3. 異世界ほのぼの日記 81~90


-81 集合-


 魔学校長のマイヤは林田を許し、早速持ち帰った映像やマイヤの発言が証拠として使えるかを皆で確認しようと提案した。


光明「まずはこちらをご覧ください。」


 マイヤが義弘と思われる覆面男に催眠術を掛けられた場面だ。催眠術を掛けられマイヤが自らの手で書類を書き換えたあの場面。


マイヤ「ノームを含む私達アーク・エルフの一族は催眠術に強い特殊スキルを祖先からの遺伝で持っているのですが、まさかその長たる私が・・・。」

ドーラ「じいちゃん・・・、思い出したくないなら無理に思い出さなくていいよ。」

マイヤ「いや、良いんだ。捜査に・・・、いやノームの仕事に協力出来るなら喜んでやるよ。」


 映像内で書類を書き換えた後、マイヤがぐっすりと眠っているのが何よりの証拠だ。

 次に鏡台にあったもう一つのカメラで撮影した映像を再生した。


光明「これはマイヤさんが鏡台に仕掛けてあるもう一台の監視カメラの映像です、少し音が小さいので最初の映像から音声を抜粋してありますが、勿論同時刻に同じ場所で撮影された物ですので問題は無いかと。」


 暑さが故に義弘が覆面を取った場面を再生した。


結愛「義弘が・・・、あれ程の魔力を・・・。」

林田「しかし、いつの間に魔力を得て催眠術の修業を行ったのでしょうか。」

マイヤ「原因はリンガルスにあると思われます、きっと短期間ではありますがリンガルスの下で修業したからだと思われます。また、無理矢理な方法で魔力を引き出したのかと。」

結愛「しかし・・・、ただの魔学校の職員がどうして?」

マイヤ「理事長、恐れながら申し上げます。リンガルスは大賢者なのです!!」

林田・ドーラ・結愛「大賢者?!」

結愛「・・・、って何ですか?」

羽田「これがデジャヴってやつですか?」

光明「以前にもあったんですね・・・。」


 確かに以前にもあった会話だ、ただ重要なのはそこだけではない。義弘が大賢者の力を得たのはマイヤに催眠術を掛ける為だけなのだろうか。


光明「そう言えば、レースの方は?」

林田「テレビをつけますね。ただ・・・、爆弾処理の方が心配ですね。」

男性「それなら安心して下せぇ。」

林田「その声は・・・。」


 林田が聞き覚えがある声に振り向くとそこには結愛や利通と共に競馬場に仕掛けられた爆弾の処理に向かったダンラルタ王国警察の爆弾処理班がいた。


プニ「おやっさん、安心して下さいよ。ネフェテルサ王国のレースコースに仕掛けられていた爆弾の処理は無事完了しましたよ。他の2国の現場に派遣された連中からも連絡を受けやしたがもう大丈夫だって言ってました。」

ケルベロス「約1名無茶をしようとしてましたけどね。」

レッドドラゴン「プニったら人命がかかってるから俺が何とかするんだって自分が持ってた棍棒で爆弾をぶっ叩こうとしてたもんな、イヒヒヒヒ。」

林田「それにしても無事で何よりだ、良く帰って来てくれたよ。」

プニ「おやっさん。そう言えば、捜査はどうなっていますかい?」

林田「実はな・・・。」


 林田はプニ達に今分かっている事を事細かく全て話した。勿論、「あの事」も。


爆弾処理班「何ィ?!大賢者?!」

プニ「って何・・・。」

マイヤ「この件(くだり)もう良いですから。」


 プニにはまた個人的に説明するとして、パルライが思い出したかのように切り出した。


パルライ「取り敢えずレースを見ましょう、⑲番車の位置が気になる。」


 林田がテレビをつけると⑲番車が最後の18kmのホームストレートに入った場面であった。主催者側に情報が無い真っ黒のカフェラッテが走っている。ただ妙な位ゆっくりなのだ、時間を稼いでいるかの様に。そしてゴールしかけた瞬間に異変が起きた。

 何と、観客達や関係者の目の前で車両が一瞬にして消えてしまったのだ!!


-82 脅迫と協定-


 実況を務めるネクロマンサーのカバーサ含む全員が目を疑った。


カバーサ「どういう事でしょうか、私にもどういう事か分かりません!!」


 その瞬間、パルライに念話が飛んで来た。師匠のゲオルだ。


ゲオル(念話)「パルライ、今の見たか。」

パルライ(念話)「はい、何者かの魔術でしょうか。」

ゲオル(念話)「お前の障壁には反応があったのか?」

パルライ(念話)「悔しいですが・・・、全く。」


 突然消えた車両を見た全ての者が驚愕しているなか、3国中のオーロラビジョンいっぱいに見覚えのあるあの忌々しい男の顔が映った。正直光にはどうなっているか分からない。


義弘(映像)「結愛・・・、たった数年で私が人生かけて創り上げた貝塚財閥を手に入れたと勘違いしている愚かで憎たらしい馬鹿娘よ。ネフェテルサ王国にある貝塚学園小分校、バルファイ王国の貝塚学園高等魔学校、そしてそこにある貝塚財閥支社は全て私が乗っ取った。降参するなら今の内だ、すぐさまここに来て土下座しろ!!ここにいる人質がどうなっても良いのか?」


