4. 異世界ほのぼの日記2 51~55


-51 生姜焼きと2人の関係-


 肉屋に来た者の内、転生者の2人はほぼほぼ同じ気持ちになっていた。今は帰り方も分からないこの異世界に来る前の記憶を辿り、この世界で初めて会ったはずの2人が同様の懐かしさを覚えていた。

 綺麗な皿に盛られており良い匂いで5人の食欲を誘う物の正体は、ご飯が進みお弁当の定番で人気のあるあの料理。

 おかずとしても肴としても相当の威力を発揮する香りと味。


好美・真希子「これは・・・。」


 目に飛び込んできた光景を未だ信じる事が出来ない2人をもう既に着席していたナルリスが手招きした。


ナルリス「早く食べようよ、折角の美味しそうな料理が冷めちゃうよ。」

真希子「そうだね、待たせて悪かったよ。」


 促されるがままに着席する2人、全員が席に着いたのを確認したケデールは意気揚々とその場を仕切っていた。


ケデール「皆さん、お着きになりましたね。では当店で1から育て上げた豚のロース肉で作った生姜焼きをお召し上がりください、ガイさんの田んぼで採れた白米とご一緒にどうぞ。」


 店主の言葉が終わると一斉に生姜焼きに箸を延ばして1口、咀嚼をする度にやはり記憶にあるどこか懐かしい味で好美と真希子は嬉しそうだった。よっぽど生姜焼きが好きだったのだろうか、涙を流しながら白米で追いかける。


好美「やっぱりこれ・・・、あいつの・・・。」

真希子「あの子の味だよ、まさかこっちに来ているのかい。」


 当時使っていた素が同じだったのだろうか、2人にとっての懐かしい味はぴったりと一致していた。

 それはそうと、注目すべきは豚肉そのものである。1から餌に拘りながら育て上げ、脂の甘みと柔らかさを重視して育て上げたその肉は5人の舌を確実にうならせていた。横に添えられたキャベツやマヨネーズと組み合わせながら食べ進めていき、5人はただただ無心に食事を進めていった。10分もしない内に用意された皿が綺麗に空けられていた。

 その様子を見て満足そうな表情を浮かべる店主は、店の奥に顔を向けて頷いた。


ケデール「この豚を育てた人間を紹介させて下さい。実はこいつ、好美ちゃんや真希子さんみたいに転生して来た奴でしてね。この世界にやって来た瞬間、丁度担当者を探していた俺が拾って豚の世話をお願いしていたんです。この料理もこいつがどうしても自分が作りたいって言うから許可しましてね。おーい、こっちこっち。」


 すると奥から日に焼けて少し焦げた男性が顔を出した、薄汚れたつなぎ姿で首にタオルを巻いて長靴を履いている。

 

男性「いらっしゃいませ・・・、やっぱりそうだったか。」


タオルで汗を拭いながら笑顔で部屋に入って来た男性を見た転生者2人は同時に立ち上がると。


好美・真希子「守(まもる)!!・・・へ?」


 2人が同時にまさかの同じ名前を呼んだので2人は互いの焦った表情を見ていた。


真希子「どういう事だい?どうして好美ちゃんが息子の名前を知っているんだい?」

好美「む・・・、息子?守、どういう事?」


 驚きを隠せない好美の言葉を聞いた宝田 守(たからだ まもる)は冷静に答えた。


守「聞いた通りだよ、俺の母ちゃんと元カノ。」

真希子「確か県外の大学に入ってすぐに服の趣味が合う彼女が出来たって聞いていたけど、まさか好美ちゃんだったとはね。」

好美「私もです・・・、世間って狭いですね・・・。」


 何処か気まずい雰囲気を感じたのか、あたふたしているケデールは一先ず話題を戻す事にした。


ケデール「あの・・・、豚肉の方はいかがでしょうか。」

シューゴ・ナルリス「文句なし、俺達に扱わせて下さい!!」


-52 息子達の再会-


 改めて肉屋と飲食店2店舗との契約が成立したのも束の間、真希子はシューゴやケデールと談笑するナルリスに時間を貰って久々に再会した息子に話を聞く事にした。


真希子「あんた、いつの間にこの世界に来たんだい?母ちゃんに一言あっても良かったじゃないか。」

守「まさか母ちゃんが異世界に転生していたなんて思わないだろ?えらく長い間トイレに入っているなと思ったら、「貝塚財閥筆頭株主行方不明」のニュースがテレビで流れたからびっくりしたんだよ。それから数か月かけて資料を引っ張り出しながらニュース見たり、新聞を読みまくって貝塚義弘の釈放や行方不明に関連付けて調べたらここにたどり着いたって訳。」


