4. 異世界ほのぼの日記2 61~65


-61 吸血鬼の普段の姿-


 ガルナスが友人を送って来た姉の車に乗って魔学校に行こうとした時、父親であるヴァンパイアのナルリスが見送りにやって来た。煮込み料理の仕込みをしていたらしく、衣服から微かに赤ワインの香りが漂っている。


ガルナス「あ、お父さん。おはよう。」

ナルリス「皆おはよう。あれ?ピューアちゃんじゃないか、それと・・・。ああ、この前の。」

ピューア「おはようございます、先日お世話になったこの子は妹のメラです。ちょっと、何やってんの。」


吸血鬼の姿を見た人魚の妹は顔を赤らめ、目線を逸らしながら軽く会釈をした。どうやらナルリスに惚れてしまっているらしい。


ナルリス「ははは・・・、そんなにこの前のコロッケが美味しかったのかい?」

メラ「・・・、はい。」


 先日、ガルナスに魔学校の定期考査に向けてテスト勉強をしようとダルラン家に招待されたのだが、どうやら普段小食のメラは生まれて初めて大食いに目覚めてしまったらしく、同居している姉に持たされた昼食の弁当が全く足らなかったという。学校の購買で買ったバランス栄養食を数箱食べても一日中腹の虫が静かにならなかった妹にナルリスが丁度余っていたコロッケを振舞った時、その味に惚れこんでしまったらしい。

 中身はじゃが芋だけのシンプルな物だったのだが、過度の空腹だったメラにとっては格好のご馳走だった様だ。

 ナルリスのコロッケが大好物になった人魚は顔を赤らめながら小声で言った。


メラ「せ・・・、先日はご馳走様でした・・・。あの・・・、今度・・・。」

ピューア「メラ、もう行かなきゃ。すみません、これで失礼します。」


 慌てた様子のピューアによって後部座席に押し込まれたメラは何かをお願いしようとしていたが、ナルリスは全く聞こえなかったのでさり気なく聞いてみて欲しいとガルナスにメールを送った。

 返事をしてきた娘は快諾したみたいだがちゃっかりしていた様で、「その代わりお小遣い弾んでね」と一言添えられていた。

 娘の返信の内容を見て「相変わらずだな」と鼻で笑いながら厨房へと戻ると、仕込みを再開した。

 バルファイ王国へと向かうスルサーティーの後部座席で未だ顔を赤らめるメラに、同級生のハーフ・ヴァンパイアが笑いながら聞いた。


ガルナス「何?ウチのお父さんにガチで惚れちゃった訳?」


 メラは恥ずかしさの余り声が出なかったらしい、精一杯に出来たのが少し頷く位だった。体を震わせながら未だに顔を赤らめている。

 暫くしてからやっと気持ちが落ち着いたのか、メラは重い口を開いた。


メラ「羨ましいよ、あんなにイケメンで料理の上手なお父さんでさ。」

ガルナス「何言ってんの、プライベートはかなりだらしないよ。」


 父親は仕事をしている時はコックコートを着ていたり、外出時はそれなりの服装をしているのだが、家にいる時(特に風呂上り)は缶ビール片手にパンツ一丁で右往左往している事を娘が暴露した。

 普段の姿を想像したメラは再び顔を赤らめた、どうやら噂に聞くギャップ萌えという物らしい。

 そんな中、ピューアはまっすぐに延びる国道でギアを3速から4速に上げながら笑っていた。


ピューア「ははは・・・。ガルちゃん、そんな裏の情報言っちゃっていいの?」

ガルナス「良いんですよ、隠している訳では無いですし。それに・・・。」

ピューア「何々?」


 ガルナスは更なる情報をメラに耳打ちで教えると、より一層顔を赤らめてしまった。どうやらまた、家での姿を想像したらしい。


ピューア「何なの、気になるじゃん。」

ガルナス「いや実はですね・・・。」

メラ「止めて、聞くだけで恥ずかしいから!!お姉ちゃん、もうここで良いから!!」


 「ここで良い」と言っても魔学校の目の前だったのだが、恥ずかしくなり過ぎてちゃんと前を見ることが出来ていなかったのだろうか。

 「まぁ、いいか」と思った、ピューアは後で行く朝風呂で光達に聞く事にした。


-62 鈍感な女-


 妹たちを送った後、夜勤を終えた人魚(ニクシー)は1人愛車(スルサーティー)を転がしながら光に念話を飛ばした・・・、つもりだった。


ピューア(念話)「今、2人を学校に降ろしました。もう少しでお迎えに行くので準備をしておいて頂けますか?」

光(念話)「ありがとうね、あの子いつも遅刻スレスレだからもうハラハラしてたのよ。助かった、お礼に風呂上がりのビールを奢るから良かったらビルの駐車場に車置いて来て。」