 結愛は映像を見て驚いた、先程まで自分達と一緒にネフェテルサ王国警察にいたアーク・エルフのマイヤとネフェテルサ王国王宮横の教会兼孤児院にいるはずの神教のアーク・ビショップであるメイスが映っている。2人とも相当な魔力の持ち主のはずなのにあっさりと人質にされてしまい、強力な魔力で拘束されている。


義弘(映像)「この2人を解放して欲しければ、今年の首席入学者が「梶岡浩章」ではなく「リラン・クァーデン」である事を認め、私に財閥の全権を戻した上で私の目の前で死んで消え失せろ!!さもなくばリンガルスの手で手に入れたこの強大な魔力で全ての建物を破壊し、全面戦争を仕掛けてやる!!」

林田「何て奴だ・・・、実の娘にあんな言い方しやがって・・・。」

結愛「いえ・・・、アイツだったら十分あり得ます。」


 そこにいた数名は義弘の発言にあった別の言葉に引っかかっていた。言葉だけではなく行動にも。


林田「強大な魔力であの2人を締め上げ脅迫して、この時点で奴は有罪ですよ。」

デカルト「それ所ではありません、全面戦争まで起こそうとしています。これは「3国平和協定」に違反します。」


 結愛は両手で拳を握り、震わせていた。

 すると、映像の中の2人が結愛に声を掛けた。


メイス(映像)「理事長、こんな男の言う事なんて聞く事無いわ、今すぐ逃げて!!」

マイヤ(映像)「そうです、私たちの事はどうでも良いですから!!」


 その言葉を聞いた義弘がガムテープで2人の口を塞ぎ、その上から魔力で口をも拘束した。


義弘(映像)「逃げるつもりか?本当に戦争を起こすぞ、俺は本気だ!!リンガルス、やれ!!」


 すると、パルライと林田が突然映像に映り2人を止めようとしていた。


パルライ(映像)「やめろ!!私の国で何をしているんだ!!」

林田(映像)「少しでも動いてみろ、お前達2人の魔力を封印するぞ!!」

義弘(映像)「ふん、やれるものならやってみやがれ!!」


 義弘が右手を高く上げ、魔力の円盤の様なものを浮かび上がらせ林田とパルライに向けて投げつけた。

 2人が防御の体勢を取ると、目の前が暗くなり叫び声が響いた後そこら中に血が飛び散った。目を開けて見てみると結愛が2人の目の前で円盤での攻撃をもろに受けている。


結愛(映像)「ぐっ・・・、これは俺とあんたの問題だろ。他の人を巻き込むんじゃねぇ。」


 すると、女性の声が響き義弘の体が硬直した。


女性(映像)「待ちな、あんたが今やった魔力による戦闘行為は3国の協定と法律に違反しているよ。あんた達は大賢者・・・、いや人間を名乗る資格がないね。」

義弘(映像)「貴様・・・、どこから・・・。」


-83 身に覚えのある件-


 バルファイ王国魔学校にて、女性の声を聴いた瞬間義弘の体が硬直していた。同時に何故か林田警部がブルブルと震えている。結愛は身に覚えのある場面だなと思っていたが、今は考えない事にした。ただ義弘が狼狽えている事は間違いがない。ただどうして林田も震えているのだろうか。

しかし、義弘と林田警部を同時に震わせる程の言葉を言える者がこの世界にいるのだろうかと振り向くとそこには林田警部の妻、ネスタ林田がいた。


ネスタ「希さん、実は『連絡』が使えるのは転生者のあんただけじゃないのさ。ただのドワーフの私にだって余裕で出来るんだよ。私を舐めないで頂戴。」

林田「そうか・・・、でもあっちの世界にお前の知り合いがいるのかい?」

ネスタ「何を言ってるさね、あっちの世界の事を全く知らないフリをしてたけど実は知り合いが沢山いるのさ。それに私ゃこの世界におけるこの会社の筆頭株主だよ、嫌な予感がしてあっちの世界の株主である宝田さんに聞いたらこんな事になっている訳さね。さて、本題に戻ろうか。義弘、あんたの勝手な行動を決して許す訳には行かないよ。3国における平和協定まで破ってこの会社を奪い返してどうするつもりだったんだい?」

義弘「愚かな馬鹿娘が下らん教育機関などに使い込んだ私の金を取り戻そうかと。」

ネスタ「何が下らないって?あんたの言う「愚かな馬鹿娘」が教育機関を支持することによって貝塚財閥はお金以上に大切な物を得たんだよ、あんたによってこの会社が失った「信頼」だ。私が何も知らないとでも思ったかい?この世界でのクァーデンとの贈収賄の事も、そしてあっちの世界の貝塚学園での独裁政治っぷりもね。今あんたがしている行動も含めたらもうあんたは重罪人さ、どっちがお馬鹿さんなんだか誰だって分かるよ!!私の旦那の仲間は私の仲間だ。だから私は筆頭株主として結愛社長に味方する、決してあんたを認めないからね!!」