 流石は大企業の筆頭株主、本人は正体を隠してひっそりと暮らしていたつもりだったが巷ではかなりの有名人になっていたらしい。

 それにしてもこの世界は調べるだけで簡単に来ることが出来るものなのだろうか。


守「行方不明直前に義弘がいたと聞いた山小屋に忍び込んだ時、奥の部屋の床が抜けてて滑り落ちたらこの世界だったって訳。」

真希子「そうかい・・・。そう言えばあんた、結愛ちゃん達とはもう会ったのかい?」

守「結愛って貝塚結愛の事か?あいつもこっちに来てんの?」


 まさかこの世界で聞くとは思わなかった久々の名前に驚きを隠せない守、ただ驚くのはまだ早い。

 すると守の背後から忍び寄る様に伸びていた手が肩を軽く2回、後ろから叩いていた。正体は勿論・・・。


守「うわっ!!結愛に光明!!何でここに?!」

結愛「るせぇな・・・、いきなりでけぇ声出してんじゃねぇよ。好美から『念話』が飛んで来たから来たんだよ。」

守「いや、訳分かんねぇ。好美がいつの間にそんな事を?神様が言ってた『作成』ってやつの影響なのか?」


 結愛がこの世界にいる事に関しては母の悪い冗談と思っていた守、正直何が何だか分からなくなっている。

 ただ守は神からこの世界や『作成』のスキルについての一通りの説明を受けてはいたのだが、転生してからすぐにケデールに拾われ養豚の仕事に就いたので他の転生者と同様のスキルはまだ身につけてはいない。自らのステータスも見た事ない位だから本当なのだろう。


光明「それにしてもお前、ずっとこっちで何していたんだ?」

守「ここの店主に拾われてずっと養豚の仕事してた、でもどうして俺普通に言葉を話せてんだ?この世界の標準語は日本語なのか?」


 どうやら守を転生させた時、神様が『自動翻訳』についての説明を忘れていたらしい。光がいれば何とか説明がつくのだが、ナルリス曰くこの時間は家で家族の朝食を作りつつ洗ったばかりの洗濯物を干している為忙しいそうだ。

 因みに真希子は日本にいた頃、「赤鬼」と称された光の母・渚と肩を並べていた走り屋だった事を内緒にしている。当時の愛車(スルサーティー)は地下深くの格納庫にて厳重に保管し、普段は渚と同様に軽バンを使用していた。

 そんな中、以前から真希子と約束していた渚がお風呂山での朝のひとっ走りを終えて『瞬間移動』して来た。現場に全く現れないので心配して『探知』で居場所を探したそうなのだ。


渚「真希子、こんな所にいたのかい?全く来ないから心配したじゃないか。」

真希子「悪かったね、店長が行こう行こうって言うもんだから。」

渚「ナルリス、大将。私に一言あっても良かったんじゃないのかい?」


 状況を察してか、実はかなりの豚肉好きである渚は誰からも誘われなかったから少し涙目になっていた。

 するとその瞬間、店の前からエボⅢの排気音(エキゾースト)と中に組み込まれているCPUによる破裂音に似た爆音が響いた。


真希子「あんた、エンジンつけっぱなしじゃないか!!」

渚「あら、置きっぱなしにしていたからスーさんが持って来てくれたのかね。」


 車の調整の為、朝から渚に付き合っていた「車屋のスーさん」こと商人兼商業者ギルドのマスターである珠洲田がわざわざ届けてくれたらしい。調整の最終確認を兼ね、敢えて走らせて来たそうだ。

