第29話 <武闘大会4> もしかして……バレた?
ひぃ~!!
俺は、心の中で悲鳴をあげていた。
◇
試合開始直後から、Sランクさんは剣と魔法で果敢に攻め立ててきた。
慌てて火球を投げ応戦したが弾き返され、距離を詰められてしまう。
こっちは先手必勝とばかりに大魔法を発動しようと思っていたのに、その隙を与えてくれない。
⦅ほれほれ、ちゃっちゃと土壁を作らぬと、すぐにやられてしまうぞい!⦆
俺を叱咤しつつもマホーはどこか楽しげで、いきいきとした表情が頭に浮かぶ。
やっぱり、マホーは好戦家で戦闘狂だったんだな……(確信)
⦅一度、大きな火球を作ってみよ!⦆
えっ、大丈夫なのか?
マホーを信じて、土壁と同時に大きめの火球も作ってみた。
それを見た瞬間Sランクさんが後ろに下がり、攻撃の手が緩んだ。
⦅魔法使いは接近戦には弱いでのう、少し距離を取ったのじゃ。では、ここからはこちらの『ターン』じゃ!⦆
さっきの大玉を投げつけてみたけど、多少でも効いてくれよ……
Sランクさんも土壁で防御しようとしたが、穴が開いた。
多少威力は弱まり剣でどうにか防いだみたいだけど、少しケガを負ったようだ。
良かった……通用するみたい。
⦅刮目せよ! 『主人公補正』の前には、魔法耐性も敵わないのじゃ!! ⦆
それ、誰のセリフの真似?
てか、主人公補正じゃなくて、結局、レベル・魔力・攻撃力の差だろう?
あとさ、耐性スキルのない人だったら、今の攻撃で絶対に死んでいたよな?
⦅……かもしれんが、大丈夫じゃ。危なそうじゃったら、儂の上級ポーションを飲ませれば問題ない!⦆
ああ、マホーが
俺は早期決着に向けて、動き出す。
火球が飛んできたら同じ火球で相殺し、剣は土壁で防ぎ、相手の土壁は強風で削り取る。
そしてついに、Sランクさんを場内際まで追い詰めた。
彼は疲労困憊状態で、体はすでにボロボロ。
できれば、もう降参してほしいんだけどな……
「……ここまで追い込まれたのは、本当に久しぶりだぜ」
「ならば、もう降参してくれんかのう?」
「ハハハ……この俺が、こんなじいさんから引導を渡されるとはな。だが、断る。仲間のためにも、俺はここで負けるわけにはいかねえんだ!」
Sランクさんは、何かを呟いた。
それが詠唱だと気付いたときには、時すでに遅し。
⦅例の『音操作』じゃ。油断するでないぞ!⦆
距離を取って身構えたが、何も聞こえない。
大音響でもするのかと思ったけど、どうやら違うみたいだ。
Sランクさんは魔法を発動したあと、こちらを攻撃してくることはなく、肩で息をしている。
俺は何が起こるのかわからず、迂闊に動くこともできない。
しばらくこんな状態が続き、動かない俺たちに観客がざわざわし始めた。
「じいさん……もしかして、平気なのか?」
「えっと、何が?」
思わず、素で返事をしちゃった。
「年寄りだから、耳が遠いのか? それとも……魔法耐性? いや、でもな……」
Sランクさんは困惑したようなことを呟いているけど、俺は若者だぞ。
耳が遠いなんてことは、断じてない!……はず。
首をかしげながら、Sランクさんはまた詠唱した。
でも、やっぱり俺には何も聞こえない……が、今回は周囲から悲鳴が上がった。
「なんか、変な音がするぞ」
「いやだ、気持ち悪い!!」
「頭が痛くなってきた……」
えっ、なんだ?
何が起きているんだ?
マホーは、何か聞こえるか?