義弘「言ってくれるじゃねぇか・・・、でもこうしてしまえば済む話だ!!」


 義弘が結愛に向けて大きな火の玉を飛ばしたが、別のより強力な魔力によって弾かれた。


義弘「何が起こった!!私は大賢者だぞ!!」

リンガルス「義弘、黙って様子を見ておけば・・・、いい加減にしろ!!俺はお前に罪を犯させる為に魔術や催眠術を教えたつもりはないぞ!!」

義弘「り、リンガルス・・・、貴様・・・、上司たる私を裏切る気か!!」

リンガルス「お前は私の上司などではない、私の上司はこちらにおられるクランデル魔学校長と貝塚理事長だ!!魔学校長、アーク・ビショップ様、大変申し訳ございません。」


 リンガルスがいつの間にか2人の拘束を解いていた。


義弘「ただ俺達は一緒にクァーデンから賄賂を受け取った仲だろうが!!」

林田「これの事か?」


 リンガルスが持っているはずの封筒を何故か林田が胸ポケットから出した。


林田「リンガルスと魔学校長には私から連絡を入れてあんたの仲間と被害者の演技をする様に頼んでたんだよ。特にリンガルスと私は警察の同僚でね、あんたから魔術の指導等を頼まれたと聞いた時、こちらの作戦に協力をお願いしたんだ。今頃、リンガルス警部の部下によって贈収賄の罪でパントリー・クァーデンが逮捕されているだろうよ。リラン・クァーデンが入学すると聞いてパントリーが何かしらの動きを見せると思ってリンガルスに潜入をお願いして正解だったな。」

リンガルス「勿論お前の意志によって書き換えられたと言ってもいいこの2つの書類は受理されていない、首席入学者は予定通り「梶岡浩章」だ。ただリラン・クァーデンには罪はないから一般入学者として入学を許可するつもりだが本人が望むかどうか。」

林田「まさか梶岡が一瞬だが犯人グループの一員としてこちらを襲ってくる事は誤算だったな。しかし、捜査に協力をお願いして無罪放免とさせてもらった、被害者がいた訳でもないしこちらにも非があったからな。

さてと・・・、監視カメラの映像を含め、証拠が十分に挙がっているんだ。」

林田・リンガルス「貝塚義弘、脅迫罪及び贈収賄罪、侮辱罪、魔力戦闘罪、そして「3国間戦争撲滅平和協定」違反で逮捕する!!」

リンガルス「俺が与えた魔力と魔術を悪用した上に散々こき使いやがって、待ってろよ。すぐに豚箱ぶち込んでやるからな!!」

義弘「ち・・・、畜生ーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」


 リンガルスの部下が4人がかりで義弘をパトカーに押し込むとバルファイ王国警察署に向かって行った。

 その頃、光はネフェテルサ王国のレースコース横に設置された観客席ではレース裏で起こっていた大事件に硬直しながらビールを呑んでいた。そんな中、カバーサの声が響いた。


カバーサ「えっと・・・、色々ありましたが今年のレースの確定をお知らせいたします。1着⑨番、2着⑮番、3着⑥番、以上でございます。ご観覧の皆様、本日までお疲れ様でございました。ご来場心よりお礼申し上げます。」

光「やったー、当たったー!!今夜は呑むぞーー!!」


-84 大イベントと大事件の後-


 確定放送が終わった瞬間光は飛び上がり持っていたビールの殆どをこぼしてしまったが全くもって気にしていなかった。確定オッズを確認していなかったが今までに無い位の快感を得ている様だ。こぼしたビールで衣服がぐっしょぐしょになってしまったがそんなの全く関係ない、早く払い戻しに行きたい気持ちで一杯で仕方なかった。

そんな中、会場で払戻金額等についての放送がされる。ただ魔力オーロラビジョンがずっと真っ暗なままだ。


カバーサ「えー・・・、映像が出てきて・・・、ませんね。なので私の方から改めて着順確定と払い戻し金額を・・・、あ。出せますか?では皆さん、ご一緒に見て行きましょう。

 改めまして今年のレースですが、1着⑨番、2着⑮番、そして3着⑥番となりました。2連単⑨-⑮の組み合わせ58790円、また3連単⑨-⑮-⑥の組み合わせ892万4360円となっております。尚、毎年の事ですがレース開始までにこちらの車券をご購入された方は払い戻し金額が倍となりますのでよろしくお願い致します。

えー、解説兼主催の・・・、今年はバルファイ国王様ですかね?今年のレースはいかがでしたでしょうか?」

パルライ「・・・。」


 画面に映ったパルライは事件解決の疲れからかおしゃべりなカバーサの横で静かに眠っている。


カバーサ「あのー、起きてますか?」

パルライ「・・・。」

カバーサ「スタッフさんすみませーん、強めのスタンガ・・・。」

パルライ「起きてます、起きてますから!!」


慌てて起きたパルライ、電撃が苦手なのか、それともカバーサが苦手なのか慌てて起きている。


カバーサ「では、気を取り直しましてね、今年のレースいかがでしたでしょうか。」

パルライ「そうですね、色んな方々の人情味が出ていた一面に溢れたものだったと思いますね。やはりドライバーさん達の生の御言葉を聞けたのが大きかったかと。ただ、スタート時のトラップはダンラルタ王国のデカルト国王のアイデアで行った事なのですが検討しなおさなければならない様ですね。しかし、1人でずっと1着を守り逃げ切った⑨番車のドライバーさんには賞賛の拍手をさせて頂きましょう。」


