4. 異世界ほのぼの日記2 ㉛~㉟


-㉛ 完成に近づく拉麵屋-


 自らの舌で料理の腕を確かめた好美が、いち拉麵屋のオーナーとしてピューアを公認した宴の次の日の朝。体をこれからの夜勤に合わせる為、昨日の宴の後すぐベッドに入ってしっかりと夜型人間となり迎えた朝7:00。テレビの電源を入れてをニュースを見ながらタッパーに詰めておいたピューアの料理で軽く食事を済ませると、偶々なのだが気が向いたので1階にある拉麵屋の店舗部分へと足を運んだ。

 どうやら共同経営者となるシューゴとパルライにより順々と新店の従業員が決定しており、従業員名簿の中に「ナイトマネージャー ピューア・チェルド」の文字を見つけた。

 「2人も認めてくれたんだな」と1人笑みを浮かべていると『念話』が飛んで来た、大将のシューゴだ。先日、好美が『付与』したのだが結構使いこなせる様になったらしい。


シューゴ(念話)「勿論だよ、オーナーの意向に応えるのも俺達の仕事だからね。」

パルライ(念話)「好美ちゃんの意見は僕たちの意見でもあるんだ、それに自身で実力を確認してくれたんだろ、否定なんかしないさ。」


 パルライとはこんなにフランクな感じで話していたかどうかが疑わしいが、相手は国王なので否定したら自分の首が飛びかねない。


好美(念話)「あ・・・、ありがとうございます。一押しの方なのでどうぞよろしくお願いします。」

シューゴ(念話)「そんなに硬くならないでね。これからは君も経営者の1人、オーナーなんだから。」

パルライ(念話)「そうだよ、言わば仲間なんだからね。」


 好美は緊張しながらも自らも一歩進まねばと思ったので・・・。


好美(念話)「は・・・、うん・・・、分かった。」

シューゴ(念話)「改めてよろしくね、オーナー。」

パルライ(念話)「俺達ももうすぐそっちに行くから詳しくはその時に話そう。」


 数分後、2人が1階にやって来た。シューゴは一と渚に店と屋台を、パルライも店を副店長に任せて来たそうだ。

 両人の手にも従業員名簿のコピーがしっかりと握られていた。そして好美にとっては初対面の人達が2人の傍らにいた、話の流れからどうやら2人が雇った店長と副店長らしい。あとはもう1人のナイトマネージャーを雇うのみになっていた。


シューゴ「好美ちゃん、お待たせ!!新店の店長・副店長になる予定の方々を連れて来たよ。」

パルライ「好美ちゃんの希望通り2人共経営学部出身で勿論調理師免許持ちだよ、それに元々俺の国の王宮の厨房を守っていたんだ。腕はお墨付きだよ。」


 2人は元々バルファイ王国で「竜将軍(ドラグーン)」と呼ばれていた者達らしい、パルライ曰く竜将軍は兵士としての実力以外に料理や学力にも長ける者だけが呼ばれる称号との事だ。しかし、「論より証拠」派の好美は実際に料理を食べてみて判断したいと思った。それに丁度、軽くしか食べていなかったので空腹で仕方がない。


パルライ「お2人共、こちら倉下好美さんです。ご挨拶を。」

竜将軍①「はっ!!私は元厨房担当の竜将軍、このマンションの816号室に入居予定のイャンダ・コロニーであります!!こちらのお店で店長をさせて頂きます、宜しくお願い致します!!」

竜将軍②「私は元厨房担当の黒竜将軍(ブラック・ドラグーン)、このマンションの817号室に入居予定のデルア・ダルランであります!!副店長です、私も宜しくお願い致します!!」


