4. 異世界ほのぼの日記2 76~80


-76 吸血鬼も知らない味の秘密-


 女子高生の人魚の一言でやっと元気を取り戻した吸血鬼、どうやら間違えて手渡してしまった料理が普段から辛い物が好きな2人の胃袋をぐっと掴んだ様だ。

 息を吹き返したかのようにオーナーシェフが数時間もの間座り込んでいたパイプ椅子からやっと腰を持ち上げたのを見たサブシェフは安堵の表情を見せた。

 因みに2人は魔学校時代からの同期だったりしたので気軽に何でも話せる仲であった。


ロリュー「ナルちゃん、もう大丈夫?」

ナルリス「悪かった・・・、何とかな。すまんが、水を飲んで来て良いか?」


 ナルリスの台詞を予期していたのか、ロリューの手には水の入ったグラスが。ナルリスはグラスを受け取ると一気に煽った。


ナルリス「サンキュー。よし・・、やるか・・・。」


 予約が入っている上客の来店に向けて提供する料理の準備を確認した、寸胴の中のフォン・ド・ヴォーとデミグラスソースが減って・・・、いないどころか増えている。おかしい、この2つはこの店の味の決め手で門外不出にしているし隠し味は誰にも言っていない。

ナルリスは恐る恐る味見してみると自分が作った物と全くもって一緒で驚いていた、ただ大量の寸胴鍋が不自然に散らばっていたのが気になったが今はそれどころじゃない。

調理場に復帰していたオーナーシェフを見かけた副店長の真希子が、散らばっていた寸胴を全て『アイテムボックス』に押し込んで目線を低く保ちながら近づいてきた。


真希子「ああ・・・、ナル君ちょっといい?」

ナルリス「真希子さん・・・、そんな体勢でどうされました?」

真希子「フォンとデミグラスなんだけどね・・・。ごめんなさい、ランチで無くなりかけてたから私が『複製』したのよ。気を悪くしちゃったかな・・・。」

ナルリス「いえいえ・・・、私の方こそ申し訳ありません。助かりましたよ、作るの結構時間がかかるのでもし無くなっていたら予約に間に合わないかと。ありがとうございます。」

真希子「それを聞いて安心したよ、ブイヨンはいつも通りで大丈夫かい?」


 実は以前、たまたま真希子が賄い用に持って来たブイヨンの香りに誘われ一口啜った際にその味に惚れこんだらしく、それ以来ブイヨンだけは真希子に任せていたのだ。

 どれだけナルリスが頭を下げて頼み込んでも頑なに真希子が製法を教えないので、この店の料理全てが真希子無しでは成り立たなくなってしまっていたのだ。


ナルリス「本当・・・、いつも感謝していますよ。このブイヨン無しじゃどうすれば良いか。」

真希子「何言ってんだい、無理に雇って貰っているのはあたしの方じゃないか。こんなブイヨンで良いならいつでも作るよ。」


 実は真希子本人も知らないのだ。このブイヨンの製法を唯一知っているのは養豚の仕事をしている息子の守だった。ナルリスがブイヨンの味に惚れ込んだあの時、実は当日当番だった真希子が賄い用に振舞おうとしたスープのベースとして守に作ってもらった物を温めていただけだったのだ。日本にいた頃から真希子は守のスープがお気に入りで、この世界で守と再会したのを機にレストランの皆にも食べさせてあげようと持って来たのだそうだ。

 毎回守に頼む訳にも行かないと思った真希子は、一定量のブイヨンを自分用に保管しておいて『複製』したものをいつも渡していた。

 個人用のロッカーにしまってあるブイヨンを見ながら「バレたら終わりだね」と汗を滲ませる真希子、バレない内に守に作り方を聞いておく事にした。

 そんな事などつゆ知らず、真希子からブイヨンの入った寸胴を受け取ったナルリスは予約の入っている上客の料理の準備を始めた。

ハンバーグを成形し、表面に焼き色がつく程度まで焼いておく。デミグラスソースで煮込んだ後に上からチーズを乗せてオーブンで焼くので完全に火を通す必要はない。店中にデミグラスソースの香りが漂い出す。

 ハンバーグの成形を終えた頃に、店の出入口の方からウェイトレスのミーレンの声が。


ミーレン「ご予約のお客様がいらっしゃいました、いらっしゃいませ!!」


 お忍びでやって来た上客は「予約席」と書かれた札が置かれたテーブル席に1人で座った、いつもこの席に座っているからこの客から予約が入る度に必ずと言って良いほど毎回ナルリスが自ら席を用意していた。

