2. 最強になるために ⑪~⑳


-⑪謝罪と協力-


 以前、結愛が改造した校舎各所に元から設置された監視カメラのハッキングに光明が成功したとの連絡が入ったので海斗と結愛は深夜、光明の元へ向かった。兄妹も光明も同様の可能性を示唆していたのだ。念のため、結愛が光明に持ち掛けていた。


-数時間前-


結愛「光明、ちょっといいか?」

光明「ん?」

結愛「俺も兄貴も考えてたんだけどな。」

光明「うん。」

結愛「理事長室や出入口付近以外から親父が出入りしている可能性ってないのかなってよ。」

海斗「壁に隠し扉・・・的な。」

光明「それは俺も考えてた。」


 その時、用を済ませ化粧室から出てきた琢磨が教室に入ってきた。


琢磨「何の話だよ。」

光明「ん?光明か・・・、実はな・・・。」


 光明が琢磨に先程までの会話の内容を伝えた。


琢磨「確か監視カメラって結愛が改造してたよな。」

光明「実はそのカメラの解析と改造に成功したんだよ、ちょっと見てくれるか?」


 光明はパソコンに映っている監視カメラの映像を見せた。


光明「これは以前結愛が以前改造した監視カメラの映像だ。念のため、監視側には以前と同様に同じ映像がずっと流れる様にいじくってある、証拠を見せないとな・・・。」

琢磨「なぁ、俺も協力できねぇか?」

光明「いいけど、お前がいいなら。」

琢磨「前に結愛の事を疑っちまったから、なんつぅか・・・、謝りたいというか・・・。」

結愛「それは仕方ねぇよ、必ずしも起こりうる事だと俺も海斗も思ってたからな。俺たちは嬉しくねぇが『貝塚』だからな。」

琢磨「お前ら『坊ちゃま』と『お嬢様』だもんな。」

結愛「やめろよ、そう呼ばれる度に吐き気がするんだ。」

海斗「俺も。」

守「演技が上手いんだな。」

圭「それ褒めてんの?」

守「少なくとも俺はそのつもりさ。それにこれは使えるかもしれないだろ。」

結愛「『演技』か・・・。」

海斗「確か『あいつら』って・・・、だよな?」

全員「確かに・・・。」


 そこにいた全員が共感していた。ただ今は作戦会議が優先だ。


琢磨「一先ず、俺がどれかの監視カメラの前に行くわ。そこでだが、無線機を通して誰か何かを俺に指示してくれるか?」

光明「あいよ。」


 琢磨は光明からスコープや無線機を受け取ると一番近くの監視カメラへと向かった。最寄りのカメラまではさほど時間がかかることなく到着した。海斗がカメラの方へ向く。


結愛「少し遊ぶか?俺達だってまだ高校生だぞ、いいだろ。」


 満場一致だ。無線機を通してまずは結愛が普通の指示を出す。


結愛「琢磨、聞こえるか?聞こえたら右手を挙げてくれ。」


 琢磨は抵抗することなく右手を挙げた。


結愛「左手で鼻をつまめ。」

守「股を開いてO脚に。」

圭「白目向いて。」

光明「口を全開に。」

海斗「舌を出して。」


 教室に笑い声が轟く。すると顔を赤らめた琢磨がダッシュで帰って来た。


琢磨「アホか、お前ら。」


-⑫偽装作戦-


 光明は疑問に抱いていた事を海斗にぶつけた、必ずと言っていいほど作戦実行に必要だからだ。


光明「なぁ、理事長室に潜入したときに罠だったけどボタンを見つけたって言ってたよな。」

海斗「確か・・・、義弘が使ってるデスクの裏のやつだよな。」

光明「うん。そのボタンの周辺にスペースって無かったか?機械でボタンを押してわざと侵入者が出たようにしたいんだ。」

海斗「どれぐらいのスペースが必要なんだ?」

光明「2cm四方あれば大丈夫だ。」

海斗「よし、おれに任せてくれ。」

光明「いや、それには及ばない。今回の為に開発したんだ。」


 すると光明はとても小さなドローンを取り出した。内視鏡カメラが付いている。そのカメラの先端にはスマートスイッチが付いていた。これを理事長室のボタンに取り付けて誰かが押したかのようにするのだという。いつの間にか開発していたので海斗は驚いていた。2人は作戦実行の日にちを決め、結愛や守、琢磨、圭、橘にも協力を要請して全校生徒に伝えた。その時、作戦時に使用するイヤホンを全校生徒に配っていた。作戦実行の瞬間に生徒が廊下に出ていたら速攻で疑われ、作戦が台無しになってしまう。教室にとどまるように連絡を行った。

 次の日の深夜、全員が教室にとどまった事を確認すると、作戦実行の連絡をした海斗の案内で光明がドローンを飛ばし理事長室を目指した。因みにドローンには潜水艦のようなステルス機能があり誰からも見えないし監視カメラにも映っていない。それが故に理事長室には簡単に到着した。超小型のパスワード解析装置も仕掛けられているので入り口はすぐに開く。ドローンから送られる映像が光明のパソコンに表示され海斗がそれを見ながらデスクへと導く。勿論赤外線スコープ機能もあるのでセンサーもするすると抜けていった。問題のボタンがある引出しを動かして両面テープでスマートスイッチをくっつけた。急ぎながらも冷静にゆっくりとドローンを教室まで飛ばして回収を行った。海斗が全校生徒に改めて確認の連絡をする。