 その時、新たにやって来た母の友人の為、先程と同様の生姜焼きに白米と味噌汁をつけて和定食として提供しようとした守が、驚きの表情を見せていた。


-53 憧れていた存在-


 守には幼少の頃から憧れていた存在がいた、自らの記録の為ではなく警察に協力して平和の為に走っていた伝説の走り屋、通称「赤鬼」。

 ある年の夏の日、父親に手を引かれ近所の山にあるスポットに花火を見に行っていた当時5歳の守は一緒にゆっくりと歩いて山を下りていた。

 自動販売機で父親に買って貰ったオレンジジュースを胸に抱え、ニコニコと笑いながら父親と歩く。

 当時親子が言ったスポットは父親のみぞ知る秘密の穴場だったので、周りには山を行き来人がいない・・・、はずだった・・・。


音「ドドドドドドドド・・・、バウーン、バウーン!!」


 山の麓から幾重にも重なる激しい爆音が近づいて来た、暴走族のバイクが山の下から登って来たのだ。父親は守に怪我をさせない様に、そして自分も無事に帰る事が出来る様に早足になって家路を急いだ。

 何事もなく暴走族達が過ぎていった後、数台のスポーツカー何組かに別れてが山を登って行った。ゆっくりと走って排気音を可能な限り抑えて静かに・・・、静かに・・・。

 真っ暗な中、父親の懐中電灯の光で一瞬だけ見えた赤いエボⅢのボディ。左のヘッドライトに刻まれた稲妻のマーク・・・。


父親「ありゃ有名な「赤鬼」ってやつか?初めて見たな・・・。」

守(幼少時代)「「赤鬼」って?」


 父親は警察に協力する正義の走り屋だって言っていた、ただ巷では怖い奴が乗っている事で有名になり恐れられていたそうだ。

 2人が家路を急いでいると廃車となっていた大きなバン等が数台、道を遮る様に横向きに置かれている。

 すると頂上から勢いを付けて暴走族のバイクが降りて来た、耳の鼓膜が破れんばかりの爆音と共に降りてくる数台。

 廃車のある辺りを過ぎた所に警察車両があり、そこにいた警官2人に急いで降りて来るように導かれ保護された。

 1人は新人警官だったのであろうか、手を震わせながら父親を安全な所に連れていく。一方で守は先輩の警官に連れられた、経験を積んでいたが故に大きくて暖かだった手は震えておらず落ち着いていた。確か、そこにいた仲間から「署長」と呼ばれていた気がする。

 その警官達は親子を山に張られたバリケードの出口辺りまで連れていくと、署長はしゃがみ込み守の頭を撫でた。


署長「今夜は本当に危ないから、お父さんの言う事をよく聞いて、ちゃんと手をつないで帰るんだよ。」


 すると後輩の新人警官が近づいて来た。


新人警官「署長・・・、奴らが中腹まで降りて来たみたいです。走り屋達もピッタリと後ろに付いていると連絡がありました。」

署長「分かった、すぐ行くよ。では、これで。おやすみなさ・・・。」


 署長の声をかき消す様にバイクから発せられる爆音が聞こえて来た、そこにいた

4人は両手で耳を塞ぐのに精いっぱいで何もできなかったが、遠くでスポーツカー2台に追い詰められた暴走族のバイクがコーナーを曲がり切れず、真下に警官が設置していたマットへと落ち込んだ。

 その2台のバイクを追い詰めていたスポーツカーの内、1台が先程の赤いエボⅢだったのだ。

 走り屋達は目的を達成すると、何も無かったかのように山を登って行った。

 父親の言葉だけの微かな記憶・・・、本当にそれだけだがとても印象が強かったので守はずっと「赤鬼」に憧れていた。そう・・・、あの4WDを乗りこなしていた「漢(おとこ)」に・・・。

