第62話 付与の魔導具選び
「アリサもうそろそろ……」
俺は疲れた声を出し、自分の限界を告げる。
「もう少し待って!」
だが、彼女は無慈悲な言葉を俺に告げた。
目の前には真剣な表情を浮かべるアリサの姿がある。
彼女の両手には違う柄の水着タイプの魔導具が握られていた。
「いや、そうは言うけど……そろそろ30分だぞ。俺もとっくに選び終えたし」
俺たちは今から海に泳ぎに出るつもりなのだが、アリサの装備がまったく決まらず困っている。
「ここで適当に選んだら、後で後悔するかもしれないわ」
まるで死活問題の様にいうのだが、所詮は水着だ。とても後悔するとは思えない。
「そもそも、ちょっと海に入ってちょっと魔法の特訓をするだけなのに『火耐性』とか『水耐性』とかいる?」
何も付与されていない水着でも十分な気がしてならない。ところが……。
「いるに決まってるでしょ! 『火耐性』は日焼け止めになるし『水耐性』は水中の活動時間が伸びるの。どう考えてもどっちも必要よ!」
烈火のごとく怒りだし取り付く島もない。
「ならこれは? 両方の耐性があるけど?」
ふと目についた水着を俺は勧めてみる。
「そんなダサいのは嫌よ」
アリサはプイと顔を逸らすと拒否してきた。
確かに見た目からしてアレで、彼女がこれを着ている姿をあまり見たくないのだが、目的のためなら仕方ないのではないかと思った。
「あーもう、もっとちゃんとした品を揃えておきなさいよ! これじゃあ借りるに借りられないわ!」
アリサはとうとう発狂し出した。
レンタル店の店員もこれには怯えてしまい申し訳なくなる。
「なあ、別に片方の耐性がなくても大丈夫だって、何かあれば俺が守るからさ」
このままでは一向に決まらないので、俺はアリサを説得する言葉を投げかけた。
するとアリサは不満そうな顔をしながらも、どうにか俺の言葉に耳を傾けると、
「じゃあ、ミナトはどっちが可愛いと思う?」
どちらの水着型魔導具が自分に似合うか、判断を俺に委ねてきた。
そう言われると真剣に見てしまう。
彼女が手に持つのは、この店でレンタルできる物の中で選りすぐりの二点だ。
緑と赤の違いこそあれ、どちらも肌がそれなりに露出しており、可愛いデザインをしている。
きっとアリサなら、どちらも完璧に着こなし、周囲の男たちを魅了するに違いない。
勿論声を掛けてくるような輩は即デスするのだが、それにしてもこれを着た時のアリサの破壊力は世界を壊すほどではないのだろうか?
アリサは期待するような目を俺に向けてきている。正直どちらも見たい。そう考えた俺は……。
「両方借りて両方着よう!」
己の欲望に従い、アリサに提案をした。
「そう言えば、アリサって魔導具の研究をしてなかったけ?」
ひとまず、火耐性がついた水着を着たアリサと俺は浜辺を歩いている。
目的の場所は浜から少し歩かなければならないので、暇つぶしに話題を振った。
「確かにしているけど、それが何?」
「いや、その魔導具とか自分で作れないのかなと思って……」
効果に不満があるというのなら、自分で用意する手はないのかと考えたのだ。
「付与のこと? できなくはないけど、色々条件があるし、大量の魔力も必要なのよね」
アリサは曖昧な返事をする。俺が彼女を見ていると……。
「魔導具の解析と開発は『付与ギルド』の管轄よ。魔法陣を解析したり、簡単な魔導具を作るのが彼らの仕事なの」
「そういえばそうだったな」
「あのレンタルショップに置いてあった水着は全部迷宮でのドロップ品なのよ。人の手で魔導具を再現しようとなると、途方もないコストと魔力が必要になるから、たかが水着にはおいそれと使えないわね」
「それってどうやって再現するんだ?」
「一応、一属性を付与することができる付与師は付与ギルドにも存在しているの。属性は完成した装備に付与するんだけど、付与に失敗すると壊れちゃうのよ。そして付与できる確率も熟練の付与師ですら10回に1回成功すればいい方なのよね」
「すると、四属性付与なんて無理そうか?」
「無理に決まってるわね。1回の付与だけでも魔力1000を使うのよ。連続して付与を使える人間もそうそういないし、重ね掛けはますます成功率が落ちるのよ。わざわざリスクを負ってそこまでやるもの好きもいないわね」
なので、付与師が付与した装備というのは高級品となるとアリサは告げた。
「俺なら、何度でも付与できそうな気がするんだが、今度試してみようか?」
大量に水着を買い込んで、成功するまで付与し続ける。そうすればアリサが満足できる水着も手に入るのではないか?
「それは……ミナトの気持ちは嬉しいけど、多分、迷宮に潜ってドロップ探しするとか、買った方が安いと思う」
なるほど、そこまでの労力を水着につぎ込むよりは、迷宮で手に入れる方が楽という計算がたつらしい。でも、付与を覚えて損ということはないはず。いずれはチャレンジしてみようと俺が考えていると……。
「それじゃあ、あの孤島に行くとしましょうか」
アリサは離れた場所にある島を指差すのだった。
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