海斗「あー、あー、皆さんイヤホンから俺の声は聞こえていますか?改めまして貝塚海斗です。ただいまスマートスイッチの装着とドローンの回収に成功しました。これからわざと罠を起動させて黒服が何処から出てきているのかを監視カメラを通して見ていきたいと思いますのでご協力お願いします。ただ念の為、今から10分間のトイレタイムを取ります。くれぐれも黒服に怪しまれないように用を済ませて教室に戻ってください。10分後にまたこのイヤホンから連絡します。では、トイレタイム開始です、どうぞ。」


 全員静かにトイレに向かい用を済ませていく。黒服は全く出てこない。思ったより多い人数がぞろぞろとトイレに向かっているというのに全く怪しまない。それなりにトイレは広く作られているし一般的な学校の休み時間では普通の事だからだろうか。もしくは・・・、


海斗「よっぽど黒服が馬鹿なんだな。」


 ・・・とクスリと笑っていた。


光明「おいおい、これからだっての。」

海斗「悪い悪い(わりいわりい)。」


10分が経過して作戦実行の時が来た。海斗が全校生徒に連絡を入れる。


海斗「皆さん、教室に戻って下さい。各クラスの代表者は点呼と確認を済ませて連絡をお願いします。」


 全クラスの代表者から確認完了の連絡が入り、海斗は深呼吸した。


海斗「では、作戦開始します。」


 そして、光明が操作してスマートスイッチがボタンを押した。そして2人は監視カメラの映像を食い入るように直視した。理事長室前を含めあらゆる場所の壁がパカッっと開きそこからピストルを持った黒服が一斉に飛び出した。校舎中が黒服だらけとなった。その時、海斗が異変に気付いた。


海斗「光明、今の所、もう一回見てもいいか。」

光明「うん。」


 光明は指示通り映像を巻き戻して再生した。海斗は1番3番4番6番カメラの映像を凝視している。


海斗「なぁ、ちょっと見てくれるか。」

光明「どうした?」


-⑬不審な点、重要な戦力-


 光明は海斗が指したカメラの映像を見た。1番3番4番6番カメラだけ黒服が映っていない。同様に壁が開いているのだがその4か所だけ黒服が出てこなかったのだ。


光明「ここって確か・・・。」

海斗「そうだよな、元々、食堂だったり家から遠い入口だったりする場所だよな。余りにも不自然すぎる。この前のドローンって何台か予備はないか?」

光明「大丈夫だ、任せろ。」


 他のクラスの生徒からイヤホンを通して連絡がやって来た。


生徒「もう大丈夫?そろそろトイレに行きたいんだけど。」

海斗「すまない。だいぶ黒服も退いて来たからそろそろ問題ないと思うぞ、ありがとう。」

生徒「了解、その言葉を待ってた。」

海斗「あと、お礼と言っては何だがある程度の食料を2年1組の教室に用意してあるから皆で食べてくれ。」

各クラスの代表者「分かった。」


 結愛は光明の技術を以前から賞賛していたし光明の事を信頼していた。結愛の場合は信頼以上の感情を抱いている可能性が高いのだが。どうしても協力したくなる感情を抱き始めている様な気もしていた。光明にとっては心強い味方となっていたので助かっていた。


結愛「み、光明・・・、あのさ・・・、何か協力できないか?」

光明「そうだな・・・、今度結愛の家を案内してもらえるか?勿論、カメラの映像を通してだが。」

結愛「うん、任せろ。」


 結愛はどこか嬉しそうにしていた。

 しばらくの間、物事を起こさないようにしていた。義弘や黒服に感づかれないために。しかし何もしていなかった訳ではない。密かに集まって作戦を立てていたのだ。理事長室の罠をわざと起動させてからどうしようか、と。

 一先ずは黒服が出てこなかった各箇所の隠し扉が何処に繋がっているのかを探ろうということで満場一致した。しかし、そのためには前回の様な騒ぎをまた起こさなければならない。その上でカメラを数台用意するか騒ぎを数回起こすか選択することになる。皆は迷わず前者を選んだ。度々騒ぎを起こすと流石に義弘に怪しまれる。2回も起こしてしまっているのだ、流石に次は起こしづらい。そこで守が別案を出した。


守「なぁ、黒服が出てこなかった4か所の隠し扉をこっそり開ける事って出来ないかな。誰からもバレずにというのが前提だが。」

光明「最初に壁を解析して場所を探らないとだな。しかし視覚では分からないようにぴっちり閉まってるはずだから・・・。」

圭「視覚がだめなら聴覚・・・?」

橘「音ってことか。」

結愛「壁をコンコンしてって事?」

海斗「でもそんな絶妙な違いを分かる奴・・・。」

圭「確か別のクラスだけど・・・。」

琢磨「いた!!ちょっと呼んでくるから待ってろ!」


-しばらくして-


伊津見「急に呼び出して何?」

光明「お前・・・、もしかしていっつん?」

伊津見「そういうお前はみつもん?」

結愛「知り合いだったん?」

光明「幼稚園からずっと一緒よ。」

海斗「じゃあ守や琢磨ともか?」

守「いや、俺はあんまり。」

光明「じゃあ俺から。こいつは伊津見、さっきも言った通り幼稚園から一緒の幼馴染だ。いっつんって呼んでやってくれ。こいつの自慢の聴力は並外れててさ。下手したら数メートル先でのひそひそ話まで聞こえるレベルなんだよ。そしてそれとこいつを利用する。」