 客が席に座ったのを確認したナルリスは、成形していたハンバーグを魔力保冷庫に入れてお客のいるテーブルへと挨拶する為に近付いた。


ナルリス「いらっしゃいませ、本日はご予約ありがとうございます。ご注文頂いておりますお料理は只今ご用意致しておりますのでもう少々お待ちください。」

上客「おいおい、硬くならずにいつも通りにしてくれよ。俺達、ずっと友達だろ?」

ナルリス「そうだな・・・、すまなかった。」


-77 思い出に浸る-


 ナルリスはいちレストランのオーナーシェフとしての対応をしっかりしようとしたが、相手は同級生で昔からの友人だからと制止した。どちらかと言うと久々の再会を懐かしんで欲しいというのが本望だとの事。

 この日予約してきた上客にとって目の前の吸血鬼は特別な存在であった、ただのシェフではなく「命の恩人」といったところか、今でも上客はナルリスに感謝していた。

 それが故に硬くならずにフランクにして欲しいと言った。


上客「あの時の料理、また食べに来たぜ。」

ナルリス「他にも料理はあるのに、いつもあれだな。」


 メニューを見る事無く、いつも同じ料理と赤ワインを頼む上客は他の物を頼む気はさらさら無かった。いつも同じものを頼み「あの日」を懐かしむ、ナルリスの店に来るのは乗客にとって特別な意味を持っていた。


ナルリス「待ってろ、いつもの美味いやつ作って来てやるからな。」

上客「ああ・・・。」


 この上客に出す料理は、普段のメニューには載せていない特別な物で2人の思い出の味だ。この料理に救われた、この料理があったから頑張れる。そして、今がある。

 ナルリスは調理場に戻ると、ハンバーグを焼き色が付く程度まで焼いた後にデミグラスソースの入った土鍋で煮込み出した。

 店中に普段から広がっているデミグラスソースの香りが濃くなってきた、上客はいつもこれは料理の出来上がりが近づくサインだと語っていた。

熱々の土鍋で提供するが故の鍋敷きをミーレンが什器と共に持って来た、これもいつもの事なので上客は慣れているかのようにテーブルの真ん中を空けている。

何故か2人分の小皿を一緒に持って来る、これもいつもの事。ただ不自然なこの行動は2人の関係を知るミーレンの心遣いからだった。

土鍋の中でデミグラスソースがぐつぐつと湧き始める、いよいよだと感じたナルリスは鍋掴みを手にはめて提供の準備に取り掛かった。と言ってもまだ提供はしない、チーズをハンバーグの上に乗せてオーブンで焼くのがこの料理の最終工程。

チーズが溶けたら完成、提供へと移る。熱々となった土鍋を両手でしっかりと掴み上客の下へと運んで行く。

ナルリスも上客も自然と柔らかな笑顔がこぼれていた、2人にとっての思い出の味。またこれもいつも通り、デミグラスソースの香りと共に蘇る当時の思い出に浸る。

この客が来る時は他の客は誰1人来なかった、いや来る訳が無かった。2人の関係を知るミーレンがこっそり「本日貸切」の札を出入口にかけていたからだ。「いち友人」としてゆっくりと語り合って欲しい、この時だけは昔に戻って欲しいとの心遣いで光に許可を取って行っていた。

許可を出した時、上客とナルリスの事を聞いた光は涙を流しながらこう語った。


光「相変わらず、優しいんだから。私も良い旦那と良い仲間を持ったもんだわ。」


 ナルリスは思い出の詰まった料理を持参して一言。


ナルリス「お待たせいたしました、煮込みハンバーグ・チーズ焼きグラタン風でございます。」


 いつもはやらないのだがこの客が来た時は特別、そして提供を終えたナルリスは友の向かいにゆっくりと座った。


ナルリス「さぁ、あの時の料理だ。たんと食べてくれ。」


 提供された料理に手を延ばし、熱々のデミグラスソースをスプーンで掬って1口。


上客「これだ、本当にありがとうな。友よ。」

ナルリス「何言ってんだよ、当たり前の事をしたまでさ。ほら、冷めない内に食えよ。ロラーシュ。」


 上客の正体はダンラルタ王国の大臣、ミスリル・リザードのロラーシュだったのだ。

 当時ブロキント率いるゴブリン達が日々掘削に勤しむミスリル鉱山でつまみ食いをして減俸処分を喰らった際、自分を見つめなおそうとたまっていた有給休暇を利用して一人旅に出ていた。目的地も決めず、ただひたすらに軽トラを飛ばしてふらりと辿り着いたカフェで味わったのがこの料理。

