第12話

半月ほどたちました。今は三月で父上たちは今年も、王都に行く準備に取り掛かっていた。今度こそ俺も王都に行ける! そう思っていた矢先に、再び俺は体調を崩した。なぜこういつもいつも、タイミングよく体調を崩すんだよーーー!!



正直本当にイライラしてきた。俺は呪われているのだろうか? 王都に行けない呪いが、本当にかかっている様にしか思えない。キルに今年は初学院に行くと言ったのにな………。約束を破ってしまい、本当に申し訳ない。



俺はもう何度目かの家族の見送りを終えた。兄上は大変悲しそうにしていて、心苦しかった。しかし、若干ブラコン感が漂っているのを感じた。ほぼ毎日俺の部屋に足を運んでくれ、頭をなでたり、ハグをしてくれたりした。まあ美少年からされる分にはうれしかったため、されるがままの状態だった。







――









季節は再び夏となった。俺の体調は憎らしいばかりによくなった。来年は春はよくて、夏に悪くなってほしいものである。


俺はなんとなく、キルの屋敷に向かい散歩をすることにした。まあ、いるはずはないよな………。俺は草陰から、屋敷の様子をうかがった。屋敷からは案の定、人の気配はしなかった。しかし、庭に一人のご老人がいることに気が付いた。おそらく、庭の手入れをしているのだろう。少し話しかけてみようかな。俺は再び家族や使用以外との会話の機会を喪失しているため、社会に適合する準備を始めなければならない。



「あの、すみません。お仕事中失礼いたします。きれいなお庭だったので、声をかけさせていただきました。」



俺がそういうと、庭師はゆっくりと俺の方へと振り返った。ご老人はいい感じにこんがりと焼きあがっており、職人感が漂っていた。



「銀髪に、緑色の目………。もしや、アース様でいらっしゃいますか?」



うん? キルの家の庭師にまで、俺の名前が伝わっているのか? 



「はい、そうですが………。失礼ですが、あなた様は?」



「これは失礼いたしました。私はこの屋敷の管理を任されている者です。キル様より、あなた様がいらっしゃったら渡してほしいと、預かったものがございます。今お持ちしますので、少々お待ちください。」



屋敷の庭師ではなく管理人はそういうと、屋敷な中へと入っていった。キルから預かっているものか………。まったく、俺が来なかったら一体どうしていたんだよ………。


少し待っていると、小さい箱を持った管理人が戻ってきた。うん? さっきの作業着から、わざわざ着替えてきたのか。いったいなぜだろうか?




「こちらがキル様より預かったものでございます。どうか、お納めください。」



俺は礼を言って、その小箱を受け取った。結構軽いようだ、何が入っているか楽しみだな。




「アース様。私はいえ、私たち一同はあなたに感謝しております。本当に、ありがとうございました。」



管理人はそういうと、深々とお辞儀をした。え、俺に礼を言うためにわざわざ着替えてきたのか? そして、俺には礼をされる覚えがない………。すぐに頭を上げてもらわなければ!




「頭をお上げください! 私は礼をされるような立派なことはしていません! ただ屋敷で療養しているだけの引きこもりですよ!」



管理人は俺の言葉に微笑んだ後に、屋敷へと戻っていった。え? 何も言わずに………。ちょっと理解が追い付かないので、一旦帰ってこの小箱を開けることにしよう。









――










俺は自室へと戻ってきて、マリーの淹れてくれたお茶を飲んでいる。さて、先程のことはいったん忘れて、この小箱を開けようか。



箱を開けると、そこには緑色の宝石と赤い薔薇の刻印があしらわれた見事な腕時計と手紙が一枚入っていた。


待て待て待て、素人の俺でもわかる。これめっちゃ高いやつやん! こんな高そうなものをポンポン人に贈ってもいいのか? とりあえず手紙を見てみようか。



『アースへ


今年も初学院に来れなくて残念だったな。俺も楽しみしていたが、体調は大丈夫か? あれから俺は、兄上と父上と話したんだ。二人とも、泣きながら謝って俺のことを抱きしめてくれた。アースの言うとおりだった。本当にありがとう。初学院では俺への悪口や悪意は減ったように思う。前に言った幼馴染や遊び相手とも、いい関係を築けるようになったんだ。すべてアースのおかげだ、ありがとう。


アースに送ったのは、魔動腕時計だ。気合を入れて作成を依頼したら、こうなってしまった。だけど、アースに似合うと思うから大丈夫だろう。その腕時計は使用者の魔力で動き、使用者の不要な魔力を溜めておいてくれるものだ。魔導士になりたいと言っていたアースの役に立ってくれるはずだ。たまりすぎた魔力は勝手に放出してくれるから、気にしなくていいが容量はほぼ最大のため、そう溜まることはないから安心してほしい。仮に魔力量が少なくとも、魔力時計が感知して必要分だけを吸ってくれるから安心してほしい。初登校日だけでいいから、是非つけてほしい。


お大事に。



                                 キルヴェスター』




っっっっっっっっっ~!! 


これだから、ノンケには困るんだよ………。こういうドキッとすることを、平然とやってくるから心臓に悪い。うれしいよ、嬉しいんだよ」! だけど、好きという気持ちを抑えるのは大変なんだよ………。


それから、キルの本名ってキルヴェスターっていうのか? かっこよすぎて、泣きそうだ。腕時計の情報も大事そうだったけど、名前とお大事にが目に入って頭に入ってこなかったよ………。


えーと、要するに腕時計は初登校日にはつけてほしいと。そんなもん、風呂以外のすべてのシーンでつけるよ!


というか、こんな高級な時計を贈ってしまってキルの家の財政状況は大丈夫だろうか? これを余裕で贈れるレベルのお金持ちということか………。仮に財政が傾いていたら、俺が働いて返していこう………。


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