第34話 やっぱり、こうなった
俺が連れてこられたのは、王都の中心地にある騎士団の詰所。
ここは王都を警らする第一騎士団だけの本部で、王城内に他の騎士団の本部があるのだとか。
とりあえず、第二騎士団団長のグスカーベルさんが居なくてホッとする。
あの人には、変装を見破られそうだからな。
それに、脳筋のベルナードさんに遭遇したら、絶対に面倒くさいことになりそうだし……
ただ、油断できないことが一つ。
そう、例のアレ。
ステータスを確認できるという水晶がこの建物内にあることはわかっているから、十分に注意したいと思う。
◇
応接室に通された俺は、団長のミルバネさんと、ローブを羽織った消火部隊隊長のジェイクさんから歓待されていた。
「いや~、この建国祭の日に夜勤となり、武闘大会も観戦できず、大変悔しい思いをしておりましたが、まさかあのようなところでモホー殿とお会いできるとは……フフッ、明日、副団長へ自慢してやる」
あの……団長さん、最後の心の声が駄々洩れですけど?
「僕も、決勝戦でカヴィル公爵領のエミネル殿の雷攻撃を受け流したという氷魔法を、間近で拝見することができ感激しております! 我々、水魔法の使い手からすれば、氷魔法は生涯をかけて会得したい魔術ですから……」
隊長さん、そんな涙を流すほどのことでは……
てか、あなたたち仕事は?
⦅……暇なのじゃろう。それだけ、この国が平和ということじゃな⦆
平和なのはいいけど、国家公務員なんだから、国民が納めた税金分は働いてもらわないとな。
「ところで、モホー殿が抱いておられるメガタイガーは、武闘大会のときに召喚された召喚獣とは毛色が違うようですな……」
ギクッ!
「僕も、深紅色をしていたと聞いておりましたが、深紅というよりは、薄桃色と言ったほうが……」
ギクッ! ギクッ!
この人たち、観戦をしていないのに何で詳細を知っているんだ?と思ったら、瓦版のようなものが出回っているらしい。
試合内容を記事にして販売する商売があるんだって。
⦅真っ白い姿を見られるよりは、マシじゃ⦆
トーラを石鹸で念入りに洗ったつもりだけど、多少色が残ってしまい、今のトーラは薄いピンク色をした魔獣になっている。
菓子店の店員さんたちには、「可愛らしい色の猫ちゃんですね!」と好評だったけどね。
「……こやつは、あやつの子供じゃ」
「なるほど! 成長するにつれ、色がどんどん濃くなっていくのですね……」
「メガタイガーを二頭も制御できるとは、いやはや、さすが大魔法使い様だ」
「ホッホッホ……(汗)」
……ああ、どんどん嘘が積み重なっていく。
これ以上増えると、モホーの基本設定自体を忘れてしまうかも。
『貴族たちの魔の手からトーアル村を守るべく立ち上がった大魔法使いで、深紅色の召喚獣がいる』に、さらに『(実は)大昔の魔法使いのアンデッド』で、『(深紅色の召喚獣の)子供も連れている』を追加しておかないとな。
俺が目に見えない冷や汗を流していると、コンコンとドアがノックされた。
「失礼いたします。団長、例の冒険者ですが、伯爵家が身元引受人を拒否しまして……いかがいたしましょうか?」
「身元引受人がいなければ、釈放はできぬ。冒険者パーティーのメンバーに、保釈金を持ってくるように伝えよ」
「かしこまりました」
接客中でも、しっかり騎士団長の仕事はしているようだ。
よかった、よかった。
⦅……『例の冒険者』は、あやつのようじゃぞ⦆
この気配は、まさかSランクさん?