 すると光明は懐から先日の様な小型ドローンを取り出した。ただ、前回の物と違って高性能な小型マイク付きとなっている。これ以上性能を追加していくと小型の意味がなくなっていく様な気がするが。


光明「この内視鏡スコープの先っちょで壁の怪しいところを小さくコンコン叩いてそれをヘッドフォンを通していっつんに聞いてもらうんだ。」

守「それで隠し通路を見つける、と?」

橘「やってみよう、よろしくいっつん。俺は橘だ。」

守「歓迎するよ、いっつん。」


-⑭音で見る-


 伊津見が合流して一緒に調査を始める事になり数日の間、一先ず怪しい出入口を見つけようとドローンで様子を伺う事にしていた。そしてついに伊津見の能力を利用しようとこっそりと行動を始めていく。ゆっくりと静かに飛んでいくドローン。通り過ぎる黒服や他の生徒は全く持ってドローンに気付かない。そんなこんなで以前、黒服が出てこなかった出入口付近の壁まではいつもの事なので容易に辿り着いたが何故か今日は黒服がずっと直立不動での監視を行っていた。ただ、光明の小型ドローンは全然見えてはいない、小さい上に深夜なので余計なのだ。蚊程の大きさしかないので全然気にならない、なので黒服に動きが見えるまで観察することにした。

 数分後、罠を発動させてないのに壁がパカっと開いた。中から汗まみれの義弘が出てきた。


光明「おい、見ろよ。あれ義弘だぞ。」

結愛「ここって俺らの家から一番遠い出入口だよな。」

海斗「『敢えて』って可能性もあ・・・。」

伊津見「シッ!お二人ともお静かに、親父さん何か話してます。」

結愛「兄貴にもタメ口でいいぞ。」

海斗「それに海斗って呼んでくれ。」

伊津見「分かった。取り敢えず親父さんが何言ってるか聞いてみるわ。」

海斗「意外とあっさ・・・。」

伊津見「待って。」


 何か意味ありげな表情だなと光明はスピーカーの音量を上げた。


黒服「ご主人様、ご足労、お疲れ様でございます。」

義弘「いつもの事ながらだが、家からここまでハイハイで動かないといけないのは大変だな。それに苦手なジャージまで着て、毎度毎度ため息が出る。それと君、ここでは理事長と呼べと何度言ったら分かるのかね。」

黒服「はっ、理事長、大変失礼致しました。申し訳ございません。」

義弘「まぁいい、怪しまれないように敢えて一番遠い出入口にしたのは私自身だしな。さぁ、急いで閉めるんだ。」


 黒服が別の壁を開けボタンを押すと、自動で隠し扉が閉まり壁と同化していった。隠し扉がロックされLEDが緑から赤へと変色した。そして義弘たちは理事長室へと向かった。


結愛「どうやらここが家に繋がっているらしいな。」

海斗「でも完全に壁に同化して塞がっているぞ。ここは光明といっつんの出番だな。」

光明「任せろ。」


 光明は伊津見にヘッドフォンを渡すとドローンを動かし始めた。先程黒服が扉を閉めた時に使ったスイッチ付近をコンコンしていく。


伊津見「ん?」

光明「どうした?」

伊津見「少しだけ右に戻ってくれ。」

光明「うん。」


 伊津見はヘッドフォンに集中する。


伊津見「ここだ、ここを開けてくれ。」


 伊津見が言った通り壁を開いていく。すると小さな画面にテンキーが現れた。しかし先程赤く光っていたLEDが完全に消えてしまっている。作戦はコンコンからやり直しとなってしまった。


結愛「親父め・・・、周辺にスイッチを複数個作っているって事か。」

海斗「相変わらず下衆だぜ。」

伊津見「いいよ、俺探すから。」

光明「俺も。」


 光明が周辺の壁をコンコンして伊津見が音を聞き取っていく。


伊津見「ここだ。」

光明「開けるぞ。」

伊津見「光っていないな、次だ。」


 このやり取りを十数回繰り返しやっと・・・。


光明「ビンゴ、ここみたいだな。」

伊津見「耳が痛くなってきたぜ。」


-⑮隠し扉-


 早速2人は見つけたスイッチを使って隠し扉を開ける事にした。パスワード解析装置を使ってパスワードを解析し、テンキーを動かしていく。


「ガチャッ・・・。」


 隠し扉の鍵が開いたようだ。光明の操作でドローンを動かし扉の中へ入っていく。中は暗いので暗視カメラを使用しないと進んでいけなかった。ゆっくりと慎重に前へと進んでいく。光明の隣で画面を凝視する結愛。しばらくすると円状で広々とした空間に出た。