 すると、会場中から賞賛の拍手の嵐が起こった。そこでカバーサが気を利かせ⑨番車の監督に連絡を入れある提案をした。


カバーサ「⑨番車の監督さん、聞こえますか?宜しければドライバーさん本人にウィニングランをして頂くのはどうでしょうかね?」

⑨監督「少々お待ちくださいね・・・、部屋で籠っているかと思うのですが・・・。」


 監督はキュルアが猫と籠る部屋をこっそり覗いた、中から声が聞こえる。


キュルア「よーしよしよし、可愛いでちゅねー。まだ楽しませてくれるんでちゅか?ああ・・・、ああああああ、ああ・・・、ゴホン。何だってんだよ。」

⑨監督「いや、すまない。楽しんでくれ。あの・・・、実況さんすみません、本人一番邪魔されたくないお楽しみ時間が続いている様です。」

カバーサ「なるほど・・・、本人の意思を尊重しましょう。では皆様、ゴミは各々の会場に設置された魔術空間廃棄物庫(ゴミ箱)に入れて安全にお帰り下さいね。ではお相手はネフェテルサ王国競艇場の実況担当カバーサでございました、ありがとうございました。」

光「ラジオ番組みたいな終わり方だ・・・、取り敢えず払い戻しだね。」


 光は券売機に的中した車券を入れドキドキしながらその瞬間を待つ、すると紙幣取り出し口から魔力による光が差し込みそこから札束と硬貨が出てきた。大抵高額の払い戻しは窓口でというのが基本となっているが窓口の混雑対策の為、このレースの時だけ特別措置として券売機に強めの魔力が掛けられている。

 超がつくほどの大金を受け取るとすぐに『アイテムボックス』に入れ、大負けしたゲオルとナルリスと共に観客席を出た。

 ポケットでバイブが鳴った事に気づき、電話を取り出す。画面には「林田警部」の名前が。


林田(電話)「もしもし、光さんですか?実は大きな事件を解決したので関係者全員で祝賀会をしようと思っていましてね、光さんもどうですか?」

光「良いですね、事件ってオーロラビジョンで流れてたあれですよね?今日大勝しましたので予算は私が持ちます。結愛さんという方にも会ってみたいですしね。ただ・・・、隣に相変わらずのスカンピンが2人いるんですが一緒によろしいですか?」

林田(電話)「あら、景気がよさそうですね。それに大人数の方が楽しいですから大歓迎ですよ、結愛さんに言っておきますね。」


-85 大金の使い道-


光は林田警部と今夜の打ち合わせを進めて行った。


林田(電話)「どうしましょう、私が何処かお店を予約しておきましょうか。」

光「いや、食材や料理を持ち寄りどこかで集まりませんか?一先ずメイン食材は私にお任せ下さい。」

林田(電話)「分かりました、では私の家の裏庭に集まりますか。」

光「あの・・・、今から食材を注文しますので「あの2人」に連絡をお願い出来ますか?」

林田(電話)「ああ・・・、「あの2人」ですね。お任せ下さい。」


光には幼少の頃から夢があった、それには大金が必要だった。レースの払い戻しにより自他共に認める大金持ちになったのでその夢を叶えてやろうとした。元々この異世界に来た時に神様に大金を渡されていたが隠していたがこれで堂々とこの大きな買い物が出来る。

ただ自分の愛車は今回使用するのに2台とも厳しかった上にレース中にビールをがぶ飲みしていたのでガイにお願いして軽トラを出して貰うにした。勿論お礼としてこの後の呑み会に招待している。(※飲酒運転、ダメ、絶対!!)

一応、この為に『作成』した『強化』でこっそり車をカスタマイズしてはあるのだが・・・。


光「乗るかな・・・。」

ガイ「そんなに大きい買い物をするのかい?」

光「そうですね・・・、値段的にも大きさ的にも・・・。」


 少し不安になりながらとある場所へと向かった。

 街から出て20分程、目的地へと着くとガイの顔が蒼ざめた。


ガイ「光ちゃん、冗談だろ・・・?あれ・・・、買うのか?」

光「買いますよ、子供の頃からの夢ですから。ああ・・・、興奮してきました。」

ガイ「それにしても乗る・・・、かな・・・。」

光「大丈夫ですって、私にお任せ下さい。」


 店に入ると店主が笑顔で2人を出迎える、店の名前が刺繍された茶色いエプロンには所々シミが付いている。何故かプニに似て少しチャラい。


店主「いらっしゃいませ、何に致しやしょう。」

光「あの、予約していた吉村ですけど。」

店主「これは失礼、吉村様ですね。お待ちしておりました。」


 店主は光の名を聞くと何故か襟を正し2人にキャップを渡した。


店主「こちらを被ったら奥へどうぞ。ただ吉村さん・・・、本気ですか?」

光「勿論、夢が叶う瞬間です。駄目ですか?」

店主「いえいえ、私はとても嬉しいのですが何せ初めてなものでして。」

光「私もです、ドキドキして来ました。」

店主「ご期待に沿える物があればいいのですが。」


 店主に店の奥へと招待された2人は大きな金庫の様な扉の中へと入って行った、明かりが消えていて真っ暗な中はひんやりととても涼しい。どうやらここは冷蔵庫、この世界で言う魔力保冷庫の様だ。


