あんたのそれ良いじゃない。」

ペプリ「お母ちゃん・・・!!私は良いけど一応王妃なんだからまずくないの?」


 まさかの普段は「お母ちゃん呼び」だったという意外な事実、しかも王族とは決して思えない位庶民的であった。これこそ失礼だが正直、住んでいる家を間違っているのではないだろうか。

 呆然としていた好美をよそに娘と同じ格好に一瞬で着替えた王妃、どんな格好もそつなく着こなしてしまう事が何よりも羨ましかった。


レーゼ「さてと、これで大丈夫だよね。ほら将軍長、私にも1杯頂戴な。」

ニコフ「か・・・、かしこまりました。」


 皿に湯気の立つ熱々の白飯をよそって、ハヤシライスソースをたっぷりとかけた。レーゼは顔をニコニコさせながら嬉しそうに頬張っていた。


レーゼ「玉ねぎと牛肉がたっぷりで良いね、私気に入ったよ。」

ニコフ「恐れ入ります。」


 王妃の様子を見た古龍達の腹の虫が再び鳴り響いた。


トゥーチ「おい将軍長、まだあるよな?」


-83 姉の為-


 普段共に働く身近な人の超が付く程の意外な事実を知った1晩の夜勤が明けた朝7:00、好美はいつも通り自らが所有するビルの1階部分に店の様子を伺う為『瞬間移動』した。

 「コノミーマート」の前にはいつも通りパンや弁当といった商品を搬入するトラックが駐車しており、また今までと変わらず隣には王妃の・・・、いやカフェのいちウェイトレスであるレーゼの軽トラックがやって来ていた。


好美「おはようございます王・・・、いやレーゼ。」

レーゼ「おはよう、晩に見たのは夢だったって事にしておいてね。一応、秘密にしているから。」


 本人曰く、王妃たるもの常に国民にとっての「高嶺の花」であるべきであるらしく、街の住民に混じって働くなど元々もっての外だと先代の王妃に言われ続けていたのだとか。

一応、旦那であるエラノダ国王含め王族の許可は取っているらしいのだがいつも街に出る時に執事が厳しい目線を向けて来るそうだ。

王宮でいつも国王が執事を押さえつける場面を想像してどこかシュールさを感じた好美。

そんな中でこれから通学だろうか、店舗部分奥にあるエレベーターから魔学校の制服を着た1人の女の子が降りて来た。

拉麺屋「暴徒の鱗」の調理場から大きい弁当箱を持った女性がその子に近付く、どうやらナイトマネージャーのピューアと女子高生のメラの人魚姉妹らしい。

姉のピューアは店長のイャンダ、そして副店長のデルアに仕事の引継ぎを行った後にエレベーターで自宅へ帰っていった。この後控える料理教室の準備でもするのだろうか。

好美は別の事を感じていた、魔学校に向かう最初のバスのまで乗車時間までまだだいぶ早い。ダルラン家のガルナスと待ち合わせてからいくつもりなのだろうかと思っていると、人魚姉妹の妹が手を振りながら好美に近付いて来た。


メラ「好美さーん、おはようございます!!」

好美「おはよう、まだバスまでは早くない?」

メラ「そうなんです、実は好美さんに相談がありまして。」


 こんな事は初めてだ、ただ先程会っていた自らの姉では駄目なのだろうか。スマホで時間を確認しつつ、丁度すぐそばにいた店長の許可を得て「暴徒の鱗」の調理場の奥にある小部屋へと連れて行った。

 小部屋の中は静けさに包まれ、水道の蛇口から水が滴る音が聞こえて来ていた。先程イャンダがまだ今日は部屋を使っていないと言っていたから締めていないのはピューアだろうか、本人に後で問い詰めなければ。


好美「ここで良いなら、相談って何?」


 そこに気を利かせたイャンダが2人にお茶を運んで来た、暑いこの時期に嬉しい氷入り。調理場に戻ろうとした店長に人魚が声をかけた。


メラ「あ・・・、あの・・・。イャンダさんにも聞いて頂きたいんですが。」

イャンダ「ん?俺にも?好美ちゃんが良いなら俺は構わないよ。」


 イャンダは目線の先で好美が頷いたので、近くの席に着いた。


メラ「実は今度姉の誕生日なのですが、サプライズでプレゼントをしたくてアルバイトをしたいんです。出来れば本人には内緒と言う形で。」

イャンダ「俺は構わないけど、ここだとピューアちゃんにバレちゃうね・・・。」

好美「バレない為には・・・。」


 丁度そこに「暴徒の鱗」の1号店の店長で、ダルラン光の叔父である一が店の様子を伺いに来た、仕事に向かう途中だったので寄ってみたんだそう。


一「おはよう、この子どうしたの?朝から無銭飲食でもした?」

好美「もう、冗談でもそんな事言わないで下さいよ。本人結構真剣に悩んでいるみたいだから。あ、そうだ。一秀さんのお店でこの子をアルバイトとして雇えませんか?本人の学業の事を考慮して夕方とかの時間帯で。」

