3. 異世界ほのぼの日記 71~80


-71 捜査が続く中-


 林田の『連絡』による電話に驚きを隠せない刑務所長に林田が質問した。


刑務所長(電話)「都市伝説の通り・・・。」

林田「今はそんな事言っている場合じゃない、お前の所に貝塚義弘がいただろ。パワハラ等で捕まった貝塚だ。」

刑務所長「あいつなら逮捕された次の日に重岡とかいう投資家が保釈金を払って速攻出て行ったじゃないか、全国でニュースになっていたぜ。」


林田がただ度忘れしていたのだが、刑務所長が改めて言うには義弘の指示で保釈金を支払った重岡が車で義弘を県外の山奥に連れて行くとそこからは2人とも音信不通となったとの事で、新たな悪だくみを行っていた可能性があった。そこで結愛と光明、そして羽田を含む多くの黒服達が突然消えたと聞き、何らかの方法で追って来たかもしれない。


林田「因みに結愛さんはどうやってこの世界に?それとここに来てからはどうやって?」

結愛(無線)「これも数年前の話です、日本で忙しくしていた私が久々のゆったりとした休日を光明と楽しんでいた時、突然私たちの目の前に幻覚の様な竜巻が現れてそこにいた全員が吹き飛ばされたんです。そのあと目が覚めたらこの世界に。『作成』のスキルもその時知りました、それから少しの間バルファイ王国にある魔学校に通いながらこの世界の事を少しずつ調べて行ったんです。それから貝塚財閥の教育支援の一環として『転送』で持って来た財産の1部を寄付し、ネフェテルサ王国の孤児院を貝塚学園の小分校に、またバルファイ王国の魔学校を高等魔学校と貝塚財閥の支社にさせて頂いているのです。因みにレースの収益でダンラルタ王国に分校を建設する予定でした。」

林田「なるほど、それは我々にも学園を守る義務がありますね。」


 その守るべき学園に義弘の魔の手が触れようとしているかもしれない、それは流石に防がなければならない。

 その頃、未だトップが⑨番車のまま遂に100周目を迎えようとしているレース場の脇にあるとある施設でバルファイ王国軍の将軍達がひっそりと1人過ごしていた国王を説得していた。バルファイ王国にあるホームストレート横には国王本人が自らの分身を忍ばせている。分身と言えど思考等が本人とそのまま繋がっているので各々の場所に国王のオリジナルが存在している様な状態となっている。ただ分身は空の鎧に魂を魔力でくっつけているだけのもので、それが仮の姿として一般に公開されている国王の姿とされていた。鎧と言っても食事等の動作は人間と同様に行う仕様になっている。


将軍「国王様、恐れながら申し上げます。ダンラルタ王国にて例のクァーデン家に不穏な動きがあるとの連絡がありまして・・・。ただその前に毎年恒例の『アレ』がありますので今すぐレース本部にお戻りいただけますでしょうか。」

バルファイ国王「ううむ・・・、私は派手なのが苦手なので分身に任せてここでひっそりとしていたかったのですが、致し方ありませんね。それと元々クァーデン家はバルファイ王国にいた貴族、気を緩めるわけにはいきません。念の為、少しお時間を頂けますか?知恵を授かりにあの人に会う必要がありそうです。何となく嫌な予感がして仕方が無いので。」


 一方、ネフェテルサ王国のレースコース横、特設の観客席で「勝ち確定」を予見した光が前祝をしていた。


光「私さっきからずっと呑んでばっかりだけど良いのかな?一応・・・、主人公なんだけどぉ!!」

ナルリス「気にしない気にしない、良いから呑もうや。」


 同時刻、空腹の魔法使いがとある店へと向かっていた。


魔法使い「そろそろ着く頃だな・・・、腹減ったー。」


 ルンルンしながら店に入ろうとすると大人数で店内が賑わっているのを目にし、少し待ちを覚悟しながら引き戸を開けた。

 それと同時にカバーサの実況がコース全体に響きわたる。


カバーサ「レースも100周目になろうとしており、バルファイ王国にあるレース本部で国王様の宣言と同時に毎年恒例の演出がある模様です。相変わらずの鎧姿で誰も素顔を見たことが無いとされる国王様による今年の演出は何なのでしょうか。」


 カバーサの台詞が終わると、バルファイ国王の鎧の分身が特設のステージ上で煙玉を落とすと真昼間なのにも関わらず辺りが真夜中の様に真っ暗になり豪華なスターマインの花火が打ち上げられた。安全の為走行中の各車ではライトが強制的に点灯している。ステージ上の煙幕が無くなると同時に、鎧の分身と店にいたバルファイ国王が入れ替わり観客達が全員騒然とした。光もその内の1人で、先程の魔法使いも店先で同様に驚愕していた。


光・魔法使い「まさか・・・、(光)あの人が・・・、(魔法使い)あいつが・・・、

バルファイ国王だってーーーーー?!」


-72 強力な協力-


 煙幕が消えると同時にステージ上にバルファイ国王本体が出てきたホームストレートの映像を見る光と、その逆に煙幕が消えると同時に鎧が出てきた店先にいた魔法使いはバルファイ国王を2度見、いや3度見していた。


