4. 異世界ほのぼの日記2 ㊱~㊵
-㊱ 好美の本心-
午後23:30、昼間から寝ていた好美は真っ暗の部屋で1人目を覚ました。空には無数の星達が瞬いている。自分が見ている星々の姿が何億年の物だと思うと自分の人生って一体何だったんだろうと呆然と過ごしていた。
ビルの最上階にあるバルコニーから街の中心部を眺めると、1日の営業と店じまいを終えた店が翌朝を静かに待っていた。
この世界でコンビニを開店するのは好美が初めてなのでこの時間帯に開店している店など全くない、お風呂山の銭湯も閉館してしまっているので煙突から煙が全く出ていない状態だった。ただ、銭湯の脇にある舗装された道路からは排気音(エキゾースト)やスキール音と共にヘッドライトが眩しく光っている。
好美「渚さんかな、それともピューアさん?」
好美が呟きながら真っ暗な夜景を眺めていると、急に肌寒くなって来たので好美は露天風呂に入る事にした。
浴槽にお湯を溜めた後、『転送』で屋内の冷蔵庫から冷やしたシャンパンとグラスを取り出して脱衣するとお湯に飛び込む。
この国で最も高い場所にいる上に国民が皆寝ている時間帯、それが故に好美は全裸でも平気だとバスタオルを持って来ていなかった、それが盲点だった。
女性「あれは真希子だよ。」
好美「えっ?!」
後ろを振り向くと渚が知らぬ間に浴槽に浸かっている、別に構わなかったのだが流石にバスタオルは巻いて欲しかった。
急に恥ずかしくなった好美は屋内に逃げようと思ったが、ネフェテルサでもこの時間帯は肌寒い。
好美は仕方なく浴槽に戻り肩まで浸かって体を温める事にした。
渚「まさかこんな夜景を眺めながら温泉を楽しめると思わなかったよ、急に来てごめんね。」
よく考えたらこのビルの改装を手掛けたのは渚だ、文句は言えない。
渚「もうすぐ本格的に店での業務が始まるね、好美ちゃんは今どういう心境なのかなって思ってね。」
好美「何て言えば良いんですかね、まさか自分がオーナーになるとは思わなかったんで。」
つい先日までただの工場勤務の作業員だった好美からすれば今の生活は贅沢過ぎると言っても過言ではない。高所から落ちて死んだと思えばいきなり異世界に飛ばされ、今となっては高層マンションの大家や2店舗もオーナーになっているんだから。
この世界に来て数回思ったのだが、今ここにいるのは本当に自分なんだろうかと疑ってしまう。
よく考えれば、自分の口座に1京円が入っていた時点で多分自分は夢の世界かあの世に来てしまったのだろうと勘違いしてしまった位だ。
しかしその時、体にジャグジーの泡が当たる度に実体がある事を実感していた。その上、シャンパンを呑んでしっかりと酔える。それが何となく嬉しくて仕方なかった、違う世界でだが自分はしっかりと生きている。
好美「ただオーナーになったからって何もしない訳にはいかないと思うんですよね、王宮での仕事も頑張らなきゃ。これから自分はどうなるんだろうと思うと不安だけどワクワクします。」
渚「大丈夫だよ。不安になる事はないさ、楽しく過ごせばいいだけさね。」
その言葉に少し安心感を覚えていた好美、肩の荷が一気に下りた気分だった。未だ慣れていない異世界での生活、誰でも不安を覚えるばかりだ。
しかし、転生してきた日本人の仲間がいると思うと自分もこの世界でやっていけそうな気がした。
その後2人はシャンパン片手に気ままに話した、時間を忘れたままの裸の付き合い。渚と好美は朝日が昇る頃までずっと浴槽に浸かっていた。
渚「あら、長い事お邪魔し過ぎた様だね、そろそろ帰るわ。」
そう言うと全裸で浴槽に浸かったまま『瞬間移動』で帰ってしまった、よく見ると脱ぎっぱなしの衣服が全てそのまま放置してある。後で『転送』しておくかと思っていると光が念話を飛ばして来た。
光(念話)「ごめんね、好美ちゃんの所にあったんだ。いきなりお母さんが裸で現れたから露出狂にでもなったのかと思ってね。」
好美は渚のお陰でこの世界でやっていける自信がついた様でとても嬉しかったらしい。
-㊲ 本格的な開店準備(①)-