店主「明かりをつけますね。」


 店主が明かりをつけると全体的に白く、所々鮮やかなピンク色をした物体がぶら下がっていた。


ガイ「光さん、これはまさか・・・。」

光「そうです、黒毛和牛1頭買いです!!」

店主「この人本気だったんだ・・・、バタン!!」


 冗談だと思っていた店主が顔を赤くし倒れてしまった。ガイが急いで起こす。


ガイ「大丈夫ですか?」

店主「ああ・・・、失礼いたしました。それで解体はいかがいたしましょう?」

光「実は・・・。」


 光は店主に耳打ちをした後、解体していないままの牛肉を大量の氷と共に軽トラの荷台に乗せ支払いに入った。


店主「ではえっとですね・・・、これ1頭で980万円頂戴致します。」


 これが高い方なのか安い方なのかは分からないが光は札束を積み上げ買い上げた。


-86 超新鮮で大胆なBBQ-


 ガイの軽トラで1頭買いした黒毛和牛を林田家の裏庭へと運ぶと、今か今かと待つ人々が歓声を上げていた。その中には光が招待した結愛社長もいる。現場には大きなまな板と綺麗な包丁などが並べられ解体の準備がされていた。

丁度その頃、焼き肉屋の御厨板長と板前をしているウェアタイガーのヤンチが到着した。


御厨「今夜はご招待頂きありがとうございます、ただ私達も召し上がって宜しいのでしょうか。」

光「勿論です、お2人も楽しんで行って下さいね。」

ヤンチ「さてと・・・、早速解体していきますか。」

女性達「私達も是非手伝わせて貰おうかね。」


 声の方向に振り向くとエプロン姿をしたネスタ林田、そしてまさかの貝塚結愛がいた。


ヤンチ「お2人さん・・・、本気ですか?」

ネスタ「あら、私はドワーフだよ。舐めて貰っては困るね。」


 昔からドワーフの一族は身のために色々な技術を何でも習得するという伝統があった、牛肉の解体技術もその1つだ。


ヤンチ「でも何で社長さんまで?」

結愛「実は私も見分を広げる為にドワーフの方々から勉強させて頂いているんです。牛肉の解体もその1つです。」

ネスタ「では早速やりますかね。」


 鮮やかな手つきで3人が解体を進めていく。骨と骨の間に包丁を入れていき、スルッと肉が剥がされていった。


結愛「さてと・・・、最初から贅沢に行きましょうか。鞍下、肩ロースです。丸々1本だからとても大きいでしょう。」

光「涎が出てきちゃってるよ、早く食べたいな。」

御厨「さぁ、焼肉にしていきましょうか。」


 結愛から受け取った大きな塊を御厨が丁寧に肉磨きと整形をして焼肉の形へと切っていく。20kgもの塊が沢山の焼肉へと変身した。


御厨「では、焼いていきましょう。ヤンチ、すまんが整形を頼む。」

ヤンチ「あいよ、プロが2人もいるから解体は大丈夫そうですもん。」


 御厨が炭火の網の上に肉を乗せ焼いていった、そこら中にいい香りが広がる。


光「この匂いだけでビールが行けちゃいそう。」

御厨「さぁ、焼けましたよ。塩と山葵でお召し上がり下さい。購入されたご本人からどうぞ。」

光「塩と山葵がお肉の甘みを引き立てて美味しい!!」


 光がビールを一気に煽る、何とも幸せそうだ。作業中の結愛やネスタ、そして焼き肉屋の2人にも振舞う。


結愛「たまりませんね、ビールが美味しい。」

光「今日はすぐに食べるので仕事を忘れて飲み食いしちゃって下さい。」


 鮮やかな手際で作業を進めながら全員ビールも進めていく。


ネスタ「次はヒレ肉だよ。」

御厨「シャトーブリアンも含めて美味しいステーキにでもしましょうか。」


 厚めに切った網にステーキ肉を乗せて焼いていく、するとドーラを筆頭にどんどん赤ワインを開けていった。


ドーラ「ワインに合うねー、美味しい。」

メイス「幸せです、私今日どうなってもいいわ。」

利通「俺も最高の気分だよ。」

林田「今夜は最高の夜になりそうだな、酒を酌み交わしゃ俺達はもう家族だ。なぁ、ノーム君。」

ドーラ「という事は警部・・・。」

林田「何を言っているんだ、今日からはお義父さんと呼びなさい。」

利通「おいおい・・・、まだプロポーズしてないよ・・・。」


 さて、利通はどうなってしまうのだろうか。


-87 宴は続き-


 ネスタと結愛による黒毛和牛の解体は続いた、2人も調子が出て来たのかありとあらゆる部位がお目見えしていく。


結愛「先程の肩ロースに続きましてリブロースのお出ましですよ、美味しく食べて下さいね。」


 結愛が出てきたばかりのリブロースを受け取ったヤンチが目にも止まらぬ早業で焼き肉用のお肉に仕上げる。


ヤンチ「実は今日の為に家で育てた果実を使ったタレを持参して来ました、タレ漬け焼肉にしますので板長お願いします。」


 御厨板長はヤンチに今日は仕事を忘れさせる様に伝えるべくあるルールを作っていた。


御厨「ヤンチ・・・、今日の俺達は休みだ。という事は分かってるよな?」

ヤンチ「わ、分かったよ親父。」


 ヤンチは御厨の事を仕事の時以外は昔の様に『親父』と呼んでいた。両親の顔を知らない孤独なウェアタイガーだったヤンチは、美味い食事を与えた御厨を本物の父親の様に慕い、自分も美味い料理を作りたいと御厨の下で言葉と料理を勉強し続けている。今となっては立派な板前、いや花板と言っても過言ではない位の実力を持っているが決して驕らず一途に料理を探求し続けていた。