魔法使い「お前・・・、ずっと黙っていたのか?」

バルファイ国王「師匠すみません・・・、あまり派手に目立つのが得意では無いのです。なので普段は鎧を分身にして過ごしていました。国民に対し私自信を偽るようで気が引けたのですが。」

魔法使い「ははは・・・、お前は昔から変わらんな・・・、パルライ。」


 今更感を感じるその魔法使い、リッチのゲオルは笑う事しかできなかった」。


パルライ「実はパルライは偽名で、本当はバルファイなんです。センス無いでしょ?」

ゲオル「そこも相変わらず・・・、ですな・・・、パル・・・、バルファイ国王。」

パルライ「師匠やめて下さい、今まで通りパルライでお願いします。それよりお聞きしたい事がありまして。」

ゲオル「俺にか?」

パルライ「知恵をお借りしたいのですが・・・。」


 一方その頃、競馬場で爆弾を探すプニ達は少し苦戦していた。梶岡が居たら爆弾の場所を教えて貰えると思うのにとため息をついている。ケルベロス達が鼻を利かせて何とか匂いを辿ってくれているが、頑丈な場所に置いているのか、それとも深い所に埋めているのか捜索は難航していた。結愛が何とかならないものかと考えぬき、『捜索』のスキルを『作成』した。


プニ「結愛って器用なんだな、何でも出来そうだし。」

結愛「改めて何なんだよ、気持ち悪ぃな。」

光明「じ・・・、実は俺も思ってた。」

結愛「光明程じゃねぇよ、お前と違って機械に強いわけじゃねぇし。」

光明「あ、そうだった。」

結愛「おい、どういう意味だ。言ってみんかい!!」

レッドドラゴン「おいおい・・・、取り敢えず爆弾探そうぜ。一刻を争うんだ、時間かける訳にも行かんだろ。」

結愛「悪い悪い・・・、つい意地になっちまった、許してくれ。」


 その時、結愛の持つ無線機から声がした。声の主は林田警部。


林田(無線)「光明さん、光明さんいらっしゃいますか?」

光明「光明です、どうされましたか?」

林田(無線)「羽田さんから機械がお得意だとお聞きしまして、ご協力をお願い出来ますでしょうか。」

光明「すぐ行きます、少々お待ちください。」


 光明は『瞬間移動』で林田のいる警察署へと飛んだ。


林田「おお・・・、行動がお早いですね。」

光明「一刻を争うかと思って、駄目でしたかね。」

林田「何を仰いますやら、むしろ助かりますよ。」


 林田は光明に電話の向こうのガヒューを紹介すると早速本題に入った。


林田「実はガヒューさんからクァーデン家の牢屋にて、貝塚義弘が金銭を授受していたのを見たと言っていたのです。贈収賄が疑われます。ダンラルタ王国軍の方々の協力を得てこちらの監視カメラの映像データを押収してきました。宜しければ解析して証拠となる音声を拾い出して頂けませんか?」

光明「分かりました、パソコンをお借りできますか?」


 光明は林田からカメラのデータの入ったSDカードとパソコンを受け取ると、早速解析作業に取り掛かった。光明は解析作業を進めながら林田に話しかけてみた。


光明「それにしてもどうやってダンラルタ王国軍の方々にご協力頂けましたね。」

林田「独自のネットワークとコネってやつですよ。」

光明「さてと・・・、そろそろ終わりますよ。幸い、音声も取り出せそうです。」


 光明は解析を終えると林田と2人で映像を見ると、大きく舌打ちした。くっきりとあの人物が映っている。


光明「義弘・・・。」

林田「確定・・・、ですね・・・。ゆっくりと見ていきましょう。」


-73 証拠-


 光明は警察署で解析を終えた映像を林田と確認していると、我慢できなくなったのか結愛が競馬場から『瞬間移動』してきた。興奮からか、それとも火照っているからか顔が赤くなっている。まぁ、今日はそんなに暑くない様に思えるのだが。


結愛「光明・・・、証拠出たか・・・?!出ーたーかーあー?」

光明「お・・・、落ち着けよ・・・、林田さんの・・・、大人の前だぞ!!」

結愛「えっ・・・、コホン・・・、私とした事が。失礼。」

林田「大丈夫ですよ、無線からも会話がちょこちょこ聞こえてましたから。」

光明「取り敢えず見よう、再生するぞ。」


 光明はノートパソコンのエンターキーを押し、映像を再生し始めた。全体的に暗いが松明が揺らぎバーの間接照明の様に照らしている。数秒後、顔を隠した3人組がある牢屋に入って行った。別のカメラの映像に切り替わり、3人がはっきりと映っていた。続きを再生しようとすると、窓の外から聞き覚えのある声がする。