 空腹だったが金をあまり持たずにいたのでコーヒーのみを注文していたロラーシュの様子を見た当時カフェでバイトをしていたナルリスが、店主に頭を下げて余っていた食材を使い友人のよしみで食べさせたのがこの料理との事。

 ロラーシュは涙を流しながら噛みしめる様に食べていた、そして1部分を小皿に取ってナルリスに手渡した。これも思い出に浸るためと吸血鬼は決して断らなかった、この行動は互いに感謝しているが故の物だったからだ。


-78 過去の悪戯と新たな悪戯-


 2人が遠い昔の思い出に浸りながらハンバーグを味わっている場面を遠くから見ている者がいた、同級生でサブシェフのロリューだ。

 有する資格や知識をフル活用すべくサブシェフとソムリエを兼任していたケンタウロスは、特別料理に合う赤ワインを選んで2人の下へと運んで行った。

 その様子はレストランのサブシェフとしてと言うより、ただただ同級生の1人として。


ロリュー「おいおい、俺を忘れていたりして無いだろうな。ほら、ぴったりなワインを持って来たぞ。」


 3人分持参してきたグラスを1本ずつ、上客であるかつての同級生とオーナーシェフに手渡してワインを注いでいく。

 ロラーシュはロリューからワインボトルを受け取ると、サブシェフにグラスを手渡してワインを注いだ。


ロラーシュ「何を言う、ここにはお前にも会いに来ているに決まっているだろうが。」

ナルリス「ほらよ、お前も食えよ。」


 吸血鬼は小皿に小さく切ったハンバーグを乗せると、デミグラスソースを少しかけてケンタウロスに手渡した。

 ロリューはハンバーグを1口食べると、昔を懐かしむ様に噛みしめていた。実は例のカフェでロラーシュが食べた最初の煮込みハンバーグはナルリスとロリューの合作であった。

 勿論、大臣はロリューにも感謝していた。ロリューもナルリスと共にロラーシュの為、カフェの店主に頭を下げていた。

 2人に非常に感謝していた大臣は涙ぐみながらハンバーグを味わっていた、2人に救われたミスリス・リザードはそれから真面目に働き今でもダンラルタ国王であるデカルトの下で大臣職を務めている。


ナルリス「何泣いてんだよ、再会に乾杯しようぜ。」


 ワインで満たされたグラスを改めて手渡し、3人での乾杯を促した。

 少し顔を赤らめながら3人は学生時代を思い出していた、そんな3人の座るテーブル席に店の副店長が近づいて来た。貸切にしているが故に暇になってしまったのだろうか。

 そう思っていると、副店長は空いていた席に座った。どうやら3人の思い出話に興味を持ったらしい、手にはチーズが数切れ乗った皿が。


真希子「やけに楽しそうにしているじゃないか、私にも思い出話をきかせておくれな。」

ナルリス「そうですね・・・、今もそうですが私達は3人共悪戯が大好きでした。」


 魔学校時代、同じゼミに所属していた3人は教授の所有する乗用車の運転席をラップで巻き、そこにたっぷりの蜂蜜を塗りたくっていた。

 気付かずに乗った教授は、甘い匂いを発するヌルヌルの運転席に違和感を覚えながらも大学を後にして家に帰ったと言う。

 ラップと蜂蜜に気付いたのは家に着いた時で、しかも教授の衣服に違和感を覚えた娘に指摘されてだ。

 また別の日には、偶然拾った教授の教員証のカードに書かれていたバーコードの上に切り取ったポテトチップのバーコードを貼り付けていた事があった。図書館に入ろうとしたが機械が反応しなかった時に異変に気付いたそうだ。


ロラーシュ「あれよくバレなかったよな、今となっては懐かしい思い出だよ。」

ナルリス「そんなお前が数年にも渡ってずっと大臣やってんだもんな、一度結構な悪戯してたけど立派なもんだよ。」

ロラーシュ「それを言うなって、お前だって立派なオーナーシェフじゃねぇか。」

ナルリス「本当、この店開くまで苦労したな・・・。」


 3国の国王に料理を披露し、認められたが故に開いた店だ。しかし自分だけの力ではないという事を重々承知している、自ら似合わないと思う位に馬鹿真面目にやって来たが故に神が光と出逢わせてくれたんだと語った。