一「うーん・・・、ちょっと待ってね・・・。」


 スマホを取り出した一は何処かへ電話をし始めた、雇用等に関しては決して独断で決めたくないらしい。まぁ、誰に電話しているかは定かではないのだが。


一「大丈夫みたいだね、今度夕方来てみる?」

メラ「はい、よろしくお願いします!!」


 朗報を耳にした人魚は喜び勇んで学校へと向かうバスの乗り場に向かった、無事始発に間に合ったので友人にも会えたそうだ。

 後日、一の店でメラは楽しそうにアルバイトをしているそうだ。一先ず安心・・・。


-84 サプライズの為に-


 メラが一の店でアルバイトを始めてから十数日が経過し、その日はピューアがいる「暴徒の鱗」での夜営業を手伝う日となっていた。


好美「いらっしゃい、お好きなお席へどうぞ。」


 相も変わらず赤いバンダナと黒いTシャツの姿での拉麺屋の仕事が板について来た好美、ただ深夜に店に来る客は居酒屋として利用する人達が多く見受けられた。

 顔を赤らめた客が〆としてラーメンを頼む人もちらほらいるからこの店の本来の姿は保たれている気がする。

 そんな中、深夜3:00頃に客足が落ち着き少し暇になった店の調理場で叉焼を切りながらピューアが切り出した。


ピューア「好美ちゃん、ちょっと良いかな?」

好美「どうした?」

ピューア「最近メラが家に帰るのが遅い気がするのよ、私に何か隠しているのかな。」


 目の前の人魚は妹が一の経営する「暴徒の鱗」の1号店でアルバイトを始めた事を知らない、サプライズはまだ執行されていない様だ。


好美「ごめん、私も最近会っていないから何も知らないの。」


 嘘だ、一の店でしっかり働けているかちょこちょこ様子を見に行っているのだ。それに階は違えど同じ屋根の下に住んでいるから必ずしも全くもって会わないとは限らない。

 この事は光も知っていた、実はメラがアルバイトを始めてから数日後に娘のガルナスが一緒に働きたいと申し出て陸上部が休みの日にお小遣い稼ぎとして働いていた。


光「社会勉強になって良い事じゃない、それに親戚の店だからもしもの時にも安心して娘達を預ける事が出来るし。」


 光もメラのサプライズに協力していた、しかしいつまで騙すような事をしなければいけないのだろうか。

 好美はピューアの誕生日を知らなかった、さり気なく聞こうかと思ったがどうやって切り出せば良いのか分からない。好美は正直頭を悩ませていた、ただ今はいち拉麵屋のオーナーとしての仕事を全うすべきだとも思っていた。

 そんな中、店の固定電話に一件の着信があった。その客によればどうやら店を予約したいようなのだが、どう考えても聞き覚えのある声。


客(電話)「明後日の19:00に2名で予約したいのですが。」

好美「分かりました、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか。」

客(電話)「えっと・・・、チェ・・・。いやダルランでお願いします。」


 相手の事情を察した好美は少し笑いながら予約を承った、日にちを指定した理由も大体検討が付いていた。


好美「かしこまりました、明後日の19:00ですね。ご来店お待ちしております、では。」


 電話を切ると好美はたった今予約を入れた客に『念話』を飛ばした、これでは電話で予約した意味が無い様な気がするが。


好美(念話)「明後日なの?お姉さんの誕生日。」


 たった今予約の電話をして来たお客、メラは好美に全てを見透かされた事を恥ずかしがっていた。


好美(念話)「それに明後日は給料日だもんね、初給料でお祝いって事?」


 そう、明後日は「暴徒の鱗」全体の給料日。ただ、いちお客としてちゃんと予約を入れて姉の誕生日を祝いたいとの事だ。時間を19:00に指定したのもしっかり準備をしてからが故だった。


メラ(念話)「あの・・・、お店の魔力保冷庫(冷蔵庫)にケーキを入れて置いて貰う事って出来ますか?」

好美(念話)「ふふ・・・、結構本格的に準備するのね。いいよ、イャンダに言っとくね。」

メラ(念話)「あの・・・、それでなんですけど・・・。」

好美(念話)「ん?どうした?」

メラ(念話)「ケーキ・・・、作りたいんです。」


 思った以上に本格的なお祝いをしたがっている様で好美もここまでとは思ってもいなかった、ただひたむきな人魚の為に可能な限り協力しようと誓った。


-85 準備開始-


 翌々日、そうピューアの誕生日。夜勤を終えた好美は今夜の為に早めに寝ておく事にした。

これは前日の話だが、ケーキの件をイャンダに伝えると乗り気になった店長は店を貸し切りにして祝おうと申し出た、店の関係者総出で祝おうと言うのだ。

 メラの希望通りケーキは本人の手作りにする事になった、材料は本人がバイト代で買うと言っていたが折角のお祝いだからと店の方からも半額を出す事になった。勿論好美も了承済みだ。