 十数年経った今、ずっと憧れの対象だったエボⅢが目の前にいる。ただ思ってもいなかった、持ち主がまさかの女性で、しかも母親の友人である渚だったなんて・・・。

 それもそうだ、当時渚は自らが「赤鬼」である事を隠すために普段は軽自動車に乗っていたから無理もない。


渚「あれ?そこにいるのは守君じゃないか、大きくなったねぇ。私の事覚えているかい?」

守(現在)「覚えているも何も・・・。渚おばちゃんだよね・・・、いや俺がずっと憧れていた「赤鬼」さん・・・。良かったら生姜焼きを食べて行って下さい!!」


 守は涙が溢れそうになって仕方が無かった、こんなに嬉しいハプニングは一生に一度あるかないかだ。


渚「あれ?守君にエボⅢの事言ってなかったかね、何か悪い事しちゃったね。」

真希子「いや逆だよ、あの子あんたとエボⅢに会えて嬉しかったみたいだよ。」


-54 料理どうする?-


 養豚をしていた貝塚財閥筆頭株主の息子が目をキラキラと輝かせ、渚のエボⅢの写真を数十分かけてずっと撮っていた。


渚「あんたも飽きないね、こいつはかなりの年代物なのに何でそいつにこだわるのさ。」

守「そりゃそうさ、ガキん時に目の前を走る姿を見てからずっと追っていた車なんだ。そう飽きる事は無いね。」

渚「うれしいね、今度乗せてやるさね。洗車しておくわ。」

守「おばちゃん待ってよ、俺が洗車するって・・・。」

渚「あなた・・・、さっきもそうだけど「綺麗な渚お姉さん」だろ?」

真希子「あんた、まだそんな事言ってんのかい?もうそこそこいい歳だろ。」


 呆れる母の横で息子は幼少時代を思い出したのか、開いた口が塞がらず、全くもって声が出ない様になってしまっている。何かトラウマを産む出来事があったのだろうか。

渚が「女将」と呼ばれるのを嫌うのは皆知っていたが「おばちゃん」と呼ばれるのも嫌いだったとは、ただ普段から孫のガルナスに「おばあちゃん」と呼ばれているのは許容の範囲内なのだろうか。

一方で、守から各々サンプルを受け取ったナルリスとシューゴ、新たな素材の味を極限まで活かす物を作ろうと意気込んで各々の店へと帰って行った。

生姜焼きでも出されたロースを受け取ったナルリスは柔らかさを活かす料理をと頭を抱える・・・、事は全く無く料理はもう既に決まっていたという。


ナルリス「やっぱりトンカツかなぁ・・・、正直個人的に食べたいし。」


 完全に個人的な欲望が丸出しになってしまっている、考えていたのは新メニューではなく自らの昼ごはんだったのではなかろうかと光に疑われる位だった。


ナルリス「そ・・・、そんな訳ないだろう。」

光「じゃあその涎は何?」


 想像しただけで食欲が爆発してしまっていたオーナーシェフは、欲望が前に出過ぎてしまっていた。それはそうとして問題は商品の構成と味付け。


ナルリス「今回は和定食で行こうと思うんだが、どうだろう。」

ミーレン「でも味付けは今まで通りデミグラスよね?」

光「それだったらどうしても洋風になるんじゃない?ここはやっぱり・・・。」

真希子「胡麻だれだね!!」

光「ひゃぁっ!」


 友人や息子との会話を終え、『瞬間移動』で戻って来た真希子が横から話に割り込んだので光は思わず声を漏らしてしまった。

 ただその横で冷静に対処していたナルリスは、やはり素材の味に拘っている様で。


ナルリス「いや、敢えて塩だけで行こうかと。」


 そこでナルリスは双方から出た味付けの案を試すべく、トンカツを数枚揚げてみた。一先ず何も付けずに試食すると、生姜焼きで食べた時と同様に脂の甘みが全員を感動させていた。

 先程2人から提案された味付けを試してみると・・・。


真希子「こう言っちゃあれだけど、塩はシンプル過ぎて脂の味に負けちゃってるね。」

ナルリス「逆に胡麻だれは強調し過ぎだなぁ、どうしたものか。」


 その瞬間出入口のドアが開き、ベルが鳴った。入って来たのは女子高生らしい。


真希子「すみません、今は準備中でして。あら?貴女高校生ね、学校はどうしたのかしら?」

女子高生「今日は部活が休みで、早く帰って来ただけなんですけど。それより、おばさん誰ですか?」

真希子「「お姉さん」だろ・・・、え?帰って・・・、来た・・・?」


 そう、店に入って来たのはダルラン夫婦の娘であるハーフ・ヴァンパイアのガルナスだ。


ナルリス「ガルナスお帰り、えらく早いと思ったら陸上部が休みか。」

ガルナス「ただいま、それでお父さんこの人は?」

ナルリス「ああ、まだ紹介してなかったな。副店長として働いている宝田真希子さんだ、手料理が美味しいんだよ。」

真希子「ガルナスちゃんだっけ?知らなかったとは言えさっきはごめんね、お詫びに何か作ろうか。」

ガルナス「良いの?丁度お腹ぺこぺこでさ、死にそうだったの。」

光「あんた・・・、お弁当は?まさか・・・、またやったのかい?」


-55 新メニュー完成-


 母親に問いただされた娘のハーフ・ヴァンパイアが、いつもの癖で早弁をした事を吐露したが故に説教を喰らっていた中、調理場では真希子は薄切りにした豚ロース肉を丁寧に灰汁を取りながら茹で氷水で〆ていた。そう、冷しゃぶだ。