渚が『瞬間移動』で帰宅した後、好美は涼しい風に当たりながら昇ったばかりの朝日を一人眺めていた。これからはこの世界でこの光景を幾度となく眺めるのだろうかと思っていると少し寒気を感じた。今思えばまだ服を着ていなかった。
好美「さぶっ・・・、体拭く前にもう一度入ろう。」
そう呟いた後、まだ冷めていないお湯に浸かり数分後に出て『転送』で取り出したバスタオルで体を拭き、急ぐ様に服を着ながらふと感じた事があった。この世界に来てから好美は衣服を購入せずにずっと転生時に来ていた制服を着ていた様な。
確かに『状態異常無効化』のスキルを使うと服が汚れていても洗濯したての様にすぐに元に戻るが、やはり好美だって1人の女性だ、ファッションには気を遣いたい。今夜からの夜勤での初任給が出たら是非こっちの世界の衣服を買おう、そう心に誓った。流石に以前勤めていた会社のロゴが描かれている制服(つなぎ)でずっと過ごす訳にもいかない。
まぁ、神様から貰った1京円の残りがまだあるのですぐ買えるのだが、そこは気持ちの問題だ。
時刻は朝5:30、雲1つない綺麗な青空が広がるネフェテルサ王国で新たな1日が始まる。少し怖かったが屋上から下を見下ろすと、街中の店に少し離れた市場などからトラックに載せられた商品が運び込まれているのが見えた。よく見てみれば、自分の立っているビルの1階部分にもトラックが止まっている。
誰だろうと思った好美は『瞬間移動』で1階へと降りてみた、見知らぬ男性が拉麵屋にトラックから野菜を中心とした生鮮物を搬入している。
よく見てみればイャンダとデルアも手伝っていた、初回の搬入で量が多かったからか、シューゴや一、そしてパルライの姿も見える。今日から開店する新店の開店の為にスープや醬油ダレ等を沢山仕込むためだそうだ、ついでに自分達が各々の屋台等で使う材料も仕込んでいくらしい。
作業の邪魔にならない様に遠くから見学していた好美の姿に気付いたイャンダが声を掛けて来た。
イャンダ「好美ちゃんおはよう、良かったら手伝ってくれるかい?後紹介したい人がいるんだ!!」
好美「おはよう、今すぐ行くね!!」
トラックに載った想像以上の量の野菜をバケツリレー方式で店に運び込んでいく、ただこんな量をどうやって敷地内に収めているのかと疑問に思っていた。どうやら渚が冷蔵庫に魔力を流し込み『アイテムボックス』の様に無限に入る仕様にしていたらしい。その中にどんどん運び込まれる野菜たち、ただ何故か全てキャベツやバナナの箱に入っていた。理由を聞くと箱が丈夫だからだそうだ。
好美「そう言えば渚さん来てないね、もう屋台を走らせているの?」
イャンダ「いや、まだ寝てるってさ。朝までずっと露天風呂に入っていたらしいよ。この国にそんな場所あったかな・・・。」
好美「ははは・・・。」
まさか自分の行動による影響がこんな所で出ているとは思っても見なかった好美。
好美「そう言えば、紹介したい人がいるんだって?」
イャンダ「そうなんだ、王宮の厨房で調理していた時に野菜などを卸して貰っていた・・・。」
男性「マイナーじゃないか、元気そうだな!!」
イャンダの台詞を遮る様に横から男性の声がした、声色から驚きを隠せないのが伺える。
マイナー「警部・・・、お久しぶりです。」
林田「今は署長だよ、まぁ、知らなくても仕方ないか。」
たまたま日課のランニング中だった林田署長の警部時代の元部下であるハーフ・エルフのマイナー・アーネスは、警察を辞めた後に両親の経営する野菜を卸す会社を手伝っているそうだ。
イャンダがネフェテルサの中心地で拉麵屋をすると聞いたので。昔のよしみで野菜を中心に生鮮食品を卸すと自らかって出たのだと言う。
ただ肉だけは以前好美がケデールの店で契約していた事を聞いたので、ビルに着く前に肉屋へ一度寄って肉類を載せてから来る事になったそうだ。
マイナー「ケデールと俺は魔学校時代からの友人同士でね、あいつ昔から頭ん中肉の事でいっぱいな奴だったんだよ。」
好美「そうなんだ、これからお世話になります。」
マイナー「こちらこそ。」
