第7話 ドラゴン騎士団の襲撃

 マホルは、具体的な指示を与えると、そのとおりのことをした。マホルに行動させるためには、マホルがわかる言い方をすること、そしてわからなかった場合でも冷静に対応することが必要だ。


 また、マホルの魔力を最大限に引き出すには、親密になる必要がある。しかし、親密になればなるほど、マホルに気をつかわなくなり、具体的な指示を出すことがめんどうになる。さらにマホルがわかってくれないと、腹が立ち冷静になれない。人は親しい相手にほど感情的になる生き物なのだ。


 それでもカイトは前回の大きな失敗を教訓に、マホルに対してなるべく冷静に対応しおうと努力した。


「マホル、今日は水の魔法を試そう。水の高さは12メートル、温度は13度、持続時間は33秒で」


 カイトは校庭の噴水の前に立ち、水の噴出する様子をイメージしながら、マホルに具体的に伝えた。

 すると、マホルは両手を空に向けてあげ、手のひらから水を噴出させた。


「この高さだとこの勢いになるのか……。攻撃目標の速度を考えると……えーと、ドラゴンの速度は……」


 カイトはメモを取りながらぶつぶつとつぶやいた。魔法を使うには緻密ちみつな計算と思考力がいる。

 それだけではない。

 わかりやすく伝える努力をする必要がある。そのためには、自分を基準に考えるのではなく、相手の特性を考慮こうりょして、理解をうながさねばならない。

 カイトはくだらないと思っていた学校の教科の必要性を理解し始めた。


 水の魔法、火の魔法、風の魔法と、カイトは順調に力をつけていった。


 マホルはカイトと同じ姿をしているため、マホルの魔法が上達するのを見ていると、カイトは自分の力で魔法を使っているような気がした。


 

 そんなある日、空で轟音ごうおんが鳴り響いた。


 その音は、嵐のように迫ってきた。

 風は熱風に変わり、けたたましい鳴き声、翼をはばたかせる音が聞こえる。


 隣国のドラゴン騎士団だった。


「だいじょうぶだよ、マホル、俺たちは見習いなんだから。急にドラゴンと戦うなんてことにはならないよ」


 カイトは空の轟音を聞きながら、どこか不安そうに見えるマホルを励ますように言った。本当に不安なのはカイトのほうだったが、マホルを励ますことで自分自身が勇気づけられる気がした。


 ところが、カイトの予想に反して、事態は急速に悪化し、カイトを含めた見習いマホル使い全員が、隣国の騎士団との戦いに巻き込まれることになった。

 空を飛び、炎を噴くドラゴンに立ち向かうには、魔法の力を使いこなすマホル使いが必要なのだ。


 しかし最近は、マホルと契約することができるマホル使いの数は減っている。ほとんどの見習いたちは、マホルについての知識はあるものの、実際の魔法の実践やマホルとの交流の機会がなく、十分な経験もないまま学校を卒業していく。そのため、王国は深刻なマホル使い不足に直面している。だからこそ、今は見習いであろうと、一人でも多くのマホル使いが必要だった。


 そしてカイトはマホルと共に、一番被害の深刻な町の中心に出された。

 

「だいじょうぶ……きっと何とかなる……マホルはすごいんだ……きっと俺を守ってくれる」


 カイトは隣にいるマホルの手をぎゅっと握りしめた。しかしマホルは手を握り返すこともなく、カイトを見ようともしない。


 その冷たい横顔に、カイトの心はざらついて、言いようのない不安に襲われた。


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