声「その映像、ちょっと待った!!」

林田「ここは15階だぞ、誰だよ?!」


 3人が窓の外を見ると背に人の姿をし、小さくなった巨獣人族を乗せたコッカトリスが飛んでいる。デカルトがガヒューを連れてきたのだ。


デカルト「のっちー、超特急で来たから疲れた、お茶でもくれや。」

林田「デカルト・・・、その呼び名止めんかい。」

デカルト「ううむ・・・。とにかく希(のぞむ)、早く入れんかい。」

光明「もしかしてさっき仰っていた独自ネットワークとコネって・・・。」

林田「お気付きですか。私の友人、ダンラルタ国王のデカルトです。」

結愛「世間狭・・・。」


 呆然としている結愛を横目に窓から入って来たデカルトは背からガヒューを下ろすと人の姿に戻り光明に再生を促した。


デカルト「貴方が光明さんですね、お邪魔してすみませんでした。再生をお願い致します。」

光明「あ・・・、はい・・・。再生します。」


 映像が再生され、3人の姿がくっきりと映っている。その内の1人を見てまずデカルトが反応した。


デカルト「間違いない、金を渡しているのはクァーデンですよ。主のパントリー・クァーデンです。」

結愛「受け取っている内の1人は・・・、間違いありません。私の憎き父・・・、貝塚義弘です。」

光明「もう1人は魔学校の入学センター長だ、確か名前は・・・、リンガルス!!」

林田「光明さん、音声をお願いします。」


 光明の操作で音声が再生された。


パントリー(映像)「リンガルス・・・、私の娘を何とか首席で入れてくれないか?これで上手くやってくれ。そしてこの為に貴方を呼んだのです、義弘さんもお願いします。」

義弘(映像)「ああ・・・、勿論だ。愚かな馬鹿娘から財閥と学園の全てを取り戻す布石にする。リンガルス、裏工作はしっかりしといてくれよ。結愛め・・・、たった数年で私が苦労して築き上げたものを我が物にした様につけあがりよって・・・、覚えておけ・・・。」

結愛「義弘め・・・、折角信頼を取り戻してきた貝塚財閥を奪われてたまるか・・・。羽田さん、聞こえますか?」


 同時刻、自分がバルファイ国王だと明かしたパルライは師匠であるゲオルに相談を持ち掛けていた。


パルライ「実は、以前バルファイ王国領に邸を構えていたクァーデン家という悪名高い貴族がいたのですが、私たち王宮の者が知らぬ内にダンラルタ王国領に突然引っ越しましたのですが、それ以来王宮や領内の山々、また王都に魔法を使ったと思われる悪質な悪戯が多発してまして。誰の仕業か調べる方法を探しているのですが、流石にダンラルタ王国の方々にご迷惑をお掛けする訳にも行きませんので少し知恵をお借り出来ませんか?」

ゲオル「ううむ・・・、悪戯は決まった時間に起こっているのか?」

パルライ「どうも不定期でしてね、予告等もないので頭を抱えているのです。」

ゲオル「一先ず、王都全体を障壁魔法で囲む必要があるな。障壁内で魔法が発動された瞬間、お前の目の前に魔法を掛けた本人が即飛んでくるようにしておけば何とかなるのでは?」


 パルライは早速王国魔法軍を全員集めて王都全体を障壁で囲みガードを固めた。


-74 取り敢えず一段落-


 3国を跨いだ爆弾魔事件の捜査が続く中、いよいよ数日にも渡るレースもファイナルラップとなっていた。トップはずっと独走していた⑨番車ドッグファイト、キュルアがスタートしてから1度もピットに入らず走り続けたお陰で独走状態を保ち続けゴールまで至った。車自体は魔力で走るので燃料の補給は必要なかったのだが交代要員で控えていたレーサーは数日間ずっと控え部屋で眠っていた内に優勝する感じになり、何もしなかったので賞金は全額キュルアが受け取るべきだと主張していた。

 ただキュルアの頭の中は猫の事で一杯で、ここ数日間愛猫を撫でていないので禁断症状が出始めている。


キュルア「猫・・・、猫・・・、猫ぉーーーーーーーー!!!なでなでさせろぉーーーーーーーーーーー!!!」

⑨監督「分かったから、マイクをオンにして叫ぶなよ・・・。」

カバーサ「只今、かなりの大音量での叫び声が全会場で響き渡った事、お詫び申し上げます。」


 どうやらキュルアの叫び声はカバーサが実況席を通して全ての観客席に聞こえる様にしてしまっていた、優勝の瞬間のキュルアの声を観客に届けようとカバーサが思いつき気遣いのつもりで行った事だったのだが逆効果だったようだ。キュルアの恥ずかしい姿を晒してしまった形になった。

 ホームストレートに⑨番車が帰って来た、バルファイ王国中から集まった国民達が車両を見守っている。ただ18kmという距離は早く猫を撫でたいキュルアにとってかなりのものだったらしい。パルライの手によりゴールで大きなチェッカーフラッグが左右に振られる。それを横目にシグナルの下を通過しゴールした瞬間、脇に寄せた車両をピタッと止め交代要員の控え選手達がいる控え部屋へとダッシュしていった。実はキュルアの禁断症状を予期していた控え選手達が気を遣って猫を預かってくれていて表彰式までなでなで出来る様にしてくれていた。キュルアが愛猫に顔を近づけ擦り付けるとそこにたまたま監督が通りかかった。