マイナーは笑顔のまま荷台が空っぽになったトラックに乗り込むと、新たな出逢いに嬉しそうな様子で帰って行った。
-㊳ 本格的な開店準備(②)-
拉麵屋の調理場でイャンダとデルアがシューゴやパルライの指導の下でスープや醤油ダレにトッピングの製法を復習する様に仕込んでいた。
旧店舗の2人は互いに1店舗分の、そして新店舗の2人は業務提携した2店舗分の製法を復習している。
マイナーのトラックをチラ見しながら後からやって来た渚も参加して「特製・辛辛焼きそば」の復習も行っていた、と言っても今までシューゴが行っていた簡易版の製法だが。
ただ渚だけは自ら作成したオリジナルの製法を守っていた、そんな中・・・。
林田「そう言えばマイナーのトラックに書いてあった文字・・・、何か引っかかるな・・・。」
好美「何かあったんですか?」
林田「いや、気のせいです。ランニングの途中なので戻ります。」
そう言うと林田署長は日課へと戻って行った。
マイナーのトラックが過ぎ去って行った後、別にもう1台、一回り大きなトラックが停車していたのが見えた。どうやらコンビニへと雑貨類を運び込んでいたらしい。
傍らでは赤と銀のトラックから青い制服を着たドライバーがパンを運び込んでいて、その横では近所のカフェでウェイトレスをしているリッチのレーゼが軽トラでお手製のお握りやサンドイッチを持って来ていた。
レーゼ「他でもないゲオルさんや光さん、そしてナルリス君の頼みだからね。全力でこの「コノミーマート」をお手伝いさせて貰うよ!!」
好美「ありがと・・・、ってえっ?!今何て言ったんですか?!」
レーゼ「だから、全力でお手伝いさせて貰うよって。」
好美「何を?」
レーゼ「何だい?「この「コノミーマート」を」って言ったの、イェットさんからこの店のオーナーさんから名前を取ったって聞いたんだよ。一度会ってみたいもんだね・・・。」
好美「ははは・・・。」
引き笑いをしながら目線を外すオーナー、まさか知らない間に店の名前が決定していただなんて思わなかったらしい。好美は「自分の名前は入れないでおこう」と考えていたのだが、時既に遅し。あらゆる契約会社全てで「コノミーマート」として話が通ってしまっていたのだ。どうやら夫のゲオルを通してイェットが手を回していたそうで。
好美「こんな大きな看板まで作ってる・・・、ここまで行くと仕方がないなあ・・・。」
ピースサインをした好美の顔が描かれた看板を見ながら呆れた様にぼそっと呟く好美の様子を見てレーゼが察した。
レーゼ「まさか・・・、あんたがこの店のオーナーさんかい?」
好美「そう、私がオーナーの倉下好美です。」
レーゼ「それはつゆ知らず、申し訳ございません!!」
好美「やめて下さいよ、堅苦しいの苦手なんでフランクにお願いします。」
レーゼ「そうかい?そう言ってくれると助かるよ?」
好美は話題を逸らすことも兼ね、レーゼが持ち込んだ荷物に目をやった。
好美「そう言えば・・・、えっと・・・。」
レーゼ「あっ、レーゼって呼んで。」
好美「レーゼ、今日は何を持って来てくれたの?」
レーゼ「今日はとにかく量が必要だからお握りもサンドイッチも一般的な物ばかりだよ。お握りは梅や鮭、昆布にツナマヨ。それとサンドイッチは卵とレタスハムかな。落ち着いたら変わり種を用意するつもりさ、その時は商品の登録も兼ねて試食をお願いするかもだからオーナーさんも宜しくね。」
好美「好美で良いよ、そう呼ばれるの慣れてなくて。」
レーゼ「そうかい、じゃああんたが言った通り「好美ちゃん」でね。」
そう言うと、納品を終えてカフェへと戻って行った。どうやら朝早くから準備をしていたらしく、目には小さくだがクマが出来ていた。
コンビニの奥の調理場ではイェットが店長自らホットスナックの準備を始めていた、店の名物にしたいらしく、唐揚げ棒は入念に2度揚げを行っていた。外の衣はサックリとしていて、中の鶏もも肉はふんわりとしていた。
鶏の軟骨の入った捏ね棒や、焼き鳥、そしてフライドポテトも用意している。コロッケに至っては3種類もだ。