 そのヤンチが自ら持参したタレで肉に味付けをする、それには師匠であり育ての父の御厨も興味津々だ。


御厨「ヤンチ・・・、俺も食って良いか?」

ヤンチ「良いけど・・・、不安だな。」

御厨「自分の料理に自信を持て、お前は仕事の時も自分が納得していない味の料理をお客様に出しているのか?」

ヤンチ「それは・・・、ないけど・・・。」

御厨「本当か?迷いがある言葉だな。」

ヤンチ「自分ではまだ発展途上だと思っているからかな。でもこのタレは素材から全部作って味見をしながら作った。」

御厨「汗と涙の結晶か。それじゃ何故不安になるんだ、是非俺にも味わわせてくれ。」

ヤンチ「いや・・・、あの・・・。」


 御厨がタレ漬けにしたリブロースを自ら焼き1口食べる。


御厨「ぐっ・・・、かっ・・・。」

ヤンチ「だから不安だったんだよ、親父唐辛子苦手だろ。」

御厨「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


 辛い物が大好きなヤンチはビールや白飯に合う様に自宅で育てた果実と一緒にハバネロやブート・ジョロキア、そしてトリニダード・スコーピオンと言った様々な唐辛子を加えていた。

 御厨は白米とビールの両方を一気に煽り、何とか辛さを緩和しようとした。今にも死にそうな顔をしている。

 その光景を見た光明とプニが近づいて来て自分達で焼きだした。


光明「美味そうな肉ですね、俺達も1つ。」

プニ「このタレの良いとろみ、食欲を誘う香り。俺にも早く焼いてくれよ、光明。」

御厨「お前・・・、ら・・・、後・・・悔・・・、する・・・、なよ・・・?」

プニ「この人何で死にかけてんだよ、それにしても美味そうだな。」


 何故御厨が死にそうな表情をしているのか理解できていない2人は良い色に焼けた肉を口へと運ぶ、眼前にあるのは確かに高級な黒毛和牛。ただ表情の理由をすぐ知るようになる。


林田「何故だ、急にビールがよく売れる様になったんだが。」


 ヤンチの特製ダレの正体を知らない林田は日本酒の盃を利通に渡し自分の熱燗を注いだ。


林田「利通・・・、ノームは新人警官だった頃よりずっと見てきたからお前と同じで俺の子供みたいな奴だ。他の事に目もくれず、ずっと一途に仕事にのめりこんでいたアイツがまさかお前に惚れるとはな。俺はアイツにもお前にも幸せになって欲しい、だから決して俺から押し付けたりはしないが、後悔せん為にお前が思う今最もすべき事をやれ。」


 盃を受け取った利通は数秒程沈黙し、注がれた酒を一気に煽り深く・・・、深く呼吸をすると一歩一歩踏み締めドーラへと近づいていった。


-88 宴の中で-


 顔を少し赤らめ酒の力を借り深呼吸した利通は父親である林田警部にも見せた事の無い程の真剣な表情をしていた。

 全員察したのか歓談をやめ利通の行動に注目し、温かな表情で見守る。利通が進む先に佇むドーラが微笑んでその時を待っていた。

 ドーラの前にしゃがみ込み、いつの間にか用意していた指輪を懐から出すともう一度深呼吸をしてキリっとした表情で切り出した。


利通「ドーラ・・・、いや、ノーム・クランデルさん。ご存知の通り自分は普段からとても不器用なので非常に短いですが率直に言わせて下さい。貴女が部下として私の下に来て下さった時から決心していました、一生懸けて幸せにします。貴女の隣で朝を迎えたい、僕と結婚して下さい。」


 全員の視線がドーラに集中する。


ドーラ「一緒に働いたり遊んだりしている内に自分の人生で堂々と「一番楽しい」と思えるのが貴方といる時でした。貴方が思うような女になれるかどうかは分かりません、でも2人で幸せな時間や瞬間を増やしていきたいです。私みたいなエルフで宜しければ、喜んで御受け致します。」


 利通がドーラの左手の薬指に指輪をはめると、そこら中から拍手喝采が起こり皆が涙を流しながら歓喜の声を上げた。

 すると、赤ワインでほろ酔いになっているメイスが観衆の中から出てきた。


メイス「林田利通さん、貴方はこちらの女性を妻として迎え、病める時も健やかなる時も愛し続ける事を誓いますか?」


 皆がまさかと思っていたのだが、結婚の儀を始めたのだ。


利通「誓います。」

メイス「ノーム・マーガレット・クランデルさん、貴女はこちらの男性を夫として迎え、病める時も健やかなる時も愛し続ける事を誓いますか?」

ドーラ「誓います。」

メイス「Then, you kiss to the bride.」


 2人は静かに近づきお互いへの優しさと愛情あふれる表情と共に口づけをした。


メイス「アーク・ビショップの名の下に宣言します。今よりこの2人を夫婦とします!」


 全員が魔力で紙吹雪やライスシャワーを行い、拍手で新たな夫婦の誕生を喜んだ。

そんな中で新郎本人は一人裏庭の出入口へと走り、出た途端に叫んだ。


利通「よっしゃー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 林田は人生の大きな節目を迎えた息子の片腕を掴み高らかに上げさせた。堂々とした表情の利通の目には歓喜の涙が浮かんでいる。