 目の前で2人が大声をあげたものなので思わず耳を塞いだ好美、それにもう王国軍の者でも無いのに物凄く堅苦しい。

 好美はどうすればいいのか分からなくなり、助けを求めざるを得なかった。


好美「パルライさー・・・。」

イャンダ・デルア「貴様!!王に対し無礼であるぞ!!」

パルライ「やめなさい!!好美さんはこの「ビル下店」のオーナー、私やシューゴさんとの共同経営者の1人で貴方方の上司ですよ!!好美ちゃん、ごめんね。」


 少し怖くなってしまった好美は水が飲みたくなったので『瞬間移動』で15階に行き、ペットボトルの水を持って戻って来た。椅子に腰かけ水を一口。


パルライ「落ち着いたかい?本当にごめんね。」

好美「う・・・、うん。水飲んだから大丈夫。」


 それより好美には気になった言葉が2点ほどあった・・・。


-㉜ 3人の料理人-


 元王国軍の将軍たちについてパルライが行っていた事は本当なのだろうか、好美は別に1国の王を信用していない訳では無いのだが先程も記した通り「論より証拠」派なのだ。

 それに是非とも王宮の厨房を担当していた将軍達の料理が食べてみたい、その上偶然が重なりお誂え向きにも丁度空腹で腹にたまる物が良い。

 これから開くのが拉麵屋が故にどうしても実力を見ておきたい料理がある、そこで初顔合わせも兼ねてナイトマネージャーであるピューアを呼び出し3人に実力を発揮してもらう事にした。

 ただ、十分な広さや大きな調理台はあるのだがコンロは「2つ穴」で調理道具も見た感じ「2人分」。そんな設備で「3人で料理」だなんて。

 料理はパルライとも話し合い、合意の上で決めた。やはり中華の実力と言えばこれと言われる料理。


好美「只今より3人には炒飯を作って頂きます、拉麺を含み「中華料理は炒飯に始まり、炒飯に終わる」と言われています。具材や味付けは自由で構いませんので自身のある「1品」を作って下さい。」

イャンダ・デルア「押忍!!」

ピューア「は・・・、はい・・・。」


 はじめてのピューアにとって、元竜将軍である2人の威圧はどうしてもビクビクしてしまう物だったが時間が経つに連れて慣れていったらしい。それどころかいつの間にか仲間意識と連携が生まれ始め、物の貸し借りをする位の仲となっていた。

 元竜将軍同士はともかく、出逢って間もないのにもうピューアともあだ名で呼び合っている。


デルア「ほい、塩と胡椒ね!!」

イャンダ「おう、サンキュー。」

ピューア「葱と叉焼、お待たせ!!」

イャンダ「助かるぜ、ありがとよ!!デル、餡の準備頼めるか?」

デルア「勿論だ、ピューちゃん片栗粉頼む!!」

ピューア「あいよ、出してくるね!!」


 敢えて十分とは言えない設備で調理をさせたのは、各々が自己の役割を果たして「1つの仕事(炒飯)」をこなせるかを見る為だった。実はこれが一番の目的、これからは仕事仲間として共に働く仲間なのだからギスギスしているのは決して良くはない。


ピューア「デル、水溶きにしといたよ。」

デルア「流石、空気読めるね!!」

イャンダ「いやぁ、ピューちゃんと一緒に仕事出来て嬉しいよ。ありがとよ。」

ピューア「どういたしまして、イャン。ただ目を離したら焦げちゃうよ。」

イャンダ「おう、悪い悪い。」


 そうして3人による初めての共同作業で完成した「1品」、鶏ガラ醤油ベースでとろりとした餡が味の決め手となっている叉焼入り炒飯。炒飯自体は塩胡椒のみのシンプルな味付けなので決して餡の味を邪魔しない。少し硬めに仕上がった炒飯に餡が染み込み丁度いい塩梅になっていた。

 料理の味を見た好美とパルライは文句なしの合格を言い渡した。因みにこの料理はデルアのアイデアだそうだ。

 やはりデルアの料理センスはピカ一らしく、その事が好美の疑問の解決に一歩近づけていった。

 好美はデルアがイャンダと同じ「竜将軍」だが、「黒竜将軍」と言われていた上に何処かで聞き覚えのある苗字(ファミリーネーム)。


イャンダ「実はデルは元ヴァンパイアでね、俺と違って闇の魔術に精通しているから「黒竜将軍」なんだよ。他の奴と違って、鎧も少し黒みがかっていたんだ。本来はこいつが店長をしてもおかしくない位、料理が上手いんだよね。ただ俺が店長をやれってうるさくてさ。」