光明「どうだ、見覚えあるか?」

結愛「全くだな。全体がコンクリの壁。こんな空間家では全く見たことねぇ。」

海斗「向こう側にも通路があるらしいな、ここが家に通じているのか?」

光明「とにかく行ってみよう。」


 光明はドローンを慎重に進ませていった。念の為に赤外線スコープを常に作動させていた。奥に奥にどんどん進んでいく。すると一番奥に木製の扉を発見した。周囲には怪しいものは何もないようだった。慎重に扉を開けていく。そっと・・・、そっと・・・。

 中に入ると全体的に洋風の壁の部屋があった。


光明「もしかして・・・。」

結愛「俺たちの家っぽいけどこんな部屋あったか?」


 取り敢えず光明は部屋の天井にドローンをくっつけ隠しカメラの様に部屋を監視していく事にした。結愛と海斗は何かを思い出したような表情をしていた。


海斗「そう言えば俺らは立ち入り禁止の部屋がいくつかなかったか?」

結愛「確か1階と2階、4階に1部屋ずつあったな。」

琢磨「お前らん家何階建てだよ。」

海斗「地上5階建てに地下・・・。」

守「地下?!」

結愛「あったか?」

琢磨「知らねーのかよ!」

海斗「地下は無かった。」

橘「無いんかい!何で言ったんだ!」

海斗「いや、たまにはボケとかないと。」

守「空気読め!」


 海斗はそこにいた全員にビンタされた。


海斗「痛(いて)ぇよ、場を和ませてもいいだろ。」

結愛「はいはい、ありがとねー。(棒)」


 全員、ため息をつき呆れ顔をしていた。

 それを横目に光明はドローンを左右に動かしていく、しかし先程開けた木製の扉以外には出入口らしいものは見つからず、ほぼ一面壁のみの部屋となっていた。


光明「しばらく様子を見て義弘が出入りするのを待つしかなさそうだな。」

結愛「娘の俺が言うのもなんだが、親父も手の込んだことするな。」

海斗「多分校舎と同じようにここの出入口も隠し扉じゃねぇのか?」

全員「有り得る・・・。」


 呆れたようなため息が全員からまた出た。もう慣れっこと言うわけだろうか。特に貝塚兄妹は日常茶飯事過ぎてつまらなさそうにしている。


光明「って事は必要なのはあいつの力だな。いっつんには頼ってばっかでもうしわけねぇや、アイツ良い所いっぱいあるからな、今度ジュースでも奢ってやるかな。」


 光明は鼻息を立てながら伊津見の事を話していた、すると・・・。


伊津見「俺の良い所ってなんだー??」

光明「いっつん?!いたのかよ?!」

伊津見「それよりみつもん、俺の良い所ってなんだよー、教えろよー。」


 伊津見が光明に肘を押し当てながらやたらと聞こうとするので光明は必死に話を逸らそうとしたが結愛や海斗、そして圭が参戦し始めた。


結愛「お前らずっと一緒なんだろ?お互いの良い所全部言ってみなよ。」

海斗「ほらほら。」

圭「皆待ってるよ、えへへへへへへへへへへへへへへへへへ・・・。」


-⑯立入禁止部屋-


 先程の様なやり取りがあった後、伊津見はしゅんとしながらまたヘッドフォンを付け捜索をし始めた。どうやら光明はあまり良い所を言わなかったようだ。煽った3人も申し訳なさそうな顔をしていた。まさに『気まずい』という言葉がぴったりだった。

 トイレから戻って来た光明の表情も同じようなものだった。


伊津見「何か・・・、悪かったな。」

光明「俺も・・・、すまん。」

結愛「というか悪いのは煽った俺達だよな、悪い。」

光明「取り敢えず作戦再開だな。」

伊津見「うん、また今度飯でも行こう。」

光明「そうだ・・・。」

伊津見「みつもん、待ってくれ!」

光明「ん?」

伊津見「微かだがここだけ空気の流れが違う音がしたんだよ。」

琢磨「そんなのも聞こえるのか?」

光明「コンコンしてみるか。」


 光明はドローンで以前の様に壁をコンコンした。すると一部の壁が一瞬だが横に動いた。


光明「ん?引き戸か?結愛、開けるぞ。」

結愛「うん、頼む。」


 光明は隠れていた引き戸を開け部屋から出るようにドローンを動かした、その先には廊下の様なものが広がっている。洋風の壁紙に赤い絨毯が敷かれた床。左右に長いものが目前に広がっていた。


海斗「どっちでもいい、ゆっくりと前進してみてくれ。」


 ドローンを進めていく光明。深夜だから基本真っ暗なのだが偶に電気が点灯している所を見つけたので中の様子をある程度伺えた。そして大広間っぽい場所にある階段を見つけた瞬間・・・、


結愛「すまん光明、ここからさっきの場所に戻れるか?」


光明は電灯を頼りに先程の場所に戻ると、


結愛「やはりか・・・、ここは1階の『立入禁止部屋』だ。そこに実は扉があるんだが全く動かなかったんだよ、そういう事か・・・。」

海斗「畜生・・・、親父にやられたぜ。」

橘「じゃあやはり家と学校が繋がっていてここが隠し通路って訳だったんだな。」

琢磨「大きく一歩前進したな。」

守「でも大切なのはここからだ」

圭「進もう。」


 光明は慎重にドローンを動かして行った。怪しそうな場所を知るため兄妹に案内をお願いすることにした。明らかに怪しいのは他の階にある立入禁止部屋だ。それらを捜索していく事にした。まずは2階にある部屋を探すことに。