光「喜ばしい瞬間を迎えたお2人に私からのプレゼントです、結愛さんお願いします。」

結愛「最高の瞬間にピッタリな大きいサーロインがお出まししましたよ、美味しいステーキにして皆で食べましょう。ただ利通さん、アーク・ビショップの前で結婚したんですからね、ドーラさんを泣かせたら今度は貴方を解体しますよ?」

利通「は、はい!!絶対幸せにします!!」


 血の付いたナイフ片手にかなりキツめのジョークを言った結愛からサーロインを丸々1本受け取ったヤンチが少し震えつつも美味そうなステーキにしていく。


御厨「何でお前が震えているんだよ。」

ヤンチ「ただでさえサーロインって高級品なのに、結愛さんが何となく怖いから緊張するの!!」


 それを聞いた結愛は少しふざけてみる事にした。


結愛「ヤンチさん・・・、失敗したらどうなるか分かってますよね・・・?」

ヤンチ「ちゃんとします、ちゃんとしますから許して下さい!!」


 ウェアタイガーは「伝説の獣人」と巷では言われているはずなのに、目の前にいるヤンチはまるで鞭で脅されている奴隷の様に震えていた。

 結愛の「脅し」が利いたのか、ヤンチが鮮やかな手付きでステーキにカットしていくと、御厨が網の上で焼いていく。

 ただ改めて言う事でもないが、全員呑みながらだ。


-89 宴はまだ続くが-


 裏庭にLEDによる照明を備えている林田家ではまだまだ解体しながらのBBQが続いている、全員飽きないのか箸が止まらない。


御厨「先程結愛さんが取り出したサーロインのステーキが焼きあがりました。」


 御厨が網の上で1口サイズに切っていくと全員が舌鼓を打ち、先程結婚したばかりの利通とドーラには厚めに切った1枚肉が渡された。


利通「飲み込むのが勿体無い位に・・・。」

ドーラ「咀嚼するのが嬉しくなる位に・・・。」

2人「美味しすぎる!!」


 ただ全員脂がくどくなってき来たのか、気分を変える為にネスタが解体したての牛肉を片手に提案した。


ネスタ「赤身の美味しいもも肉にしましょうかね、脂が少ないから食べやすいはずだよ。」

結愛「じゃあ私の方から、ランイチ(ラム)です。ランプとイチボに分けてお召し上がり頂きます。」


 結愛が牛筋を境にイチボとランプに分けると受け取ったヤンチがイチボは焼き肉に、またランプはステーキにしていった。

 今更だが、サラダとかは挟む必要は無いのだろうかという疑問を抱いてしまったガイ含む数名が気を遣い水洗いしたレタスや胡瓜、そしてトマトを使ったサラダを用意した。さっぱりと楽しめる様にドレッシングは青紫蘇の物を選んでいる。

 光は口の中が脂で一杯になっていたので一応ビールで流し込んでいたのだが、気分的にさっぱりとした物を挟みたかったのでサラダを1皿受け取ると一気にかきこんだ。

 

ネスタ「続いては内ヒラ(内もも)だよ、これは少し時間が掛かるけどローストビーフにしようかね。今から作るからその間結愛さんお願いね。」

結愛「分かりました、師匠!!」


 いつの間にか大企業の社長である結愛に「師匠」と呼ばせているネスタ、この事には林田が少し焦りを見せたが結愛は当たり前の様に呼んでいる。どうやら牛の解体技術はネスタから学んでいる様だ。

 そんな中、大量の牛筋が解体や整形の間に出てきたので御厨がこっそり仕掛けていた出汁に醤油等と一緒に入れて特製の牛筋煮込みに仕上げていくと瞬く間に殆どが無くなってしまった。それと同時進行でビールも無くなってきたので光が『瞬間移動』で自分の家の地下にある大型冷蔵庫からありったけの缶ビールを持参し、皆で呑み始めた。