⑨選手「おおキュルア・・・、よくやっ・・・、ってありゃりゃ。」

キュルア「おお・・・、待っていたかー、存分になでなでしてやるからな覚悟しとけよ。ほれほれほれほれほれ・・・。」

⑨監督「仕方がない奴だな、お前は。表彰式まで好きなだけ撫でておけ。ただ、着替えだけは済ませておくんだぞ。」


 監督は静かにドアを閉め、キュルアは存分に撫で始めた。


カバーサ「1着は⑨番車ドッグファイトです、50周目の締め切り時点での人気に応え下位を走る車両に大差を付けてぶっちぎりのトップでのゴールとなりました。来年からは締め切りのタイミングを考え直す必要があるかも知れませんね。ただ、チームメイトや監督と集まることなく1人で部屋に籠って猫を撫でてます、撫でたい欲がそこまでだったのでしょうか。2着はまだホームストレートに入っていませんがどうやら⑥番車か⑮番車のどちらかになりそうです、これはかなりの高配当となる模様ではないでしょうか。」

光「貰った!よっしゃー!」

ゲオル「流石光さんですね、ボート行ってた時もそうですがセンスがあるのではないですか?(念話)パルライ、様子はどうだ?」

パルライ(念話)「特に目立った動きは見えませんね、ただ1つ引っ掛かる事がありまして。」

ゲオル(念話)「何だ、言ってみろ。」

パルライ(念話)「実は私達主催者の方には⑲番車は怪我で欠場している事になっているのですが、最下位で走っているみたいでして・・・。出走表にも横線が引かれているので師匠もご存知かと思ったのですが。」

ゲオル(念話)「不自然だな・・・、ん?電話か?」


 その時、ゲオルの電話が鳴ったので発信者を見てみるとそこには「林田警部」の文字があったので身に覚えが無いなと思いながら電話に出てみる事にした。


ゲオル(念話)「すまん、少し抜けるぞ。」

パルライ(念話)「分かりました、どうぞ。」

ゲオル「もしもし、ゲオルです。」

林田(電話)「もしもし、林田です。実は難航している捜査がありまして・・・、恐れ入りますがゲオルさんのお力をお借りしたいのです。どちらにいらっしゃいますか?」

ゲオル「光さん達とレース場にいるのですが、緊急の様ですのですぐに向かいますね。」

林田(電話)「ネフェテルサ王国警察にお願いします。」

ゲオル「ああ・・・、なるほど。そこですね、よいしょっと。お疲れ様です。」


 瞬時に林田のいる場所を特定し『瞬間移動』を行うと林田は驚いていた。


林田「お早いですね、助かります。早速なのですがこちらの資料をご覧頂けますか?ダンラルタ王国とバルファイ王国を跨いで今調べている事件なのですが。」

ゲオル「なるほど・・・、少しお時間を頂けますか?」


-75 ネクロマンサーの捜査-


 ゲオルは念話でパルライに連絡を取り、分身でも良いのでネフェテルサ王国警察に来て捜査に協力出来ないかと聞くとパルライは快諾しすぐに分身で『瞬間移動』した。


林田「何と、バルファイ国王様ではありませんか。突然どうされたのです?」

パルライ「たった今師匠に呼ばれまして、捜査に協力する様にとの事だったので。」

ゲオル「こいつは私の弟子でして、ただ国王という事は最近知ったのですがね。」


 林田から資料を受け取ると、パルライは食いつく様に見た。そこに「クァーデン家」の文字があったからだ。以前からあの悪名高い貴族を見逃してしまい、その末路として外部に解き放ってしまった自分が許せなかったのだそうだ。3国間における『魔獣愛護協定』があるのにも関わらず奴隷として巨獣人族を捕縛していた噂を耳にしていたのでダンラルタにいる今も目を付けていたのだが王国兵からの「動きがあった」との言葉で一層自分が許せなくなったらしい。


林田「国王様、恐れ入りますがこちらの映像をご覧頂けますか?」

パルライ「すみません、私もダンラルタ国王と同じで堅苦しいのが苦手ですのでパルライとお呼びして頂けませんか?」

林田「わ、分かりました。ではパルライさん、こちらをご覧ください。」


 クァーデン家にある地下牢の監視カメラの映像だ、3人の贈収賄のシーン。


パルライ「クァーデンのやりそうな事です、許すべきではない。」

林田「この贈収賄事件により首席での入学を取り消された方がいまして。」

パルライ「許せませんね、元々クァーデン家はバルファイ王国領にいたので尚更です。」

デカルト「おいパルライ、さっきから俺に気付いてなかったのか?」

パルライ「すみません、いつもとお姿が違いましたので。」

デカルト「まぁ、良いか。一緒に捜査の手伝いを頼む。」

パルライ「分かりました、取り敢えずバルファイ魔学校に行きましょう。証拠を多く掴まねば。」

デカルト「そうだな・・・、じゃあ一緒に来てくれ。」


 デカルトはパルライを背に乗せ魔学校へと向かい飛び立った。現場には調査を続ける羽田達の姿があった。羽田は手袋をして壊れたカメラを持っており、結愛からの「2国の国王が来る」との伝言で緊張している様子だった。