ピューア(念話)「光さん、今日パン屋の仕事は?」

渚(念話)「あたいら2人共休みだよ。」

光(念話)「お母さん、何処から聞いてたの!!」

ピューア(念話)「ははは、相変わらずですね・・・、じゃあお言葉に甘えて車置いてから行きますね。」


 すると、ドライブ感覚でネフェテルサ王国までまっすぐ延びる道路を走っていたはずなのに一瞬で駐車場の目の前に景色が変わったので、驚いたピューアは思わず急ブレーキを掛けた。


ピューア「きゃあ!!何?!」

渚「やっほぉ。」


 犯人はやはり悪戯好きの渚だった、『探知』と『瞬間移動』を駆使してスルサーティーごとピューアを飛ばしたのだった。その様子をビルの15階に『瞬間移動』した光と、光の誘いを受けた好美が見ていた。


光(念話)「流石お母さんだわ、こういうのに関しては天才だね。」

好美(念話)「見てる方がヒヤヒヤしましたよ。」

渚(念話)「どうもどうも、じゃあ一先ず合流して行こうかね。」


 一旦渚がピューアを連れて15階に『瞬間移動』すると、光がお風呂山にある銭湯の前に向けて再び『瞬間移動』した。すると、そこには夜間の検問を終えた林田署長がひとっ風呂浴びようとルンルンしながら建物に入ろうとしていた。


林田「あら、皆さんお揃いで。おはようございます。」

渚「おはよう、林田ちゃん。また、サボりかい?」

林田「な・・・、渚さん!!何を言っているんですか、私は1度も業務をサボった事など・・・。」

渚「あれ?無かったかなー・・・?」


 渚の発言に顔を蒼白させる林田、どうやら渚に弱みを握られているらしい。署長は体を震わせながら逃げる様に男湯へと消えていった。


渚「相変わらずだね、あの子は。」

光「もう、あの人署長さんだよ。」

渚「何を言っているんだい、私には関係ないよ。」


 そう言いながら券売機で「大人・プレミアム」の券を買って4人は女湯に入って行った、「プレミアム」は洗い場にシャンプーとリンスが常設されている特別エリアと薬湯仕様の露天風呂が使用可能となる券だ。ただ、「プレミアム」を買っていなくても脱衣所にはシャンプー等が自動販売機で売られており、忘れ物があっても湯を楽しめる様になっている。

 「プレミアム」の4人はタオル1枚持つことなく手ぶらで浴場に入り、特別エリアの洗い場でシャンプー等を済ませていた。髪を少し濡らしたまま露天風呂に移動し、浴槽へと飛び込む。朝の露天風呂にはあまり人がいなくてほぼほぼ貸し切り状態となっていた。

 4人は表情を緩めながら湯を楽しみ、無言のままゆっくりとした時間を楽しんでいた中でピューアが思い出したかのように口を開いた。


ピューア「そう言えばなんですけど、家でのナルリスさんはどんな感じなんですか?」

渚「唐突だね、もしかしてメラちゃんの事かい?」

ピューア「そうなんです、ガルちゃんから耳打ちでナルリスさんの事を聞いて今まで以上に顔を赤らめちゃったんで何を聞いたのか気になっちゃって。」

光「何?ウチの旦那が何て?」


 光は今の今までメラがナルリスに惚れている事を知らなかったので、先程家に来た時どうして顔を赤らめていたのかが分からなかった。


光「ははは・・・、そうなの?パン一でテレビ見ながらずっとケツ搔いてるあの吸血鬼に惚れちゃった訳?ウケる!!」


 それから数秒程、静寂の時間が過ぎて行った。光以外の3人は全く笑っていない。


光「え・・・、マジなの?そう言えばあの時何か言おうとしていた様な・・・。」


-63 風呂上がりの5杯-


 4人は露天風呂から上がり、一先ず脱衣所で服を着て各々好きな乳飲料を飲んでいた。自動販売機にシンプルな牛乳や、フルーツ牛乳に、コーヒー牛乳、そして飲むヨーグルトと風呂上がりに是非飲みたい物が揃っている中で、「アレ」を我慢している4人は購入した飲み物を一気に流し込んで脱衣所を後にした。