デルア「おいおいイャン、それ褒めてんのかよ。」

好美「あの・・・、私もデルって呼んでいい?」


 突然声を掛けて来たオーナーに緊張を隠せない副店長。


デルア「も・・・、勿論・・・、でございます・・・。」

好美「皆お願いだから堅苦しいのやめて、私も皆にお色々教えて貰うだろうからフランクに行きましょう。その上で2つ程聞かせて頂戴。」


 好美はオーナーとして店を経営するのが初めてなので、アドバイスを受ける側としては出来るだけ相談しやすい環境にしておきたかった。コンビニでも是非こうしておこう。


デルア「は・・・、うん・・・、分かった・・・。で、どうした?」


-㉝ 副店長の思い出-


 好美は気になっていた事を1つずつ片付けていく事にした、まずはオーナーとして気になっていた事。


好美「パルライさん、「ビル下店」っていつの間に名前を決めてたの?」

パルライ「シューゴと2人で呑みながら話していく内に満場一致で決まったんだ、ダメだった?」

好美「いや、知らない内に話が進みすぎてるから頭が追いつかなくなって。それだけなんだけど。」

パルライ「ごめんね、ちゃんと言わなきゃと思っていたんだけど。」

好美「分かりやすくていいじゃん、これコンビニにも使って良い?」

パルライ「勿論、許してくれてありがとうね。」

好美「それは良いとして・・・。」


 今度は個人的に気にしていた事を聞いてみる事にした、「あの人」のいち友人として。正直、店名などどうでも良い位にこっちがメインだと言えよう。ただ決して相手を傷つけない様に間接的にやんわりと・・・、それとなく・・・。


好美「デル、子供の時何が好きだったの?」

デルア「ガキん時か・・・、そうだな・・・。ポテトサラダかな、死んだお袋がよく作ってくれてたんだ。マヨネーズがたっぷりで、それでいてじゃが芋がほくほくで、食感のアクセントにピクルスが入ってた。」

好美「思い出の味なんだね。」

デルア「ああ、それでお袋がいない時は兄貴が作ってくれてたんだよ。兄貴のはピクルスじゃなくていぶりがっこだったな。サラダに入れるためにわざわざ大根から作ってたんだよ。

そんな折、お袋はヴァンパイアを毛嫌いしていた奴らに殺されちゃってな。俺は何とかその場から逃げて皆と離れ離れに・・・。

 それで最近、実は俺に似た奴がこの国にいるって知り合いに聞いてな。生き別れたあいつなんじゃないかって言ってて、俺も兄貴かもと思って確かめにこの国に来たんだ。あいつ・・・、幸せになってるかな・・・。」


 意外な位にあっさりと簡単に過去を語ってくれたデルア、これから一緒に働く仲間として力になってあげたい一心で会話を続けた。あの人に『念話』で現状を飛ばしながら。


好美「優しいお兄さんだったんだね。」

デルア「ああ・・・、そのお袋と兄貴の影響でヴァンパイアである事を隠して料理を習い始めたんだ。」


 デルアの背後に男性の人影を確認した好美。


好美「ねぇ、お兄さんに会えたら何て言いたい?」

デルア「そうだな・・・。「生きててくれて、ありがとう」かな。」


 するとデルアの背後から男性の声が。


男性「それは俺の台詞だ、会えて嬉しいよ、デルア。」


 後ろに振り向いたデルアからは涙が溢れていた、そう『念話』で話を聞いたあの人が『瞬間移動』でコックコートを身に纏ったあのヴァンパイアを連れて来ていたのだ。


デルア「その声はナルリ・・・、兄・・・、貴・・・。」

ナルリス「随分立派になったじゃないか、黒竜将軍(ブラック・ドラグーン)なんてなかなかなれないだろ。拉麵屋になんかならずに、そのままの方が良かったんじゃないのか。」

デルア「それ以上に兄貴の様な料理人になりたかったんだ、折角の機会と思ってこの国に引っ越して来たんだ。」


 その光景を見て微笑み合う光と好美、ただ好美は光が何かを忘れている様な気がした。光の服装・・・、制服?


好美「光さん、パン屋さんは?」

光「あ、まずい!!お昼休み終わっちゃう!!」


 好美の言葉を聞いた光は慌てた様子で『瞬間移動』でその場を離れた、好美は気を利かせイャンダとその場を離れる事にした。


好美「イャン、そう言えば醤油ダレって準備出来てたかな?」

イャンダ「え、醬油ダレ?あったかな・・・、ちょっと見に行こうか。」


 それから兄弟は久々に2人で吞み明かしたという。


-㉞ どんどん採用!!-


 思いも寄らなかった奇跡の再会を果たした吸血鬼の兄弟が互いの心に秘めた互いへの想いを語らいながらゆっくりと酒を酌み交わしていた頃、拉麺屋の店長とオーナーはもう1人のナイトマネージャーとアルバイトの採用面接を行っていた。