羽田「ご、ご、ご足労おかけしても、も、も、申し訳ありません。わた、わた、私は貝・・・、塚財閥の・・・、羽ちゃと申しましゅ。」


 その様子を無線を通して聞いていた結愛が口を挟んだ。


結愛(無線)「羽田さん、緊張しすぎですよ。しっかりして下さい。王様方、申し訳ございません。」

パルライ「いえいえ、お気になさらず。」

デカルト「一先ず、何か証拠になりそうな物はありませんか?」

羽田「こち・・・、こちらですね。」


 羽田が持っていたカメラを2人に見せるとデカルトがパルライに聞いた。


羽田「ズタズタに壊されていまして。」

デカルト「何とかなりそうか?」

パルライ「やってみましょう。」

羽田「ん?」


 パルライが受け取ったカメラに魔力を注ぐと一瞬でその形は復元されたが中にはSDカードらしきものは無く空っぽとなっていた。


羽田「これじゃ証拠になりませんね。」

パルライ「因みにこれは何処にあったんです?」

羽田「入学センターのパソコンに向く様に置かれていました、監視カメラだと思われます。」

パルライ「ふむふむ。なるほど・・・、ちょっとやってみましょう。」

羽田「はい?」


 パルライがゆっくりと魔力を注ぎカメラを包み込む。


パルライ「羽田さん、何も入っていないSDカードはありませんか?」

羽田「16ギガの物で宜しければ。」

パルライ「十分です、このカードにカメラ自身の記憶を流し込みます。映像化しているので証拠になると思うのですが。」

羽田「は・・・、はぁ・・・。」


-76 リンガルス-


 パルライは羽田からSDカードを受け取るとカメラに挿入しより強力な魔力を込め始めた。


羽田「あの・・・、パルライさん?」

デカルト「パルライはネクロマンサー、リッチの下で修業した魔法使いなんです。ネフェテルサ王国の警察署には今彼の師匠も来ているのですよ。」


 そうこうしているうちにパルライが作業を終え、一息ついた。


パルライ「よしっ・・・、終わりました。見てみましょう。」


 カメラの小さい映像を3人の大人が凝視する。


3人「こ・・・、これは・・・。」


 映像では黒い覆面をしたリンガルスと思われる人物がパソコンで何かを編集している。


デカルト「拡大出来たらな・・・。」

パルライ「やってみますか。」


 パルライが魔力を込め、パソコンの映像がくっきりと見えるまで拡大した。「首席入学者」の文字の下にある「梶岡浩章」の文字を消して「リラン・クァーデン」に変更していた。


パルライ「確定ですね。」

デカルト「待て、どこかへ向かうぞ。」


 覆面男は書類を印刷してそそくさとパソコンの電源を切ると部屋を出た。


羽田「この建物には魔学校長の部屋があったはずです、それと主要警備室。」

パルライ「そこに行きましょう。」


 3人はパルライの魔法で主要警備室に『瞬間移動』するとそこには警備員が3名いたのだが全員眠ってしまっていたので羽田が慌ててたたき起こした。


羽田「しっかりしろ、警備はどうしたんだ!!」

警備員「えっ・・・?痛た・・・、羽田さんじゃないですか。どうしてここに?」

羽田「首席入学者が何者かによって改ざんされてんだよ、しかもただ事じゃない!!首謀者の1人が義弘なんだよ!!」

警備員「何ですって?!大変じゃないですか!!ただ俺達は覆面をしていた奴が後ろから近づいてきてからどうやらずっと眠ってしまっていたらしく、記憶が無いのです。」


 こっそりと『審議判定』の魔法を使用していたパルライが首を縦に振る。


パルライ「本当の事を言っている様です。警備員さん、恐れ入りますが少し場所を開けて頂けませんでしょうか。」

警備員「あの・・・、失礼ですがどちら様ですか?」

羽田「バルファイ王国とダンラルタ王国の国王様方だ。」

警備員「申し訳ございません!!どうぞ!!」

パルライ「そ、そんな身構えないで下さい。堅苦しいの苦手ですので。では、やりますよ。」


 パルライが魔力を流し込むと全ての画面が覆面の人物を映し出していた。廊下を走り魔学校長室に向かっている。

 学園全体の理事長は勿論結愛なのだが、各々の学校の管理の為各学校に学校長室を置き担当者を結愛自ら決めていた。学校長にはドーラと同じで知能の高いアーク・エルフの社員を選ぶことにしている。