なにか悪いことでもしたのかな。
身元引受人か保釈金があれば…と言っていたから、そう大したことではなさそうだけど。
「えっと…ミルバネ団長殿、部外者が立ち入ったことを聞くが、『例の冒険者』とは『漆黒の夜』のルカのことかのう? あやつの気配を感じるのじゃが……」
「その通りです。そうか、モホー殿は彼と対戦されたのでしたね」
団長さんの話によると、Sランクさんは町中で喧嘩騒動を起こし、騎士団本部へ連行されたとのこと。
部外者の俺にペラペラと話してしまって守秘義務は大丈夫なのか?と心配になったけど、事情はわかった。
俺がSランクさんに面会したいと申し出ると、団長さんは快く許可してくれたのだった。
◇
Sランクさんは、独房に入れられていた。
「おぬしは、こんなところで何をしておるんじゃ? 妹君や仲間に、心配をかけるでないぞ」
「……俺は、正当防衛しただけだ。それより、じいさんこそ騎士団で何をしているんだ?」
「儂はいろいろあって、招待されたのじゃ」
「まあ、アンタは有名人だからな……」
Sランクさんからさらに詳しい事情を聴くと、大会が終わったあと、あの伯爵家の四男に絡まれたらしい。
彼が負けたことで自分の婿入り先がなくなり、その腹いせだったようだ。
「あの、ぼんくらバカ息子が『お詫びに、おまえの妹を差し出せ!』とぬかしやがった。断ったら、手下とともに俺たちを襲撃しにきたから、応戦しただけだ。それに、ほとんどケガは負わせていない。アレで酷い頭痛にしてやっただけだぞ」
冒険者ごっこ男は、本当にろくでもないドラ息子だな。
ルビーがそんなやつと結婚せずに済んで、よかったよ。
「目撃者もおりますし、我々も彼の言い分が正しいと思っておりますが、何分、相手が相手ですからな……」
団長さんは言葉を濁したが、貴族の子息と、Sランクの冒険者とはいえ庶民では扱いは変えざるを得ない。
冒険者ごっこ男は伯爵家の使いが引き取りにきたらしいけど、Sランクさんは拒否されたのだとか。
「俺は結果を出せなかったし、息子とケンカもしたから、クビになったんだろうぜ。まあ、
「Sランクの冒険者はとても貴重だと聞いておるが、なぜクビなんじゃ?」
「新たなSランクの奴を、勧誘したんだろう。どうせ俺たちは、最初から使い捨てだったしな……」
Sランクさんは、苦笑していた。
でも、『漆黒の夜』はAランクの冒険者パーティーだから、貴族の庇護下になくてもいくらでもやっていけるよな。
「ミルバネ団長殿、儂が彼の身元引受人になろう。保釈金も、決して安くはないじゃろうからな」
彼らもこれからは衣食住を自分たちで賄わないといけないし、無駄な出費は避けたいはず。
「えっ……じいさんが身元引受人になんか、なれるのか? だって、アンタはアンデ……」
「……ゴホン! おぬしは要らぬ心配を、せんでよろしい!!」
Sランクさんを圧で黙らせ、俺はさっさと手続きを進める。
彼を連れて騎士団本部を出ると、仲間たちが待っていた。
「モホーのおじいちゃん、兄さんを助けてくれてありがとう!」
「「「ありがとうございました!」」」
Sランクさんにそっくりな女性がいると思ったら、妹さんなのか。
「無事に釈放されてよかった」と妹さんが抱きつくと、Sランクさんは「人前でやめろ!」とちょっと恥ずかしそう。
やっぱり家族って、仲間って、良いものだな。
この世界での俺の家族は、マホーとトーラだ。
⦅……
当たり前だろう。
家族であり、師匠でもあるんだからな。
そして、仲間はやっぱりトーアル村の人たちだよね。
「機会があればじゃが、またトーアル村にも遊びに行ってやってくれ」
「じいさんは……村にいるのか?」
「ホッホッホ、儂はおらぬが、村はこれからもっと発展していくから、楽しみじゃわい」
冒険者ギルドがあれば、彼らを真っ先に「トーアル村へ、移住しない?」って勧誘するんだけどね。
リーダーのルカさんはSランクだし、冒険者パーティーもAランクと申し分ない。
メンバーは皆若いし、若者にはどんどん村に来てほしい。
でも、そのためには、やっぱり俺が……
「ルカよ、おぬしに一つ訊きたいのじゃが、この世界に『召喚勇者』と呼ばれる者はおるのか?」
「ショウカンユウシャ?」
Sランクさんは首をかしげた。
この反応を見る限り、知らないようだな。
反対に、彼から「昔はいたのか?」とコソッと尋ねられたから、曖昧に頷いておく。
「それって、昔話に出てくる英雄のことでしょう?」
妹さんは、心当たりがあるみたい。
子供向けの物語の中に、国の危機を救うため登場するのが『勇者』と呼ばれる者らしい。
⦅五百年生きておった儂でさえ、会ったことはないからのう……⦆
う~ん。
『(召喚)勇者』が想像・創作の世界だけの存在で、それほど世間に認知されていないのであれば、ここまで警戒しなくてもいいような気もしてきたぞ。
「アンタがそいつを探しているなら、冒険者ギルドへ依頼を出せばいいと思うぜ」
へえ~、冒険者ギルドって『人探し』もやっているんだ。
⦅おぬしの読んだ書物の中にも、そんな
……マホーと違って、俺の頭の出来は残念なのだよ。
たとえ頭の中に記憶されていたとしても、その情報を必要なときに引き出すことができないから、テストではいつも苦労していたんだ(号泣)
「人探しといえば……つい最近、ギルドの掲示板に高額報酬の依頼が出ていましたね」
「目撃情報だけでも、かなりの報酬が出るとあったけど……あんな冒険者、この国では見たことないよな」
「たしか……『黒髪・黒目の冒険者』だっけ?」
……なんですと?
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