大広間にある大きな階段を上るとまた廊下が広がっていた。そこをゆっくりと進む。奥の一角に階段を見つけた。


守「この階段は?3階には何があるんだ?」

結愛「この階段は4階に繋がっている。俺たちの部屋がある階だ。」

琢磨「3階には?」

結愛「実は行ったことが無いんだ、行きたくても行き方が分からない。」

海斗「どの階段も何故か3階には繋がっていない、だから3階に何があるのか知っているのは親父だけなんだ。」

伊津見「そうか、もしかしたら今日3階に入る方法が見つかるかも知れないな。」

光明「一先ず、2階を見ていこう。」


光明はドローンを動かしていった。

結愛も画面に食らいつくように覗き込み立入禁止部屋を探していった。


結愛「そこを右だったはずだ。」

海斗「あった。扉は開くか?」


 ドローンで開けようとしてみたがここの扉もびくともしない。ここにも先程の様な隠れた引き戸があるのだろうか。

 試しに壁をコンコンしてみたが、その様な場所は見つからなかった。しかし、扉の右下に少し凹んだ場所を発見した。そこにドローンの内視鏡スコープの先っちょを少し入れると扉があっさりと開いてしまった。あっけない位に。


光明「大きな病院の自動ドアを開ける時のシステムみたいだな。」

守「CT検査室とかの前にあるあれか。」

琢磨「俺も尿管結石の検査の時に見たぜ。」

圭「おっさんか、お前何歳やねん。」(※尿管結石に年齢は関係ありません、作者は高2の時に発症しました。勘違いをされた皆様スミマセン!)

海斗「取り敢えず開いている内に入ろう、閉まっちまったら意味がねぇよ。」


 海斗の言うとおりだ。光明はドローンを部屋に入れた、部屋にあったのは螺旋階段・・・のみ。その螺旋階段を上がり切った所にはまた小さな空間が広がっていた。そして、下へと続く階段がまたあった。ドローンをどんどんと進めていく。するとそこにはとてつもなく大きな空間が広がっていた。そこには本が沢山あった。


橘「書斎か・・・?というより図書館だな。やたらと広いぞ。」

守「奥に進んでみよう、何かあるかも知れない。」

結愛「それにしてもこんな空間家にあったんだな、初めてだ。何階だ?」

圭「3階って書いてるみたい。」

海斗「ここが3階か・・・。」

結愛「3階は本当に初めて来た。」

琢磨「かなりの勉強家だったのかな。」

守「多分ここにある本から得た知識で貝塚財閥や学園を作って今の形態にしていったんだろうな。」

結愛「敵ながら天晴だ。」

琢磨「敵って言っちゃった。」

光明「お前の親父だよな?」

兄妹「嬉しくないがな。」


 2人は大きくため息をつきながらだからか、声をぴったりと合わせて言った。何かの参考になるかもと思い、守たちはそこに貯蔵されている本を眺めてみた。

 義弘の書斎には経済学や教育学、医学など真面目な学習本がズラリと並んでいた。きっとこれらの本で独学で勉強を行い、独自の理論を形成していったのだろう。

 別の本棚には何故か実用英語技能検定などの資格試験や大学入試センター試験の過去問題集が最も近い過去10年分貯蔵されていた。これで自らの実力を試したり生徒に教えるための準備をしていったのだろうか、各々の本はぐちゃぐちゃに使い古した痕跡があった。

 そして奥にはパソコンが数台、ここはまだ未知の空間で興味深い物の様だ。


-⑰大きな一歩-


 夜が明けようとしていた、基本的な潜入作戦は深夜に行っているのでとても小さなドローンは見つからない限りほったらかしにしておいても大丈夫な状態だと言える、なので光明は海斗や結愛の了承の下、義弘の秘密の図書館、いや書斎の天井にドローンを停めてその場を監視することにした。しかしもうすぐ早朝補習が始まる時間だ、停まったドローンは録画体制に入った。

 忘れてはならない事だが彼らは高校生で、この学校はありとあらゆる物を投げ捨ててでも大学受験に熱を入れている場所だ、補習を欠席したらどういった制裁があるか分からない。伊津見のクラスメイトが銃殺されたのも事実だ。全員は素直に補習に出席しているフリを可能な限り行った。しかしその裏で義弘のみだけが入れる立入禁止部屋の大部分となる書斎の監視もできている状態だ、これは大きな一歩と言えよう。

 早朝補習は講師陣による補習でまだ教師は出勤してきていない・・・、はずだった。ただ今日はいつもと違って学園の講師教師全員が朝一から出勤していた。やたらと黒服もうろついている、明らかにいつもと様子が違う、貝塚財閥で何かがあったのだろうか。