ナルリス「良い悪戯をくらっちまったよ、まさかこの俺がやられるとはね。」


 そんなオーナーシェフを隣でサブシェフが眺めていた、と言うより手元をずっと睨みつけていた。どうやらこっそりと悪戯をしかけていた様だ、ただ吸血鬼はずっと気付かぬフリをしていたらしい。


ナルリス「おいおい、お前らやったな?」

ロリュー「ははは、流石にバレていたか。」


 そう、ロリューがワインを注ぎ、ナルリスがじっとグラスを見ていたタイミングを見計らって吸血鬼のスプーンをロラーシュがこっそりと蜂蜜付きにすり替えていたのだ。


-79 お供えと三つ巴-


 同級生3人が昔を懐かしみ、美味い料理と昔話、そして悪戯を肴にワインを酌み交わしたその夜の事だった。街の中心地に聳え立つ高層ビルのオーナーである倉下好美は王宮での夜勤に備え準備していた。

好美が相も変わらず弁当を作り忘れていたので恒例と言った様子で余り物を詰めた弁当をデルアが手渡す、夜間の営業に影響しなければ良いのだが。

今日は火曜日だ、という事は恒例の「あの日」なのだ。ナルリス・ダルランの妻、ダルラン光からいつもの香り高き「お供え物(2日目のカレー)」を受け取ると大切に『アイテムボックス』へ入れ、早速夜勤へと向かった。

王宮へ到着し、挨拶を交わした好美には以前から気になっている事が1点。


好美「ニコフさん、鍋って誰が光さんに返しているんですか?」

ニコフ「申し訳ないのですが、私も存じ上げないのです。私達の休みの曜日に返却されているのでしょう。」


 すると、光ご本人から『念話』が。


光(念話)「その鍋ね、ここだけの話だけどいつも最後に食べてるエラノダさんがお忍びで返しに来てんのよ。」

好美(念話)「エラノダさんって、王様の?!」

光(念話)「うん、いくらあたしが取りに行くって言っても聞かなくて。これ、ニコフさんには聞こえてない様にしているから内緒ね。」


 『念話』で話していた間、見た目ではずっと沈黙していた好美の様子を心配そうに将軍長が伺っていた。


ニコフ「どうかされましたか?『念話』か何かで?」


 好美は咄嗟に胡麻化した。


好美「ちょっと、エリューの事で。店と言うか企業秘密なのでお気になさらず。」

ニコフ「オーナーさんも大変ですね、お察しいたします。」


 すると、聞き慣れた声が控室に響き渡った。「コノミーマート」のナイトマネージャーを兼任するサラマンダー、エリュー本人だ。


エリュー「おはようございます。」

好美「おはようございます。」


 好美は挨拶の後、即座に空気を読む様にとエリューに『念話』を飛ばした。


ニコフ「おはようございます、丁度今貴女の話をしていたのですよ。」

エリュー「好美ちゃん、えっと・・・、もしかしたら昨日の話?」

好美「そうそう、昨日皆で余った唐揚げを馬鹿食いした話・・・。」

エリュー「ああ・・・、揚げすぎちゃったあれね。本当にごめんなさい。」

好美「いえいえ、美味しかったからいいのよ。」


 そう言った会話を交わした後、エリューは週1の「儀式」に入った。いつもの様に天界から地上に降下して人化した古龍(エンシェント・ドラゴン)を連れ、厨房へ行こうとすると天から聞き慣れない女性達の声が。


女性①「お姉様、探しましたわよ!!毎週同じこの夜遅い時間に天界を抜け出して何をされているのかと思えば、こちらにいらしたのですね?!」

女性②「姉御、観念しろ!!夜勤の日もちょこちょこ抜け出しているって聞いたぞ!!」

クォーツ「その声は、セリーとトゥーチ!!」


 声が止んだ瞬間に天界から別の古龍が2体も降下して人化した、その光景を見たクォーツは驚きを隠せずにいる。ただ、長女以上にサラマンダーの方が驚いていた。


エリュー「「1柱の神」と「三つ巴の3姉妹」とも呼ばれている古龍様方がお揃いになって・・・、ありがたや・・・。こんな貴重な光景中々見る事が出来ない。」

トゥーチ「その声はサラマンダーのエリューだな、いつも姉御が面倒かけてすまねぇな。」

エリュー「そんな・・・、何を仰いますやら。それに名前を呼んで頂けるなんて。」


 さり気なく人の姿に戻ったサラマンダーは感動で涙が止まらないでいた。


セリー「ところでお姉様はこちらで何をされているのでしょう・・・、か・・・。」

トゥーチ「ん?この香り・・・、カレーだな・・・。まさか姉御抜け駆けして・・・。」

クォーツ「あはは・・・。お前らも・・・、食うか?」

セリー・トゥーチ「当たり前ですわ(に決まってんだろ)!!」


-80 王女の力と騒動-


 妹達を加えた三つ巴の三姉妹が「お供え物(2日目のカレー)」に夢中になっている中、その光景に見入って未だ感動が冷めていないサラマンダーは目をうるうるとさせて思わず素が出てしまっていた。


