第27話 <武闘大会2> 世の中には、強者がたくさんいる


 建国祭当日の朝、俺は王都にいた……老齢の魔法使いの恰好をして。

 古びた紫のローブはマホーが若かりし頃に着ていたお下がりで、杖も使用していた物を家まで取りに行ってきた。



 ◇◇◇



「ホント今さらだけど……この世界では魔法を発動するとき、詠唱するのが常識じゃないのか?」


 マホーの家を家捜やさがししながら、疑問が口をついて出た。

 冒険者のライネルさんにも副団長のお兄さんにも言われたから、さすがの俺でもいい加減察したぞ。

 マホー自身はどうだったんだ?と尋ねたら、詠唱はしておったかも……とか言い出した。


「誰だよ、『この世界のことは、何でも教えてやるぞい』って言っていたやつは……」


⦅わ、儂とて、万能ではないわい! 忘れることもあるのじゃ!!⦆


 あっ、開き直ったな……

 それで、詠唱していたマホーさんが、どうして杖をお持ちなんですか?

 再確認ですが、発動時に杖は必要ないんですよね?


⦅必要ない! 年を取って歩行が大変じゃったから、杖をついておっただけじゃ⦆


 なんだ。本当に杖として使用していたのか。

 ちょっと疑って、ごめんなさい。


「それで、大会に出場するにあたり、俺は老齢の魔法使いを演じればいいんだな?」


⦅見た目で敵が油断し、おぬしは正体がバレることなく実力を発揮できる。うむ、儂の作戦は完璧じゃ!⦆


「年寄りなら、勧誘されることもないだろうしな……」


 優勝しなくても、お偉いさんから目を付けられて勧誘されるかもしれないとソウルたちは言っていた。

 若者ならば、その可能性は非常に高い。

 でも、よぼよぼのお爺さんなら……。

 いざとなれば、「儂は、大魔法使いじゃ!」と吹聴するのもアリかも。

 これが本当の『自称大魔法使い』、なんてね(笑)

 嘘くさくて怪しさ満点で、誰も俺を雇おうなんて思わないよな。


「なんと名乗ろうか? 大魔法使いのマホーにちなんで、『ミホー』、『ムホー』、『メホー』……うん、決めた。『モホー』にしよう! 生前のマホーを模倣しているということで、いいんじゃない」


 我ながら、良いネーミングセンスだと自画自賛。

 決して、オヤジギャグではないぞ。

 アイテムボックスの中に入っていた毛足の長い魔物の皮を加工して髭を作り、紐で顔に掛ける。

 いろんな魔法が付与されているというローブを羽織り、腰を曲げて杖をついて歩けば、『大魔法使いモホー』の完成だった。



 ◇◇◇



 王都へ入るために、長い長い行列に並んだ。

 小説のテンプレ展開のように、金を巻き上げようと俺に絡んできた輩は、まとめて土魔法で埋めておいた。

 あっ、もちろん顔は出してね。

 生き埋めなんていう野蛮なことはしない。

 泣いて騒いでいたから、親切な人が掘り起こしてくれればいいけどな。

 

 身分証がないから鑑定されるかもと非常にドキドキしたが、入国時と同じように高い金(入都税?)を払うだけで済んだのは良かった。

 おそらくこれは、入国時にきちんとした審査があるからなのだろう……俺は受けていないけど。

 ちなみに、トーラは理由わけあって今は家にいる。

 ルビーたちには「王都で、清掃の仕事が入った」とごまかしておいた。


 