 結愛は不本意ながら貝塚の人間であるので通りかかった黒服に尋ねてみることにした。


結愛「おはようございます、黒服さん。」

黒服「・・・。」


 黒服は深夜からずっと巡回していたのだろうか、意識が朦朧としている様だ。結愛はもう一度話しかけてみた。


結愛「黒服さん?」

黒服「あ!結愛お嬢様!おはようございます!大変失礼致しました。申し訳ございません。」

結愛「おはようございます、朝から如何なさいましたの?」

黒服「・・・と仰いますと?」

結愛「講師の方々に加えて教師の方々、ましてや黒服の皆さんが全員朝からいらっしゃるなんて異様ですわ。」

黒服「恐れ入りますが私は存じ上げておりません、昨夜村岡黒服長に残業を頼まれただけなのです。」

結愛「村岡さんが?!あの、働き方改革にかなり真面目な村岡黒服長さんが?!」

黒服「はい、私も耳を疑いました。」

結愛「分かりましたわ、ありがとうございます。今日は構いません、私から村岡さんに伝えますので今日は上がってくださいませ。」

黒服「はっ、失礼いたします。」


 黒服は安堵の表情を浮かべその場から離れていった。暫くして別の黒服が近づいて来た。

 結愛は大人が離れたのでいつも通りに戻ろうとしたのに安心出来なかった為、言葉がこんがらがっていた。どうやら先程会話に出てきた黒服長のようだ。


結愛「は、羽田(はた)さん?!お、おざぁようっすわ?!」

羽田「お、お嬢様?!こちらでしたか、おはようございます、一先ず落ち着かれては。」

結愛「失礼いたしましたわ、改めましておはようございます、羽田さん。」

 

会話に多少の違和感があることを全員察した。先程会話に出てきた黒服長の名前は「村岡」だったはず、しかしここにいる黒服長の名前は「羽田」だった。


結愛「羽田さん、これはどういった事ですの?夜勤からずっと残業している黒服さんや教師の方々が全員集合していますわよ?」

羽田「実はと申しますと会長がこの学園の様子を見に来られるとお聞きしまして。」

結愛「でもこんなに人数を揃える事があったんです?」

羽田「いや私は夜勤の者には帰るように指示していたのですが。」

結愛「先程おじい様がこちらにと仰ってましたわね?という事は・・・。」

羽田「何かご存じなのですか?」

結愛「最近黒服さんの格好をした侵入者がおじい様の周りをうろついているとお聞きしまして。もしかして先程見かけた黒服さんってまさか・・・。」

羽田「有り得ますね。恐れ入りますがお嬢様、何か有力な情報はお持ちでしょうか?」

結愛「黒服長さんの名前を村岡さんと呼んでた方があっち(4組)の方向に歩いて行きましたわ。」

羽田「私ども黒服長の同僚に村岡という者はおりません。その者が侵入者みたいですね。追いかけてみます、お嬢様はこちらに。」

結愛「お願いします。」


 羽田が離れていった事を確認して結愛はいつも通りに戻っていった。光明や守は今までの作戦がバレたのかと思って心臓がバクバクと鳴っていた。と言うより教室にいた全員が震えていた、皆気が気でなかったのだ。ここで兄妹以外の貝塚関係の人間に作戦がバレると今までの努力が全て水の泡だ。結愛が堂々と羽田と話していたので全員唖然としていた。

 ただ、少なくとも結愛や海斗はこちら側の味方だ。安心感もあったので全員静かにその場を過ごすことが出来たのだった。しかし、まだ疑問に思う事がある。

 とにかく貝塚財閥はかなり大きな企業らしい。


-⑱会長-


 元に戻った結愛が守たちをジロリと見た。


結愛「何だよー、今のは俺んちの黒服のリーダーの一人だよ。性格は優しいんだが目がいかついから少し苦手なんだよ。」

守「黒服長って何人もいるのか?」

結愛「一応シフト制って事になってるが。基本的には交代制だ、後俺が知ってるの黒服長は2人いるよ。」

圭「それより会長って?」

結愛「俺のじいちゃんな、家や会社にあんまり顔を出さないが外出する時は何人もの黒服を連れていることが多いんだ、ただ目立つのが嫌いだから少人数のことが多いんだよ。」

琢磨「侵入者って聞いたぞ。」

結愛「ああ・・・、じいちゃん他方から命を狙われやすくてよ、会社内にも侵入者がいる事なんて日常茶飯事なんだよ。いつもはひっそりと別宅に住んでるんだが・・・。」


 その時、窓の外からけたたましいエンジン音がした。どうやら真っ赤な外国産のスーパーカーの様だ。


結愛「あ、じいちゃんだ。」

橘「いや、逆に目立たね?!」


 車のガルウィングが開きサングラスにハワイアンな恰好をした老人が降りて来た。


光明「やっぱ目立たね?!」


 老人、いや会長の貝塚 博(ひろし)は結愛に向かって手を振った。


博「おー、結愛ー、元気だったかー?」


 結愛は辺りを見回してから手を振り返した。


結愛「おー、じいちゃん!久しぶり!」

琢磨「会長だよな・・・。」

守「フランクだな・・・。」

結愛「じいちゃん堅苦しいの嫌いだから他の大人がいない限りは俺もじいちゃんに合わせてんだよ。」

圭「理事長とキャラ全然違うね・・・。」

海斗「だから会う度に喧嘩が多く・・・。」

義弘「父さん!こんな所で何しているんだ!家で待ってたらこんな所に・・・、先に連絡ぐらいしろよ!服装だって貝塚財閥の会長らしくない、会う度に言っているがいい加減にしてくれ!」