 フロントの前にある小さな冷蔵庫を開けて中身を取り出した後、受付にいる女将さんに申告してお金をその場で払うシステムだ。


光「お・・・、お姉さん、これ4人分お願い!!」

女将「光ちゃんはいい子だね、やっと分かる様になって来たじゃないか。サービスしちゃおうかね。」


 ピューアは冷蔵庫の中身をてっきり缶ビールだと勘違いしていた、ただ中で冷えていたのはまさかのビアジョッキ・・・。風呂上がりの人魚は初めてのシステムに少し戸惑っている様だ。


ピューア「ジョッキを買うんですか?」

光「いや、ジョッキは後で返すんだけどね。」


 そう言うと女将が青いカードを4枚取り出して手渡してきた、正直ピューアは未だにチンプンカンプンな様子。


女将「おや、お姉さんは初めてかい?これをあそこに入れるんだよ。」


 女将が指差した先にはビアサーバーが設置されている、ジョッキを固定して横に設置されている挿し込み口に先程の青いカードを挿し込むと自動で冷えた生ビールが出て来るシステムだ。

女将曰く、以前持参してきたマグカップに支払った分以上の量のビールを入れて持ち帰ろうとしていた客がいたそうなので独自に開発した盗難防止システムだそうだ。

因みにだが、1枚のカードで5杯まで呑める様になっていて入浴者は1枚まさかの1000円だそうだ。また入浴せずビールだけの利用も出来るが、1枚2500円になっている。

ビアサーバーのすぐ横に座敷が数卓程設置されており、その周囲だけ下にお風呂山からの湧水が流れていて京都の川床の様になっていたので涼し気な気分でビールを楽しむことが出来る様になっているそうだ。

 因みに肴は持ち込みも可能だそうだが、女将さんが育てた枝豆が評判で皆注文している。4人も塩ゆでの枝豆を頼んで席に着いた。


女将「それにしてもあんた達朝から贅沢だね、仕事は大丈夫なのかい?」

光「2人休みと2人夜勤明けでね。」

女将「そうかいそうかい、そりゃ1晩働いてお疲れ様なこったね。」


 そう言うと、女将が奥へと消えて行ったので4人は早速1杯目を注ぎに行った。ビアサーバーにジョッキを固定してカードを挿し込むと、金色(こんじき)に輝く生ビールが並々と注がれた。

 座敷に戻ると、ほぼ同じタイミングで女将が突き出しを持って来た。突き出しは日替わりで、女将が自ら屋台から仕入れた拘りの素材で作った物。因みに今日は今朝採れた胡麻鯖で作ったしめ鯖だ。