 3人が魔学校長室へ行くと魔学校長もすやすやと眠ってしまっていた。しかし、3人の足音を聞くとすぐに起き上がった。


魔学校長「起きてます起きてます!!許して下さい!!」

羽田「魔学校長、明らかに寝てたではありませんか。」

魔学校長「羽田さんではありませんか、寝てたとは不覚。きっとまた・・・、アイツに・・・。」

羽田「アイツ?」

魔学校長「以前リンガルスに強力な催眠術を掛けられまして。」

パルライ「待ってください、確かあなた方アーク・エルフは大抵の催眠術が無効となるスキルをお持ちだったはず。」


 3人は魔学校長の次の発言に驚きを隠せなくなった。


魔学校長「リンガルスは只者ではありません、大賢者(アーク・ワイズマン)なんです!!」


-77 強大な力-


 2国の国王含む3名は魔学校長の言葉に驚愕し、思わず声を合わせて繰り返した。


3人「大賢者(アーク・ワイズマン)?!」

羽田「・・・、って何ですか?」

2国王・魔学校長「がぁーっ!!」


 声を揃えて2国の王と魔学校長が大阪のあの有名な喜劇の様にずっこけた。


魔学校長「ご存じないのに驚かれたのですか?」

羽田「つい思わず・・・、すみません。」

魔学校長「まぁ、いいでしょう。元々伝説の存在と言われてましたから。」

羽田「伝説・・・、ですか。」


 簡単に説明をするパルライ。


パルライ「現存する魔法使いで私の師匠を含むリッチ以上の魔力の持ち主で賢者(ワイズマン)と呼ばれる方々がいたのです。その中でも魔術の扱いに長けたたった数人が大賢者(アーク・ワイズマン)とよばれる様になりました、ただ元々この世界のとある小さな村に数名しか存在が確認されておらず、その村も近所の山火事の無くなってしまったという話が広がり、賢者自体もういない存在とされていたのです。」

羽田「なるほど・・・、その伝説の存在が悪さを。」

デカルト「元々賢者はその名の通り人々を正しい道へと導く存在とされていたので私自身も未だに信じる事が出来ません。」

魔学校長「しかし、リンガルスが私に催眠術をかけたのは紛れもない事実です。私も自慢ではありませんが魔法に自信があるほうなのです、ただ奴の魔力は私の数倍、いや数十倍以上の強大な物でした。」

羽田「その大賢者が魔学校長に催眠術をかけてまで何をさせようとしたのでしょうか。」


 すると、魔学校長が1枚の書類を3人に見せた。元々梶岡の名前が書かれていたと思われる場所に修正液が塗られその上にペンで「リラン・クァーデン」と記入されていた。しかし、魔学校長は何処か不自然さを感じていた。


魔学校長「何処からどう見てもリンガルス本人の筆跡では無いのです。」

羽田「この筆跡に見覚えは?」

魔学校長「実は・・・、私の物みたいでして。ただ書いた記憶が無いのです。」


 デカルトと羽田は辺りを見回した。


魔学校長「どうされました?」

羽田「こちらの部屋には監視カメラは無いのですか?」

魔学校長「あります、ただ結構古びていて以前から上手く録画できていない様なのですが。」

パルライ「魔学校長がこちらにいらっしゃる間も録画する仕様になっているのですか?」

魔学校長「勿論です、あちらで赤いランプが点滅している物なのですが。」

羽田「こちらで再生する事は出来ますか?」

魔学校長「どうぞ、こちらのパソコンを使って下さい。」


 羽田が部屋の端にある監視カメラを一時的に停止し、中にあるSDカードを取り出した後、魔学校長が手元のパソコンを差し出すとカードを挿入し再生を始めた。


羽田「何時ごろに催眠術を掛けられたか覚えていますか?」

魔学校長「確か・・・、先日行った定期魔術考査についての報告書に目を通していた時だったので2時間ほど前だったでしょうか。」


 羽田が映像を2時間前まで巻き戻すと真っ暗に変わりずっとその状態が続いていた。どうやらリンガルスと思われる覆面の男が蓋をしたと思われる。真っ暗な映像の直前には無理矢理催眠術を掛けようとした覆面男と魔学校長が揉めている場面が映っていた。覆面男の右手には先程の書類が握られている。