 好美はとある事を決めていた。アルバイトは結愛の依頼で数階層を寮としている魔学校の学生を中心に雇う事にしていた、コンビニも拉麺屋も共通してである。

 日本にいた頃、当時実家に住んでいた好美は小遣い稼ぎの為に空いた時間を利用してアルバイトをしながら大学に通っていた。朝早くから混雑する列車に揺られて大学に一番近い駅へと向かう、列車には終着駅まで乗るのだが席は必ずと言って良いほど満席だった。

車内は会社員や私立学校の生徒達など各々の目的の地へと急ぐ人たちで溢れかえっていた、ほぼ息もできなかった位に。好美は必ず降りる方の出入口辺りに立って時間を潰していた。

駅に着いてから小さな商店街を通り抜け、その先に停車しているスクールバスに乗り込み大学に着くと学内にあったコンビニで軽く朝食を摂る。いつも大きなフランクフルトを3本、店員さんが好美の顔を見るなり何も言われなくても必ず用意してくれる程毎日通っていた。

午前中の授業を受けた後、友人と昼食を摂る時いつも実感していた事があった。実は好美はアルバイトを自ら進んで行っていた訳では無かったのだが、親にしつこい位に迫られ渋々行っていたのである。

しかし今思えば食べ盛りだった当時、好きな物を腹いっぱい食べる事が出来ていたのはアルバイトと親のお陰だったのだ。

現役で食べ盛りであるはずの学生たちにも沢山食べて欲しい、その思いからアルバイトは学生中心としていた。月家賃等の従業員割引きもそこから来ている、そしてコンビニと拉麵屋の双方で希望があればだが賄いも用意する事に決めた。オーナーとして譲れない拘り、苦労を知っているが故の配慮だった。

それにこれにより一緒に呑む仲間が出来るかもしれない、そんな一抹の期待を持ちながら面接を行っていた。

コンビニのナイトマネージャーに応募してきた1014号室入居のエルフ、ニーコル・デンバインは即採用となった。ギルドカードによると、調理師免許を取得していたので好美個人的には拉麵屋の方を任せたかったのだが本人がどうしてもと希望するので折衷案を出す事にした。


好美「では曜日で業務を分けてみるのはどうですか?勿論完全週休2日制はお約束した上でです、ただそれなりに負荷がかかるかも知れませんのでそれなりに月給は上乗せさせて頂きます。月家賃等の従業員割引きはそのままですからどうでしょう?今拉麵屋のナイトマネージャーがピューア・チェルドさんという方だけなんです、なのでチェルドさんが休みの曜日は拉麵屋を、そして他の曜日はコンビニをと言う形でいかがでしょうか?お願いします!!」

ニーコル「うーん・・・、悪くないですね・・・。大変そうですが私で宜しければお願い致します。」


 エルフは少し悩んでいたが好美が余りにも深く頭を下げてお願いしてくるので、渋々だが受ける事にした。これでバイトさえ確保できれば拉麵屋は大丈夫そうだ、後はコンビニ。

 店長候補にはまさかの人物が来た、雑貨屋を営むリッチであるゲオルの妻でウィッチのイェットだ。念の為に確認をしたのだが、バルファイで経営学を学び商人兼商業者ギルドのギルドカードを持っていた。


イェット「私なんかが来てごめんなさいね、最近は家事に余裕が出て来たから改めて私もちゃんとした職業に就こうと思って来たんだけど。」

好美「それにしてもパートとしてではなく店長ですか?」

イェット「やるなら思い切ってやろうとね、どうせなら旦那と商売敵になっても良い位の勢いで受けたの。」


 目の前の魔女の気迫に押され好美は即採用とした、任せても十分大丈夫そうな人材でもあるからだ。

 副店長には905号室のバリスを採用した、イェットと同様に十分なスキルを持ったワイズマンだ。バリスは結愛が是非にと推薦してきたので大丈夫だろうと雇う事にした。

 ナイトマネージャーには1209号室のサラマンダー・エリューを採用、訳あって週4日の勤務を希望していたのでその通りに。

各店の店長と副店長、そしてナイトマネージャーが決まり一段落した時だ。待ってましたと言わんばかりにイャンダが好美に声を掛けて来た。


イャンダ「好美ちゃん、まだ仕事ある?」

好美「いや、今日はもう終わりにしようかと思って。」


 好美は丁度その頃、そろそろ昼呑みして寝ようと思っていた。でないと明日の夜が心配だ。そう、明日から王宮での夜勤が始まるのだ。


イャンダ「今日まで大変だっただろ?適当に何か作るから呑まないか?」

好美「丁度呑みたかったの、お願いしても良い?」


-㉟ 黒竜将軍の過去-


 イャンダは拉麵屋の調理場にある業務用の冷蔵庫からこの時の為にこっそりと隠しておいた缶ビールの6缶パックを取り出し、好美に1本渡して自らの分として1本取り出した。これはオーナーとして見逃す訳にはいかない。


