第30話 <武闘大会5> ついに、決勝戦へ
「じいさん……アンタは、この世界の人間なのか?」
「お、おぬしが…言うておる意味が、儂にはさ…っぱりわからんのう……」
ヤバい。緊張で声が震えている。
どうしてSランクさんが俺を異世界人だと気付いたのかはわからないが、ここは『すっとぼける』の一択しかない。
⦅コレ、しっかりせんか!⦆
「アンタは、本当は…………アンデッドなんだろう?」
……ん? アンデッド?
どういうこと?
「えっと…おぬしに聞きたいのじゃが、アンデッドは白昼に外で活動できるものかのう?」
「活動するために、特殊加工したローブを着て、そんな風にフードを深く被っているんじゃねえのか?」
Sランクさん曰く、俺の無詠唱魔法も、次々と魔法を発動できる膨大な魔力も、どれもが人間離れし過ぎていておかしいとのこと。
しかし、大昔に生きていた大魔法使いのアンデッドなら、納得なのだとか。
それに、この世界の人間ではない決定的な証拠もあるという。
「俺の持つレアスキル『音操作』は、生き物の耳に直接作用する魔法だ。それは、人間だろうと魔物だろうと魔獣だろうと関係ねえ」
相手に『キーン』という不快音を聞かせることで、戦う気力を失わせたり、気を逸らせたり、頭痛にさせたり等々できるのだそうな。
なに、そのすごい魔法!
でも、その『キーン』という不快音を、俺はどこかで聞いた覚えがあるような……
⦅ふむふむ、あちらの世界では『モスキート音』というのじゃな。若者にしか聞き取れない『高周波音』か……実に興味深いのう⦆
あっ、昔テレビ番組でやっていたやつか!
俺しかその音を聞き取れなくて、じいちゃんが「儂も、まだ若いのに……」と悔しがっていたっけ。
『音操作』とは、その音を特定の人物に聞かせることができるスキルなんだな。
「これまで、魔法耐性を持つ人間や魔物にだって、この魔法を強くかければそれなりに効果はあった。全く影響を受けないのは、この世界では耳のない生き物か死人だけだ。だから、アンタは死人……つまり、アンデッドだということになる」
「…………」
おそらく、俺が影響を受けない理由は『異世界人』だから。
あっちの世界では聞き取れていたから、周波数?とかの違いで俺だけ聞き取れないのだろう。
「で、どうなんだ?」
「…………」
「おい、じいさん?」
「……ホッホッホ、どうやら正体が知られてしまったようじゃわい。おぬしの言う通り、儂は大魔法使いのアンデッドじゃ!」
⦅……おぬし、そんなことを言うて大丈夫なんじゃろうな?⦆
異世界人や召喚勇者とバレるより、マシだろう?
こうなったら、Sランクさんの勘違いに全力で乗っかるしかない!
「このことは、おぬしの胸の内にだけ収めてもらえると有り難いのじゃが?」
「もちろん、誰にも言うつもりはないぜ。アンタは、必要以上に人へ危害を加えるわけじゃねえからな。それに、敵に回したところで俺たちに勝ち目はねえ」
こんな規格外の化け物と、誰が互角に渡り合えるというんだ?と、Sランクさんは苦笑する。
なんかここまで化け物扱いされると、人間だとバレたときが怖いような……
「アンタが決勝戦で当たる相手も、主君から命を受けた騎士だ。あちらの主様は、トーアル村を貴族と金持ち相手の高級観光地にする計画らしい。頑張ってくれ」
「ああ、もちろん儂は負けん!」
強欲貴族たちに、ルビーたちが大切に守ってきた村を乗っ取られてたまるか。
最後は、自重なくやらせてもらう。
――――二度と、手出しされないように
◇◇◇
俺と対峙しているのは、紺色の騎士服をきっちりと着こなした若い男性。
さらりとした長めの金髪を一つに縛り、青い瞳を持つ……そう、『金髪・碧眼』の典型的なイケメン王子様キャラの登場だ。
それにしても、この世界は顔面偏差値の高い人が多くないか?
年齢は二十五歳なのに、とても大人びて見える。
彼は一礼すると、剣を胸の前に構えた。
「カヴィル公爵領騎士団所属 ヒューゴ・エミネル。主君の命により、汝を倒す者なり!! いざ、尋常に我と勝負を!」
魔剣士さんの堂々とした宣言に、闘技場の観客から歓声が上がる。
エミネル様、ステキ!!と黄色い声援も聞こえた。
「…………」
「…………」
あれ、魔剣士さんが戸惑っているぞ。
もしかして……俺も名乗らないといけない感じ?
作法なんて一般庶民の俺ではわからないから、誰か最初に教えておいてよ。
⦅丁度よいではないか。さっきの口上を、もう一度言うてみい⦆
「儂は、大魔法使いのモホーという。貴族たちの魔の手から、トーアル村を守るべく立ち上がった者じゃ! 遠慮はいらん。かかってくるがよい」
じいさん、ガンバレー!と、俺には野太い声が聞こえた。
ご声援、どうもありがとう。
ちょっと挑発しちゃったけど、もうこうなったらヤケクソだ。
『旅の恥は搔き捨て』と言うし。
一礼し、お互いに杖と剣を構える……そして、決勝戦が始まった。
⦅やつが来るぞい! 迎え撃つのじゃ!!⦆
了解!!