 ◇



 予選は、試合開始後すぐに俺は出場者たちから取り囲まれた。

 年寄り相手にひどい奴らだと思ったけど、勝つために手段を選ばないのはこちらも同じ。

 まずは、ド派手に大魔法( っぽいもの)を発動してみた。

 事前の仕込みで、長い呪文を詠唱しているように見せかけていたからね。

 実際は何を呟けばいいのかわからず、日本語で『昔々あるところに、おじいさんとおばあさんが……』と言っていただけ。

 老人が、ただ昔話をぼそぼそと語る。

 うん。なかなか、ホラーな光景だったかも。


 その後は、皆が俺の大魔法を警戒して近寄ってこなくなったから、場内の隅に土魔法で椅子を作って座り、他の参加者を眺めていた……また詠唱しているように、昔話を呟きながら。

 試合が終わるのを待っている間に、マホーが気になった出場者を鑑定してみることにした。

 マホーが注目したのは三人で、一人目はあの第二騎士団副団長のお兄さんこと、マルセーヌ・ベルナードさん。

 彼はこの間と数値の変化はないらしいから、省略して次の人へいこう。

 

 二人目は、冒険者風の若い男性だった。



     【名称】  ルカ/21歳

     【職業】  冒険者パーティー『漆黒の夜』リーダー

     【レベル】 51

     【魔力】  53

     【体力】  68

     【攻撃力】 魔法 48

           物理 51

     【防御力】 59

     【属性】  火、土

     【スキル】 魔法耐性、音操作



 ついに来ました、『魔法耐性』スキル持ち!


⦅こやつ、副団長よりも強いやもしれぬな。若いゆえ体力もあるし、魔法耐性か……⦆


 やっぱり、魔法耐性があるからか。

 でも、同じSランクで、ベルナードさんのほうがレベルは上だぞ?


⦅レベルは、あくまでも数値にすぎぬ。とくに強者同士の場合は、経験と技量がものをいう。おぬしはレベルは高いが、経験値と技量が圧倒的に低いからのう……⦆


 たしかに、武闘大会への出場を決めてから練習はしたけど、所詮は『付け焼き刃』だからな。

 魔法はマホーの補助でなんとかなっても、物理攻撃は強者には通用しないレベルだ。

 

⦅魔法耐性は、『魔力押し』で何とかなるじゃろう⦆


 結局、力業かよ……。

 まあ、今ここで心配しても仕方ないか。

 ところで、もう一つの『音操作』ってなんだ?

 これも、初めましてなんだが。


⦅儂も、初めて見たわい。かなり珍しいスキルやもしれん⦆


 レアスキルってやつか。

 マホーも知らなければ、もうお手上げだ。

 初戦でいきなり当たりませんように……


 では、最後の人を見てみよう。

 

 三人目は……



     【名称】  ヒューゴ・エミネル/25歳

     【職業】  カヴィル公爵領騎士団 魔剣士

     【レベル】 58

     【魔力】  57

     【体力】  54

     【攻撃力】 魔法 61

           物理 55

     【防御力】 60

     【属性】  火、水、土

     【スキル】 雷操作、召喚

     【召喚獣】 ビッグウルフ


 

 小説では見たことがあったけど、『魔剣士』という職業が本当にあるんだな。

 そして、騎士団長のグスカーベルさんも持っていた『雷操作』か。

 ステータスにバッチリ召喚獣も載っているから、俺はやっぱりギルドに登録をしてはいけない。

 

⦅魔法も、剣の腕も立つ。こやつも相当な実力者じゃわい⦆


 レベルが60近い人を初めてみたな。

 ここまでくると、『S』の上の『SSランク』とか?


⦅ともかく、この中で一番の脅威はこやつじゃ⦆


 はあ……当たり前だけど、世の中には強者がたくさんいるね。

 でも、俺は負けるわけにはいかない。

 自分で蒔いた種は、自分で責任を持って刈り取らないとな。


⦅いざとなれば、アレを行使すれば良いだけじゃ!⦆


 マホーは簡単に言うけど、気持ち的には全く使いたくない。

 魔力がゴッソリ持っていかれるし、何より……



 ◇◇◇



 アレとは、俺の固有スキル『蚊召喚』のこと。

 それは、武闘大会に向けて森の奥で練習をしていたときのことだった。


⦅おぬし、一度『蚊召喚』をやってみよ⦆


 突然、マホーは何を言い出したんだ?と思っていたら、これが以前言いかけていたことだと言われた。

 でも、蚊なんて召喚してどうするんだ?