 ケーキは店の厨房の奥の小部屋で作る事になった、しかし1つ懸念すべきことが。


好美「イャンダ、ケーキなんか作れんの?」


 今は拉麵屋の店長だが、正直言って元軍人のイャンダにお菓子のイメージがない。しかし目の前の元竜将軍(ドラグーン)の目は自信に満ち溢れていた。


イャンダ「おいおい、一応元厨房担当だぞ。ケーキなんて朝飯前だっての。」


 その時、小部屋の外から2人の会話を聞いていた副店長のデルアが声を掛けて来た。


デルア「まさかと思うが、いつものロールケーキを作るつもりか?」

好美「いつものロールケーキだって?」


 そう、当時バルファイ王国で厨房を任されていたイャンダは王族のおやつ当番になった時に必ず同じロールケーキを作っていた。

 それを聞いた好美は早速パルライに『念話』で詳しく聞く事にした。


好美(念話)「パルライさん、イャンダってロールケーキが得意だったの?」

パルライ(念話)「美味しいかった事は美味しかったけど、正直毎回だったから飽きちゃってたんだよね。まぁ、味は保証するよ。」


 一応好美が確証を得たのでイャンダが得意としていたロールケーキを作る事になった、その事を聞いたメラは嬉しそうな笑顔を見せてアルバイトへと向かった。

 翌日、遂にその日が来た。この日は学校が昼までだったのでメラは早速マンションに帰ると1階の店舗部分へと向かった。気合を入れ、エプロンを締めた人魚は早速イャンダの指導の下でロールケーキ作りを始めた。

 メラにはセンスがあったらしく、作業はてきぱきと行われたので思った以上に早く生地が出来上がったので早速焼成に入る。


イャンダ「良い具合に焼きあがったな、俺より上手いんじゃねぇか?どれ、ちょっと1口・・・。」

デルア「やめとけよ、ちゃんとそのままの形で置いておこうぜ。」

イャンダ「冗談だよ、それにクリームも何も乗せてないんだぜ。ほら、お姉ちゃんの為にちゃんと飾りつけしないとな。」


 厚めに焼きあがった生地を切り分け、間にクリームや果物を加えていく。因みにクリームには隠し味としてピューアの好きな紅茶を混ぜ込んでいた。

 切り分けた生地を改めて元の形になる様に重ねていきその上からクリームを塗りたくっていく、後は蝋燭を指すだけとなっていた。

 冷蔵庫に出来上がったケーキを入れるとメラは空いた時間を利用して予め誘っていたガルナスと共にプレゼントを買いに行った、ケーキ作りに協力した2人は作戦がバレない様に通常の業務に戻った。

 数時間後、夕方の昼間の営業時間を終えたデルアは店先に「準備中」の札を掛けて来た。これが後で「本日貸切」の表示に変わるという訳だ。

 さて、重要なのはどうやってバレずにピューア本人を店舗部分に連れて来るかだがあっさりと決まってしまった。

 1306号室にいるであろう人魚を好美が一応『探知』と『瞬間移動』で連れて来るという算段になった、一先ずアイマスクを用意しておこう。

 メラとガルナスがプレゼントを手に店に戻ってくると、パーティーの為に料理を作り始めた。店には一応パーティー用のコースがあるのだが、今回はピューアの好物ばかりを作る事になった。

 妹が言うには姉は辛い料理が好物らしく、こっちの世界で言う「四川料理」が何よりも大好きだそうなのだ。

 好美の提案でたっぷりの麻婆豆腐と、中身を辛く味付けした点心料理を数種類用意した。

用意した春巻きや餃子、そして豚まんは生地の色から見た目は普通の物でも中身の餡がかなりの辛さを誇っている様だ。

遂に予約時間の19:00が来た、好美が部屋にいると思われるピューアの居場所を念の為『探知』した。好美と同じ夜型の本人はベッドでぐっすりと眠っている様だ、もう人化まで解けてしまっている。

 好美はメラを連れて1306号室に『瞬間移動』すると、妹が姉にアイマスクをかけて再び店舗部分へと『瞬間移動』した。驚いて目を覚ました姉は急いで人化したが、状況が上手く掴めずにいた。妹主催の、サプライズパーティーの始まりだ。

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