魔剣士さんは、相変わらず際どいところを狙ってくる。
こんな年寄りに当たったら、一発アウト!だと思うんだけどさ。
⦅おぬしの実力を、見破っておるのじゃろう⦆
Sランクさんとの戦いを見学していただろうから、バレバレなのは当たり前か。
俺は土壁を出しながら、火球も投げつける。
それも、結構な大きさのものを。
それでも、魔剣士さんは剣で弾き返したり盾で避けたりと、さすがSSランク級の騎士。
一筋縄では行かない。
彼がまだ魔法を使用しないのは、やっぱり魔力を温存するためだろうな。
合わせて、俺の魔力切れも狙っているのかもしれない。
◇
膠着状態のまま、時間だけが過ぎていく。
魔剣士さんがいつ勝負を仕掛けてくるかわからないから、ずっと様子を窺っているんだけど……
⦅ふむ、まどろっこしいから、一気に勝負に出ても良いと思うがのう?⦆
じゃあ、少しだけ。
今日はずっと使用を控えていた水魔法で、攻撃をする。
水球を薄っぺらくブーメランみたいに回転させて足元へ投げると、魔剣士さんは剣で打ち返さずに跳躍で避けたが、それが正解。
もし剣を出していたら、おそらく真っ二つに割れていただろうな。
水の力って、結構すごいからね。
そして、ようやく動きがある。
跳躍しながら、魔剣士さんが召喚獣を呼び出した。
イケメンに召喚される魔獣もカッコ良く見えてしまうのは、決して気のせいではないと思う。
⦅来るぞ!⦆
俺がビッグウルフを躱しながら氷魔法で四方を何重にも囲ったと同時に稲妻が走り、氷壁に雷が落ちた。
光が流れていくのが見える。
うん、何とか凌げたな。
「こ、氷魔法まで!?」
魔剣士さんが、美形の顔を歪め驚愕の表情で俺を見つめている。
この人がこんなに驚くってことは、やっぱり使い手は少ないんだね。
では、隙ができた今のうちに、俺も召喚!
現れたのは、真っ赤な毛並みの大きな魔獣で……腹を出してグーグー寝ている。
「・・・・・」
えっと……この子はカッコ良さじゃなく、可愛さで勝負しているんだ!と、少し言い訳。
ごめん、トーラ。
待ちくたびれて、お昼寝をしていたんだね。
トーラは慌てて飛び起きると辺りをキョロキョロと見回しているが、俺を見つけると嬉しそうにやって来た。
真っ白な毛並みのトーラが赤毛になっているのは、俺と同じ理由から。
アイテムボックスに収納してあった薬草から色素を取り出し、トーラにも変装してもらった。
もちろん舐めても害はないやつで、石鹼で洗えば色が落ちるやつだよ?
赤色のトーラを王都には連れていけないから、召喚獣という形で後から来てもらったのだ。
「・・・・・」
観客はトーラを見て静まりかえり、魔剣士さんはライネルさんたちと同じ顔をしている。
ビッグウルフは、ご主人様の後ろに隠れちゃったよ。
トーラがメガタイガーだとは気付いていると思うけど、赤い毛並みはインパクト大で、異形の魔獣にしか見えないだろうな。
⦅ホッホッホ! どうじゃ、儂の作戦は?⦆
うん、効果絶大。
その名も、『対戦相手の心をへし折る作戦』。
これでもかと実力を見せつけて、相手の戦意を喪失させるのが狙い。
本当は、最初の作戦ではここまでするつもりはなかった。
でも、これ以上部外者にトーアル村へ手出しをされないように、武闘大会に子飼いたちを送り込んできたであろう貴族たちへ威嚇の意味もこめて、遠慮なくやらせてもらった。
『もし、今後もトーアル村へちょっかいをかけてきたら、儂が相手になるぞ?』ってね。
さて、魔剣士さんはどうするかな?
できれば、この辺りで引き下がってほしいけど……
「……モホー殿、一つお願いの儀がございます!」
魔剣士さんが剣をしまうと、直立不動の姿勢になる。
まだ試合中だけど、急にどうしたんだろう?
「なんじゃ?」
「お恥ずかしい話ではございますが、剣も魔法の腕も立つ私は、これまで自分は強者だと傲り高ぶっておりました。しかし、今回モホー殿と対戦し目が覚めました。まだまだ、自分は未熟者であると──」
えっと、これはどういう状況?
突然、自分語りを始めた魔剣士さんにどう反応すればよいのかわからず、戸惑ってしまう。
「───というわけでございまして、ぜひ、モホー殿の弟子に志願したく、何卒お許しをいただきたい」
えっ……弟子!?
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