 大体、この世界に蚊は存在していないんだろう?


⦅そこが重要なんじゃ! おぬしたちは、あちらの世界から強制召喚でやって来たじゃろう? ということは……⦆


 まさか、あっちの世界から『蚊』を強制召喚できる魔法ってこと?

 つまり……固有スキル『吸血取込』を持った蚊を?


⦅おそらく、そういうことじゃと儂は思っておる⦆


「…………」


 やっぱり、召喚勇者の固有スキルは伊達ではなかった。

 『召喚』を取得した時点で自動的に付属される仕様になっているのは、意味があったんだな。

 

 武闘大会へ出場するにあたり強力な武器となるのか、さっそく森で検証してみた。

 その結果は……実際に、蚊は召喚できた。

 鑑定してみたところ、固有スキル『吸血取込』をちゃんと持っている。

 しかし、強制召喚だからか俺に反抗し、血を吸いにきた。

 でもまあ、ここまでは想定の範囲。

 判明したのは、恐ろしく魔力を消費すること。


「召喚だけで、半分も魔力を失うのはマズいよなあ……」


⦅服従させるのに、さらに魔力が必要じゃったな。まあ、それは微々たるものじゃが⦆


「それに、重要なことが確認できていない」


 初めて『蚊奪取』を(無意識に)使用したときは、マホーの能力をそのまま受け継いだけど、これから別の相手の能力を奪ったときに、現在の能力がどうなるのか不明だ。

 ゴブリン討伐時の返り血を浴びた『吸血取込』では、スキルだけが追加された為、自己能力の不足分だけを補えることが判明している。

 この『蚊奪取』も同じような上位互換の仕様であればいいけど、某有名ゲームの桃色キャラさんみたいに能力の総入れ替え、もしくは完全に上書きされてしまうと本気マジで!困る。

 だって、マホーが消えてしまうかも……


⦅ならば、もう一匹召喚し、片方におぬしの血を吸わせて、検証すればよい⦆


 そうか! その手があったな。

 やっぱりマホーは頭が良いなと感心しつつ、『蚊召喚』を発動……しようと思ったら、できなかった。

 その後も、何度か試してみたけど全然ダメ。

 魔力残量は十分にあるから、『召喚蚊』は一匹しか召喚できない模様。

 おそらく、この召喚蚊がいなくなれば、また新しい蚊を召喚できるようになるのだろう。

 小説みたいに、そう簡単に能力アップはできない仕様ということだな。

 う~ん……検証ができない。


⦅儂は絶対に消えぬから、大丈夫じゃ。それに、ここは『ゲーム』の世界ではないぞい⦆


「言っておくが、勇者が出てくるゲームはたくさんあったぞ」

 

 マホーはなんの根拠もないのに、絶対的な自信があるみたい。

 でも、旨い話には裏があると言うし、ここは慎重にいきたい。

 使用しても本当に大丈夫だと確信できるまでは、『飛行』と同じくお蔵入りにすると決めた。

 お手軽に能力を強化できることに対する『代償』があるのではないか?と思うのは、俺の考え過ぎだろうか。

 どのみち、スキルがたくさんあっても、未熟者の俺には使いこなせないしね。



 ◇



 検証の最後に、『召喚蚊』をあっちの世界へ送還できるのか実験してみた。

 できれば、外来種?は野放しにしないほうがいいからね。

 魔力を十分に回復させ、いざ実行!!


        ・

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 …………うん、一応成功したけど、死ぬかと思ったよ。

 召喚以上に魔力を消費するみたいで、貧血を起こしたように俺はその場にぶっ倒れたのだった。




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