奥には広めのイートインスペースが2箇所あり、1箇所は一般客用だがもう1箇所は学生用として用意されていた。聞くと学校帰りの学生達と交流を持ちたいと後からイェットやバリスが話し合って後から設置したそうだ、好美は全く聞いていなかったが。
好美「これが私の店なんだね、これから守って行かなきゃ。」
バリス「それは俺の台詞だ、精一杯頑張らせてもらうよ。」
-㊴ 開店-
いよいよ2店舗が開店するという噂が噂を呼び、ネフェテルサ王国の中心地にある好美所有のビルの前には24時間営業の物珍しさに人々が集まっていた。
各々の店の開店時間10分前、混雑を予想した好美はマンションの住人の為の出入口の確保を確認した。流石にやっとの思いで迎えたこの日に住人からクレームが出てしまうと元も子もない。住人には悪いが暫くは裏側の出入口のみを使って貰う様に協力を要請した、ただその代わりと言っては何だが開店から数日間は月極の駐車場代をこっそり無料にしておいて納得して貰った。これは住人と好美だけの秘密なので「月極」の表示はそのままにしてある、でないと住民でもない客が勝手に止めようとするからだ。因みに住人にはパスカードを渡してあり、ゲート横の機械にカードを通さないと駐車場と外を出入り出来なくなっているので一応対策は万全なのだが。
駐車場を利用していない住人や魔学校の学生にはバス代等の無料券を渡している、ただ気軽に開店したばかりの2店舗を利用して欲しいという気持ちからクーポン券をも渡しておいた。
一応、学生等のアルバイトの募集はしていたのだが、採用していた者の中には魔学校の授業の時間割などの関係上において仕事に出る事が出来ない者も出て来ていて十分な人員を確保できなくなっていた。なので暫くの間は24時間営業はせずに各々の店長、副店長、そしてナイトマネージャーが開店時間を絞って集中的に接客等の対応を行っていた。
勿論、深夜の利用を考えていたお客さんもいただろうから今回は「予めご了承ください」とオープンを告げるポスターに書いておいたのだが・・・、効果はあったのだろうか。
オープンセールに集中すべく、「暴徒の鱗」の2台の屋台や各々の旧店舗は暫く休業にして全従業員が新店オープンに集中出来る体制を取った。
また「コノミーマート」ではゲオルやパルライ、そしてレーゼが魔力による『人造』で臨時の従業員を作り出して接客等に当たる事にした。『人造』による従業員は両方の店舗で十分な対応を出来る様に作られているので何があっても安心だ。
好美「でもどうしてここまで?」
と好美が聞くと、ゲオルは流通ルート確保への交換条件としての2店舗で出た利益の数パーセントの支払いで、弟子であるパルライは業務提携への協力へのお礼で、レーゼはバイト時代のナルリスに楽しませて貰ったお礼、そしてカフェの商品における契約へのお礼としてだそうだ。ただそれ以上に何よりと言う勢いで3人は口を揃えて。
3人「他でもないダルラン夫妻に頼まれると断れない、これから散々世話になる好美に対しても胡麻を擦っておかないと。」
と冗談交じりの笑顔で答えたので好美は安心してクスリと笑った。
そして11:00、2店舗の開店を迎えた。
予想通り2店舗に大量のお客さんが流れ込みだしたので両方とも多忙となったが、在庫は十分に確保していた上に手慣れた従業員による接客や調理等の作業により大したクレームが出る事無く時が過ぎていった。
一時的にマンション内側の出入口を締切にして正解だった、でないと好美を含む住人たちが自由に行き来出来ない。
一時的な閉店時間と設定している21:00を迎えるとそこにいた全員がへとへとになりながら売り上げや利益の計算をした後、皆で食事を摂った。オーナーである好美へは限りなく分かりやすい様に書類を纏め、翌朝に報告をする事になった。
その頃、2店舗のオーナーである好美はスマホのアラーム音と同時に目を覚ました。
好美「そっか・・・、遂に今日からか・・・。」
そう一言呟いてベッドから起きると以前、深夜時間帯の入場許可証を取得するために王宮に行った時、アーク・ジェネラルであるニコフに渡された書類を見ながら必要な準備物を確認していった。