好美「あら、いつの間に入れてたのかな。」

イャンダ「後で家の魔力保冷庫に入れようと思っていたんだよ。」


 実は上の階層のマンションには好美の厚意で冷蔵庫を設置していたのだが、この世界の者たちは従来の魔力保冷庫と勘違いしていた。


好美「まぁ、今回は奢って貰ったから特別に良しとしましょう。」

イャンダ「あはは・・・、悪かったよ。」


 2人はゆっくりと缶のプルトップを開け乾杯した。イャンダは先程、肴は自分が作ると言っていたのにまさかの袋から出しただけのバターピーナッツだ。


イャンダ「これ好きでさ、ついつい買っちゃったんだ。」


 好美は自分もバターピーナッツが好きだったから先程の発言を忘れたかの様に演じて呑み明かす事にした、多分後から何か作るつもりなんだろう。

 そんな中、2人だけしかいない調理場のガラス窓からちらりとデルアを見た。


イャンダ「実は好美ちゃんを呼んだのは感謝してるという事を伝えたくてね。」

好美「私、何かした?」


 店長はビールを多めに1口煽った後、1息ついて語った。


イャンダ「ふぅ・・・、実はデルアがあんなに笑ったのを見たのは初めてだったんだ。この前本人から聞いた通り、あいつは元々ヴァンパイアで人間に家族を殺されたんだけど、その直後に王国軍隊に入隊した。しかし周りはずっと憎んでいた人間ばかり、それに一部の者達に疎まれていたから辛そうな顔をしていたんだよ。食事もろくに摂っていなかった日が多くて、心配になった俺は当時上司だった竜将軍長(アーク・ドラグーン)に相談を持ち掛けると親切にもご家族の方々の事を綿密に調べてくれてね、この国にお兄さんがいるかもしれないって分かったって事さ。まさか好美ちゃんの知り合いだったとは、本当に奇跡だと思ったよ。ただそのお陰でほら、あいつもあんなに笑っているだろ。何処か嬉しそうに、そして楽しそうにしているから俺も安心したんだ。本当に、ありがとうね。」


 すると店長の話が聞こえたのか、副店長が調理場に入って来た。


デルア「おいおい、さっきからピーナッツだけで呑んでるなと思ったら俺の話をつまみにしてたのか?」

イャンダ「お陰様で、酒が美味くて仕方がねぇや。」

デルア「それはようござんした。」


 そう言うとデルアはエレベーターへと消えて行った、自室に戻り明日の朝から本格的な開店準備を始める為の最終確認をするのだろうか。

 ・・・と、思っていたら。


デルア「俺も混ぜろよ、これから仲間同士なんだから良いだろ?」


 本人の1番お気に入りの赤ワインとチーズを持って降りて来た、流石にオープン前の拉麵屋なのでワイングラスはなくて、代わりにお冷用のグラスだが。

 これは入念に洗わないといけないなとクスリと笑いながら赤ワインを注いでチーズを一口。


デルア「嗚呼・・・、こんなに酒が美味いとはな。昨日初めて兄貴と呑んだ酒も美味かったが今日の酒も最高に美味い。俺ここに来れて良かったよ、ありがとよ、好美ちゃん。」

好美「早速絡み酒?困った人ですなぁ。」


 チーズが残り数切れでピーナッツも結構少なくなってきた頃、突然の出来事で副店長の義理の姉となった吉村 光改めダルラン光が追加のビールと小さなタッパーを持って『瞬間移動』してきた。


光「何?もう始めてたの?」

デルア「えっと・・・。」

光「光よ、あんたの兄貴の嫁。義理のだけどあんたの姉さんになった者よ。」


 実は初めて話す光に緊張を隠せないデルア、しかし酒が入ると関係無い様ですぐに打ち解けた様だ。好美は15階に上がり、幸せな暮らしを期待して眠りについた。

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