博「相変わらず堅苦しいなお前は。いつも言っておるだろう、いつどこでも大切なのは人だというのに、自分の考えのみが正しいと思うからそう怒鳴るんだ。」

義弘「この学園と財閥を作ったのは私だ、ここは私のもので、ここでは私がルールだ。名ばかりの会長である父さんにどうこう言われたくない。」

博「だからって若者の青春を奪う権利はお前にも、いや誰にもない。ここには食堂などの生活、そして部活動に必要な施設が全くないじゃないか、昼休みを含んだ休み時間が少なすぎるし1日の補習時間が異常で、しかも夏休みが無いだと?!ここの生徒さん達の顔を見てみろ、少しも生き生きとしていないじゃないか、お前の高校生活はこんなものだったか?PTAや教育委員会に訴えられてもおかしくない、わしはお前をそんな人間に育てた覚えはないぞ!!」

義弘「うるさい!!学生の本分は勉強だ、つまり大事な節目、受験に向けた学習だ!!それ以外の物を捨てさせ受験に集中させて何が悪い?!結局必要なのは大学入学共通テストに必要な国数社理英情の6教科(令和4年12月現在)の学力だ、私は生徒たちの将来を可能な限り考えた結果だ!」


 博は自分のスマホを操作して肩を落とした。


博「勝手にしろ、とんだ学校見学だったわい・・・。」


 そう一言吐き捨てると教室を出ていった。義弘はスーツを直し博とは逆の方向へと進んでいった。そこから数秒後、結愛のスマホに1件のメッセージが来た。博だ。


博(メッセージ)「結愛、すまなかったね。突然やって来てまたいつも通りお父さんと喧嘩になってしまったよ。恥ずかしかっただろう、お友達の皆にも謝っておいてくれないか?お前さんの周りには頼りになるいい友達が沢山いる様だね、その子達の事を大切にしなさい。少なくともおじいちゃんは結愛や海斗の味方でいるつもりだ、何か不安な事がある時は必ず私に連絡してくれな。じゃあ、また会おう。お友達によろしく伝えておくれ。」


 数秒後、羽田が結愛の元を訪れた。小さな箱を持って。


-⑲贈り物-


羽田「お嬢様、これを。」

結愛「どなたからですの?」

羽田「会長からでございます、くれぐれもご・・・、いえお父様には内緒とのことで。」

結愛「分かりましたわ、ありがとうございます。」


 羽田はその箱を結愛に渡し、すぐに立ち去った。結愛はすぐにその箱を開け中身を確認した、結愛は中身を確認して震えていた。ただ事ではない事をそこら辺にいた生徒全員が察した。


琢磨「お、おい・・・、大丈夫なのかよ。」


 結愛は質問に答える事無く震え続けた。そしてにこやかに笑った。


結愛「これ欲しかったんだよー、ずっと探してたんだ、じいちゃん流石だぜぇ!この限定フィギュアずっと前から欲しかったんだよねー。」

生徒「は、はぁ・・・。」


 お嬢様なのにまさかのヒーローもののフィギュアが大好きな奴だったとは、守や光明は呆然としていた。しかし、贈り物はそれだけではなさそうだった。

 海斗が物凄い剣幕で教室に駆けよってきた。


海斗「おい、結愛!これ見たか?!」

結愛「何だよ、お前が好きなバンドのベストアルバムじゃねぇか。」


海斗は博から自分へのプレゼントの箱を見せてきた、本当の贈り物は奥底に隠されていたのだ。

結愛は奥底の厚紙を剥がし、中身を確認した。それはそれは相当価値のあるものであった。博からの『自分達でどうしようもできない時に使いなさい、おじいちゃんからの愛情を受け取っておくれ。お友達を大切にね。』とのメッセージと共に。

博からの本当の贈り物、それは『貝塚財閥全権一週間強奪券』--その名の通り義弘が握る貝塚財閥の全権を1週間自分の物に出来るチケットだ。因みに義弘には拒否権は無いらしい、財閥の状況を察した博を含めた貝塚財閥の大株主たちが義弘の暴走を抑える為に作ったものだった。使うためには義弘、黒服、若しくは大株主の1人にこのチケットを渡す必要がある。そして義弘の手に渡った時点から一時的に1週間貝塚財閥の全権を握ることが出来る事になっている。早速結愛は博にお礼のメッセージを送った。


結愛(メッセージ)「おじいちゃん、貴重なプレゼントありがとう。それに久々におじいちゃんに会えて俺も兄貴も嬉しかったよ、今何処にいるのかな?また、会いに来てね。」


 すぐに博から返信が来た


博(メッセージ)「おじいちゃんも会えて嬉しかったよ、贈り物受け取ってくれたかな?今おじいちゃんはハワイに向かうために空港に向かっているんだ、またハワイやヴェネツィアにあるおじいちゃんの別荘に遊びに来ておくれ。因みに乃木さんというおじいちゃんの友達の娘さんがいるからチケットを使うときはその人に渡しなさい。事情は今頃黒服を通じて本人に伝わっている頃だから、じゃあね、また会おう。」


 結愛がメッセージを読み終えた頃に乃木が飛び込んできた、物凄い形相で。

 