好美「服装は支給されるから私服での通勤が可能ね・・・。入場許可証と・・・、流石に武器は必要無いか。携行用魔力灯火・・・?懐中電灯で良いのかな、後はスマホに休憩用の弁当!!」
弁当以外の準備を済ませると、好美は急ぎ内線で1階にいるデルアへと連絡した。
デルア(内線)「はいもしもし、1階「暴徒の鱗」です。」
好美「もしもしデル?!急なんだけど何か材料残ってない?!」
デルア(内線)「その声は好美ちゃん?!どうしたそんなに慌てて。」
好美「今日から夜勤の仕事なんだけどさ、弁当がいるのを忘れてて。余り物何か詰めてくんない?!」
デルア(内線)「本当に急だな・・・、でも任せとけ!!」
その言葉を聞いた好美は『瞬間移動』で1階へと移動した。
-㊵ 夜勤初日-
内線電話を切った瞬間に現れた好美の姿を見たデルアは焦っていた、悪いのは好美なのだが。
デルア「いくら何でも早すぎるよ、まだ弁当箱も取り出していないのに!!」
好美「ごめんごめん、焦り過ぎた。」
未だ焦っている様子の好美を見かけたイャンダが気を利かせてお冷を手渡した。
イャンダ「好美ちゃん、ちょっとは落ち着きなよ。でないと初日から印象悪くなるよ。」
好美「ごめんごめん、助かる。」
受け取ったお冷を一口飲んでやっと落ち着いた好美を見かけたイェットが咄嗟に声を掛けて来た。
イェット「こっちも余っていたら渡すべきだったね、契約上売れ残ったら結局オーナーの好美ちゃんが買い取る事になるから。ただ今日は全部売り切れになっちゃったよ、ごめんなさいね。」
好美「ちゃんと売れた事は嬉しい知らせだから私は嬉しいですよ、明日もお願いします。」
デルア「ほら、これでいいか?」
そうこうしている内にデルアが色々詰め込んだ数段の弁当箱を持って来た、醤油ダレで煮込まれた叉焼と豚キムチ、そして白飯の香りがたまらなくて好美は持って行かずに今すぐ食べたいと思ってしまった。
好美「ありがとう、行ってきます!!」
女性「ちょっと待った!!」
夜が更けて真っ暗になった街中へと消えようとした好美を聞き覚えのある女性声が引き止めた、先程までの弁当の香りをかき消す様に芳しい匂いがそこら中を包んだ。
声のする方向へと振り替えると鍋の入った袋を持った光がそこにいた。
光「ごめんね、これをニコフさんに渡しておいてくれる?「いつものお供え物」って言えば分かると思うから。」
好美「分かりましたけど、鍋が「お供え物」ですか?」
光「本人に渡せば分かるって。」
光から袋を受け取った好美は弁当と一緒に『アイテムボックス』へと入れ、王宮手前まで『瞬間移動』した。
突然現れた好美の姿を見るや否や、金の鎧に身を纏う守衛の大隊長(パラディン)が怪しい者を見る目で好美を睨みつけた。
守衛「貴様、誰だ!!」
好美「私、こういう者です!!」
昼間の守衛の者とは違う人間だったので、咄嗟に入場許可証を提示する好美。一応、許可証は偽装不可能なはずなのだが。
守衛「待て、アポはあるか。それとギルドカードか身分証明書を出せ。」
すると男性の声が守衛の向こうから聞こえた。
男性「お前ら何をやっているんだ。その方は今日からここで働く方だ、身分は私が確認しているから通せ。」
守衛「これは将軍長(アーク・ジェネラル)、申し訳ありません!!」
奥から出てきたのは先日のニコフ・デランド将軍長、その人だった。
ニコフ「おはようございます、好美さん。驚かせて申し訳ありません、早速こちらへどうぞ。」
好美「おはようございます、将軍長・・・、さん・・・。」
ニコフ「ふふふ・・・、ニコフで構いませんよ。」
松明片手に笑みを浮かべるニコフに『アイテムボックス』から光に託された「お供え物」を出して手渡した。
ニコフ「あの・・・、これは?」
好美「ダルラン光さんから「いつものお供え物」だそうです。」
ニコフ「吉村さんからね、助かります。これが無いとあの方が深夜に大泣きするんです。」
好美「あの方?大泣き・・・、ですか?」
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