第10話 成り行き?で、仲間が増えた


 壺湯を作った翌日、朝食のあと俺は森の中にいた。


 ルビーに「こんな朝早くから、どこに行くの?」と聞かれたが、「魔法の練習を、ちょっと……」と言葉を濁し家を出る。

 ゴブリン討伐で取り込んだスキルを、少し試してみることにしたのだ。

 

 昨夜、マホーから教えてもらった最新のステータスは、こんな感じ。



      【職業】 召喚勇者、魔法使いの弟子

      【レベル】 92

      【魔力】  95

      【体力】  85

      【攻撃力】 魔法 90

            物理 33

      【防御力】 89

      【属性】  火、水(氷)、土

      【スキル】 製薬、鑑定、探知、空間、風操作

            飛行

            回復、召喚

      【固有スキル】 蚊奪取、蚊召喚

              吸血取込、『マホー』



 マホーが、【職業】に『魔法使いの弟子』を追加してくれた。

 もちろん、これは非公式なもの(笑)

 公式なものとしては、スキルに『回復』と『召喚』。そして、なぜか固有スキルにも『蚊召喚』が追加されたらしい。

 『大魔法使いの残滓』が『マホー』に名称変更されていたが、これもマホーによるものなのかな。

 それだけ、この名を気に入ってくれているんだね。

 名付け親としては、嬉しいかも。

 その他は、何も変化はない。

 この中で気になるのは、すっかり存在を忘れていた『飛行』と、突然追加された『蚊召喚』。


「この『飛行』って、俺は羽根がないのに飛べるのか?」


⦅儂も、さすがに空を飛んだことはないから、わからんのう。まあ、一度試してみたらどうじゃ?⦆


「失敗して、墜落死とかマジで勘弁なんだけど……」


⦅最初は、低い位置から始めればよかろう?⦆


 そう言われたけど、やっぱり家の中で実行するのが怖かった俺は外で行うことにした。



 ◇



「まずは、飛行からいくか」


 えっと、魔法はイメージを形にするものだから、地上三十センチくらいの高さで……

 次の瞬間、体がふわりと浮き上がり、目線がかなり高くなった。


「すげー! 俺、宙に浮かんでいるぞ!!」


⦅そのまま、前に進めるのか?⦆


 恐る恐る、足を一歩踏み出す。

 うん、地面を歩くように前に進めるぞ。

 よし、今度は走ってみよう。

 森の中を駆け回ってみた。

 

「アハハ! 何だこれ、めっちゃ楽しいぞ」


⦅一度、止まってみよ⦆


 はい、ストップ。


⦅ふむ…これは、あまり使用せぬほうがよいな⦆


「えっ、何で?」


⦅魔力の消費が、かなり激しいわい。この短時間で、魔力の四分の一を持っていかれたぞ⦆


 マホーいわく、浮くだけより歩くほうが。歩くより走るほうが、消費量が増加するとのこと。


「じゃあ、風魔法でアニメみたいに高速でピューって飛んだら……」


⦅数分で魔力欠乏症になって、墜落じゃな⦆


 何それ、こわ


⦅体の重さや、羽根の有無が関係しておるやもしれんが……⦆


 いやいや、もう絶対にこのスキルは使いません!!

 こんなことで死んだら、シャレにならないから。

 『飛行』は、すぐさまお蔵入りが決定した。



 ◇



 では、気を取り直して次に行く。

 

 『召喚』


「マホー、召喚はどうすればいいんだ?」


⦅そんなこと、儂がわかるわけがなかろう⦆


 うん、知ってた(笑)

 さすがにこれは、詠唱しないとダメだろうな。

 

⦅ゴブリンは、詠唱しておったようじゃぞ⦆


 やっぱり、そうなんだ。 

 あの時は必死だったから、ゴブリンがどうやって召喚していたかなんて見ていない。

 たしか、スモールウルフを五匹召喚していたよな。

 蚊を召喚しても仕方ないから、俺も魔獣を召喚してみるか。

 えっと、スモールウルフを一匹…………えっ? なんじゃこりゃー!!


 俺の目の前にいるのは、一匹の白い……トラ!?

 しかも、全然スモールじゃない。

 俺でも余裕で乗れそうなくらいの大きさだ。

 それに、まだ詠唱もしていませんけど?


⦅おぬしは、無詠唱で問題ないのじゃろう。それにしても……こやつは、メガタイガーの雄か。白色の個体とは、かなり珍しいのう。儂も初めて見たわい⦆


「俺は、スモールウルフを召喚したはずなのに……なぜ、トラなんだ?」


⦅まだまだ、修行が足らんということじゃな。それで、どうするんじゃ?⦆


「どうするとは?」


⦅メガタイガーが、おぬしの命令を待っておるぞ⦆


「あの…ごめんなさい。大変申し訳ないのですが、お引き取りいただいてもよろしいですか?」


⦅嫌じゃと言うておる⦆


「なんで!?」


⦅どうやら、おぬしが気に入ったようじゃな。無理やり帰すつもりなら、ガブッといくと……⦆


「やめて! 俺は全然美味しくないから!!」


⦅ホッホッホ……冗談じゃと。こやつ、なかなか面白いのう⦆


「俺は、まったく面白くないぞ!」


 ブラックユーモアを言うトラが居るなんて、やぱりここは異世界なんだな。

 でも、どうしよう。

 何も考えずに召喚したら、まさかこんな大物が来るなんて聞いてないよ。


⦅責任を取って、面倒を見てやるんじゃな。こやつは体は大きいが、まだ子どものようで人を襲ったりはせん。おとなしいもんじゃ⦆


「例えそうだったとしても、村には絶対に入れてもらえないぞ! こんな大きいトラ、みんな怖がるから!!」


⦅だったら、小さくなればいいのか? こんな風に…じゃと⦆


 メガタイガーが見る見るうちに小さくなっていき、最終的に猫くらいの大きさになった。

 こうして見ると、結構可愛いな。

 愛くるしい白猫を、つい抱っこしてしまう。


「うん? 首の辺りに擦れたような傷が……」


 深い毛に隠れているが、よく見ると皮膚が赤くなっている。


⦅そうか、どこぞの貴族か金持ちに飼われておったんじゃな。可哀想に……⦆


 珍しい毛色のため小さい頃に捕獲され、飼育されていた。

 逃げ出さないように、魔力封じの首輪を付けられていたとのこと。


「俺は、他所様のペットを盗んだことになるのか?」


⦅こやつが召喚に応じたのじゃ。だから、よほど前の飼い主が嫌だったということじゃな⦆


 メガタイガーは、つぶらな瞳で俺を見上げる。 

 アクアマリンのような水色の瞳は不安げに揺れ、何かに怯えているように感じた。


「……わかった。俺が面倒を見るよ」


 本人が帰りたくないと言っているのに、無理やり帰すわけにはいかないもんな。

 メガタイガーの瞳がぱあっと輝いたと思ったら、俺は白い大きな塊に押しつぶされていた。


「こ、コラ……重い…ぞ」


 墜落死から逃れたと思ったら、召喚獣で圧死なんて、ホント勘弁してくれ~!



 ◇



 かろうじて圧死を逃れた俺は、メガタイガーに回復魔法をかけて傷の治療をする。

 それから、『トーラ』と名付けた。

 トーラには、『村人の前では、絶対に元の姿に戻らない』『人には危害を加えない』ことを固く約束させ、俺たちは帰還したのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る