第5話 マホルとドラゴン
マホルと
それにはこの王国の事情も関係していた。
最近、かつて友好関係にあった
この国は、隣国のドラゴン騎士団が攻め入ってくる危険性が最も高い国の一つだった。兵士たちは、日々の訓練を欠かすことなく、いつでも敵に対抗できるようにしているが、空から攻撃してくるドラゴンと十分に戦えるわけではない。
ドラゴンに対抗できるのはマホル使いしかいない。
この国の人々の期待は大きかった。
しかし、マホルと契約を結べるマホル使いは決して多くはない。マホルの力を充分に引き出せる熟練したマホル使いはさらに少ない。
「そんなわけでじゃな、見習いのマホル使いであろうと、ドラゴンと戦うために、早急に力をつける必要があるんじゃ」
老先生はそう言って、カイトの前に立った。
今回の実習でマホルと契約を結んだ三人の見習いにはそれぞれ担当の先生がつく。カイトの担当は老先生だった。
「先生も、マホル使いなんですか……?」
「まあ、かつてはな」
カイトの質問に対して、老先生はそっけなく答える。
「先生のマホルは……?」
「さあ、どこかにいるじゃろう。この年になると、石板の効力も薄れてしまってね。まあ、そうじゃな、君にはまず大事なことを一つ教えよう」
それは何か強力な呪文のようなものなのかと、カイトはごくりと息を飲んだ。
「マホルを尊重し、自分のことも尊重しなさい」
「え……?」
老先生の言葉に、カイトは拍子抜けしたようにぽかんとした。
「マホルはマホルであって、君は君であるということをいつも覚えていなさい。そしてお互いを尊重することを決して忘れてはならない」
「マホルはマホルで俺は俺? そんなのあたりまえじゃないですか」
カイトは隣で眠そうにしているマホルに目をやると、自信満々に答える。
老先生は、そんなカイトを、丸眼鏡越しにじっと見る。
「……君は、隣国の騎士団のドラゴンを知っているかね?」
「はい、知っています。飛行訓練で飛んでいるのを見ました」
「そうか。まあ、訓練されてはいるが、ドラゴンは元来
「……でも、マホルを使うんですよね? だから『マホル使い』と呼ぶんでしょう? 魔力を引き出すためにマホルを使うんじゃないんですか?」
「その考えでは、立派なマホル使いになるのは難しいじゃろうな」
そう言って、老先生は個別指導室から出て行こうとした。
「え、先生! もっと俺に何か教えてくれるんじゃないんですか?」
「まあ、わしが伝えるべきことはそれほど多くはない。大事なのは、マホルとの関わりを通して、君がどれだけわしの言っている言葉の意味を理解できるかどうかじゃ」
そして老先生は去り際にカイトと姿がそっくりなマホルのこともちらりと見た。
マホルの姿がカイトにそっくりであることに心配と不安があった。
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