ピューア「うーん、このしめ鯖美味しいです。作り方教えて欲しい位ですね。」

女将「やだよぉ、まさか人魚さんに褒めてもらえるなんて思わなかったね。」


 そう言うと、女将は顔を赤らめながら4人が注文した塩ゆでの枝豆を置いた。茹で上がったばかりの枝豆1粒1粒が輝いて見える。

 熱々の1粒を口にしたピューアはビールで流し込んで幸せそうに息を吐いた。他の3人も同様にビールを満喫している。


渚「やはり風呂上りはこれだね、これ以外にあり得ないよ。」

光「本当、最高の風呂上がり。」


 下に流れる湧水が4人の気分をより一層良い物にしていった、内からと外からの相乗効果で火照りがどんどん癒されていく。

 それから4人はずっと無心になってビールを煽っていた、その場の雰囲気を楽しんでいたかった様だ。

 3杯目を呑んでいた頃には少し衣服が崩れていたが、そこにいた全員がお構いなしになっていた。

 5杯目を飲み干した4人は顔を赤らめながら幸せそうな表情を浮かべていた、たった数時間で休日を丸々満喫した様な気分だった。

 しかし、4人はまっすぐ各々の家に帰らなかった。考えは共通していたらしく、行先も一緒、ゲオルの雑貨屋。

 そう、全員昼呑みしたくなっていた。


-64 対決への意気込み-


 好美とピューアは各々のシフト表を見て、今夜は仕事が休みだという事を確認した。ただ好美は目の前にいる人魚(ニクシー)について気になる事があった。


好美「ねぇ、そう言えば午前中に料理教室をするって言ってなかった?」

ピューア「うん、今日はそっちも休みなの。」


 どうやらピューアは幸運が重なったらしく、明日の夜まで仕事が休みだという。これは本人からすれば是非とも一緒に昼呑みしたい、今日は3人を誘っておいて正解だと嬉しそうにしていた。

いつもは銭湯に入らず、お風呂山で渚や真希子の記録に追いつきたいが為に愛車で上り(ヒルクライム)と下り(ダウンヒル)を繰り返し、タイムを計測するばかりだったのであんなにいい場所が身近にあったなんて思わなかった。

今日は流石に運転はやめておこう、その代わりいっぱい3人と吞んで楽しんでやろうと胸を躍らせていた。

 そんな中、渚がふと思い出したかのようにピューアに質問した。


渚「そう言えば、最近走っているかい?」

ピューア「そうですね、ただ中々渚さんに追いつきそうになくて・・・。」

渚「じゃあ今日、バトルやってみるかい?」


 それを聞いた光は急いで母親を止めた、流石に飲酒運転をさせる訳にはいかない。


光「お母さん、捕まるよ?」

渚「あんた何言ってんだい?まさか今からエボⅢに乗るとでも思ったのかい?」


 光は1人呆然としている、ピューアも同様に呆然としていた。


光「違う・・・、の?」

ピューア「私もそっちだと思ってました。」

渚「流石の私だって今日は乗る気もしないよ、今からするのは「酒の肴」での料理対決さね。各々が自信のある1品を作るっていうルールでどうだい?」


 すると、それを聞いた好美は急いで材料を調達しだした。参加するという意思の表明なのだろうか。


光「ちょっと待って、これって私も参加する空気?」

渚「あら?あんた、自信ないのかい?そう言えば好美ちゃんの姿を見ないね、どこ行ったんだろう。」


 渚は『探知』で好美を探した、どうやら屋台で生鮮物を買っている様だ。


渚「あの子・・・、どうやら本気みたいだね。」

光「何でそこまで?」

ピューア「多分、免許を持っていないから車以外でならと意気込んでいるのではないかと。」


 まさにその通りだった。実は普段、渚と光、そしてピューアの3人は真希子も交えて車や峠の攻め方にバトルの話ばかりしていたので、好美は話に付いていけなかったのだ。

 料理でなら自分も参加出来るとかなり興奮して奮発していた、自然薯を買っているのが何よりの証拠だ。それを知った渚は悪戯心に火がついたらしく顔をニヤつかせている。


渚「ちょっと、意地悪しちゃおうかね。(念話)追加ルールなんだけどね、予算は1人2000円までにしようかと思うんだけどどうだい?」

好美(念話)「えっ?!」


 驚く好美の購入額は既に5000円を超えていた、一体何を作るつもりだったのだろうか。


光(念話)「もう、人が悪いんだから。ごめんね、冗談冗談。」

渚(念話)「それにしても気合が大分入っているね、何を作るつもりなんだい?1品ってルールだよ。」

好美(念話)「え、えっと・・・、これは普段の買い物です!!」


 明らかに胡麻化そうとしているのが見て取れる、好美は物凄く焦っている表情をしていた。ただ普段の買い物で自然薯なんて買うのだろうか。


渚(念話)「今日は麦飯なんて出るのかい?」

好美(念話)「ほ・・・、細切りにするんです!!海苔と醤油で和えたら美味しい肴になるんでそれを作ろうかと。」

渚(念話)「今完全にネタばらししたね。」

好美(念話)「あ・・・。」


-65 渚の危機と作戦-


 渚の悪戯により渾身の料理をネタばらししてしまった好美は、自然薯を持つ右手が何となく虚しく思えた。しかし、問題ない様子で予定通り作る事にした。折角の自然薯を無駄には出来ない。

