第28話 <武闘大会3> 決勝大会、開始!


 決勝大会に勝ち残ったのは、俺も含めて八名。

 ここからはトーナメント方式となり、優勝するには三回勝たなければならない。

 副団長のベルナードさんや魔剣士さんとは別グループとなり決勝戦までは当たらないが、Sランク冒険者の彼とは、お互いが勝ち進めば準決勝で対戦することになる。



 ◇



 建国祭の催しの中でも、一番の人気を誇るという武闘大会。

 ヨーロッパの某国にあるような円形闘技場には大勢の観客が詰めかけ、ものすごい熱気に包まれている。

 フードで顔を隠しているからあまり見えないけど、こんな衆目の中で試合をするのはめちゃくちゃ緊張するな。


 俺の一回戦の相手は、ザ・脳筋キャラと言うべき、あのベルナードさんよりもさらに筋肉ムキムキのお兄さんだった。


⦅ふむ。典型的な『雑魚キャラ』じゃのう⦆


 でも、予選を勝ち抜いているから、それなりに実力がある人なんだろうな。


⦅体力と防御力が70近くあるようじゃが、レベル・魔力・攻撃力は45前後で、属性とスキルはなし⦆


 つまり、Aランク相当の冒険者ってことね。

 でも、油断をせずに落ち着いていこう。


「おい、じいさん! すぐに試合を終わらせてやるからな!!」


 試合が始まっていきなり声をかけられたけど、筋肉さんは何をするつもり?


「どりゃあ!!」


 掛け声とともに、筋肉さんがものすごい勢いでこっちに駆けてくる。

 早い!?


⦅コレ! ボーっとするでない!!⦆


 マホーが俺の代わりに強風をぶっ放し、なんとか難を逃れることができたけど、ふう……危なかった。

 攻撃を受けた筋肉さんがそのまま場外へ落ちてくれればよかったけど、そう簡単にはいかないよな。

 彼は体の前で太い腕をクロスさせ、場内に踏みとどまった。


「よし、耐えきった! これで、俺の勝ちだな!!」


⦅なるほど。あやつは、おぬしが魔法を行使するのに時間がかかると思っておるようじゃ⦆


 そうか……さっそく引っかかってくれたな。

 被っているフードの下で、ついニンマリしてしまう。

 わざわざ周りに見えるように、聞こえるように、ブツブツと呟いていたのは、勘違いをさせるため。

 姑息な作戦だけど、勝つためには手段を選んではいられないからね。

 

「行くぞ、どりゃあ!!」


 再び勢いよく駆けてきたけど、この『猪突猛進』型の人にはそのまま猪になってもらおう。

 今度は、慌てずに進行方向を避けながら魔法を行使する。

 そして……筋肉さんは速度を落とすことなく、俺の横をすり抜けて自ら場外へ落ちていった。


⦅風魔法であやつの後ろに風を起こし、さらに加速させたのじゃな?⦆


 正解!

 実際には猪は急停止ができるらしいけど、あれだけ加速していたら急には止まれないよな。

 それに、周囲からは筋肉さんが自爆したようにしか見えないから、俺が無詠唱なことはまだバレていない。


 まずは一回戦を無事に突破でき、ホッと胸をなでおろす。

 試合を終え出入口に向かっていた俺は、銀髪の若者とすれ違った。

 たしかこの人が、Sランク冒険者のルカさんだっけ?


「無詠唱か……アンタ、やっぱり強敵だな」


(!?)


 すれ違いざまに言われたけど、あっさりバレてた!


⦅ホッホッホ、やはり強者には通用せぬのう⦆


 まあ、ベルナードさんにも見破られていたし、当然か。


⦅次の対戦相手は、おそらくあやつじゃ。ここで、試合を見ておくかの⦆


 そうだな。

 相手の手の内がわかれば、対策も取りやすいし。



 ◇



 Sランクさんの相手は、同じく冒険者のようだ。

 まずは、お互い様子見の剣での打ち合いだけど……早いな。


⦅魔法で土か氷の壁を次々と作り出し防御せねば、あっという間に『ノックアウト』じゃぞ⦆


 一応、戦利品の盾を使った防御の練習もしてみたけど、魔法のほうが対応できるもんな。

 あまり手の内は見せたくないから、氷魔法は温存して土魔法だな。

 

⦅あやつは魔法耐性を持っておるが、強めの魔法をぶつければ問題ないわい⦆


 でも、いま対戦相手の冒険者が投げた火球は、全く効いていないぞ?


