第11話
目を覚ますと、そこはライトの明かりでぼんやりとしか見えなかったが見覚えのあるベッドの上だった。隣には、椅子に腰かけたキルの姿が見えた。
「こんな時間まで起きていたら、体調を崩すよ。」
「体調を崩したのはアースの方だろ………。いや、俺たちのせいだな。無理をさせてしまってすまなかった。」
「全然大丈夫だよ。俺の方こそその、暴力をふるったり、暴言を吐いたりしてしまってごめん。………アルフォンスさんから、色々お話は聞けた?」
「暴力をふるったのは俺の方だ、すまなかった。ああ、全部聞いたよ。俺の生まれたときの話や、母上がどのような人物だったのか、をな。」
「そうか………。よかった、本当によかった。」
「ああ。」
それから少しの沈黙となった。こういう沈黙は、少しむずがゆいよな………。俺も慣れないことをしてしまった。すると、キルが再び口を開いた。
「アースに言われて、目が覚めたよ。俺には、幼馴染や子供のころからの遊び相手がいるんだ。そいつらは確かに、俺に悪口を言わないし、俺のことを気遣ってくれていたように思う。だから、俺はそいつらに謝りに行こうと思うんだ。来週にはここは離れて、王都に戻ろうと思う。」
俺もそれがいいと思う。夏休みのうちにいろいろとやることがあるだろう。兄や父親と話したりとかな。その幼馴染とかいう存在にも、ね。これは幼馴染が女性で、そういう結末になるフラグだろうか。まあ、好きになった相手がそう都合よく、こっち側の人間とは限らないからな………。キルがこれから幸せになってくれるなら、俺がそれでいいんだ。
「俺もその方が良いと思うよ。兄上や父上との関係が通常になれば、変なうわさも掻き消えるだろうからね。」
「ああ。来週まではいるから、その間に礼儀作法とか他の勉強とかについて教えるよ。まあ座学の方は、大丈夫か。」
「じゃあ、魔法や剣術を見せてくれると嬉しいかな。兄上に頼むと家族を悲しい気持ちにさせそうで、なかなかお願いすることができなかったんだよ。」
「ああ、任せておけ。それからその、こういうのはあまり慣れていないんだが………俺をアースの最初の友人にしてはもらってもいいか………?」
キルはそういうと、おずおずと俺に手を差し伸べた。それについてはもちろん了承である。だけど、それは期限付き。
兄上からの読み聞かせで、結婚のお話が出てきたことがあった。そこで俺はチャンスと思い、「男の同士や女の子同士では結婚できないの?」と、子供らしく聞いてみた。兄上は少し考えた後に、そういう人たちもいるけど今はごく少数だと話していた。まだまだ偏見の目はあり、そういう人たちがいることが周知され始めたばかりだ、と言っていた。まあ子供だからわからないだろうと、色々話してくれたけど要は現代の日本のような感じだ。少数だということは、同性婚自体は認められているようだ。しかし、現代の日本でカミングアウトできなかった俺が、日本と同じようなこの国でカミングアウトできるとは到底思えない。
だから、この世界での初恋はそっと胸にしまっておこうと思う。そして、キルが婚約したらどこか別の所に行こうと思う。異世界あるあるの冒険者とかもいいな。この世界にも、冒険者はあるんだろうか? だからそれまでは、俺に側で眺める権利を下さい。
「もちろん! こちらこそ、よろしく!」
って待って、こんな時間まで外出していたら、今屋敷の方はどうなっているのだろうか? こんな夜遅くまで子供が帰ってこなかったら、大問題になっているはずだ。
「キル! マリーは? 俺が帰らなかったら、マリーの責任問題になってしまう………。」
「マリーさんなら、アースの看病が終わった後屋敷に向かった。アースが帰ってすぐに自室で休んだことにすれば、一晩くらいは隠し通せると言っていた。だけど、可能ならば早朝に戻ってきてほしいそうだ。アースの体調が良ければと言っていた。そろそろ早朝になるけど、行けそうか?」