羽田「この映像の音声は聞けますか?」

魔学校長「確かここをクリックしたら・・・。」


 魔学校長がスピーカーのアイコンをクリックすると真っ暗な映像の音声が流れ出した、ただ映像の覆面男は何らかの形で音声を変えている。


覆面男(映像)「認めろ、今年の首席入学者は「リラン・クァーデン」だと。」

魔学校長(映像)「何を言っているんだ、私が直筆でこの書類に「梶岡浩章」と書いている限り覆せんよ!!」

覆面男(映像)「これか・・・、分かった。貴様には眠って貰うぞ。」

魔学校長(映像)「何を言って・・・、グゥー・・・。」


-78 催眠術-


 監視カメラに映った魔学校長は覆面男の手によりあっさりと眠らされてしまった。


覆面男(映像)「寝たな、手を焼かせおって。暑いな、誰も見てないし監視カメラにも蓋をしたから脱ぐか。」


 真っ暗な映像で覆面男は覆面を取った様だ。


覆面男(映像)「さてと・・・、自らの手で書き換えて貰おうか。首席入学者は誰だ。」

魔学校長(映像)「り、リラン・・・、くぁ、クァーデン・・・。」

覆面男(映像)「そうだな・・・、では今目の前にある虚偽の書類を書き換えるのだ。」


 真っ暗な映像が続いているが、ごそごそと物音がしている。デスクの引き出しを開けて修正液を取り出し書き換える準備をしている様だ。

 音を立て蓋を開けると修正液を塗り付けペンでその上に「リラン・クァーデン」と書き込んでいた。


覆面男(映像)「よし・・・、これがあれば問題ない。アイツは上手くやっているだろうか・・・、まぁいい。取り敢えず合流して逃げるかね。」


 羽田が眉を顰め映像を少し巻き戻して再生し直した。


覆面男(映像)「取り敢えず合流して逃げるかね。」

羽田「「合流して逃げる」・・・、か。何か引っかかるな・・・。」

魔学校長「実はと申しますと、この鏡台の鏡の裏にも監視カメラを仕掛けてまして。」


 鏡台の鏡を扉の様に開くと中からもう1台カメラが現れた。


魔学校長「ただこのカメラの映像は鏡が厚いので音声が小さいのですが。」

羽田「とにかく見てみましょう、何か嫌な予感がします。まさか・・・、あの男が・・・。」


 『あの男』の姿が頭をよぎった羽田はカメラから先程と同様にカードを取り出すとパソコンに挿入し映像を再生した。鏡越しにしては綺麗にくっきりと映っている。先程の魔学校長が覆面男と揉めている場面だ。羽田がそこからも続けて再生を続け、4人はずっと見続けていた。

 羽田が嫌な予感を感じた問題の催眠術のシーンに差し掛かり、映像の中の魔学校長が自身の手で名前を書き換えた場面。しかし問題はそこでは無い、暑さが故に直前に覆面を取った男の顔がくっきりと映っている。そこに映っていたのはリンガルスでは無く・・・。


羽田「義弘・・・、どういう事だ!!アイツが・・・、何故催眠術を・・・!!」


 羽田の『あの男』という嫌な予感が当たった様で、映像に映っていたのは貝塚義弘、その人だったのだ。


魔学校長「しかし、私が感じた魔力は確かにリンガルスの物でした。何が違ったのでしょうか。」


 パルライは2つの仮説を可能性の1つとして立て、魔学校長に質問してみた。


パルライ「魔学校長、何点か質問してもよろしいですか?」

魔学校長「勿論です。」

パルライ「これより前にリンガルスに催眠術を掛けられた事は複数回あるのですか?」

魔学校長「何度も何度もありました。真面目な用事の時もありましたし、単に遊びで掛けたという時もありましたね。どの時も映像の時と同じ様な魔力を感じたのを覚えています。」

パルライ「その時なのですが、目隠しをされていた事はありますか?」

魔学校長「たった数回ほどだけですが、目隠しがあったと思います。その時も同様の魔力を感じました。」

パルライ「違和感は?」

魔学校長「さほどでは無かったのですがありましたね、でも段々と同じ物に近づいて来たのを覚えています。」

パルライ「なるほど・・・、そういう事ですか。」


 パルライの発言の意味が理解出来なかったデカルトが質問した。


デカルト「どういう事だ。」

パルライ「貝塚義弘がリンガルスの下で魔術と催眠術の鍛錬を行ったと思われます。可能な限り自らを大賢者に近づける形で。あれほどの魔力の持ち主が2人という事になるとかなり厄介かと思われます。」

羽田「しかし、義弘は何処で魔力を?」

パルライ「リンガルス本人の魔力を分け与えられたかと、それもかなり強力な物をね。」


-79 2人の覆面男-


 深刻な現状を報告しないといけないと思った羽田が最初に連絡したのは光明だった、別々のカードに入った映像と音声を合成できないかと相談するためだ。


光明(電話)「俺の所に持ってきてくれたら可能ですよ。」

羽田「助かります、超重要な証拠になる映像になるかと思われます。」

光明(電話)「すぐに向かいます、林田警部や結愛にすぐ見せなければ。」

羽田「我々はこの案件の捜査を継続しておりますので、そのおつもりで。」

光明(電話)「分かりました、急ぎますね。」


 一安心しながら電話を切った羽田の表情を見たパルライが声を掛けた。


パルライ「光明さんの様な技術のある方が味方にいて大助かりですね。」

羽田「私には不可能な事ばかりで面目ないばかりです。」

デカルト「取り敢えず監視カメラの映像を流しましょう、義弘とリンガルスがどこで合流したか気になります。それにもう逃げているかもしれない。」

魔学校長「主要警部室で建物内外の通路全ての映像をご覧いただけます、すぐに向かいましょう。」


 4人は主要警備室へと移動し、警備員に指示を出し各所の監視カメラの映像を再生し始めた。催眠術に掛かった魔学校長が自らの手で書類に「リラン・クァーデン」の名前を記入し終えた時間帯から。

 映像では書類を手に入れた義弘と思われる覆面男が魔学校長室を出た後、廊下を突っ切り階段へと向かっていた。階段付近に取り付けられた監視カメラの映像に切り替えると、覆面男が階段を駆け下りようとしているのが映っていた・・・、と思われた。