乃木「お嬢様・・・、これは・・・?」

結愛「乃木先生、確かあなたのお父様は乃木建設の社長で我が貝塚財閥の大株主の御一人でしたわね、そこで会長から先生に通達が行ったと思うのですが。」

乃木「はい、こちらです。」


 乃木は博からのメッセージを結愛に見せた。

 結愛は全員に聞こえるように読み上げた。


博(メッセージ)「乃木様、いや乃木先生とお呼びした方がよろしいですかな?私は貝塚財閥の会長で義弘の父親の博です。お父様が経営されている乃木建設は当社の子会社ながら大企業の一つへと昇り詰めていることを存じております。そしてお父様は我が貝塚財閥の大株主の御一人、それにも関わらず息子の無礼、大変失礼致しました。心よりお詫び申し上げます、申し訳ございません。

 老人の急なお願いで恐れ入りますが、同封のスマホを使って孫たちの味方を兼ねてスパイをお願いできませんでしょうか、勿論そちらは差し上げますからお好きにお使いください。

そして孫たちに『あのチケット』を渡しましたので差し出された時には素直に受け取っていただきたいのです。どうか、宜しくお願い致します。


お父様の友人 貝塚 博 」


-⑳秘密の部屋にて-


 光明と結愛は先日、義弘の秘密の図書室、いや、書斎に仕掛けたドローンの映像をじっと見ていた。普段義弘以外出入りする事がない空間、勿論ずっと同じ映像が続いている。義弘が来ない限り当たり前の事なのだが2人は飽きてきていた。しかし、結愛は光明が自分の為に頑張ってくれていると思い余計な事かと発言を控えていた。その時だ、映像に義弘の姿が現れ、秘密の書斎で彼はパソコンに向かっていた。電源を入れ分厚い本を何冊も持ち寄り何やら真剣に調べものをしている。よくよく考えたら義弘は普段から知識やうんちくを会話に色々と差し込んでくる事が多かった事を結愛が思い出した。


結愛「親父って思ったより勤勉だったんだな・・・。」

光明「感心している場合かよ。」

結愛「悪い悪い(わりいわりい)、何の資料を見ているか見えるか?」

光明「やってみるわ。」


 光明は映像を解析し、義弘の手元を拡大した。ただ何冊もの書籍は全て義弘の陰になってしまっているので内容は全く見えない。なのでパソコンの内容を見えないかと色々とやってみたが全然確認できなかった。

 光明の横で結愛は現場のドローンから送られる生の映像を見ていた。そこにも義弘が現れた。パソコンと分厚い本を数冊持ってきて調べものをしている。光明に操作方法を教えてもらい結愛は義弘の手元を探ろうとした。やたらと分厚い本が5~6冊、また比較的薄い本が1~2冊ある。


結愛「あれは・・・。」

光明「ん?どうした?」

結愛「あの本なんだけどよ・・・。」

光明「どれどれ・・・。」


 光明は自分が見ていた映像を一時停止し、結愛の操作していたパソコンのマウスに手を伸ばした。マウスにしては柔らかい物に手が当たった。


結愛「お・・・、おい・・・。」

光明「ん?」


 マウスの上で2人の右手が綺麗に重なっている。光明は慌てて手を離した。2人とも顔が赤くなっていた。


光明「悪い、すまねぇ。」

結愛「まぁ、良いけどよ。」


 それから暫く2人とも心臓の鼓動がバクバクと鳴っていた。本題に戻るのに何故か時間がかかる。

 その間に映像の中の義弘はパソコンが並ぶ机の端っこにあるプリンターの方に移動していった。大きめの紙数枚に何かを印刷している様だ。その間に結愛はパソコンの前の書籍を見た。各教科ごとの大学入学共通テスト(旧:大学入試センター試験)の過去問題集と高等学校の学校教育課程の本がズラリと並んでいる。また、パソコンではインターネットで問題に纏わる資料を集めていた。少しでも解説を分かりやすくし知識として身につけておく為だろうか。

 印刷を終えプリンターから戻った義弘は過去問題集に色々と書き込んでいった。試験問題の解答に加え自分が資料から得た情報を書けるだけ書き込んでいた。


結愛「またやってるよ。」


 結愛によるとどうやら西野町に引っ越してくる前からずっとやっていたらしい。


光明「そうなのか?」

結愛「ああ、何年か分のセンター試験の過去問をどっさり買い込んで毎日の様に調べものをしつつ勉強していたんだ。」

光明「という事は・・・。」

結愛「ああ、義弘は俺たちの意向とは関係なく学園をかなり前から創る予定だったんだろう。」

光明「しかし何で今の様な形態にしたんだろうか、しかも何でこの西野町に?」

結愛「西野町に来たいって俺と兄貴が親父に言ったのは事実なんだよ、ただ親父は普段から色々とケチケチとした性格だったからな、余計な物を排除したかったんだろうよ。その性格から会社でも経費を抑えることばっかり考えてるって色んな人から聞いてたんだよ。」

光明「経費を抑える為・・・、だけだったのかな・・・?」

結愛「どういう事だ?」

光明「いくら何でもやりすぎだろ、殺人までする事あるか?」

結愛「それもそうだな、何か他に理由があるのかも・・・。」


 真相には未だ闇に潜む部分があるようだ。「あれ」を使うべきなのだろうか。

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