 ガルナスが好みに応じて食べる事が出来る様に和風のタレを2種類用意していた。


真希子「まぁまぁ、それ位にしときなって。本人も反省しているみたいだし。」

光「おばちゃん、甘やかさないでよ。この子、弁当持って行った時毎度毎度早弁するんだよ。」

真希子「ははは・・・、流石は光ちゃんの子で渚の孫だね。あの子も昔学校で毎日の様に早弁してたんだよ。」

光「もう・・・、遺伝ってやつなの?」


 その頃、好美所有のビル1階にある調理場で噂のあの人が大きな嚏(くしゃみ)をした。


渚「はぁーっくしょん!!はぁ・・・、花粉症かな・・・。」


 レストランでは真希子が冷しゃぶを完成させ、事前に冷やしておいたガラス製の器に盛っていた。豚肉の下には細切りにしたレタスと胡瓜、そして大葉が敷かれている。肉と一緒にと角切りにした豆腐を散らせている。

 薄切りにして水にさらした玉ねぎを乗せていて見た目も涼しい。


真希子「ガルナスちゃん、お待たせ!!」


 料理を見たオーナーシェフの娘はキラキラと目を輝かせている。最初の1枚を取り玉ねぎを巻きながらタレを付けて食べていた、最初は胡麻だれ。


ガルナス「うーん、やっぱり冷しゃぶと言えばこれだよね。」


 口いっぱいに肉を頬張り嬉しそうな顔をしている。もう一方のタレで食べようとしていたその時、娘の様子と料理を見ていたナルリスが反応した。


ナルリス「それだ!!それで行こう!!」

ガルナス「な・・・、何?夏限定の豚ロースの冷しゃぶサラダセットや冬限定の蒸篭蒸ししゃぶ定食は前から出していたじゃん。」

真希子「あんた・・・、やたらとメニューに詳しいね。」

ナルリス「ああ・・・、言ってなかったか。実はここのメニューの多くはガルナスが考えた物でね、俺も頭が上がらないんだよ。」


 話が完全に逸れてしまっているので娘が話題を戻した。


ガルナス「お・・・、お父さん。それでさっきのは何?」

ナルリス「ああ・・・、悪い悪い。そのタレだよ、おろしポン酢。」


 トンカツに大根おろしかけた状態で提供し、その上からポン酢を好みに応じてかける形にしてみた。


真希子「これ良いじゃないか、それにこの柑橘類も光ちゃんが作っている物だろ?」

ナルリス「こんなにピッタリとは思わなかったな、正に燈台下暗しってやつだね。」


 ただ少し寂しさを感じていた真希子が何か味のアクセントになる物を付ける事は出来ないかと申し出たので、練った和辛子を添えてみた。ピリッとした辛さが食欲を誘う。

 そんな中、メニューの殆どを考案したハーフ・ヴァンパイアが横から声を掛けた。以前光が大根から作ったいぶりがっこを使ったタルタルソースをかけてみないかと。


ナルリス「鶏南蛮ならぬ豚南蛮か・・・、初めて聞いたな。」

真希子「面白いじゃないか、世の中色々とやってみないと分からないからね。」


 思った以上に美味しいので皆驚いていた、いぶりがっこの食感とタルタルの酸味がトンカツの脂の甘味を引き立てていた。

 心なしか少し柔らかくなっていた衣のトンカツが何処か喜んでいるように見える。


ナルリス「やはりメニューを考えるのはガルナスの役目だな、勝てないや。」

ガルナス「・・・という事は?」

ナルリス「うん、「守さんの豚ロースを使ったおろしポン酢トンカツ定食・豚タルタル南蛮定食」即採用だ!!」

真希子「じゃあうちの子に言っておかないとね。」

光「えっ?!もしかして守君の事?!守君が来ているの?!」


 少し嬉しそうな表情を浮かべる光、ナルリスは何処か嫌な予感がしていた。

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