 好美がいじられている頃、光もピューアを連れて屋台へと『瞬間移動』していた。是非とも新鮮な生鮮食品を手に入れたいが故に、渚には何も言う事無く行ってしまったので渚は雑貨屋の店内で1人動揺していた。


渚「あれ?いつの間に?あたしもそっち行くよ。」


 ただ、商品棚の陰から刺さる様な目線を感じた。店長のゲオルがずっと渚をロックオンしていたのだ。


ゲオル「渚さん、屋台でのお買い物は御代金をお支払いになってからお願い致しますね。」


 よく見れば、4人分の買い物がカートにそのまま残っている。


渚「勿論ですよ、常識じゃないですか。それにしてもまんまとやられたね・・・。」


 光は渚の先程の発言を忘れていなかった、そう「1人につき予算は2000円まで」というタチの悪すぎるジョーク。

 因みに、雑貨屋での買い物は合計1987円。


光(念話)「この市場での買い物を2000円以内にすれば良いんだよね、お母さん。」

渚(念話)「あんた、これが狙いだったんだね・・・。これじゃ、市場で何も買えないじゃないか。」


 ピューアのお陰と言っても良いのか、カートの中身は殆どが酒とチーズだった。強制的にだが、メニューは決まった様な物だ。ただただ、暑い時期に食べたくない物になりそうだが。


渚「ピューアちゃんにもまんまとやられたね、これじゃ「アレ」しか作れないじゃないか。」


 しかし、1発逆転出来る方法があった。ただ、その為には確認すべき条件が1つ。光に今から聞く事が大丈夫なら確実に逆転できる。

 渚はピューアと鯖を吟味している光に改めて念話を飛ばしてさり気なく確認した。


渚(念話)「そう言えば、場所を決めてなかったね。」

好美(念話)「いつも通りウチでやりますか、私は構いませんけど。」

渚(念話)「いやいや、それは申し訳ないよ。たまにはウチでも良いと思わないかい、ねぇ光?」

光(念話)「そうだね、家庭菜園の野菜を使えば予算オーバーする事ないし。」


 娘の一言に勝利を確信した母は、顔を少しニヤつかせた。これで料理の幅が広がる、渚の狙いは「家庭菜園の野菜」を利用する事だった。

 冗談で言った追加条件が自らを殺してしまう事になるとは思わなかったが、これで形勢逆転だ。

 渚の思惑に誰も気づくことなく、その場の流れで光達の家での開催が決まった。

 生鮮食品を買う事が出来なかった渚を含めた4人は、ダルラン家の裏庭へと移動した。地下の冷蔵庫に酒と要冷蔵のものを『転送』し、早速料理の準備へと入る事に。

 ピューアが1人買って来た魚を捌いている中、他の3人(特に渚)は一目散に家庭菜園へと走って行った。

 最初に家庭菜園へと入って行った時の渚の必死そうな表情を見た光は、やっと母親の企てに気付いたらしい。


光「お母さん、それが狙いだったね?」

渚「そうさね、ただもう遅いよ。」


 渚は両手いっぱいにレタスやパプリカを持っていた、狙い通りの物が手に入ったので満面の笑みを浮かべている。

 その上、冷蔵庫の余り物は予算の範囲外なので中に入っていたベーコンや豚バラ肉も使えそうだ。

 渚は豚バラ肉1パックを手に取り、裏庭へと戻る。

 釜の火にかけた鍋で湯を沸かし、肉を投入した。沸騰しない程度のお湯でゆっくりと火を通し、硬くならない内に氷水で冷やしてしめる。

 冷蔵庫から今回はポン酢を『転送』してさっぱりとした味付けにした、これで先程買って来たチーズを活かせる。

 チーズはコロコロとした小さなサイコロ状に切って上に乗せ、同時に購入したフランスパンでクルトンを作って乗せる。

 渚の作戦勝ちだったらしく、どうやら危機を脱した様だ。

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