エリュー「おらぁ500年程生ぎでぎだが・・・、んな貴重な光景見る事出来だんは初めでだ。」

好美「あんたその訛り・・・、何処の出身なの。」


 好美がこれからエリューと王宮やコノミーマートでちゃんと会話や仕事が出来るか不安になっている中、瞬時に冷静に戻ったエリューは恐る恐る姉妹に質問した。


エリュー「あの・・・、御三方は頻繁に会われているのですか?」

トゥーチ「いや・・・、俺達3人が揃ったのは久々なんじゃねぇの?」


 次女はカレーに夢中だった妹を軽く注意しながら思い出した。


セリー「トゥーチ、はしたないですわよ。そんなに頬張って神らしくない、お姉様それにしてもこうやって私達姉妹が揃って食事するのは15年振りでしょうね。」

クォーツ「ほう(おう)・・・、ほうはっはは(そうだったか)?」

セリー「お姉様まで!!皆様、申し訳ございません。」


 やけに腰の低い次女の横で好美の胸中では別の問題が発覚しかけていた、誰も次女と三女までが天界から降下して来る事を予想していたはずがない。

 儀式を行ったエリューすら分からなかったのだ、ニコフや好美は勿論、カレーを用意した光本人までも。という事は・・・。


好美「ニコフさん・・・、まずくないですか?」

ニコフ「好美さん・・・、正直言って私も同感です。」


 妹達の出現により、いつも通りの量だけが用意されていたカレーがいつもの倍の勢いで減っていく様子を見て2人は顔を蒼白させていた。そう、全然足らないのだ。

 好美はさり気なく鍋の中を見てより一層顔を蒼白させた、当初たっぷりのカレーで満たされていた鍋の底が見え始めている。不意に思い出したのだが、このダルラン家のカレーは王と王女も後ほど食べる物でもあった。

 時間は午前1:30、正直言って光が起きている様には思えない。念の為、『念話』を飛ばそうとしたその時・・・。


女性「お・・・、お姉ちゃんが3人もいる・・・!!」


 噂をすれば影というやつか、厨房の出入口にお馴染みの部屋着姿をしたペプリ王女の姿が。初めての光景に震えが止まらずにいる、そんな王女に当然の様に三女が突っかかった。


トゥーチ「おうおうおう、俺達一応神だぞ!!何が「お姉ちゃん」だ、偉そうにしてんじゃねぇ!!」

クォーツ「トゥーチ、やめろ!!この子はこの国の王女様だ、それに俺にとったらお前らの様に大切な妹の1人なんだよ。いくらお前でも許さねぇぞ!!ペプリ、わざわざ会いに起きて来てくれたのに悪かったな。」

ペプリ「大丈夫、それに私一応・・・。」


 その瞬間、トゥーチが「ふぎゃあ!!」と声を上げて伏せてしまった。


ペプリ「上級古龍使い(エンシェント・ドラゴンマスター)だから。」

クォーツ「だからやめろって言っただろ?」

トゥーチ「そう言う事か・・・、悪かったよ。良かったら一緒にカレー食おうぜ、えっと・・・、何て呼べば良い?」

ペプリ「ペプリで、ただもう・・・、カレー・・・、無い・・・。」

セリー「ん?あ、私ったら・・・。」


 そう、騒ぎの間に次女が全て食べてしまっていたのだ。好美は急いで光に『念話』を飛ばした。


好美(念話)「光さん、起きてますか?!」

光(念話)「あー、お姉さん皮の塩2本を熱々で追加ねー。後生もよー。」


 ピューアによると渚やナルリスと「暴徒の鱗」でずっと呑んでいたらしく、酔っぱらってしまっていたのだ。とてもじゃないがカレーを用意出来る状態ではない。

 絶望していた好美は何かの匂いを感じた、何かしらの食材を炒める良い匂い。

何の匂いかと辺りを見回すと、寸胴鍋でニコフが何か料理をしている。パニックの中、唯一冷静だった将軍長はどんな最善策を見つけ出したのだろうか。

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