第3話 マホル体験実習

 マホル使いの見習い学校では、マホルの住む場所に一ケ月滞在して、マホルたちといっしょに生活をする体験実習をする。マホルは、魔法を使うために必要な魔力を持つ生き物だ。見習いたちが魔法を発動するには、マホルと触れ合うことが重要だ。


 しかし、集団生活を好まないマホルは、でそれぞれバラバラに生息している。森はあまり広くはないが、30人の見習いたち全員がマホルを見つけるのは難しかった。


 しかし、マホルが見つからなくても、マホルの暮らす環境を体験することはとても良い経験になる。そのため、多くの見習いたちは、キャンプや遠足のような感じで楽しそうにしている。


 ただし一人で行動しているカイトは、みるからに不機嫌そうだった。食事の時間以外は、誰とも関わらず、目立たない場所にテントを張って時間が過ぎるのを待っていた。


 そして実習一週間めの夜。


 いつものようにマホルの森は原色の発光キノコの怪しげな光に包まれていた。

 火を焚かなくても満月の月明かり程度の明るさはあり、テントの中にいたカイトは、目の前に何か大きな黒い影が迫ってきていることに気づいた。


「何……? まさか……熊……?」


 そう言って、カイトはおそるおそるテントから顔を覗かせた。


 すると、そこには、熊がいた。

 しかし、熊といっても、まるで着ぐるみのようで、二本の足で立っている。


「え……、熊じゃない……? 誰だよ、何だよ、おまえ」


 カイトが「熊じゃない」と言った瞬間、着ぐるみのような熊は一瞬で黒い影の塊になった。


「なんだこれ……」


 その時、カイトは授業で習ったことをふと思い出した。


『マホルに姿形はない。その姿は時に美しく、時に醜く、望まれるままに変化する』


「……おまえが、もしかしてマホルなのか?」


「……マホル? さあ、わからない」


 突然黒い影から音がして、それは声となり、言葉となった。


「お、おまえ、話せるのか? まるで人間みたいだな」


 カイトがそう言うと、黒い影は変化して、一人の人間の姿となった。

 白い肌、黄色の髪と緑の瞳、この世界の住人の特徴をもつ少年の姿だ。今のカイトにそっくりだ。


「おまえは……俺なのか? ははっ、これはいいや。俺が俺の望みを叶えるってわけだ。今日から、おまえは俺、俺はおまえ。俺は俺自身を偉大なる魔法使いにしてみせる!」


 こうして、カイトは自分のパートナーとなるマホルと出会うことができた。


 マホルは、警戒心が強く、集団でにぎやかな時間を過ごす見習いたちのところには決して現れない。追えば確実に逃げられる。マホルの逃げ足は速い。

 マホルをおびき寄せるには、一人でじっと待つしかない。

 

『手に入れようとは思わずに、関心も示さず、追いかけない』


 これが、マホルを得る秘訣だが、このことは学校では教えられていない。


 手に入れるなと言われればほしくなり、追いかけないと思うほど、関心が生まれてしまうからだ。


 いずれにしてもマホルとの出会いは縁と偶然によるものだ。


 今回の研修でマホルと縁を結べたものは、たったの三人。

 

 カイトはそのうちの一人だった。

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