第3話 怪しい車

「……あれ?」

 物思いにふけっていた時、視界にノイズが走る。

 なんだろう、わからないけど、何かが変。

 後部座席の窓を開けて、わたしは後ろを見渡した。


 まだ日が完全にはのぼらない町の道路は、そう車は通っていない。後ろに一台、白い車が走っている。


「ねえ、誠ちゃん」

「ん?」

「あの車、なにかな」


 言葉にできない違和感は、その車を見て、頭の中でパトカーのサイレンのようなものがワンワンひびく。

 ふつうの、車のはず。そのはずなんだけど……。


「まずいな」


 誠ちゃんが表情を強ばらせて言うと、ええ、とアイリーンさんも答えた。

「スピード上げます。シートベルトしっかりして、何かに捕まってください!」


 ガクゥッ!!


 い、の言葉と同時に、アイリーンがアクセルを踏んだことがわかった。前もってアイリーンさんが言ってくれたから、なんとか前に倒れずに済んだ。

 だけど、車は追いかけてくる!


「何!? あの車、ついてきてる!?」

「あの車のナンバープレート! ひらがなの『お』は『あ』と誤認される可能性があるから使えねえんだよ!

 あの車は、違法車だ!」


 誠ちゃんの言葉に、わたしは驚いた。

 そっか。違和感は、見たことないナンバープレートのひらがな!


「アイリーン! あれ、うちに恨みでもある感じ!? オレの誘拐目当て!?」

「さあ!? とりあえず今からもっとスピード上げるんで、皆さんもう喋らないでくださいね!」


 そう言って、アイリーンさんはもっとスピードを上げた。







 田畑ばかりの道に出て、ぐにゃぐにゃとした住宅街の道にまた入って、大通りのところへ出た。

 駅へと向かう大通りは、文化会館と、現在新しく建てられた総合体育館があって、この時間でも結構混雑している。


「ふう。ここまで来れば大丈夫でしょう。どうやら、土地勘のない相手のようです」

 そう言って、アイリーンさんはスピードを落としかけたその時、迫ってきたのはあの車――じゃなくて、パトカー。


「『そこの違法スピード車止まれやぁー!』」


 並走するパトカーと、聞きなれた声。拡声器を通して広がる音と、それに覆われない肉声の声に、わたしはぎくり、と肩をふるわせる。

 はあ、とアイリーンさんはため息をついて、窓を開けた。


「あいっかわらず品がない警官ね! あんたがいると警察の品位と格式どころか、この街の品位も落ちそうだわ!」

「『品のなさはてめーだけには言われたくねぇんだわ! とっとと車止めて出てこいやぁ!』」

「はー、×××× ××××」

「『何だっとてっめ! ×××××! ××××××!!』」


「……あのー、大人のお二人さーん。うちの子たちの教育に悪いんで、公衆の場で、それも子どもの前でそーゆー発言と態度はやめてくださーい。将来に大変悪影響なんで、ホント、やめてくださーい」


 セシルが呆れたような、軽蔑したような目で、二人に言った。


「ねえ、誠ちゃん。なんでわたしの耳塞いだの? そんなにまずいこと言ってるの、あの二人」

「ああそうだな。ぜってー、英語の教科書じゃお目にかかれない罵詈雑言はいてる」

「やだはずかしい……」


 はあ、と今度は私のため息が出た。

 窓を開けて、声を張り上げる。


「おじさん、落ち着いて。警官としてガラが悪すぎるし、姪としてとってもはずかしいから。というか、人としてはずかしいから」


 そう、このおまわりさん。

 わたしの叔父さん。お母さんの弟にあたるんだ。


「『勇希!? この女の車に乗ってたのか!? やいそこの運転手! うちのかわいいかわいい姪っ子を乗せてなにやってんだぁこらぁ! 殺す気かぁ!』」

「だから落ち着いてってば! わたしたち、不審車に追われてたの! 逃げてたの!」


 拡声器に負けない声で言った瞬間。


 前の方向から、あの車が飛び出してきた。

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