羽田「何・・・?!くっ・・・、気付いていたか。」


 覆面男は階段を降りずに消えてしまった、『瞬間移動』で移動したのだろうか。


パルライ「すぐに全通路の映像に切り替えて下さい。」


 映像を切り替えたが覆面をしている人物は何処にも見当たらない。「合流する」と言っていたはずなので2人映っているはずなのだが。

 パルライは『瞬間移動』以外の可能性を示唆した、映っていないだけの可能性なのではと。早速警備員に指示を出す。


パルライ「警備員さん、先程の階段付近のカメラの映像を映して頂けませんか?できれば先程と同じ時間帯で。」

警備員「分かりました、やってみましょう。」


 警備員は映像を操作し、指示通りの時間帯の映像を出した。映像の中の覆面男が消えた瞬間からパルライが目を凝らして映像を見ている。


パルライ「やはりか・・・。」

デカルト「何があったんだ?」

パルライ「ああ・・・、皆さんこちらをご覧頂けますか?」


 パルライはもう一度再生する様に警備員に促し、先程の映像を流しだした。


パルライ「止めて!!」


 警備員が映像を止めた、覆面男が魔法で消えた瞬間のシーンだ。


パルライ「この場面です。皆さん『瞬間移動』で何処かへ向かったと思われたかと思いますが、これならどうですか?」


 監視カメラの制御器にパルライが魔力を流すと、誰もいなかった階段付近に『瞬間移動』したはずの覆面男が。


パルライ「何処の通路を探してもいない訳です、何処にも移動していなかったのですから。この状態で映像を流します。」


 

映像の再生を再開する、覆面男は階段付近から動かずじっと息を潜めている。

 暫くすると覆面をした人物が階段を駆け上がって来た、2人は魔法で姿を消しているので安心したかの様に覆面を取った。やはり正体は義弘とリンガルスだ。


義弘(映像)「裏工作と梶岡に送る「入学資格剥奪通知」はこの通りだ、そっちはどうだ?」

リンガルス(映像)「データの書き換えも完了しました。これでリランが首席入学者です。」


-80 証拠-


 光明が到着すると、羽田は監視カメラの映像が入った2枚のSDカードを手渡し状況を説明した。勿論、義弘が大賢者と同等の魔力を得ているという事も。そして主要警備室に戻り監視カメラの映像の複製を貰えるか確認しに行った。

 カードを受け取った光弘はすぐに解析を開始して映像と音声を見聞きして比べ、同時刻で同じ場所の物と分かった瞬間に改めて作業を再開した。


光明「大賢者・・・、ですか。」

パルライ「ええ・・・、伝説の存在と言われていましたがまさかこの様な場面で出くわすとは思いませんでした。正直敵に回したくないのが本心です。」

光明「そんな存在に義弘が・・・。」

パルライ「おそらくですが。」

光明「急ぎ作業を行います、どうやら一刻を争うみたいですし。」


 一刻と言えば光明は気になる事があった。


光明「そう言えば⑲番車は今何周目ですか?爆弾処理の状況が気になってまして。」

デカルト「残り15周だそうです。」

光明「お2人の国の爆弾の方はどうなっていますか?」

パルライ「確かに気になりますね。」

デカルト「すぐに聞いてみます。」


 2人は各々の国の警察や王国軍に連絡を入れ爆弾処理の状況を確認した上で⑲番車が後15周という事を伝え、処理作業を急ぐように命じた。


デカルト「こちらは後2個だそうです。」

パルライ「こちらは残り1個と申しておりました。」


 しかし、気になるのはやはり・・・。


光明「今走っている⑲番車の正体は何者なのでしょうか。」

パルライ「主催者である私達に情報が無く、起爆に関係あると言うのが気になりますね。」

デカルト「車を止めさせますか?」

光明「いえ、やめておきましょう。レースに手を出したらその瞬間に起爆のスイッチを押されかねません。」


 光明はパソコンからSDカードを取り出した。


光明「作業が終わりました、急ぎネフェテルサに戻りましょう。」

パルライ「重要参考人として魔学校長を連れて行くべきでしょうか。」

光明「そうですね、実際に現時点で被害に遭った人物は魔学校長と梶岡さんですから。」

羽田「ご主人様、お待たせ致しました。必要な監視カメラの映像の複製です。」

魔学校長「私も協力させてください。」

パルライ「ありがとうございます、では急いで行きましょうか。」


 パルライは魔学校長含む全員の体内に自分の魔力を流すと『瞬間移動』で全員をネフェテルサ王国警察にいる林田の下に連れて行った。

5人が突然現れた為、林田は驚き持っていたコーヒーをこぼしてしまった。


林田「あちっっっっ!!あ、お帰りなさい。お待ちしておりましたよ。」

光明「只今戻りました、結愛もここにいますね?」

結愛「ごめん、ファンデーション直してた。」

光明「おい、そんな場合かよ!!」

結愛「何よ、女にとったら大事な事なの!!」

パルライ「まあまあ、それ位にしておきましょう。光明さん、監視カメラの映像をお願いします。」


 林田は初対面のアーク・エルフを手差しした。


林田「あの・・・、こちらの方は?」

魔学校長「申し遅れました、私バルファイ王国魔学校で魔学校長を致しております・・・。」

女性「じ・・・、じいちゃん!!何でここに?!」


 爆弾処理班との競馬場近辺の調査と爆弾処理を終え戻って来たドーラだ。


魔学校長「ノームではないか、そうかここはお前の職場か。重要参考人としてついて来たんだよ。では改めまして孫娘がお世話になっております、バルファイ王国魔学校長のマイヤ・クランデルと申します。」

林田「これはこれは、ノーム君のおじい様でしたか。本日はお越しいただきありがとうございます。知らなかったとは言え、先程は失礼致しました。」

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