「うん、目は覚めてるから大丈夫だよ。だけど、またアルフォンスさんに背負ってもらえると助かるかな………。」
「わかった。俺が背負ってやりたいけど、俺が背負うと時間がかかりそうだ。アルフォンスに頼もう。」
「アルフォンスさんことをもう、「あいつ」とか「こいつ」とか呼ばなくなったんだね。仲直りできたようで何よりだよ。」
俺がそういうと、キルはそっぽを向いてしまった。やはり、キルのこういう反応は心にグッとくるものがある。
「………あんまりからかうなよ。じゃあアルフォンスに言ってくるから、少し待ってろ。」
「ごめんごめん、よろしく。」
そうして俺は、アルフォンスさんに背負われながら屋敷の側まで戻った。そこにはマリーが待機しており、俺の無事な様子を見てホッとしている様子だった。そこから俺は自分の部屋も窓から帰宅するという、強盗ばりのムーブをかまして帰宅を果たした。
そしてその後三日間は案の定というか、寝込んでしまった。キルが王都に行ってしまうまで残り少ないのに、この寝こみは大変なロスである。
――
それから体調が元に戻ってから俺はほぼ毎日、キルの屋敷へと通った。そこではみっちりと、礼儀作法を学んだ。なんか、とんでもなく仰々しいものまで教えてもらってる気がするんだけど、多分気のせいだろう。そして待ちに待った、魔法を見ることができた。キルは火属性の持ち主の様で、手から火を出していた。やはり魔法を見るとテンションが上がった。しかし、キルの本職は魔法ではなく剣らしい。アルフォンスさんとの剣の打ち合いを見せてもらい、その緊迫した熱に大変興奮した。その時のキルは印象深くで、すごく楽しそうだった。これからの彼は、本来の笑顔を取り戻し、他の貴族からも慕われることだろう。
そして、遂に最終日。俺たちは別れのあいさつを交わしていた。
「アース様。主ともども、大変お世話になりました。この御恩は一生忘れません。」
「大袈裟ですよ、アルフォンスさん。俺はただ、自分にできることをしたまでですよ。だけど、あの時言った俺の言いたいことを言ってもよろしいでしょうか?」
アルフォンスさんは、降参とばかりに首を縦に振った。キルは何のことかわからないようで、首をひねっていた。俺が言いたい相手はそう、キルの兄に対してである。父親に対してはさすがに立場上難しいと思うので、兄に対して一言物申すことにした。
「では、キルのお兄さんにお伝えください。キルのことを大事に思っているなら、回りくどいことをしていないで、直接キルと仲良くしてあなたがキルを大切にしていると、もっと直接表現してください、と。そして、そのやり方がわからないのなら、俺の兄上のマクウェル・ジーマルを頼ってください、とお伝えください。俺の兄上はこんな病弱にも病弱なのにもかかわらず、決して見捨てることはなくいつも気にかけてくださいました。優しい兄上ならきっと力になってくれるはずです。」
「………承知しました。」
よし、これですっきりした。これでキルと兄の関係が良好であることが、周りの貴族に伝わるだろう。最初からそうしてれば、誤解も生まれなかっただろうに、まったく。うん? キルが死んだ目をしているけど、何があったのだろうか?
「キル、どうしたんだ? 何か言いたいことがあるのか?」
「いや、その………、まあいいんだ。とにかく、来年初学院で会えることを楽しみにしてるよ。それまで体調を管理に気を付けるんだぞ。」
「もちろん! 今からでも初学院に行きたいところだよ。キル、その笑顔ならきっと周りに人が集まってくるはずだよ。だから、応援してる。」
「ああ、ありがとう。じゃあ、また来年な。」
「うん、気を付けて!」
俺がそういうと二人は馬車に乗り込んだ。俺は手を振りながら、馬車を見送った。なんか俺、いつも見送ってばかりいるよな………。来年こそは、絶対に魔力判定を受ける!
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