⦅おぬしに聞こえぬものが、儂に聞こえるわけがなかろう⦆
そうだよな。
周りを見渡すと、半径二百メートルくらいの場所にいる人だけに何らかの音が聞こえているようで、さっきの冒険者のように頭を抱えている人も多数いる。
⦅とにかく、おぬしには効かぬようじゃから、さっさと片付けよ!⦆
了解。
俺は風を起こし、Sランクさんを場外へ落とす。
彼はかなり限界だったようで立ち上がれず、仲間たちによって運ばれていく。
こうして、俺は決勝戦へ勝ち進んだのだった。
◇
決勝戦を前に、一旦休憩時間となる。
控え室で俺は、羽根ではなく腰を伸ばしていた。
「マジで、ずっとあの体勢はキツいぞ……」
⦅あとは、決勝だけじゃ。最後まで、気を抜くでないぞ!⦆
へいへい、わかってますよ。
そうだ、小腹が減ったからあれでも食べるか。
俺がアイテムボックスから取り出したのは、ゆで玉子と温泉サイダー。
お土産として、きちんとした商品となったものだ。
「うん、うまい!」
朝、茹でたてを、村の売店で買ってきた。
喉が渇くといけないから、ついでにサイダーもね。
わざわざ桶に氷を入れて、キンキンに冷やしてあるのだ。
「ぷはー、やっぱり炭酸は冷えていないと……」
温泉サイダーは、三種類ある。
ハチミツだけが入った、普通のサイダー。
普通のものに果汁を足した、果汁サイダー。
これは季節によって使用する果実を変えるから、様々な種類が作れる。
ちなみに、今は酸味の強い柑橘系を入れたレモンスカッシュのような味のサイダーだ。
最後は、生姜に似た野菜を使ったジンジャーエールみたいなサイダー。
甘さを控え、食事のときにも飲めるものを作ってみた。
あとは、ただの炭酸水もある。
そのまま飲んだり、お酒で割ったり、料理に使ってもいいかも。
子どもには甘いサイダーが人気で、大人は甘さ控えめのものを買っていく人が多いとのことだった。
⦅誰か、来たようじゃな。この気配は……あやつか⦆
髭も外し休憩時間を満喫していた俺は、急いで老人に戻る。
やって来たのは、Sランクさんだった。
彼は服を着替えており、顔色も悪くなく元気そうだ。
間近で見ると、銀髪に紫色の瞳の精悍な顔つきをしたなかなかの男前。
テーブルに置かれた色鮮やかなゆで玉子や、コップに注がれたシュワシュワと泡の立っている透明な液体を訝しげに見ているから、「美味しいから、一口どうじゃ?」と勧めてみた。
「魔法使いは、変な物を飲み食いしているんだな」
「失敬な! これは、超人気温泉の土産じゃぞ!!」
「オンセン? もしかして……トーアル村のことか?」
「なんじゃ。おぬしも、知っておるのか」
Sランクさんは、冒険者パーティーのメンバーと一度だけ行ったことがあるのだそう。
気になって、つい感想なんかを聞いてしまった。
観光案内がわかりやすかったとか、肌がしっとりしたと妹さんが喜んでくれたらしい。
ただ、湯浴み着が少しきつくて、もっとゆったりしたのがあればよかったとのこと。
たしかに、冒険者って
男性用のは、もっと大きいサイズの湯浴み着も必要だね。
村へ帰ったら、さっそくルビーたちへ報告だ。
トーアル村の土産と聞いて、Sランクさんは興味が湧いたみたい。
ここぞとばかりに営業すべく、ゆで玉子と普通のサイダーをあげたら、その場で飲んで食べてくれたよ。
気に入ったようだったから、パーティーメンバーへもどうぞと人数分のゆで玉子とサイダーをおすそ分けしておいた。
こういう地道な営業活動が、大事だからな。
そういえば、この人はここへ何をしに来たんだっけ?
用件を尋ねたら、どうしても聞きたいことがあるとのこと。
「……じいさん
「儂は違うぞい。でも、『も』ということは、おぬしはそうなんじゃな?」
「
「…………」
試合中に「仲間のためにも、俺はここで負けるわけにはいかねえんだ!」とか言っていたから、なんか訳アリっぽいな。
俺に負けたことで任務は失敗したわけだけど、大丈夫なんだろうか。
「でも、負けてホッとしているんだ。あのぼんくらバカ息子には、あの村はもったいない」
「その馬鹿息子とは、もしかして……どこぞの伯爵家の四男のことかの?」
「ハハハ! じいさんはすげえな、なんでもお見通しかよ……」
そうか、Sランクさんが伯爵家からの刺客だったのか。
でもこれで、あいつの野望は阻止できたぞ。
「儂は、そんな貴族たちの魔の手からトーアル村を守るべく立ち上がった、大魔法使いモホーという者じゃ。優勝してトーアル村を賜り、村長殿へ譲渡する。それで、これからも安心して温泉に入るという壮大な計画なんじゃぞ」
せっかく作った設定なんだから、せめて一人くらいには名乗っておいてもいいよな。
「そいつは頼もしいな」と腹を抱えて笑っていたSランクさんだったが、急に真面目な顔つきになった。
口を開いたり閉じたりして非常に言いにくそうだけど、なんだろう?
「じいさん……アンタは、この世界の人間なのか?」
えっ!?
まさか……バレた?
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