みにくい人間の娘〜獣人の世界で、今日も私は元気です〜
蒼真まこ
第1話 ただひとりの人間
とある世界の、とある場所。
獣人の国の名はライドラ。輝く金の毛をもつライオンの王様が国を守っています。
ライドラは獣人の国ですから、人間とはちがう考え方をもっています。
もふもふでふさふさ、ゆたかできれいな毛並みをもつ者が、もっとも美しい存在なのです。毛が少なくて、つるりとした体の人間は、かれらには美しくありません。可愛くもないのです。
そんな獣人の国ライドラに、人間の幼い少女が迷い込んでしまいます。
少女の名はユーナ。人間の世界から、
人間の世界を知らないユーナ。彼女は獣人の国ライドラで、幸せになれるのでしょうか?
******
鏡に映るわたしを、じっと見つめる。
顔は色白で、すべすべつるつるの
「これがわたし。ユーナ11歳。そう、もう11歳なのに……」
鏡に映る、わたし自身に向かってさけぶ。
「いつになったらもふもふで、ふさふさの毛が全身に生えてくるの!?」
どれだけ思いをこめてさけんでみても、鏡の向こうのわたしはなにも変わらない。つるりとした体のままだ。
「あたりまえだよね。わたしは人間だもん……」
鏡を見ながら、はぁっとため息をついた。
獣人の国ライドラで、たったひとりの人間。それがわたし。
3歳ぐらいの頃、ひとりぼっちで歩いてるところを
ライドラの国の人たちは、しかたなくわたしを保護してくれたけど、わたしを引き取ってくれる人はだれもいなかった。ライドラで人間は、みにくくて美しくない存在だから。
ライドラで「美しい人」とは、もふもふでふさふさの、きれいな毛並みをもつ獣人のことをいうの。顔も手も足もつるりとした人間のわたしは、可愛くもないし、美しくもないんだ。
「みにくい人間の娘なんて、いらないよ」
「ちっぽけな体の人間の娘なんて、なんの役にたつんだ?」
「ガリガリで
みにくい人間の娘であるわたしは、ライドラでひとりぼっち。
そんなわたしを受け入れてくれたのは、たったひとりだけだった。かがやく銀の毛をもつライオンの獣人アレッド。はじめて彼の姿を見たときの感動は、今も忘れられない。美しい銀色の毛並みが、月の光のように光かがやいていたもの。
「われわれとちがう見た目だからと差別するのはおかしい。この娘にはなんの罪もないのに。どこにも行き場がないのなら、オレが引き取って育てよう」
怖くて、さびしくて、ふるえて泣くことしかできなかったわたしに手を差しのべてくれたアレッド。がっちりとした彼の手をそっとつかんだときの温もりは、今でも忘れられないんだ。
「おまえ、名は? 自分の名前ぐらいおぼえてないか?」
「えっとね。ゆなちゃん……」
「ユナチャ? 言いにくいな。ユーナでいいか?」
「ユーナ」という名前をもらったわたしは、アレッドの元で暮らすようになったの。
保護されたとき、「およそ3歳ぐらい」とお医者さまにいわれたから3歳となり、アレッドに引き取られた日がわたしの誕生日になった。本当に生まれた日のことは覚えてないから、アレッドと出会った日が誕生日でうれしいって思う。
そして今日がわたしの11歳の誕生日なんだ。
「誕生日なのに、わたしは今もみにくい姿のまま……」
アレッドのような、美しい毛並みをもつ獣人の姿になりたいって何度も思った。あの人の娘として、ふさわしくありたいから。ゆたかな毛並みをもった、きれいなわたしになりたい。ずっとそう願ってきたの。
それなのに。
11歳になっても、わたしの顔も、手も、足もつるりした肌のままだ。頭の毛だけはふさふさしてるけれど、頭の毛だけじゃ美人にはなれないもの。
鏡を見ながら、はぁっとためいきをつく。
本当はわかっている。わたしがどれだけ願っても、姿を変えることはできないのだと。ライドラで、わたしはみにくい人間の娘。ちっとも可愛くないって、よくわかってる。
「そろそろアレッドが帰ってくる時間だ。急いで用意しなきゃ」
鏡の前からはなれると、急いで台所へと向かう。
今日はわたしの誕生日。アレッドは仕事を早めに終えて帰ってくるっていってた。わたしもがんばって、ごちそうを準備をしていたんだ。
アレッドはいっぱい食べるから、よろこんでくれるといいな。
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