⦅あの程度の威力では、スキルで相殺されるに決まっておる⦆


 俺の魔法攻撃は、本当にSランクさんに通用するんだろうな?


⦅おぬしは、曲がりなりにも召喚勇者じゃぞ? 『主人公補正』もあるじゃろうから、安心せい!⦆


 『主人公補正』って……(苦笑)

 マホー、一つ言っておくが、召喚勇者が主人公とは限らないんだぞ。

 モブのポンコツ勇者だったら、どうするんだよ?


⦅その時は、その時じゃ!⦆


 俺たちが脳内で言い合いしている間も、剣で打ち合ったり魔法攻撃をしたりと、二人の試合は続いている。

 しかし、Sランクさんとここまで対等に渡り合っていた冒険者の動きが、突然鈍くなった。

 体力の違いなのか?


⦅いや、違うぞ。あやつ、なにか魔法を発動しおったのう⦆


 冒険者の表情が、徐々に険しくなる。

 頭を抱え、その内立っていられなくなってきた。


「うん? 一体何をしたんだ?」


⦅儂にもよくわからんが、考えられるとすれば『音操作』しかないのう⦆


 近くにいる俺たちには、何も聞こえなかったぞ?


⦅ふむ……⦆


 結局、試合は冒険者がそのまま棄権し、俺の相手はSランクさんに決まった。

『音操作』がどういうものかわからなかったが、マホーいわく、最初から使用しなかったのは、発動に時間がかかるからではないか?とのこと。

 では、対抗策としては、発動させる前に決着をつけるってことだな。


⦅そういうことじゃ⦆


 別グループでは、やはりベルナードさんと魔剣士さんが勝ち進んでいて、準決勝の試合が始まった。



 ◇



 こちらは騎士同士ということもあり、打ち合いがさらに凄まじいことになっている。

 お互いが相手の急所ギリギリを狙い、鋭い斬撃を繰り出している……らしい。

 俺には早すぎて、ほとんど見えていないんだよね。

 もし急所に当たれば、相手は即死で自分は即失格なのにお構いなしだ。

 二人とも剣の他に盾を構えていて、魔法での防御は考えていないみたい。


⦅相手の体力を消耗させつつ、魔力の温存じゃな⦆


 レベル・魔力・魔法攻撃は、魔剣士さんが上。

 体力・防御力は、ベルナードさんが上回っている。

 物理攻撃は、互角か……

 長期戦になると体力が勝っているベルナードさんが有利だよな…と思ったら、魔剣士さんが盾ごとベルナードさんへ体当たりし、隙を作った。

 剣を振り上げ詠唱すると、颯爽と現れたのは黒いオオカミのような魔獣。

 スモールウルフより一回り大きいこれが、ビッグウルフなのだろう。


「なるほど、あんな感じで召喚獣を呼び出すとカッコ良いんだな」


⦅おぬしは、剣など持たぬじゃろう?⦆


 だから、杖で……


⦅年寄りが急に背筋を伸ばしてあんなことをやれば、変装がすぐにバレると思うがのう……⦆


 ……ソウダネ。

 やってみたいなと、ちょっと思っただけだよ。


⦅ほれ、召喚獣が相手をしている間に、あやつはまた何か発動させるようじゃぞ?⦆


 ベルナードさんは火球を投げ阻止しようとしたが、間に合わない。

 キラリと一瞬光が見え、次の瞬間ベルナードさんが崩れ落ちた。

 もしかして、これが……


⦅……雷操作じゃな。さすがに威力は弱めてあるから、気絶しておるだけじゃ⦆


 何これ……ガチでやばいやつじゃん。

 あんなのを受けたら、俺だったら死にますけど?


⦅対策は練っておるのじゃから、大丈夫じゃ。それより、まずは決勝戦へ進めるように頑張るのじゃぞ⦆


 そうだな。

 まずは、次の試合に勝たなければ。



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