 林田は牛筋煮込みを食べながら涙ぐんでいた。


林田「この優しい味付けがビールに合うな・・・、米にも合いそう。」

御厨「警部さん・・・、良かったら小さめの丼にしてみましょうか。」

林田「宜しいのですか?!」

御厨「実はガイさんからお米を頂きましたのでお釜で炊いていたんですよ、もうすぐ蒸らしが終わるので炊き立てご飯で御作りさせて頂きますよ。」


 御厨がお釜の蓋を開けると日本人が大好きなあの香りと共に炊き立ての白米がお出ましした。杓文字で返すと微かにおこげも見える。


林田「絶対合いますよ、ああ・・・、待ちきれない!!」


 板長は若干小さいが深めの茶碗に湯気のたつ白米を少しよそうとまずはその炊き立ての味を林田に楽しませた。


林田「ああ・・・、日本人で良かったとしみじみ思いますよ。米の美味さで感動できるなんて幸せだなぁ・・・。」


 御厨は林田が空けた茶碗を受け取ると白米をまたよそい、そこに牛筋煮込みをかけて提供した。


御厨「いかがでしょうか?」

林田「この濃い目の味付けが嬉しいですね、どんどん米が進みますよ。」


 それを見ていたメイスといつの間にか参加していたナルリスが林田に食らいついた。ただ、メイスは酔っている。


ナルリス「あっ!!警部さんだけずるいですよ!!」

メイス「この私を差し置いて何食べているんですか!!」

御厨「ははは・・・、まだまだありますからどうぞ。」


-90 解体の最中-


 牛筋煮込みご飯を振舞う御厨の横でネスタは内ヒラ肉の脂を丁寧に剥がし取り、赤身肉をブロック状に切っていくと、手の空いたヤンチが特製のスパイスに漬け込み1面1面表面を数十秒ずつ焼いていった。

 表面を焼き上げたブロック肉の粗熱を取り、林田警部拘りの冷蔵庫に入れる。ブロック肉を冷蔵している間に特製のソースを作る。フライパンに残った肉汁や脂をベースに赤ワインを加え煮詰めてアルコールを飛ばした後粗熱を取ってこれも冷蔵庫で冷やしていく。


結愛「出来上がりが楽しみですね、赤ワインは・・・、あれ?」


 結愛が持って来ていた赤ワインが全て無くなってしまっているので辺りを見回すと、先程の新郎新婦が何故か呑み比べを始めその中で結愛のワインまで呑んでしまっていた。


結愛「うっ・・・、1本50万円したのに・・・。」

光明「どんだけ高いワインだよ・・・、と言うよりどこにそんな金があったんだよ。」

結愛「さてと・・・、少し席を外します・・・。」


 嫌な予感がした結愛はそそくさに『瞬間移動』で何処かに逃げてしまった。


光明「あっ・・・、最近家で安めの第3のビールばっかり吞んでると思ったらあんなに大きな買い物をしていたんだな。へそくりでもしてたのか?」


 噂をしていると結愛が大きめの袋を持って戻って来た、袋の中身は全て赤ワイン。


結愛「はぁ・・・、はぁ・・・、予約注文していて正解でしたよ。これなかなか手に入れるのが難しいワインなんです。」

光明「そんなワインを何本も・・・、俺の嫁って一体・・・。」


 頭を抱える光明を横目に冷蔵庫からネスタが出来立てのローストビーフを運んできて特製のソースと共に振舞った。ワインを全員に配ると皆噛みしめる様にゆっくり呑んでいった、勿論ローストビーフにぴったりだ。

 御厨が先程のお釜からご飯を丼によそい、ちぎったレタスをふんわりと散らしてその上に薄切りにした肉を薔薇の花の形にすると上に刻み海苔を飾り見事な丼へと変身させた。

横には小皿に入った温泉卵が添えられている。それを見た林田警部と光が駆け寄って丼を掴み一気にかき込んだ。口いっぱいに入った料理を味わいながら2人は感動の涙を流している。


林田・光「美味すぎる・・・、こんな贅沢な丼初めて。あ、ハモりましたね。」


 まさか「あ、ハモりましたね。」まで被るまでとはと全員唖然としている、御厨は2人に温泉卵での味変を勧めると、喜び勇んで味変した丼を食べ始めた。濃厚な卵が全体にまろやかさを与え2人の食を進めさせる。ただ、何処にそんな量が入るのだろうかと周りに思わせながらずっとそのままの勢いで食べていった。

 その横でネスタが次の料理を作るべく寸胴鍋を取り出した。


ネスタ「次は煮込み料理にしましょうか、この料理には脛肉を使用していきます。結愛さん、外せますか?」

結愛「今丁度外せましたよ、前チマキ(肩スネ)と友チマキ(モモスネ)です。牛筋付きで美味しいですよ。」

林田「さっきの牛筋煮込みも美味かったけどこれも楽しみですね。」

ネスタ「大きなこの鍋でゆっくりと煮込んでいくからね、楽しみにしといてよ。」

ヤンチ「その間に焼肉を追加しましょう。」

メイス「次は何処の部分ですか?」


 その横で丁度モモ肉のとある1部分を外し終えた結愛が声をかけた。


結愛「希少部位をお召し上がり頂きましょうか、これもモモ肉でしてマル(シンタマ)と言います。これにくっついている三角形のこの部分、これがよく焼肉屋でも名前が有名なっているトモサンカクですよ。」

林田「程よいサシが食欲を誘いますね。涎が止まりませんよ。」

ドーラ「お義父さんまだ食べるんですか?」

林田「俺は今夜この牛を食い尽くすと決めたんだよ!!」

光「警部、私が買った牛肉ですよ。私も一緒に食べ尽くしますからね。」

林田「忘れておりました、申し訳ございません。」

光「もぉー。」


 頬を膨らませた光を含む2人は意地っ張りになりながら牛肉を食べていく、いつぞやの光景の再来に思えてきた。

 ただその光景を見ながら周囲の者達はまだ入るのかと汗をかいていた。そんな会場に美味い牛肉が食えると聞きつけた新たなメンバーがやって来た様だ。

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